とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

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アイテム

 

 

(面倒なことになったわね……)

 

 ラフな半袖に短パン姿。キャップ帽を目深に被った少女──御坂美琴は顔をしかめ、舌打ちする。

 

 皆に黙って夜な夜な“実験”に関係している研究所を潰して回って数日。遂に残り二つという所まできて、今夜中に終わらせるつもりで意気込んで潜入したのだが、そこで待ち伏せられ、襲撃を受けた。

 

 それも今までのような警備ロボットではなく、明らかに手慣れたその手のプロとしか思えない連中。実験を運用する“敵”がいよいよ焦って刺客を差し向けてきたのだと御坂は理解すると共に安堵する。

 

 何故ならこうして止めようとしてくるということは、己がやっていることは確かに効果的であることを証明しているのだから。

 

「まったく……見つけたならすぐに報告して私らが来るまでは足止めに徹しろって言ったのに。先走って返り討ちにあっちゃうなんて、ボーナスに目が眩みすぎよ」

 

「ご、ごべぇん……」

 

「大丈夫。私はそんなフレンダを応援してる」

 

 しかし、状況はすこぶる悪い。目の前には三人の姿があった。

 

 つい先程まで戦って無力化した、口八丁で御坂に苦戦を強いた爆弾使いの金髪白人の少女。それから彼女を尋問しようとしたところで正体不明の()()()()()で鋼鉄の壁をドロドロに融かしながら攻撃してきた長い茶髪で大柄な女性と、気だるげな表情をした体操服姿の少女──。

 

 ここにきて増援。それも茶髪の方は明らかにヤバそうな雰囲気を漂わせていた。

 

「で、アンタが噂のインベーダーで……」

 

 こちらへ視線を向けた女の言葉は最後まで続かなかった。御坂が磁力を操り、引っペがした筒状のパーツを投げたからだ。

 

「──合ってるわね」

 

 しかし、それは対象にぶつかる前に()()()()()()()

 

(なっ、防がれた……いや違う、消し飛ばされた? 一体どうやって──)

 

 思考する最中、目の前から殺気を感じて視線を向ければ緑色の閃光がプラズマのように迸り、レーザーとなって放たれる。

 

 鋼鉄の壁に大穴を空けた攻撃と同じ。驚きながらも咄嗟に御坂は磁力を用いて適当な柱へと自分の身を動かすことでこれを回避した。

 

 幻想猛獣(AIMバースト)のレーザーとはまた性質が違う。見てくれこそあれのような派手さはないが、下手に防御しようとすれば丸焦げでは済まないだろう。

 

 御坂は冷や汗を掻きつつも、適当に近くにあった通気口の蓋や天井の部品を同じように磁力でぶん投げていく。

 

「へぇ……?」

 

 回避されたことが意外だったのか茶髪の女は感心した様子で自分の前に円形のエネルギーを形成し、容易くそれらを防いでみせる。

 

「ッ…………」

 

「器用な真似するのね。壁に張り付いて逃げるなんて……蜘蛛みたいな女ね」

 

 こちらを見据えて余裕の笑みを浮かべるその姿に、御坂は歯を食い縛った。数的に状況はこちらが圧倒的に不利なのに加え、あのレーザー女は少なくとも大能力者(レベル4)以上の力を持っている。

 

「滝壺、使っときなさい」

 

 出方を伺っている御坂を見据えながらも茶髪の女はそう言ってポケットから取り出したタブレットケースのようなものを体操服の少女へと投げ渡す。

 

 滝壺……それが名前のようだ。彼女は自分に向けて飛んでくるそれを両手で受け取りながらこくり、と頷いた。

 

 そして、ケースから三つほど小さな錠剤を取り出し、それらを口に放り投げ、一気に噛み砕く。

 

「──―っ!!」

 

 ドクンッ! と、体が脈動する。

 

「…………?」

 

 様子が変わった。先程までの眠たそうなものとはかけ離れた、大きく開いた眼でこちらを迷いなく見据える彼女に、御坂は異様な危機感を覚えた。

 

 あの錠剤……少なくとも無意味なものであることは有り得るはずがなく、恐らく彼女の能力を補助する薬物か何かに違いない。

 

(こんな奴ら……三人も相手にしてられない)

 

 ただでさえあの爆弾使いとの戦闘で消耗しているのだ。これ以上能力を乱用してガス欠になっては元も子もない。

 

 そう結論付けた御坂は本来の目的である施設の破壊を優先することにし、近くに転がっている窒素ガスのパイプに電撃を叩き込む。

 

 するとパイプが破裂し、プシューと勢いよくガスが漏れ出して空間に充満する。

 

「はっ! 目眩ましのつもり? そんなことしたって……うん?」

 

 直ぐ様、茶髪の女はレーザーを薙ぎ払うように放ち、ガスを吹き飛ばすが、既にそこに御坂の姿は無かった。

 

「……逃げ足が早いことで。──滝壺」

 

「大丈夫。目標のAIM拡散力場は覚えた」

 

 そう答えながら滝壺は、御坂が逃走した方向へ視線を向け、その位置をしっかりと捉えていた。

 

(──あいつ、もう終わりね)

 

 二人の淡々とした会話を他所に、爆弾使い──フレンダ=セイヴェルンは既に自分達の勝利を確信した様子で笑みを浮かべる。

 

 麦野沈利。超能力者(レベル5)第四位であり、攻撃力に関してはトップクラスに位置するであろう“原子崩し(メルトダウナー)”。

 

 滝壺理后。相手が地球の裏側に居ようが、どこまでも追跡する能力、“能力追跡(AIMストーカー)”。

 

 相手の位置を常に特定し、“粒機波形高速砲”でピンポイント狙撃して障害物ごと焼き尽くす。アイテムが誇る超能力者と大能力者の最強タッグ。たとえどんな能力者であっても、この二人から逃げられるはずがない。

 

「さて、誰だか知らないけど、後はじわじわと追い込んでいくだけ──あ?」

 

 いざ狙撃を実行しようとしたその時、突如として警報が鳴り響く。

 

「何? 警報は切ってるんじゃ……」

 

『麦野! 至急応答願います、麦野!』

 

「──ん? 絹旗? どうしたのかしら、何か問題でも?」

 

 それと程なくして通信端末から聴こえてくる管制室で待機させている仲間の切羽詰まった声。タイミング的に十中八九この警報と関係あるだろう。

 

 茶髪の女──麦野は訝しながらも表面上は落ち着いた様子で尋ねる。

 

『二人目のインベーダーです! しかも知っている顔でして、少なくとも私一人では対処出来ない相手です! 超増援お願いします!』

 

「……何ですって?」

 

 仲間……絹旗の実力はよく知っている。戦闘力に関してはアイテムNo.2であり、常に冷静な判断力と真面目さから麦野は彼女のことを高く評価していた。

 

 そんな彼女が下部組織の連中込みで無理だと断言する程の相手。誰であるか語らなかったということは、アイテムとしてではなく個人的に面識のある相手だろうか。

 

「落ち着きなさい。残念だけどこっちはまだ戦闘中。フレンダもまだ戦線復帰できてないし、しばらくは任せることになるわ」

 

『ッ、そうですか……』

 

「終わり次第、すぐに向かうわ。それまで足止めしといてちょうだい。それくらいは出来るでしょ?」

 

『……分かりました。やれるだけやってみますが、超急いでくださいよ、頼みますから』

 

 自信無さげな言葉と共に通信が切れる。

 

 そこまでの相手だというのか。ここにきての新手と仲間の不甲斐無さに麦野は内心苛立ちを覚え、悪態を吐く。

 

「フレンダ? 聴こえてたでしょう? 動けるようになったら絹旗の所へ向かいなさい」

 

「うぃ……」

 

 まだ舌が痺れて上手く喋れないのが発声練習しながらこくりと頷くフレンダ。正直、装備の大半を消費した状態で絹旗が匙を投げるような相手と戦うなど真っ平御免であるが、拒否すれば殺されかねないのでYES以外の返答など無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 一方その頃。

 

 真正面から堂々と侵入した霊夢は自身の直感を頼りに通路を進んでいた。

 

「……あん?」

 

 曲がり角に近付いたその時。二人の男が飛び出すように姿を現したかと思えば、拳銃を霊夢へと向けてくる。

 

 既に引き金には指が掛かっていた。

 

「ここは警備に破落戸を雇っているのかしら」

 

「なっ──」

 

 しかし、次の瞬間には霊夢は通り過ぎており、男達は発砲することなく倒れ込んだ。

 

 風貌からして常勤している警衛ではないだろう。あんな内容の実験を主導しているだけあって、堅気ではない後ろ暗い連中を動員しているようだ。

 

「面倒だから、さっさと全員で掛かってきてくんない?」

 

「──超囮にもなりませんか」

 

 ばごんっ! と、振りかぶった拳が通路の壁にめり込む。背後からの奇襲を何てことのないように躱した霊夢はそのままくるりと回し蹴りを繰り出す。

 

 しかし、顔面に向けられたこれに刺客は反応し、片腕で受け止める。

 

「! ……へぇ」

 

 刺客の正体はパーカーを着た幼い少女。その容姿と防がれたことに霊夢が意外そうにしていると、相手はすかさず拳を突き出す。

 

 少女の細腕で放たれたそれを霊夢は受け止めようとするが、先程の壁にめり込む程の怪力を思い出し、回避に切り替え、振り抜かれた腕を掴み取る。

 

「ッ!」

 

 そして、ぐるんっと背負い投げを繰り出して床に叩き付けた。そのまま関節を捻って決めようとするが、何やら目には見えない薄い()のようなものが覆っており、腕そのものには触れられておらず、上手く動かない。

 

「ちっ──」

 

 仕方なく腕を放し、その顔面を思い切り踏みつけんとするが、拘束から逃れた少女は横へ転がってギリギリで回避し、勢いのまま起き上がる。

 

 間髪入れずに足刀を繰り出すも、これも後ろへバク転することで避けられてしまう。

 

「──やるわね」

 

 そう小さく呟き、霊夢は針を投擲する。

 

「──光栄です」

 

 そして、その声はきちんと少女に届いており、彼女もまた淡々とそう返すと、ひびが入る程の力で床を蹴り、飛来する針などお構い無しと言わんばかりに真っ直ぐ駆け出す。

 

「!」

 

 針が少女の眉間に刺さ──らない。肌に触れる前に何かにぶつかり僅かに拮抗するも弾かれてしまった。

 

 少女は肩を前へ出し、そのまま全速力でタックルする。

 

「────」

 

 しかし、霊夢は動じることなく、ひらりと受け流すように少女の背後に回り込み、カウンター気味に横合いから腹部へ掌底を叩き込む。

 

 みしり、とぶつかったのは先程同様()で腹部自体には触れていないのにも拘わらず骨が軋む音がした。

 

「かはっ──」

 

 呻き声をあげ、壁に叩き付けられる少女。しかし、即座に受け身を取って起き上がって霊夢から距離を取る。

 

「ッ……本当に、生身の一撃だとは超思えませんね」

 

 ハァハァと息を切らしながらも、その闘志は消えていない。

 

 ファイティングポーズを取り、こちらを真っ直ぐ見据える少女に対し、霊夢は小首を傾げる。

 

「……どこかで会ったかしら?」

 

 あの怪力、能力だと思われる空気のような無色透明な膜、それに戦闘スタイルにも、妙な既視感を覚えた。

 

 対する少女──絹旗は僅かに顔をしかめる。

 

(……覚えていませんか。ちょっと残念ですが、まあ仕方ありませんね)

 

 彼女にとっては己もまた有象無象の一人。仄かな期待を直ぐ様捨て去り、絹旗は霊夢の動きに対し、如何に対応しようか思考を巡らせる。

 

(超早くしてください麦野。やっぱり私一人では荷が重いどころではありませんよ──)

 

 一分にも満たぬ攻防でこちらはダメージを負い、相手は針一本使わせただけで全くの無傷。軽い仕事だと思っていたのに、一転して過去に類を見ない高難易度任務である。

 

 つくづく運が無いと、絹旗は心の中で嘆きながら増援を待ち侘びる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 こちらの位置を特定されている。

 

 次々と放たれるレーザーの猛攻から必死に逃げながら、御坂は悪態を吐く。

 

 あの体操服の少女は透視能力(クレアボイアンス)読心能力(サイコメトラー)、或いはそれに準じた能力の持ち主なのだろう。それも狙撃の精度からして座標レベルでこちらの位置を掌握していると思われる。

 

 このままではジリ貧だ。どうしたものかと御坂は打開策を見出そうとするも、そんな猶予など与えぬとばかりにレーザーが床を貫通して迫る。

 

(範囲外に逃げる? いや、もしもこの施設全体が範囲なら体力の無駄。なら──)

 

 ガクン、と一瞬身体に力が入らなくなった。

 

(!? やば……能力使いすぎて──っ)

 

 ここにきて溜まっていた疲労が一気に噴き出した。足がふらつき、前のめりに倒れそうになる御坂。何とか踏ん張るも、同時に足下の床が熱される。

 

(しまっ──!?)

 

 御坂が目を見開くと同時にレーザーが彼女を飲み込まんと床と天井を一直線に焼き尽くす。

 

「………………?」

 

 死んだ。思わず目を瞑って身構える御坂。しかし、いつまで経っても体が焼ける痛みも消し飛ぶ苦しみも訪れず、気が付けば床の熱も感じない。

 

 恐る恐る瞼を上げると、レーザーが通ったと思われる大穴が空いていたが、自身はそこから5mほど離れた位置に移動していた。

 

 覚えのある感覚。これは、もしや空間移動(テレポート)──? 

 

「ッ、まさか、黒子──」

 

「ふぅ……ギリギリセーフ、だったわね」

 

 真っ先に思い浮かんだのは後輩の姿。有り得ないと思いながらも辺りを見回せば、やはりと言うべきか別の人物が立っていた。

 

「どうやら私の方が一番乗りだったみたいね。一応確認するけどあなたが常盤台のレールガンちゃんでOK?」

 

 そう問われ、御坂は自身の正体を見抜かれていることに驚く。

 

 ボーラーハットを被り、内側で矢印が謎の原理で常時移動しているマントを身に纏った、マジシャンを連想させる装飾過多な眼鏡の少女……その風貌は見るからに怪しいが、助けてくれたことから敵ではない……はずだ。

 

「……あんたは、一体?」

 

「宇佐見菫子。このまま立ち止まってたらまた狙われるし、あなたを手伝いに来たとだけ言っておくわ」

 

 それだけ言うと少女──宇佐見はクイッと指先で眼鏡を動かし、つい先程レーザーが飛んできた方角を見据える。

 

 ──さあ、反撃開始だ。

 

 愉しげに、彼女は嘯いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「目標、北西5メートル先へ移動」

 

「──また外した?」

 

 こくりと頷く滝壺に、麦野は顔をしかめ、腕をクルクルと回し調子を確かめながら顎に手を添える。

 

 立体に動ける、というだけではない。こちらの攻撃を事前に察知しているのか、或いは──。

 

「大丈夫?」

 

「……うん。全然平気」

 

 フレンダと滝壺の声に視線をそちらに向ける。そこには少し疲れの色が見えた滝壺がおり、彼女は麦野の視線に気付くと心配をさせまいと手を振って笑顔で答える。

 

 滝壺の能力追跡は便利ではあるが、“体晶”によって能力を意図的に暴走させることで発動する無理筋な代物であり、負担が大きく使用には限度があった。

 

(相手の移動距離は少しずつだが狭まっている。追い詰めてるのは間違いないわ。……これ以上滝壺に無理はさせらんないか。これだけやられても逃げない、ということはなんとしてもここを破壊しなければならない事情があるということ)

 

 ならばいっそのこと目的地で待ち構えていれば、相手は必ずそこを通る。相手は満身創痍で冷静さを欠いているのだから落ち着いていれば負ける可能性はまずない。

 

(──けれど、そんなもの私の性には合わない)

 

 故に、次なる一手を打とうとフレンダへと声を掛けようとしたその時である。

 

 麦野達の頭上に、大量の何かが出現した。

 

「なっ──!?」

 

 それは道路標識やガードレールといったこの建物にあるはずがない物質の数々。重力に従い、自分達を押し潰さんと落下するそれらをすかさず麦野は能力で消し飛ばす。

 

「っ……フレンダ、滝壺、大丈夫?」

 

「う、うん……何とか……」

 

 二人には怪我はない様子だが、突然の奇襲に麦野は苛立った様子でどこのどいつだと下手人の姿を探す。

 

 そして、すぐに見つかった。

 

「へぇー、見たこともない能力ね」

 

 いつの間にか正面に立っていた二つの人影。片方は先程まで追い回していた蜘蛛女であるが、もう片方の眼鏡の女は知らない。

 

 先程の攻撃は恐らくこの眼鏡の方。空間移動系の能力者だと思われるが……。

 

「──座標移動(ムーブポイント)か?」

 

「残念、不正解ー。結標先輩とは同じ学校ではあるけど」

 

 触れもせず、あれだけの数の物体を転移させた規模の大きさからその系統でも最高峰とされる座標移動ではと麦野は当たりを付けたが、即座に否定される。

 

(仲間が居たのね。あれが絹旗の言っていた二人目のインベーダー? だとしたらあいつ、もうやられちゃったの?)

 

 空間移動で逃げられた可能性もあるが、そもそも絹旗は侵入者に対し、自分では手に負えないと断言していた。となると最悪の場合、目の前で緊張感無く能天気そうに笑う目の前の女は、絹旗をこの短時間で撃破する程の実力者ということになる。

 

 ただのテレポーターだとは思わない方が良いだろう。麦野は警戒を最大限に高める。

 

「ちょっと! 何で戻って来たのよ! 折角逃げてたのに──」

 

「あれ? そうなの? けどさー、わざわざ逃げずに全員纏めて倒しちゃった方が楽じゃない?」

 

「ッ、それが出来たら──」

 

 苦労はしない。そう続けるよりも先にレーザーが横切る。

 

「随分と舐められたものね?」

 

 明らかにこちらを軽んじている発言に、麦野はこめかみに青筋を浮かべていた。

 

 対する少女──宇佐見はあくまで余裕の表情。

 

「怖いなー、あんまり怒ると小皺が増えるよ?」

 

「──ぶち殺す」

 

 軽々とラインを越えた宇佐見の煽りに麦野はレーザーの嵐で返答する。

 

「ちょっと──怒らせて、どうすんのよッ!?」

 

 大半が宇佐見の方を狙っていたが、自分の方にもレーザーは飛来する。避けきれないと判断した御坂はやけくそ気味に電撃を放ち、レーザーにぶつける。

 

 そして、レーザーはぐにゃりと曲がって在らぬ方向へと逸らされた。

 

「ッ!!」

 

 これに麦野は驚愕に表情を染める。

 

 彼女の原子崩し(メルトダウナー)は本来“粒子”又は“波形”のどちらかの性質を状況に応じて示す電子を、その二つの中間である“曖昧なまま”の状態に固定し、強制的に操ることができる能力だ。

 

 操った電子を輝く光線として放出し、絶大なる破壊を撒き散らす。それがあのレーザーの正体である。

 

 そんな基本的に防御不可能で最強の攻撃力を誇る自身の能力を曲げる、などという芸当ができるのはかなり限られているはず──。

 

(やっぱり……受け止めてはっきりしただけど、恐らくあのレーザー女……根っこの能力は私と同じものだわ)

 

 一方、御坂もある結論に至り、思案する。

 

「おっとっと──あんなに怒るだなんて、図星だったのかしら? それとも沸点が低いのかな?」

 

 特に無傷の状態で姿を現す宇佐見。どうやら空間移動でレーザーを回避し切ったようである。

 

「あんた……! さっきから、一体どういうつもり……!?」

 

「どうどう。ミコトっちもそうカッカせずに。同じ超能力者(レベル5)同士仲良くしようぜ?」

 

「ミ、ミコトっちって……は?」

 

 有無も言わさず空間移動でこちらへ連れて来た挙げ句、相手を怒らせて暴れさせる宇佐見の行動に相手が命の恩人だとしても何を考えているのかと御坂は抗議するが、その返答の内容に一瞬思考が停止する。

 

 それは麦野達も同様だった。

 

「今、何て?」

 

「え? あ、そゆこと」

 

 そういえば言ってなかったと宇佐見はぽんと手を叩く。

 

「改めて自己紹介するわ──」

 

 笑みを浮かべ、彼女は麦野達へ何気無しに扇ぐように手を翳してみせる。

 

 次の瞬間──目の前の世界が一変した。

 

「ハァッ!?」

 

 コンクリートの地面が翻る。破片が津波のように捲り上がり、麦野達を飲み込まんと襲い掛かった。

 

 それは正しく高位の念動能力(サイコキネシス)。信じられない光景だった。空間移動能力者ではなかったのか。

 

 唖然とする御坂に、フッフッフッと宇佐見は得意気に笑う。

 

「私は宇佐見菫子! 秘封倶楽部会長にして、学園都市“第八位”で──“正真正銘の超能力者”よ!」

 

 そして、帽子の鍔に触れ、気取ったポーズを取りながら彼女は高らかにそう名乗った。




実は序盤からレベル5は八人って言ってたり。

無理ゲー強いられた挙げ句にもう敗けたと勘違いされてる絹旗かわいそう。
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