とある幻想の夢想天生 作:大嶽丸
桜花が舞う。
広大な庭園に悠然と聳え立つ、満開に咲き誇る桜の大樹。色鮮やかなそれは見惚れる程に美しく、しかしずっと視ているとまるで魂を引き抜かれてしまいそうな程に妖しかった。
ひゅうひゅうと季節外れな冷たい風が吹く。雪のように舞い落ちる花弁が肌に当たる。春とは思えぬ肌寒さなど気にも留めず、視界を埋め尽くす辺り一面薄桃色のその光景を前に、まるで心を奪われたかのように、茫然と立ち尽くしていた。
しかし、視線の先にあるのは桜ではなく、大樹のすぐ下に立つ、一人の少女である。
酷く儚げで、薄幸で、ふとした拍子にそれこそ桜が散るように消えてしまいそうで、故に目を離すことは出来なかった。
「────ー」
すると少女が振り向く。こちらへ微笑みかけるその顔は靄が掛かったように不鮮明だというのに、何故か分かってしまう。
己は確かに、彼女のことを知っているのだと。
けれど、同時に
「願はくは 花の下にて 春死なむ」
囁くように、詠うように。
美しく、優しく、そして恐ろしく。少女が口にした言葉の意味は──。
「………………」
暖かい布団の中、魂魄妖夢は目を覚ます。
とても長い夢を見ていたような気がするが、覚えてはいない。本来夢というものは記憶に残らないものであるが、寝付きが悪かったのか妙な不快感が残っていた。
身体を起こし、ふかふかの布団に名残惜しさを感じながらも脱け出して背伸びするなどして軽くストレッチする。それから洗面し、身嗜みを整えて向かう先は台所だった。
「おはよー、妖夢ちゃん」
「……おはようございます」
数十分後。キッチンで作業をしていると寝間着姿の佐天がまだ完全に開き切っていない目を擦りながら現れる。
「うーん! 良い匂い!」
「丁度出来上がったところです。どうぞお召し上がりになってください」
そう言って視線を向けた先のテーブルには鯖の味噌煮、大根の味噌汁、おひたし、金平牛蒡と定食屋のメニューにも匹敵する出来栄えの品がずらりと並んでいた。
「おお! ありがと!」
寝惚けていた佐天であるが、それを見るなりテンションを上げ、席へ着く。
「早速いただきます! う、うまぁぁぁぁああああい! こりゃもうプロ級の腕前だよ!」
鯖味噌の身を箸で解して口へ運び、舌鼓を打って大絶賛する佐天。そこらのファミレスなど目ではない。朝からこのようなクオリティの食事が取れることに感動すら覚えていた。
「……それはどうも。喜んでもらえて何よりです」
少しばかり大袈裟ではと思う反応に妖夢は照れ臭そうに頬を掻く。先日、せめてもの恩返しとして冷蔵庫の中の残り物で何とはなしに調理してみせたのだが、それがあまりにも美味しく、瞬く間に専属料理担当に任命され、今に至る。
妖夢としてもここまで喜んでくれるのだから悪い気はしなかった。
「それにしても、妖夢ちゃんがこんなに料理が上手なんてねぇ……私も自炊の腕には結構自信あったけど上には上が居るんだなーって思ったよ」
「ええ。私も自分にこのような才能があるとは思いませんでした」
てっきり剣術しか能が無いと、自己認識していた妖夢はプロ級だと称される程の料理の腕が体に刻み込まれていることを心底意外に思う。
「記憶喪失だもんね。もしかしたら料理人だったりしたのかも? それか調理師学校に通ってたとか」
ギリギリ中学生といった年齢的に違う可能性の方が高い。そもそも刀をブンブン振り回している時点で料理人なんて大人しい肩書きではないだろう。
「……そうですね。案外、このように誰かに振る舞っていたのかもしれません」
そんな佐天の推測に同意を示す。料理を作り、誰かに食べてもらうという行為に対して彼女は妙な懐かしさを覚えた。自分は過去にも似たようなことをしていたのだろうか。
剣を振るうことは好きだが、料理が好きかどうかと言われればそうでもない。ならば必要であるからこそ学んだのだと考える。己が必要無いことを無意味に学ぶような人間だとは思えないが故に。
「……フフッ」
それを見て佐天が微笑む。本人は気付いていないが、今の妖夢はいつものような無表情ではなく、どこか安らかな表情を浮かべていた。
(やっぱり話してみると全然悪い子じゃない。きっと、人を斬ってたのも何も分からなかったから、なんだろうなぁ)
彼女は純粋な子だ。些か天然で倫理観が欠如しているが、それはまともな情操教育を受けていない幼子のようなものであり、何が駄目で何が悪であるかすら曖昧になるような環境下に身を置いていたのだろう。
加えて、記憶喪失だ。全く知らない場所で、ただ一人右も左も分からない状態。訳が分からず混乱し、不安で一杯になるに決まっている。
そのような状況下で悪意や脅威に晒されてしまえば、過剰に力を振るってしまっても可笑しくはあるまい。
何も知らずに大罪を犯してしまった悲劇の少女……佐天はすっかりそんなイメージを抱き、同情や憐れみの目で妖夢を見ていた。
それは決して真実ではなく、幾分かの勘違いや都合の良い解釈が含まれた結果なのだが、時には知らない方が幸せなこともある。現にこうして佐天は妖夢に対して完璧なコミュニケーションを成し遂げ、打ち解けられているのだから。
(でも……このままズルズルとこんな関係を続けても駄目、だよね……)
その一方で佐天は心の中でうーん、と唸りながら頭を悩ませる。彼女とて現状は何よりも打破すべきだということは理解していた。
(どうにかしないとって思っても私一人じゃあ……かといって皆に相談しても妖夢ちゃんが本当に“切り裂き魔”だったら豚箱行きは確定だし……)
恐らく人を殺すな、傷付けるなときちんと説得すれば妖夢は応じてくれることだろう。しかし、そうしたところで過去の罪が消える訳ではない。
世間を騒がせた連続猟奇的殺人鬼。杞憂であってほしいが、切り裂き魔の音沙汰が忽然と無くなった時期は妖夢を拾った日付からと合致しており、駆動鎧を刀一本で容易く倒したその強さと刀を使用していたという霊夢の証言からもほぼほぼ間違い無いと思われる。
(というかこれ、分かってて匿ってる私も罪に問われるんじゃ? や、やばいかも……)
今更になって自分が相当にまずい立場に居ることを理解し、冷や汗を流す佐天。しかし、打開策は思い付きそうになかった。
現状最も信頼できる存在である霊夢も、切り裂き魔こと妖夢の事をかなり危険視しているようであり、もしもこの事実を知ってしまえば、戦闘に発展する可能性がある。妖夢も妖夢で一度敵対した霊夢の事をどう認識しているのか分からず、安易な接触はあまりにもリスクが高い。
一体どうしたものか。
「……そういえば、今日もまた集めるのですか? マネーカードとやらを」
そんな佐天の考えなど知る由もない妖夢はふと気になったのか問いかける。
「え? あー、うーん……どうしようかなぁ。初春達には危ないから止めろって言われてるんだよねぇ……もう結構集めたし」
マネーカードの投棄は貨幣の遺棄には当たらないため違法行為としては裁けず、警備員や風紀委員も動いていなかったが、噂が広まった影響で拾得者同士のトラブルが発生したり、スキルアウトの縄張りに迷い込んで絡まれたりと被害が発生してしまっているらしい。
そのため初春や白井も駆り出されており、調査を行っているようだった。流石の佐天もスキルアウトに襲われるリスクを顧みずに拾う程愚かではない。
「ふむ……しかし、お金となる物を故意に落とすとは、随分と罰当たりな人が居るものですね」
「だよねぇ。霊夢さんも同じこと言ってたよー」
妖夢は金銭には特段執着していないが、それでも流石に価値あるものだということくらいは理解している。だからこそ、佐天がわざわざそれを拾い集めに行くのも納得出来たし、それらをばら撒いている者の思考がいまいち分からなかった。
単なる義賊気取り、であれば良いのだが。
「……霊夢さん、ですか」
随分と親しいようだ。他に彼女が口にする名前は初春、白井、御坂。誰かは知らないが、以前に駆動鎧を峰打ち(佐天の要望)で切り捨てていた際にちらりと見た面々の中に居たのだろうか。
類は友を呼ぶ。彼女の友人なのだ。きっと、悪い人間ではない。
「うん。あ、霊夢さんといえば……マネーカード探しした後から様子が変だったな」
ふと思い出したように佐天は呟く。
「変、ですか?」
「うん。なんか急に“ドッペルゲンガー”のことを詳しく知りたいって言ってさ……それまで全っ然興味無さそうだったのに」
「どっぺる……何です?」
首を傾げる妖夢に佐天は説明する。マネーカードとは別にドッペルゲンガーという自分や他人にそっくりな人物が出没するという都市伝説が最近になって広まっていると。
「といっても情報自体はあんまり無いんだよね。
しかし、調べたところで有力な情報は出ない。というよりも目撃例が書き込まれたことは何度もあるにも拘わらずそれを見た者は少なく、いくらネットの海を遡っても見つからない。
書き込みをいくら消してもすぐにコピーペーストされて拡散される昨今のインターネット社会。そんな中で一切の形跡が消えているのは、あまりに不自然で陰謀論を語る者からそもそもそんな書き込みなど最初から存在しなかったのではと懐疑的な者にまで別れ、軽く論争が起きている。
佐天としては前者の方が面白そうではあるものの後者派。彼女も書き込みそのものは見たことがなかったからだ。
「はて。くろーん、とは?」
またまた出てきた聞き慣れぬ単語について妖夢は問う。
「えっと……私もそこまで詳しくないからざっくりな説明になっちゃうけど、生物の細胞を培養して増殖したりして、その生物と全く同じ遺伝子構造をした生物を造り出すこと……かな?」
「……つまり全く同じ生き物を別に生み出す、ということで?」
「そそ。それがクローン」
「何と……そのようなことが可能なのですか」
「うん。実際に羊とか犬とかのクローンは実現してるみたい。人間の方は法律で禁止されているけど」
妖夢は驚く。細胞だの遺伝子云々の話はよく分からないが、要するに特定の個人と全く同一の生命を創造するということ。彼女からすればあまりにも常識外れな所業であり、この街の科学技術とやらも侮れないなと感心する。
「成程。しかし、何故人間の製造は禁止なので? 色々と便利だと思いますが」
「えー? そりゃ倫理的にアウトだからじゃない? ほら、生命の冒涜っていうの? 人間が人間を簡単に生み出せてしまうって事になったら、そのクローンの人権はどうなるんだってなるし、人間そのものの価値も暴落しかねないじゃん?」
「……左様で」
純粋な疑問に対して佐天はざっくりと説明するが、今一ピンと来ない様子の妖夢。人工的に人間を造り出せれば、戦闘員や労働力に困らないし、便利ではないかと。
そもそも人権とは何ぞやといった段階である彼女には些か難易度の高い話であった。
「まあ、確かにそんなに人間が増えてしまったら、冥界は大変そうですね。幽霊が溢れ返ってしまいそうです」
「め、冥界? な、なんか面白い観点してるね妖夢ちゃん……」
まさかこの世よりもあの世のことを心配するとは。至極真面目な様子でそう言う妖夢にやはり変わった子であると佐天は苦笑いする。
「あ、そうだ。妖夢ちゃんはどうする? もし自分そっくりのドッペルゲンガーに出会ったら」
「……ふむ、そうですね」
顎に手を当て、妖夢は思い浮かべる。もしも目の前に自分と瓜二つの人物が現れたら。
しかし、答えは分かり切っていた。
「──是非とも斬り合ってみたいです」
同じ姿。同じ力。同じ技。己が片割れにも等しき存在。なればこそ、試してみたくなるもの。自分自身と闘ったことなどあるはずがないのだから。
鍛練にはもってこいだ。そんなことをナチュラルに思考して真顔で言ってのける。
「えぇ……」
佐天は普通に引いた。
「………………」
それからも他愛のない話を続け、佐天は友人達に会いに外出した。
一人部屋に残った妖夢は食器の片付けを終えると椅子に腰掛け、ふぅと一息つく。
「……そろそろ出てきたらどうです?」
そして、唐突に虚空へと問い掛ける。
「──やっぱり気付いてたかい」
すると山彦のように響いて声が返ってくる。弾むような、女の声だった。
妖夢はその声の主の事を知っていた。記憶を失い、右も左も分からず混乱しながらこの見知らぬ街を奔走していた頃に出会い、利害の一致から協力関係になった相手である。
「いやぁ、元気そうで何より。あの“第二位”に襲われた時は流石に死んだかと思ったけど、いやはやなかなかどうして……あんた、想像以上にやるじゃないか」
「……意外ですね。てっきり既に見捨てられているのかと思っていましたよ」
「まさか。こう見えて面倒見は良い方なんだ。偶然現れたあの嬢ちゃんが拾わなかったら、きちんと回収してたさ」
「どうだか……」
嘘は言っていないが、その“回収”というのはいつもやっている死体処理と変わらないのではないかと妖夢は眉をひそめ、疑わしげな視線を向ける。
彼女は声の主のことも、その裏に存在する誰かも微塵も信用していなかった。
「
刺客。あの白い六翼の少年は、どうやら単なる尖兵に過ぎないらしい。
“第二位”などと呼ばれているみたいだが、ということはあの紅白が“第一位”なのか。実力的に見ると、そう考えるのが妥当ではあるが。
どうであれ、脆弱で張り合いが無さ過ぎる連中ばかりではないようで、安心する。
「………………」
「ま、今後は控えてよ。“統括理事会”やら“暗部”やらに目を付けられるのは色々と面倒だからね」
「……分かりました」
「おや? 随分と素直じゃないか」
あっさりと了承する妖夢に対し、声の主は意外に思う。以前のように自分は斬りたいものを斬るだけで知ったことではない、とでも言われると思っていたからだ。
一体どういう心境の変化があったのかと首を傾げるも、思い当たる節があり、にやりと笑みを浮かべる。
「へぇ……もしかして、あの嬢ちゃんに感化されちゃったのかい? 佐天ちゃんだっけ? 面白い人間だよね」
「………………!」
ギロリ、と鋭い眼光で妖夢は声の主を睨む。彼女に手を出せば殺すと言わんばかりに。
「ちょっ、タンマタンマ! 落ち着いて! 別に取って食うつもりなんてないさ。無関係な奴を巻き込むのは本意じゃない」
「……なら、彼女の名前を出さないでもらいたい」
「あー、はいはい、悪かったよ。ったく……随分と入れ込んでいるみたいだね?」
強烈な殺気にビビりながらも、思っていたよりも情を抱いているらしい妖夢に、声の主は呆れた様子だった。
「……そのつもりはありません。ただ彼女はこのような得体の知れぬ私にも優しくしてくれた、善い人です。巻き込みたくはありません」
刃を向けられ、脅迫されたにも拘わらず怯えること無くこちらへ歩み寄ってきた佐天という少女に、妖夢は酷く戸惑った。
無警戒、お人好しが過ぎると言ってしまえばそれまでであるが、この街を奔走してから初めて触れた優しさと温かさに無慈悲な辻斬りであった妖夢の心は僅かに溶かされ、心地好さを感じたのだ。
故にこそ、そういう意味でも妖夢は佐天に恩義を感じ、恩人として敬うのである。
「善い人、ねぇ……それを言ったら、あんたが無差別に斬り殺した連中の中にだって、あの子と同じかそれ以上の善人が居たと思うけど? ほら、アンチスキルだっけ? この街の自警団の連中も居たでしょ。それなのに善い人だから今更巻き込みたくないだどうのってのは矛盾してるし、虫が良過ぎるんじゃないかい?」
嫌味ではなく、純粋な疑問。妖夢がこの街へ来た初めに行った殺人は不幸な行き違いと誤解による半ば事故のようなものだった。
しかし、それ以降は違う。中にはたまたま現場に居合わせた通行人や凶行を止めようと立ち塞がった警備員すらも彼女は躊躇無く殺めている。
「……そうですね。彼らには、悪いことをしてしまいました」
対する妖夢はその言葉を受け、思うところがあるのか僅かに俯く。
「何だ、その程度かい? 取り返しのつかないことをしておいて」
「ですが、斬ってしまったものは仕方ありません」
今一な反応に片眉を上げれば、あっさりと言ってのける妖夢に少しは葛藤や後悔は無いのかと、声の主はつまらなそうに肩を竦める。
佐天と共に暮らしている姿を見る限りではああ見えて意外と良識のある人物かと思っていたが、やはりこれまでの所業が表すように人の命を何とも思わない、無慈悲で血も涙もない人種だったのだろうか。
「それに、冥界は意外と気安い場所です」
「……はぁ?」
そして、続けた言葉に耳を疑う。
「善人ならばきっと極楽へ招かれるはずですし。地獄に落ちるのであれば、そもそも悪人だったということ。裁かれて然るべきでしょう」
彼女は今、何と言った? 一切の躊躇いも無く、さも当然のように淡々と語る妖夢の姿は、恐ろしいことに至極真面目にそう考え、発言しているようだった。
それも単なる狂人の戯れ言などではなく、圧倒的な死生観の違いによるもの。国や民族の文化の違いを更に広くしたようなものと説明すれば良いだろうか。妖夢にとって、死ぬということは本当にただその程度のことなのだろう。
だからこそ、最低限のブレーキすらも壊れている。否、そもそもブレーキなど初めから存在しないのだ。
「──は。やっぱイカれてるね、あんた」
声の主は面白可笑しそうに笑う。この現代社会においては狂人、破綻者と断じられるであろう、あまりにもかけ離れた歪な在り方。
どうであれ、この少女は佐天涙子に対して相応の情を抱いているのは間違いない。
狂犬に首輪……というには危うく、脆弱に思えるが、それでもその感情も、その思想も、噛み付かれるリスクを考慮すればどこまでも利用出来る。
「何はともあれ大人しくしといてくれるなら助かるよ。今、この街では色んな思惑が渦巻いて混沌としているからね」
「……混沌、ですか」
「ああ、そうさ。その中には、うちらのような
「………………」
うんざりした様子の声の主。彼女の語る内容は妖夢には正直よく分からない。ただ彼女らがやたらと慎重なのは理解出来た。
「とりあえず今はまだ様子見。あんたを含めて既にスタートダッシュを切った
「……そうですか。至極どうでもいいですが、手を組んだ以上はそちらの方針に従いましょう」
「そうかい。──んじゃあ、早速だけどボスから“依頼”があるんだ」
すると声の主が切り出す。どうやらそれが本来の目的だったようだ。
「……走狗になった覚えはありませんが?」
怪訝な表情を浮かべれば、対する声の主は肩を竦める。協力関係を結ぶに至った際の契約の内容は守ってくれなきゃ困るとでも言いたげに。
「して、内容は?」
それは妖夢も分かっているのでそう促す。協力関係を結んでいる以上、ある程度の義理を果たすのは当然というもの。
「この街の上層部がある“実験”を主導しているんだけど……どうも不確定要素が紛れ込んじゃったみたいでさ。ほら、目には目を歯には歯をってあるじゃん? それに伴って協力してくれってさ」
「……実験?」
「あ、余計な詮索はしないでよ。お上の連中はそれはもうご執心みたいで下手に刺激して爆弾が起爆したら色々と面倒だ」
「……要するに?」
どうせ己に依頼するくらいだ。血生臭いものなのだろうと、妖夢は当たりを付ける。
であれば、このままこの家に留まり続ける状況は駄目だろう。
「至ってシンプルさ──その“実験”を妨害する連中の排除だよ」
告げられた依頼に、妖夢は何も答えず、ただ刀を手に取ることで返答した。
「ただいまー。妖夢ちゃん、特に何もなかったー?」
時刻は正午。友人らと別れ、帰宅した佐天は玄関の扉を開けて妖夢の名を呼ぶ。
しかし、いくら待てども返事は無い。
「あれぇ?」
首を傾げながらも靴を脱ぎ、部屋へと向かうも、やはり妖夢の姿は無く、キッチンには味噌汁が鍋に入ったまま残置されており、テーブルの上には肉じゃががサランラップで密封された状態で置かれていた。
恐らく妖夢が昼食を作っておいてくれていたのだろう。だが、肝心の彼女の姿が見えないのは一体どういうことか。
「……どこ行ったんだろ」
外出したのだろうか。玄関の鍵は閉まっていたが……と、ふと窓の方へ視線を向けてみると半分だけ開いており、そこから吹く風がひらひらとカーテンを揺らしていた。
──その日、妖夢が帰ってくることはなかった。
長くなって少し省略したら霊夢の出番が……消えた……?
紅白「あ?」