とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

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妹達

 

 ドッペルゲンガー。

 

 それは自分と瓜二つの存在のことを指し、これを視た者は命を落とすという。肉体から霊魂が分離・実体化したものとされ、古くから神話や伝説などで語られ、人々から死の前兆であると信じられた。

 

 特に18世紀末から20世紀にかけて流行したゴシック小説作家たちにとって死や災難の前兆であるドッペルゲンガーは魅力的な題材であり、自己の罪悪感の投影として描かれた。

 

 医学においては自己像幻視という幻覚の一種とされており、統合失調症などが関係していると考えられている。

 

 そのようなありふれた、古臭い怪現象がこの科学の最先端たる学園都市において今頃になって都市伝説として噂されるということは、何かしらの切っ掛けがあるからに他ならない。

 

 ──それが、あの御坂美琴と瓜二つの人物であると霊夢は結論付けた。

 

 単に双子の姉妹か、或いはよく似た親戚である可能性もある。しかし、それならばすぐに話題になるはず。上述したように都市伝説になるには今更が過ぎるし、本人や白井達からそのような話を聞いたことはない。

 

 そんな折に佐天にドッペルゲンガーについて詳しく訊けば、有力な情報がもたらされる。

 

(クローン、ねぇ……要するにレベル5を製造して量産しようってことね。この街の連中がやりそうなことだわ)

 

 火のない所に煙は立たぬ。ピンポイントで超能力者(レベル5)である御坂であったことからしても、霊夢は関連性を疑わずにはいられなかった。

 

「で、そこんとこ実際どうなの? 菫子」

 

「へぇ……レイムっちがその噂を聞き付けるなんてねー」

 

 巷で話題のお洒落なカフェのテラス席にて。頬杖を突いて座る霊夢の正面には、眼鏡の少女──“宇佐見菫子”が新メニューのカフェオレをスマホで撮影している。

 

 三沢塾で身に付けていたトレードマークでもある帽子やマントは着用しておらず、こうして見るとごくごく普通の文学少女のように見えた。

 

 ドッペルゲンガーと聞いて、初めに霊夢が連想したのは彼女の事だった。

 

 宇佐見が保有する数ある異能の一つ。その中でも特異であるそれの名は、読んで字の如く“自己幻像(ドッペルゲンガー)”と彼女自身が呼称している、どちらかと言えば魔術に属するであろう怪奇(オカルト)──。

 

「けどさあ、何で私に訊くの? まさか同じドッペルゲンガーだからって理由? だったら、流石に安直過ぎるわ。私の自己幻像(ドッペルゲンガー)とは何ら関係ないもの」

 

 急に呼び出されて何事かと思えば。霊夢の思考を読み取った宇佐見は怪訝な表情を浮かべ、呆れた様子で首を横に振る。

 

「だってあんたでしょ。噂を広めてるのは」

 

 しかし、これに対して霊夢の表情は変わらず、冷たい声色のまま言い放つ。

 

 質問ではなく断定だった。

 

「は──? いやいや、何の事やら──」

 

「惚けても無駄よ。さっさと白状なさい」

 

 鋭い眼で見据えられ、宇佐見は言葉に窮する。やがてそんな脅しのような物言いに肩を竦め、溜め息を吐く。

 

 それは先程のような呆れではない。

 

「こっわ。何で分かるのよ」

 

 わざとらしく肩を震わせる。実のところ宇佐見は呼び出された時点で察してはいた。

 

 化け物染みた天性の第六感。ここまで来ると気味が悪い。単なる勘だと彼女はいつも言うが、未来予知やテレパシーの類いの方がまだ信じられる理不尽さである。

 

「認めるのね」

 

「ええ。認めないとレイムっち、実力行使に出るでしょ? というか元から別に隠すつもりなんてないし。あ、でも噂そのものとは本当に無関係だからね?」

 

 そう言って宇佐見は先程までクレープを撮影するのに使用していたスマホをポケットから取り出して画面を見せる。

 

 そこにはとある都市伝説サイトの掲示板が映し出されていた。

 

「たまたま偶然知って、()()()()()()()()()()()()()()SNSとかで拡散しただけ」

 

 宇佐見は元から存在していた“超能力者のクローン”についての噂話と、埋もれていた、或いは削除された目撃例を電子の海から探し出し、ドッペルゲンガーという名目で掘り起こしたに過ぎない。

 

 理由はごく単純。それがひとえにドッペルゲンガーと限りなく類似性があったからだ。

 

 それ以外の思惑など在りはしない。

 

「だけど、どうやら何か結構やばい案件だったみたいでさー。上層部が火消しに廻り始めたの。大慌てで手当たり次第に書き込みを削除したり、端末ごと破壊しようとしたりして、とても滑稽だったわ」

 

 プクク、と笑う宇佐見。そんなことをしたところで隠蔽し切れるはずもなく、むしろ噂が事実であることを証明するようなものだというのに。

 

 否、確かに今まではそれで何とか出来ていたのだろう。所詮は噂であり、具体的な目撃例自体も少数だったのだから適当に火消しを続ければやがて風化して収束していった。

 

 しかし、今回ばかりは違った。何せ噂は特定の個人により意図的に広められようとしており、その元凶は隠蔽しようとする学園都市側の反応を面白がり、ハッキングなどお構い無しに流布を続け、時には成り済ましすらしてドッペルゲンガーという都市伝説をネットに根付かせた。

 

「ふうん……で、出処や信憑性は?」

 

 その様子をつまらなそうに見つめながら霊夢は問う。

 

「ふふ。わざわざ上層部様が出張って火消しに必死な時点でお察しじゃない? 私としては噂レベルで浸透させといた方が()()()()あるから、特に根掘り葉掘り暴こうとはしてないわ」

 

 学園都市にとって幸いだったのは、宇佐見が核心に近い部分に触れておきながら然して興味が無く、その秘密を暴こうとしなかったことだろう。

 

 真相が何ら変哲の無い、ただのクローン、それもオリジナルの劣化品であることも拍車を掛けた。裏でただのクローンを製造して実験に用いているだけなど面白味に欠ける。

 

 “暴く者”を自称する彼女であるが、それはジャーナリストという意味合いではないのだ。

 

「にしても、意外ね。てっきりレイムっちは興味無いからわざわざ動くようなことなんてしないと思ってたのに」

 

 これまでの関わりから、博麗霊夢という人間は明確に実害を被らない限りは自発的に行動するようなことはしないと、宇佐見は分析していた。

 

 故に、このクローンの件も知ったところで介入するような真似はしないと推測していたのだ。

 

「……そうね」

 

 これに霊夢は同意を示す。噂が事実であると知っても、この街ならば普通にやりそうなことなので別段驚きはない。むしろクローンの製造など、霊夢の知る限りでは暗闇の五月計画やら暴走能力の法則解析用誘爆実験とやらと比べれば実害が無い分まだマシと言えよう。

 

 故に、勝手にやってろと言う他無かった。

 

「どういう風の吹き回し? あ、風紀委員だから見逃せないってのは無いよね? もう辞めてるはずだし。ちょっと前まで復帰してたみたいだけど」

 

「……その件に関してどこで知ったかは突っ込まないでおくわ。私だって好きでやってんじゃないわ。でも実際に視ちゃったから、多少なりとも気になっちゃうのよ」

 

「視ちゃった? ……あ、そゆこと」

 

 一瞬小首を傾げるも、すぐに察して納得する。

 

「そりゃラッキーなのかな? 私も実物は見たことがないし。ってことは相手があの第三位の超電磁砲(レールガン)ってことも把握している訳ね」

 

「ええ。とりあえず、あんたの知っていることを全部吐きなさい」

 

「えー? 何の見返りもないのはちょっと……ああ、嘘嘘。冗談だって霊夢パイセン。洗いざらい話しますよ、はい」

 

 ごねたかと思えば、霊夢が僅かに険しい表情を浮かべた途端に呆気なく陥落する宇佐見。仮にここで霊夢と敵対したとしても彼女には()()があったが、この段階で戦うのはあまりにもリスクが高く、不利益しか被らない。

 

 対して霊夢も宇佐見の実力は現時点で“未知数”であり、油断ならぬ相手であると認識していた。

 

 何せ彼女は知らぬ内にも、確かに成長を続けているのだから──。

 

「今、何とおっしゃいました?」

 

 その時である。

 

 聞き覚えのある甲高い声が横からする。視線を向ければやはり見覚えのあるツインテールが立っていた。

 

「……あんたはさぁ。私のストーカーか何かなの?」

 

 果たしてこの展開は何度目だろうか。少し驚きながらも霊夢は面倒臭そうに溜め息を吐き、彼女へと向き直って問い掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 白井黒子がその大通りを通ったのは本当に、単なる偶然であった。

 

 いつもの風紀委員としての巡回。マネーカードの件もあって普段よりも拡大した範囲内にあるそのカフェは数人ではあるものの行列が出来るくらいの人気店。たまたま歩いている最中に視線に入り、そこのテラス席に見覚えが有り過ぎる、誰であるか一目瞭然な紅白の存在を発見した。

 

 あのファミレスではなく、こういった雰囲気の人気店に来るような人間だと思っていなかったため少し驚く。恐らくは相席している人物に誘われたのだと思われるが……。

 

(誰ですの? あの方は)

 

 眼鏡を掛けた少女。一見すると地味めであるが、端正な顔立ちをしているのが分かる。着用しているのは菫色のチェック柄の制服……この近辺の学校名は大方掌握している白井であるが、かなり特徴的なデザインにも拘わらず記憶する限りでは全く見覚えがなく、どこの学校の生徒かは分からなかった。

 

 友人……かどうかは不明であるが、少なくともこうして流行りの店に一緒に来ている時点で仲が悪かったりするような関係ではないだろう。以前会った神裂のように白井の知らぬところで交友関係は意外と深いのかもしれない。

 

 別に声をかけるつもりはなかった。彼女はもう風紀委員ではないし、テラス席とはいえ客ではないのに話し掛けに行くのは些か非常識なようにも思えたからである。

 

 しかし、素通りしようとしたところ。眼鏡の少女の口から“第三位の超電磁砲(レールガン)”という単語が出たのが聴こえてきた瞬間、気が付けば声をかけてしまっていた。

 

「……あんたはさぁ。私のストーカーか何かなの?」

 

「なっ!? ち、違いますの! たまたま巡回している最中に目に入っただけですの!」

 

 溜め息交じりに吐き出された言葉に対し、白井は心外とばかりに声を荒げる。事実であるが、動揺したせいか言い訳しているかのようだった。

 

「そ、それよりもっ! 先程あなたレールガンとおっしゃっていましたが、お姉様がどうかしたんですのっ!?」

 

「お姉様? えっと、どちら様で?」

 

 問い詰められ、眼鏡の少女──宇佐見は困惑する。お姉様というのは超電磁砲の事だろうか。常盤台中学の制服を着ていることから恐らく信奉者の一人であり、そう呼ぶこと自体には納得出来るが……。

 

「し、失礼しましたっ! こ、こほん。私、白井黒子と申します。お姉様……御坂美琴の後輩ですの」

 

「ああ、あなたが風紀委員のテレポーター。噂はかねがね聞いているわ」

 

 やってしまったと若干顔を赤くしつつ、白井が自己紹介すれば宇佐見は納得した様子で手を叩く。

 

 しかし、噂と聞いて白井はひきつった笑みを浮かべる。以前に逮捕した犯罪者が“捕まったが最後心も体も切り刻んで再起不能にする最悪の腹黒テレポーター”などという不名誉な呼び名を口走っていたのを聞いていたからである。

 

 因みに霊夢は知っての通り“鬼巫女”とシンプルな異名であるが、それ故にもはや人間扱いされておらず、台風とか怪物とかそういう類いの如く恐れられている。

 

「私は宇佐見菫子。東深見……じゃなくて、霧ヶ丘女学院一年、ついでに秘封倶楽部会長よ。今後ともよろしく」

 

「ヒフウ……? それに、霧ヶ丘女学院ですの? しかしながら制服が……」

 

 返された自己紹介に白井は眉をひそめる。

 

 霧ヶ丘女学院。単純に能力開発分野だけなら常盤台に肩を並べる名門学校であり、常盤台が汎用性に優れたレギュラー的な能力者の育成に特化しているのならばこちらは奇妙で、異常で、でも再現するのが難しいイレギュラー的な能力者の開発のエキスパートである。

 

 当然白井も知っているが、制服のデザインは宇佐見が着ているものとは全く違うものだと記憶していた。

 

「ああ、これは前に通ってた学校のよ。デザインが気に入っててさー」

 

「そ、そうなんですの……」

 

 何てことのないかのようにあっけらかんと言う宇佐見に、そんな理由で許可が下りるのかと疑問に思いながらも白井は頷く。

 

 少なくとも制服の改造は可能だと思われる。何故なら白井の知り合いの霧ヶ丘女学院の生徒には上半身は裸にサラシを巻いて上にブレザーを羽織っただけ、下は冬服のミニスカートに金属ベルトという痴女としか思えない格好をした人物が居るのだから。

 

 あれが許されているのなら宇佐見など可愛いものだろう。

 

「そ、それでっ……先程の話なのですが」

 

「うん? あー、あれを聞いてたの?」

 

「そうですの。盗み聞きしてしまった形になって申し訳ありませんが、一体お姉様について何を話していたので?」

 

「何を、ね……」

 

 ちらり、と宇佐見は霊夢へと視線を送る。風紀委員という立場の白井に親愛なる御坂美琴が関わる学園都市の裏で行われているおぞましい実験を教えるべきか否か。彼女には判断しかねる。

 

「……別に大した話はしてないわよ」

 

 そして、霊夢はただそう言う。当然話せるような内容ではないし、そもそも判別するだけの情報を得ようとしたところで白井が乱入してしまった。

 

 霊夢からすればとんだ邪魔が入った気分である。

 

「ッ、そう誤魔化さないでくださいまし!」

 

 投げやりな返答に白井が顔をしかめる。

 

「誤魔化してない。第一ズカズカと店のゾーンに入ってきて何かと思えば……別にお姉様って言ってもあんたと美琴とは姉妹でもなんでもないんだし、いちいち気にする必要なんて無いでしょ」

 

 実に紛らわしい。さも当たり前のようにお姉様などと呼んでいるが、白井の呼ぶお姉様というのは単に慕っているが故の呼び方であり、本当に姉妹という訳ではない。それを御坂のそっくりさんについて調べる過程で霊夢は知った。

 

 今更が過ぎる気がするが、それだけ霊夢は興味が無かったということである。

 

「ッ……それは……そうですが……」

 

 その指摘に白井は押し黙る。確かにその通りであり、普段の彼女ならばこうも過剰に反応することはなかっただろう。

 

 しかし、白井には引き下がれない理由があった。

 

「お願いします。お姉様、最近様子がおかしいんですの。夜遅く出歩いて、いつも疲れた顔をしていて……とにかくっ、知っていることがありましたら教えてほしいんですの!」

 

「……美琴が?」

 

 あの鉄橋で上条と痴話喧嘩していた時もかなり遅い時間帯であったし、別に不自然には思えない。

 

 しかし、タイミングがタイミングだ。今しがた御坂美琴のクローンかと思われる人物について話していたところ。そして、この噂が御坂自身の耳に入っていても不思議ではなく、何かしらの形で関わっている可能性もなきにしもあらず。

 

「理由を尋ねても教えてくれませんの……何か大変な事を抱え込んでいるのは一目瞭然ですのに……」

 

 俯く白井。彼女にとって御坂が心配なのもあるが、何よりも自身を頼ってもらえなかったことがショックだった。

 

「………………」

 

 霊夢には弱音のようにも聴こえた。そんな姿を自身に見せる程に白井も思い詰めているようだ。

 

 しかし、仮に御坂の抱える“大変な事”が霊夢の予想通りのものであるのならばそりゃ教えられなくて当然である。

 

「本当にお願いします。心当たりがあるのなら、教えてください」

 

「……悪いけど、あいつが言わないんなら、私からも教えられない」

 

 頭まで下げて懇願する白井に対し、霊夢は冷たく言い放つ。無情な対応にも思えるが、恐らく御坂は彼女らを学園都市の闇に巻き込まないようにしているのだ。その配慮を己が判断で台無しにしてしまう訳には行かない。

 

「ッ……分かり、ました……」

 

 白井は頭を下げたまま歯噛みする。ここまでして突き放されたのだ。霊夢は明らかに御坂が何に関わっているか知っているが、これ以上何も語ろうとはしないだろう。

 

 敬愛する人の助けになれない己の無力さに、どうしようもなく打ちのめされる。

 

「なら……もう一つ、お願いがあります」

 

「あん?」

 

 すると白井が顔を上げ、切り出す。

 

「──もし、あなたが何か知っているなら、どうかお姉様を、助けていただけませんか?」

 

 他人に委ねるなど白井にとっては耐え難いこと。けれど、それしか道がないことを理解し、意を決して彼女は霊夢に頼み込んだ。

 

「………………」

 

 本当は悔しくて仕方ないであろうに。その姿は、霊夢の知る白井からは考えられず、思わず呆気に取られてしまう。

 

「……あまり期待はしないでよ」

 

「………………!」

 

 霊夢はただそう呟くだけだった。これに白井はぱぁと顔を輝かせる。

 

 期待するなと言ってるだろと霊夢は呆れながらも口にはせず、ぽりぽりと後頭部を掻く。

 

「──ありがとうございます」

 

 これまた珍しい感謝の言葉。明日は槍でも降りそうであると、霊夢は思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「お人好しだなー、レイムっちはー」

 

「茶化すんじゃあないわよ。ったく……また面倒事が増えちゃった」

 

 白井が立ち去った後、愉快げに笑みを浮かべる宇佐見に対し、霊夢は不機嫌そうに顔をしかめる。

 

「そんなこと言っちゃってー。追い返さなかったってことは、わりと気に入ってるんでしょ? 黒子ちゃんのこと」

 

「……うっさいわね」

 

 別に嫌いではないが、かといってあんな説教臭くて喧しいツインテールのどこに気に入る要素があるというのか。

 

 あれは泣き落としに近いものである。

 

「さっさと教えなさい。そこから美琴の動向も推理しないといけないんだから」

 

「おっけー。けどその前に、ちょっとだけ条件出していい? 今回の件、私にも一枚噛ませてよ?」

 

「はぁ?」

 

 宇佐見の提案に霊夢は眉をひそめる。クローンの件を今の今まで放置していたことから、この件には彼女の食指は動かなかったと判断していたが……。

 

「いやぁ、レイムっちに第三位まで直に関わっていくとなると、なかなか面白くなりそうだと思ってね。それに、本格的に介入するってんなら、私の情報源は有益でしょ?」

 

「ハァ……分かったわよ」

 

「やった! 言質は取ったからね?」

 

 この調子ならいつまでもごね続けるだろう。霊夢は面倒げにしながらも了承する。

 

 足手纏いは御免であるが、宇佐見はトラブルメーカー気質なのを見て見ぬフリをすれば戦力としては充分に過ぎる。

 

「──それと、ついでに第三位が裏でコソコソやってることについても心当たりがあるわ」

 

 すると宇佐見が新たな情報を伝える。恐らく一枚噛ませてくれなければこの情報は教えてはくれなかっただろう。

 

「……続けて」

 

「予想は付いてると思うけどまあクローン絡みよ。彼女は自分のクローン……妹達(シスターズ)だなんて呼ばれてるそれらを使ったある“実験”を阻止する為に関連施設を片っ端から破壊して廻っている。ほら、ニュースとかで製薬会社が襲撃を受けたとかやってるじゃん? あれの犯人、第三位だから」

 

 どうやらクローンの製造だけでは終わらぬ話のようだ。それにわざわざクローンを用いるということはその実験はろくな内容ではないことが窺える。

 

 それも御坂が公にせず、破壊という手段を用いてまで止めようとする程の──。

 

「その実験ってのは?」

 

「そりゃ決まってるでしょ。この街お馴染みの倫理観ガン無視の冒涜的実験よ。内容はなかなかに吹っ飛んでいるけど正直、ガッカリしたわ。こんな実験が成功するなんて信じてる学園都市にも、天下の第一位様にも」

 

「……何ですって?」

 

 冷淡に、心底つまらなさそうに語る宇佐見。対して霊夢は驚いた様子を見せる。

 

 その名が出てくるとは、微塵も思っていなかったが故に。

 

「──絶対能力(レベル6)進化(シフト)計画。第一位に二万人もの妹達(シスターズ)を虐殺させてレベルアップを目論む、何ともまあイカれた実験よ」

 

 ここで漸く、霊夢は知った。

 

 あの男の語る“無敵の力”とやらが何なのかを──。





今のところ菫子はただのやべーやつ。
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