とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

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超常操作

 

 

 ──第八位。

 

 その存在が明るみになったのはつい最近。ついこの間まで七人しか居なかった超能力者(レベル5)に突如として組み込まれた幻の八人目。

 

 メディアへの露出が多く、広告塔にもなっている御坂美琴は別として第六位を筆頭に色々と謎めいている超能力者の面々の中でも特に詳しい情報が無く、中には学園都市が確かに第八位というポストを用意し、認めているのにも拘わらずその実在を疑う者まで居る程だ。

 

 それだけ第八位は表舞台に姿を現したことがなく、しかもその能力が“多重能力者(デュアルスキル)”であるという、どこから流れたかすら不明な噂がこれに拍車を掛けていた。

 

 二種類以上の能力を扱う。学園都市の多くの科学者達がかつてそれを実現させる為に躍起になって研究し、そして不可能であると断言された。

 

 仮に本当だとして、何故他に類を見ない存在が全くと言って良いほど発表されず、姿すら現していないのか。そのような第一位でもおかしくはない存在が何故第八位という末席に居るのか。

 

 そういった不可解な理由が故に、第八位の存在は半ば都市伝説のような扱いだった。

 

「第八位……ですって……!?」

 

 自らがそうであると名乗った宇佐見に、御坂はその表情を驚愕に染める。

 

 八人目の超能力者が現れたという話は彼女も耳にしていた。学園都市がその存在を公に認めている以上、実在こそするのだろうとも思っていた。

 

「それに、今の……多重能力者(デュアルスキル)……」

 

「ありゃ? あんまり驚かないのね」

 

 期待していた反応ではなかったのか少しばかり残念そうに小首を傾げる宇佐見。御坂は既に木山の多才能力(マルチスキル)や霊夢の力を目の当たりにしているので今更複数の能力を扱う光景を見ても、然して驚きはなかった。

 

 しかし、それでも信じられぬ光景ではある。これまで学園都市で培ってきた常識を覆すようなものなのだから。

 

 二つの能力、それも大能力者(レベル4)クラスの空間移動(テレポート)念動能力(サイコキネシス)をいとも容易く行使し、目の前の少女は殆どの者から眉唾物だと思われている噂の全てが紛れも無き事実であることを証明してみせた。

 

「正式名称は、“超常操作(PSIコントロール)”。その名の通り、この街が“超能力(P.S.I)”と定義する事象の大半は扱える程度の、素晴らしい能力よ」

 

 そう言い、宇佐見はさも当たり前のように掌から風の渦を、プラズマを、炎を、青白い電流を交互に発生させてみせる。

 

 二種類どころではない。多才能力は幻想御手(レベルアッパー)の被験者達と脳波を共有することで複数の能力を駆使していたが、彼女の超常操作とやらの場合は超能力者に認定されていることから、少なくとも全く同じ仕組みではないのだろう。

 

「……その第八位が、何で私のやってることを知ってて、手を貸そうとしてんの?」

 

「うん? そりゃあ──」

 

 今一番の疑問を投げ掛ける。宇佐見とは当然面識は無く、御坂が夜な夜な研究施設を襲っていることなど本来は知る由が無いはず。こちらに協力してくれるようだが、現段階ではそのどこか他人事で群がってきた野次馬のような態度も相まって信用することが出来なかった。

 

 その問いに宇佐見が答えるよりも早く、緑色の閃光が空間を切り裂きながら横切る。

 

「テメェが第八位、だと? まさか、本当に多重能力者だったってのか……」

 

「お、生きてたんだ。まあ、殺さないように手加減はしてたけどさ」

 

 ほぼ無傷な状態で瓦礫の中から姿を現す麦野。どうやらあのレーザーと同質のエネルギーを周囲に展開することで防いだようだ。

 

 これに宇佐見は意外そうな反応をする。単にレーザーを撃つだけではなく、それなりに応用が利く模様。一体どういった能力なのだろうか。

 

「フレンダ、滝壺、無事かしら?」

 

「な、何とか……死ぬかと思ったけど」

 

「……うん」

 

 背後に居るフレンダと滝壺も守られていたようで土埃で衣服は汚れているが、特に怪我等は見受けられない。

 

 流石は“超電磁砲”相手に動員される暗部組織、といったところか。

 

「で、どうする? こっちは天下のレベル5サマが相手な訳なんだけど……今なら見逃してあげてもいいけど──」

 

「あ゛? 最下位の分際で粋がるなよ。たかが末席に入れただけではしゃいでるクソガキが」

 

 先程とは打って変わって荒々しい口調。その様子にフレンダは麦野がかなりキレていることを理解し、内心戦々恐々していた。

 

(……しかし、まずいわね。フレンダもあの蜘蛛女との戦闘での疲労が残ってるし、滝壺にもかなり負担が掛かっている。フレンダはともかく、滝壺は足手纏いになりかねない)

 

 あの癪に障る第八位を八つ裂きにするのは確定事項だが、問題は電撃使いの女も居ること。先程の“同じ超能力者同士”という発言、そして自身の原子崩しを防いでみせたことから、麦野はその正体に行き着く。

 

 もしも彼女の素性が予想通りなものだとすれば、きついなんてものではない。

 

「うーん……じゃあ、仕方ないわね。元より言ってみただけだし。にしても──」

 

 一方、宇佐見はいつもの調子で肩を竦め、しかし顔は全く笑っていなかった。

 

「──最下位呼ばわりは、聞き捨てならないね」

 

 次の瞬間、無数の瓦礫や残骸が出現し、宇佐見の周囲をくるくると旋風のように渦巻く。

 

「!」

 

「ぶっちゃけ順位なんてどうでもいいんだけどさ。この街が自分らの無能さを棚に上げた結果、雑魚扱いされるってのは、流石に腹立つでしょ?」

 

 それらが大砲のように一斉に射出される。麦野は即座にレーザーで焼き払うが、空間移動により次々と補充され、絶え間無く降り注ぐ。

 

「チィッ……!」

 

「さて、おたくがスタミナ切れするのが先か、地球上のゴミが無くなるのが先か。答えは明白よね?」

 

 更に量が増える。麦野はレーザーを拡散させ、広範囲に放つも、一向に勢いが弱まることはなく、それどころか増すばかりである。

 

 その姿を宇佐見は余裕の表情を浮かべていた。今の発言でナチュラルに度外視していたように、彼女にとっては念動能力も空間移動も乱用したところで大した負荷にはならない。

 

「! 危ないッ!」

 

「ん?」

 

 御坂が叫ぶ。すると同時に小型の黒いミサイル弾のようなものが宇佐見の死角から現れ、爆発する。

 

「隙アリ、な訳よ!」

 

 いつの間にか麦野から離れ、別の場所に移動していたフレンダがガッツポーズを取る。

 

 携行式対戦車ミサイル。その威力はフレンダの持つ武装の中でもトップクラスであり、流石の超能力者もそんな代物を死角外からくらえれば、ただでは済むまい。

 

「あー、吃驚したー」

 

「嘘ぉ!?」

 

 しかし、爆煙の中から宇佐見は無傷で現れる。よく見ればその周囲は薄い硝子の壁のようなものでドーム状に覆われていた。

 

「! バリア、か……!」

 

「ええ。定番でしょう? んじゃ、爆発には爆発で返しましょうか──」

 

 パチン、と指を鳴らす。何をするつもりかと麦野は眉をひそめるが、次の瞬間、彼女の前方の風景がピンぼけ写真のようにぼやけていく。

 

 まるで空間そのものが歪んでいるかのように──。

 

「! むぎの……! そこにとても大きいAIM拡散力場が……!」

 

「ッ!?」

 

 誰よりも早く異変に気付いた滝壺が柄にも無く大声をあげて伝える。

 

 麦野とフレンダは疑問に思うよりも先に動き始め──。

 

念動爆破(サイコプロージョン)、ってね」

 

 空間が、爆ぜた。

 

 フレンダの爆弾の比ではない規模の大爆発が連鎖的に起こり、建物全体を揺らす。

 

「ッ……無茶苦茶な……」

 

 こほこほと舞う土埃に咳き込みながら御坂は宇佐見の戦いぶりに唖然とする。あまりにも規格外な念動能力。空間移動の精度も白井並みかそれ以上。多重能力者なだけではなく、純粋な能力の出力のみでも超能力者クラス──。

 

 超能力者の順位は単純な強さではない。しかし、少なくとも御坂はとてもではないが、彼女が自分より順位が下だとは思えなかった。

 

「あんた……! あいつらはどうなって……まさか!」

 

「ん? あー、ちょっとやり過ぎちゃったかも。けど向こうは殺そうとしてきてるんだからしょうがなくない?」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

 あのレーザー女は生きているかもしれないが、爆弾使いや体操服の少女がこの大爆発から逃れられるとは考えづらい。

 

 故に、御坂は最悪な結果を予想して指摘しようとするも、宇佐見の言い分に同意してしまう。同じ立場だとして、手加減していられる余裕が自分にあるとは思えなかった。

 

「それに、あっちはまだまだやる気みたいだし」

 

 爆煙の中からレーザーが突き抜ける。宇佐見は自分から少し離れた位置にバリアを展開してこれを防ごうとするが、レーザーはバリアにぶつかると僅かに拮抗しただけで呆気無く貫通した。

 

「ひぇー、やばい威力ね」

 

 空間移動で避け、宇佐見はぼやく。あのレーザーを防御するのは困難だろう。つくづく恐ろしい能力であり、原理が気になる。

 

(視覚強化しているとはいえ見てから防げる時点で光速のレーザーではなく、防いでみた感じ、純粋な熱量によるものでもない……ミコトっちが屈折させられたし、もしかして同系統の能力かも?)

 

 ──となると、絡繰は“電子”か。

 

 そこでふと宇佐見は思い至り、驚いた表情を見せる。

 

「操った電子の粒子と波形を曖昧な状態に維持することで膨大なエネルギーをビームみたいに射出する……そんな能力があるってのは、聞いたことあるんだけど──もしかしてご同輩だったりするかしら?」

 

「テメェに同輩扱いされたくはねェが……だったら、どうする?」

 

「別に? レベル5にまで殺し屋させてるなんて、つくづくどうしようもない街だなぁって」

 

 反吐が出る。能力の特徴から刺客の正体を察した宇佐見はつまらなそうに、服が所々破け、ボロボロになった麦野を見据えた。

 

 あの爆発を凌ぐのには苦労したのか息を切らしながらも、獰猛な獣のような眼光でこちらを睨んでいる。

 

(糞がッ……フレンダはともかく滝壺の方はもうお釈迦になったとみていいな。あのクソアマ……()()()()ではないと思ってたが、こっちが死ぬことに何ら頓着していねェ……!)

 

 思わず悪態を吐く。標的があの第三位、常盤台の超電磁砲(レールガン)というのも予想外だったが、第八位まで乱入してくるなど割に合わないにも程がある。

 

 現に数少ない正規メンバーを二人も失った。いくら麦野といえど、単独で超能力者二人を相手取るのは不可能だった。

 

 離脱すべきか? しかし──。

 

「……ふうん」

 

 その様子を見て、宇佐見は何か思い付いたのか悪戯っぽく笑う。

 

「ま、ビーム撃つだけの一発屋じゃあそんなもんか。あっ、因みにおたくを倒したら順位って入れ替わったりする? やっぱりビームおばさんや根性馬鹿より下は心外っていうか──」

 

 小馬鹿にするように言えば、ブチッと血管が切れる音が響く。

 

「あ゛ぁ゛?」

 

 露骨な挑発。しかし、ただでさえ相当に苛立っていた麦野の理性はあっさりと沸騰する。必ずやあの生意気な小娘を八つ裂きにしてやると。

 

 二対一。それも両者共に同じ超能力者。圧倒的に不利であることは重々承知の上で、ここまで虚仮にされて引き下がれるものか。

 

 これに宇佐見は愉しげに、笑った。

 

「──ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」

 

「やってみな、()()()さん」

 

 第四位と第八位。原子崩し(メルトダウナー)超常操作(PSIコントロール)

 

 今一度、二つの強大な力がぶつかり合う。

 

(何なのよ、こいつら……!)

 

 一方、第三位こと御坂はいつの間にか蚊帳の外であり、混沌を極める状況に内心毒づく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 同時刻。絹旗は宇佐見が起こした大爆発によって研究施設が揺れるのを感じ取った。

 

(! 何です? 地震? 麦野達の方で何が──)

 

「気が逸れてるわよ」

 

「ッ!!」

 

 パァン!! と拳と拳がぶつかり合い、空気が裂けるような轟音が鳴り響く。

 

 ──窒素装甲(オフェンスアーマー)

 

 “暗闇の五月計画”によって生み出された、絹旗最愛が所有する能力であり、空気中の窒素を自在に操ることが出来る大能力者。

 

 圧縮した窒素の塊を制御することにより、自動車を軽々と持ち上げ、弾丸を受け止めることすら可能。それを纏った拳による一撃は鋼鉄をも粉砕する。

 

 そんな威力に真っ向から打ち合い、然れど霊夢は涼しい顔で絹旗を攻め立てていた。

 

「くっ──」

 

 未だに霊夢は無傷なのに対し、絹旗は何発か攻撃をもらっており、意識が飛びそうになるのを何とか堪えている状況だった。

 

 このままダメージが蓄積すれば敗北は確定的。しかし、いつまで待っても増援が来る気配はない。

 

「今です……!」

 

 その時、真横から乾いた音が複数鳴る。事前に待機させていた部下の男達が一斉に霊夢へ向けて銃撃したのだ。

 

 当然、近くに居る絹旗にも流れ弾が撃ち込まれるが、窒素装甲によって防がれるため何ら問題無い。これに霊夢は鬱陶しげに顔をしかめ、しかし飛来する弾丸を当たり前のように視認し、的確に避けていく。

 

「────」

 

 だが、僅かであるものの銃撃に気が逸れる。絹旗はそのあまりにも一瞬過ぎる隙を好機とみて勝負に出た。

 

「!」

 

 腰を捻り上げ、脚を突き出す。そのままぐるんっと身体を真上へ一回転させ、遠心力から蹴りを放つ。

 

 ──昇天蹴。

 

「パクり?」

 

 見覚えのあるサマーソルトキック。繰り出された殺人的な蹴りは、ギリギリのところで身体を捻らせた霊夢には当たらなかった。

 

 絹旗が空中で致命的な隙を晒したところに霊夢は容赦なく回し蹴りを叩き込む。

 

「ぐあっ──」

 

 脇腹に一撃。吹っ飛ばされ、廊下を転げ回った絹旗は肋骨が軋む痛みに声にならない悲鳴をあげた。

 

 下部組織の男らは彼女を助けようと更なる銃弾を撃ち込もうとするが、既に霊夢は彼らに接近しており、一瞬で無力化する。

 

「さて、もう仲間は──」

 

 が、次の瞬間。何かが叩き付けられ、破裂する音と共に白く冷たい煙が辺り一帯を覆い尽くす。

 

 視線を向ければ絹旗の姿は無く、代わりにあったのは破損した赤い筒。設置されていた消火器、偶然そこにあったそれを絹旗が破壊したようだ。

 

 目眩まし。向こうの視界も塞がるため無意味な悪足掻きだと思われるが、相手が戦闘を放棄したのであれば話は別だった。

 

「──逃がす訳ないでしょ」

 

 尤も、霊夢にそのような小細工は通用しない。

 

「ッ!?」

 

 全速力で廊下を疾走する絹旗の背中を踏みつけ、顔面を床にスライディングさせる。普通ならば摩擦で顔が削れ、あっという間に紅葉おろしであるが、窒素装甲によってダメージは無い。

 

 即座に起き上がる絹旗だったが、次は首根っこを掴まれ、乱暴に叩き付けられる。

 

「かはっ──」

 

 地面にひびが入る。苦痛に顔を歪める絹旗を、霊夢は悠然と見下ろす。

 

「……頑丈な奴ね」

 

「ッ……ここまで、ですか……」

 

 仕切り直そうとしたが、やはり失敗した。まだまだ抵抗すること自体は可能だが、状況を打開することは不可能だろう。

 

 ならば、もはや戦闘を継続することに意味などない。

 

「──超降参です」

 

 あっさりと、溜め息と共に絹旗は両手を上げ、そう告げる。先程までの闘志が一切消え失せたその姿に霊夢は呆気に取られた。

 

「何? もう終わり?」

 

「はい。これ以上やっても勝ち目なんてゼロなので。……相変わらず、超強いですね。()()()()

 

 自分相手にかなり食らい付いていた絹旗のその態度に拍子抜けし、些か残念そうにする霊夢だったが、今度は親しみの感情を向けられて困惑する。

 

 しかし、全く見覚えがないと言えば嘘になり、恐らく彼女と自分はどこかで面識があったのだろう。

 

「……やっぱり、知り合いなのね。さっきの動き、私を参考にしていたでしょ?」

 

「その通りではあるんですが、そもそも根本的な戦い方自体、あなたから超教わったものですよ」

 

「はぁ? ……あっ」

 

 絹旗の弁に怪訝な表情を浮かべ、然れどすぐに霊夢は思い出す。自身の記憶の中に彼女と特徴が合致する人物が居ることに。

 

 それは、自分が少しだけ関わった、学園都市の“闇”──。

 

「そのやたらと頑丈な能力、超超喧しい喋り方……もしかして──」

 

「……思い出していただけましたか」

 

 絹旗の顔が僅かに明るくなる。

 

「──海鳥ちゃん?」

 

「全然違ェ!!」

 

「うわっ」

 

 ドゴォ! と拳が床にめり込んだ。うっかり素の口調が出てしまっている。

 

 霊夢は普通に吃驚した。

 

「断じて違いますよッ! あんな掌から噴射するしか能のねェ超クソ野郎と一緒にしないでくださいィ!」

 

「あ、最愛ちゃんの方?」

 

「そうです! いやというか、何で超私じゃなくてよりにもよってアイツの名前が真っ先に出るンですかッ!?」

 

「えぇ……だって、あんた達ニコイチみたいなもんだと思ってたから……」

 

「超ッ! 心外ですッ!」

 

 クールさから一転して荒れた口調で喚く絹旗。同じ()()の中でもよりによって一番嫌いで犬猿の仲である相手に間違えられたのだ。キレるのも当然と言えよう。

 

「ごめんごめん。にしても、久しぶりね。少し背が伸びたかしら?」

 

「……はい。お久しぶりです。霊夢さんも超お変わりないようで」

 

 会うのは“暗闇の五月計画”が頓挫して以来。互いに風の噂で健在なのは知っていたが、こうして実際に会うと懐かしく思う。

 

「でも何で最愛ちゃんがこんな所に? もしかして実験に関わってたりすんの?」

 

「実験、ですか?」

 

「ええ。ほら、ナンタラの八月? 十二月計画って奴に関係しているかなーって」

 

「“暗闇の五月計画”です。どっちの月も掠りもしてませんよ……」

 

 学園都市最強である一方通行(アクセラレータ)の演算パターンを参考に、各能力者の“自分だけの現実(パーソナリティ)”を最適化、能力者の性能を向上させようという実験。

 

 一方通行の精神性・演算方法の一部を意図的に植え付けるという、個人の人格を他者の都合で蹂躙する非人道的な暗部らしい計画である。

 

 絹旗もその実験で用いられた多くの置き去りの一人。霊夢がわざわざその名を出したということは、彼女の言う実験ととうの昔に頓挫したその計画とは何らかの関連性があるのだろう。

 

「その実験とやらが何のことが知りませんが、私がここに居るのは警備として雇われたからです。だから正面突破してきた霊夢さんに死兵覚悟で突っ込んだ訳ですが……」

 

「ああ、そういうこと。そりゃ悪かったわねぇ」

 

 あっさりと謝罪する霊夢。暗部であることや侵入者の抹殺が目的といった物騒な話は意図的に伏せた。尤も、問答無用で銃撃してきたことから勘付かれているかもしれないが、指摘してこないということは彼女にとってはどうでもいい些末事なのだろう。

 

「……因みに私の顔に免じて超引き返してもらえたりとかは?」

 

「あー、無理ね。私もやらないといけないことがあるの」

 

 そしてまたあっさりと断られる。これに絹旗はがっくしと肩を落とす。

 

「そこを何とか出来ません? 任務失敗すると上司から超折檻されるんです」

 

「そう言われてもねぇ……そんなに怖い上司なら組織ごと潰すなりしてあげようかしら? ほら、教授の所に行けば悪いようにはされないんじゃない?」

 

「勘弁してください。というか“教授”ってあの赤髪の人でしょう? あんな超やばい人の実験動物とか人生超終わりですよ」

 

「流石に言い過ぎじゃ……ないわね。一理あるかも」

 

 あっけらかんと言ってのける霊夢に彼女ならば本気でやりかねないと絹旗は内心戦慄する。

 

 彼女の下へ行く、というのも選択肢としてはアリだ。絹旗はこう見えて霊夢のことは結構リスペクトしており、実験の頃から慕ってはいた。

 

 しかし、それでも一度得た“居場所”を手放す理由にはなりはしない。

 

(幸いにもあちらに敵意は無いみたいです。ここは話術を駆使してどうにか麦野達が来るまで超時間稼ぎをしなければ……!)

 

 かつての知り合いとの対面に霊夢は先程まで放っていた冷たい敵意を微塵も感じさせていない。

 

 元より絹旗が隙を見て襲ってこようと対処出来る自信があるのだろう。実際その通りであるが、最初から勝ち目がないことを理解し、あくまで増援を待つ絹旗にとっては非常に幸運なことであった。

 

「「………………!!」」

 

 悲鳴と共に、血飛沫が舞う。

 

 空間が凍り付く。底冷えする殺気に、二人の顔が一気に強張る。バッと殺気を感じた方角へと顔を向ければ先程霊夢が無力化した下部組織の男らが血溜まりの海に沈んでいた。

 

「……騒がしいと思えば」

 

 かつんかつん、と廊下を歩く音。曲がり角から顔を出したのは、白髪の剣士だった。

 

 下手すれば自分と同い年かそれ以下の幼い少女の面持ち。だが、絹旗はその姿を視認した瞬間、ゾクリと背筋が凍り、多量の冷や汗を流す。

 

 白髪の剣士は彼女らへ視線を向け──。

 

「ッ────」

 

 寒気を感じ、本能的に後退する絹旗。それとほぼ同時に先程まで絹旗が立っていた場所に白髪の剣士は居た。

 

 鞘から刀を抜いて。

 

「なっ──!?」

 

 ブシュ! と鮮血が飛び散る。回避したつもりだったが、薄くではあるものの胸部の皮膚がぱっくりと切り裂かれていた。

 

 これに絹旗は驚きを隠せない。窒素装甲には、最大の特徴として一方通行の演算パターンを参考に最適化された自動防御能力がある。

 

 一方通行の持つ“反射”を擬似的に再現したもので攻撃を受けた際に本人の意思に関係なく窒素の壁が自動展開されるため、あらゆる方向からの攻撃に対応できる上、絹旗本人が全く気付いていない不意打ちの銃撃ですらも防ぐ、まさに装甲と呼ぶに相応しい非常に優秀な防御能力を誇る。

 

 にも拘わらず絹旗は傷を負った。それはつまり──。

 

(窒素装甲ごと──斬った?)

 

「……ほう」

 

 一方、刀を振るった白髪の剣士は意外そうに、僅かに眉をひそめる。

 

「少々見縊っていた。胴体を泣き別れにしたつもりだったが、存外やる」

 

 ただそう言い、その姿がぶれる。

 

「あ」

 

 反応すら出来ぬ速度。既に目の前では肉薄した白髪の剣士が刀を振り上げていた。

 

 死ぬ。ただそれだけは如何なる思考よりも先に理解し、絹旗はその顔を恐怖に染め上げ──。

 

 ガキィン! と、刀と何かがぶつかる。

 

「私を無視するなんて、良い度胸ね」

 

「……先に邪魔者から始末しようと思ったまで」

 

 いつの間にか絹旗との間に霊夢が割って入っており、大幣で刀を受け止めていた。

 

 鍔迫り合いの中、相変わらず不透明な、不自然なまでに霞がかって曖昧な顔を、霊夢は瞳の中に捉える。

 

「今度こそ取っ捕まえてやるわ。辻斬り」

 

「──次こそは、斬る」

 

 互いが睨み合う刹那。無数の御札と斬撃が舞い、衝突し合う。

 

 こうして、再戦(リベンジマッチ)が幕を開けた。





書いてる中でフレンダとかを操って原子崩しの盾にすればいいんじゃね?って外道な発想が浮かんだ。サイコキネシス、普通にチート過ぎんよ~

超常操作
 宇佐見菫子の能力。原石であり、当初は念力やテレポート、発火能力といったメジャーなものしか有していなかったが、学園都市へ来てから他の能力を見て学ぶことでこれらの能力までも習得した。
 当初は能力操作(AIMコントロール)という名称だったが、上層部から直々に却下され、今の名称になった。多くの科学者が彼女の能力のメカニズムが学園都市の能力者のそれとは異なることを理解しているが、確かにAIM拡散力場は発生しており、観測も可能。その不可解さから第七位以上の解析不能なイレギュラーとして暫定的に“第八位”と認定されている。
 有している能力は高くてレベル4、低くてレベル2クラスまであり、特に念動能力と空間移動に関しては最高峰であり、超能力者クラスである。また未元物質や肉体変化といった特殊な能力、その他原石が有する能力は習得出来なかったとされ、何らかの法則があると思われる。
 一方通行の能力を習得させる実験は何度も具申されているが、全て却下されている。

※学園都市に来たことで原作よりも増長しているが、同時に魔術サイドの存在やとある鬼巫女に鼻っ柱を折られたことで己の力を過信せず、慎重にもなっている。本質は何ら変わっていないけど。
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