とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

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買い物

 

 

「そういえば霊夢さんって、普段からその格好なんですか?」

 

 セブンスミストへ行く道中。今更ながら気になっていた疑問について佐天は尋ねる。

 

 制服である他三人と違い、紅白な巫女装束を着た霊夢はその純和風な美貌も相まって通行人から非常に注目を集めていた。それらの視線はすぐに消えるが、すれ違う度に一度は視られるため一緒に居る彼女らとしても何というか、恥ずかしい。

 

「ええ。私、これと学校の制服しか持っていないから」

 

「えぇっ!? マジですかっ!?」

 

「あ、誤解しないでよ。ちゃんと予備5着を着回してるから」

 

「いやそこに驚いた訳ではなくて……ってか結構多いですね5着って。道理で胸元のリボンが青かったり黄色かったり……」

 

「逆にその巫女服はどこで買ったのよ?」

 

「行き付けの仕立屋で一から作ってもらってるわ。それなりに値は張るけどね」

 

「まさかのオーダーメイドッ!?」

 

「なんか……色々と凄いわね……」

 

「? どうしたのよ」

 

 まさかの二種類。私服に限ればこの巫女装束一種類のみしか所有しておらず、しかもわざわざオーダーメイドで製作していたという事実に一同は絶句する。

 

 そんな彼女らに反応に、霊夢はただ頭の上に疑問符を浮かべるだけだった。

 

「……ところで何で他の服を買わないんですか?」

 

「何でって、そりゃ特に必要性を感じなかったからよ。金も掛かるしわざわざ買いに行くのも面倒だし」

 

「えぇ……」

 

 女子としてそれはどうなのだろうか。

 

 いきなりショッピングに誘ってくるくらいだからてっきりこういう女の子らしいことも意外と嗜んでいるかと思ったが、ファッションに対して全く関心が無い様子に流石の佐天も困惑の色を隠せない。

 

 別に衣類を買うことだけがショッピングという訳ではないのだが、女子同士のショッピングで買う物と言えば大体衣類か化粧品だろう。

 

「因みに霊夢さんは今回行く店は洋服店なんですけど、そこで服をお買い上げになられる気は?」

 

「うーん……正直無駄な買い物な気もするけれど、ショッピングってのはそういうものなんでしょ? なら、多少は奮発するわ」

 

 恐る恐る訊いてみれば消極的ではあるものの服を買う意欲はあるようで安心した。

 

「絶対! 買いましょう! 霊夢さんに似合う服を!」

 

「? ええ。分かったわ」

 

 佐天は決意する。必ずや彼女にまともな服を着せようと。色々な意味で勿体無いし、あの巫女服のままでは今後も一緒に遊ぶ際に視線を気にしなければならない。

 

(……やっぱ変な人ね)

 

 一方、その光景を眺めて御坂は内心そんな感想を抱く。

 

 先日の銀行強盗。彼処には御坂もたまたま現場に居合わせていた。初春や佐天と初めて出会い、彼女らと白井の四人で親交を深めていた最中の出来事。突然のことにも関わらず迅速な対応を開始する風紀委員の二人を差し置いて誰よりも早く駆け付けた不思議な少女はそれはもう見事な手際で三人の強盗を無力化した。

 

 あの身体能力の高さには、御坂も目を見張った。顔見知りのようである白井に何者かと尋ねれば不機嫌そうにヒーロー気取りの問題人物だと告げられる。彼女があんな態度を他人に取るのを見たのは初めてだったのでそれ程かと驚き、それ故に彼女への印象は良いか悪いかで言えば後者であった。

 

 しかし、こうして言葉を交わすと、また違った印象を受ける。年齢を尋ねれば意外なことに自分よりも二つ上で高校生。背丈にあまり差がなかったのでてっきり同年代かと思った。

 

 そして、この学園都市で巫女装束なんてものを着用している時点で察していたが、なかなか常識外れというか、浮世離れしている。自分が超能力者(レベル5)であると知っても驚くどころか興味すら微塵も見せないのには流石に面食らってしまった。

 

 そんな態度は普通ならば気に障るものであるが、御坂の場合はむしろ逆であり、目の前の不思議な少女への興味をより駆り立てられる。

 

(博麗霊夢さん、か……今度機会があったら勝負を挑んでみようかしら)

 

 犬猿の仲の某女王が聞いたら脳筋過ぎると呆れそうな思考回路。そんな御坂を他所に、先程から黙っている初春は何とも複雑そうな表情だった。

 

(なんか……距離近くないですか?)

 

 つい最近知り合ったとは思えない程に、霊夢と佐天は打ち解けているように見えた。これが別の人物ならば佐天のコミュニケーション能力の高さに感服するのだが、相手が常日頃から苦手意識を持っている博麗霊夢であればまた変わってくる。

 

 あまつさえ下の名前で呼び合っているのだ。自分は苗字呼びなのに。付き合いが長く、佐天のことを親友だと思っている初春はその異様な距離の近さが気に食わず、小さな嫉妬心を抱いてしまう。

 

「ん? どうしたの初春? 具合悪い?」

 

 そんな彼女の様子に気付いた佐天が尋ねる。

 

「ふぇ? あ、いえっ何でもありませんよ、ちょっとボーッとしてただけです」

 

「大丈夫? やっぱり風紀委員の仕事で疲れてるんじゃない?」

 

「あはは……そうかもしれませんね……」

 

 何とか笑って誤魔化す初春。実際、連日働き詰めだったのは事実であった。

 

「こき使われて大変ねー」

 

 一方、霊夢は完全に他人事だった。

 

「まっ 最近の初春って女捨ててるとこあるし、今日はゆっくり楽しみなよ」

 

「そうですね……ありがとうございます佐天さん。……って女捨ててるってどういうことですかっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 セブンスミスト店内にて。

 

 少女四人は和気藹々とショッピングを楽しんでいた。

 

「いやー! 流石霊夢さん! 何でも似合いますね!」

 

「はい! 凄いです!」

 

「おお……本当に見違えたわね」

 

 試着室から出てきた霊夢の姿に佐天と初春、御坂が称賛の声をあげる。

 

 ファッションに拘りどころか興味すら無かった霊夢は当然どんな服が欲しいとか、どの服が良いというのも全く分からなかったためとりあえず今時の女子である佐天らに全てを委ねることにした。

 

 その結果、こうして彼女は着せ替え人形にされている訳である。

 

 何せ素材が良いのだ。適当に選んだ組み合わせでも実に映えるため途中から佐天は勿論のこと店に入るまでは複雑な心境だった初春も楽しくなってしまっていた。

 

(博麗さん……こうして黙っているとクールビューティな和風お嬢様って感じでこれはこれでなかなか……)

 

 先程までの悪感情はどこへやら。お嬢様に憧れる初春はその普段のガサツな態度からは考えられない気品溢れる佇まいに大興奮する。

 

 そう、黙っていれば誰がどう見ようとお淑やかな大和撫子なのだ、霊夢は。

 

「……ちょっと派手過ぎない?」

 

 対する霊夢は何度も着替えることに煩わしさを覚えながらもショッピングとはこういうものなのだと受け入れ、渋々であるが従っていた。

 

 因みに今彼女が着ているのは最近流行りのブランドのブラウスとカーディガン。大人っぽさの強いシックな組み合わせだ。

 

「いえいえ、むしろ地味で控えめな方ですよ。というかあの巫女服の方が派手では?」

 

「……そうなの?」

 

「まさかの自覚無し!?」

 

 これを冗談ではなく、素で言っているのだから反応に困る。しかし、自分が世間知らずだということは霊夢自身は当然自覚しており、それ故に彼女らの意見は真摯に受け止める。改善するかどうかはまた別の話であるが。

 

「涙子が良いって言うのなら別にこれで良いけれど……ん?」

 

 ふと、ある場所に霊夢の視線が止まる。

 

「どうしました? うわっ何ですかこのTシャツ」

 

 そこにあったのは、黒い生地にでかでかと“Welcome Hell!! ”と書かれ、ハートマークや血のような赤いスプラッシュで彩られた派手なTシャツだった。

 

「Welcome Hell……何というか、独特なデザインですね」

 

「変なTシャツ。めっちゃダサくない?」

 

「佐天さん直球過ぎます」

 

「けど確かにセンスは良くないわよね……というか文法間違ってないこれ? 地獄へようこそという意味合いにしたいんでしょうけどそれならWelcome “to” Hellになるはずよ」

 

「あ、確かに。これじゃWelcome Hell(地獄“が”ようこそ)になっちゃいますね」

 

 散々な評価である。一方、霊夢は何とも不思議そうな表情でそのTシャツをジッと睨む。

 

「もしかして霊夢さん、この変なTシャツが気になるんですか? いえ、人のセンスにどうこう言うつもりはないですけれど……」

 

「……別に。少し見覚えがあっただけよ」

 

 一目見た瞬間に感じたのは奇異でも懐古でもなく、僅かばかりの恐怖。佐天の言う通りこんな()()T()()()()にそのような感情を抱くのは可笑しな話であり、彼女は眉をひそめる。

 

 しばらくして彼女は視線を外す。ずっと視ていると、何だか無性に腹が立ってきた。

 

「H.K.T.社……このTシャツのメーカー。結構な大手みたいですね。他にも色々なTシャツがありますよ」

 

 初春が指差した方角を見ればあの変なTシャツ同様に多種多様なデザインのTシャツがずらりと並んでいた。

 

「ほんとだ。ネタTシャツ専門なのかな?」

 

「ふーん……あ、これもしかしてゲコ太──じゃないや。カエルの帽子? いや、でも結構可愛い?」

 

 一瞬大好きなマスコットキャラクターのデザインかと思い、Tシャツを手に取る御坂だが、よく見れば眼球の付いた蛙のようなハット帽だった。

 

 少し残念そうにするもこれはこれで愛嬌があって可愛らしいと気に入る。

 

「お、これとか霊夢さんのイメージに合ってません? ほら、この白黒の勾玉が二つ合体してるマークとか巫女っぽい」

 

「巫女っていうか陰陽師とかでよく見るマークですけど……」

 

「陰陽魚太極図ね」

 

 佐天らの言うTシャツを見てみれば確かに赤い生地にそのマークがプリントされていた。

 

 太極図とは、その名の通り太極という陰陽思想において万物の根源を意味する概念を表す図だ。

 

 この形をした太極図は、陰陽太極図、太陰大極図ともいい、太極の内に陰陽が生じた様子が描かれている。白黒の勾玉を組み合わせたような意匠となっており、中国ではこれを魚の形に見立てており、それが陰陽魚という名の由来だ。

 

 黒色は陰を表し右側で下降する気を意味し、白色は陽を表し左側で上昇する気を意味していた。魚尾から魚頭に向かって領域が広がっていくのは、それぞれの気が生まれ、徐々に盛んになっていく様子を表し、やがて陰は陽を飲み込もうとし、陽は陰を飲み込もうとする。

 

 陰の中央にある眼のような白色の点は陰中の陽を示し、いくら陰が強くなっても陰の中に陽があり、後に陽に転じることを表す。陽の部分に関しても同様だ。

 

 この太極図は、これを永遠に繰り返すことを表しているという。

 

 そして、奇しくもそのシンボルは霊夢にとって、とても馴染み深いものであった。

 

「へぇ~、やっぱり巫女さんだからこういうの詳しかったりするんですか?」

 

「まあ、それなりには……」

 

 即座にマークの名称を言った霊夢に佐天は感心する。あの奇抜な巫女服からしてコスプレイヤーにしか見えないが、実は外部に居た頃は本当に巫女だったのかもしれない。

 

 携帯がお揃いな祖父についても気になるし今度また彼女の外での生活について訊いてみようと思った。

 

「あ、そういえば御坂さんは何か探し物はあります?」

 

 ふと、佐天が尋ねる。

 

「え、そうねぇ……パジャマ、とか?」

 

「それならこっちですよ」

 

「じゃ、私は着替えてくるわ」

 

 そう言って佐天と初春は御坂を連れてパジャマ売り場へと向かう。

 

 一方、霊夢は元の服へ着替える為に再び試着室へ入っていく。ちゃっかり気に入ったのかあの太極図のTシャツを手に持って。

 

「色々回ってるんだけど、あんまりいいのが置いてなく……て……」

 

 パジャマ売り場へ来るや否や御坂の目がある一点で止まる。そこにはピンクに花模様の、対象年齢が幼そうなパジャマがあった。

 

 可愛いものに目がない御坂はそのデザインに瞬く間に心を鷲掴みにされる。

 

 これこそが、彼女が求めていたパジャマだった。

 

「ね、ねえ! これ、凄くかわ──」

 

「うわぁ~、見てよ初春このパジャマ。今時こんな子供っぽいの着る人いないよね~」

 

「はい。小学生の頃は着てましたけど流石に今は……」

 

 目を輝かせ、御坂は他二人へ同意を求めようとするが、それを遮るように現役中学生の真っ直ぐな意見が無慈悲に突き刺す。

 

「そ、そうよね! 中学生にもなってこれはないわよね! うん!」

 

「? あ、私ちょっと水着見てくるわー」

 

「水着ならあっちにありましたよ」

 

 一瞬凍り付き、ちょっと泣きそうになりながらも、必死に合わせる同じく現役中学生である御坂。

 

 無自覚に目の前の少女の心を抉ってしまったとは露知らず佐天と初春はそのまますぐ近くの水着コーナーを見に行くが、御坂はまだこのパジャマから目を離せなかった。

 

(……いいんだもん。パジャマなんだし、誰に見せる訳でもないんだから)

 

 誰も聞いてないのに心の中で必死に弁明しながら、横目で佐天たちの様子を確認し、素早く手に取り姿見で合わせる。

 

「それっ」

 

「何してんだ、ビリビリ?」

 

 しかし、姿見には自分だけでなく、見覚えのあるツンツン頭が映っていた。

 

「ひゃっ!? な、なななななななんであんたがここにいんのよっ!?」

 

 小さく悲鳴をあげ、咄嗟にパジャマを背中に隠しながら振り返った御坂はその人物が居ることに驚愕する。

 

 ──上条当麻。

 

 御坂の電撃をも無効化する正体不明の能力を持つ、彼女が少しだけ……否、かなり気になっている高校生だった。

 

「いちゃいけねぇのかよ……まったく、何そんな慌ててんだ?」

 

「……見た?」

 

「え? 見たって……一体何を?」

 

「いや、見てないなら良いんだけどさ……」

 

 若干顔を赤くさせ、動揺していた御坂だが、少女趣味全開なパジャマを見られていないことを知ると、ホッと胸を撫で下ろす。

 

「っていうかここレディース売り場よ? 本当に何で──」

 

「おにーちゃん~」

 

「ん?」

 

 すると小学生くらいの少女がそう言いながら上条の近くへと駆け寄ってくる。

 

「あっ! ときわだいのおねーちゃん!」

 

「あ、鞄の……お兄ちゃんって、あんた妹が居たの?」

 

 少女は御坂に気付くと笑顔で手を振る。その姿を見て御坂も彼女が以前助けたことのある少女だと思い出す。まさかそれが上条の妹だったということか? だとしたら物凄い偶然である。

 

「違う違う。俺はこの子が洋服店探してるって言うからここまで案内してあげただけだ」

 

 しかし、その予想はすぐに否定される。どうやら単に世話を焼いただけらしい。一歩間違えれば事案になりかねないが、八割以上が未成年の学園都市。スキルアウトならいざ知らず流石に即通報されるようなことはなかった。

 

(それとついでに博麗の様子も偵察しに来たんだが……どうやら別の所に居るみたいだな。サテンって子と仲良くやれてるか非常に不安ですよ上条さんは)

 

 少女を案内するのにこの店を選んだのは、初めての友人とショッピングに来ている同級生の様子を見に来るためでもあった。くれぐれもあの変な巫女装束は着て行くなという当たり前のことから色々とアドバイスをしたが、面倒臭がりの彼女のことだ、きっちり守っているか怪しい。

 

 そして、タイミングが悪いことにその同級生は丁度試着室へと入ってしまい、会うことはなかった。無論、アドバイスの殆どを彼女は実践していない。

 

「あのね! おにいちゃんにつれてってもらったんだ! わたしもテレビのひとみたいにおようふくでオシャレするんだもん!」

 

「そうなんだ……今でも充分お洒落で可愛いわよ?」

 

「短パンの誰かさんと違ってな」

 

「なっ」

 

 そう言って少女の頭を撫でる御坂。するとデリカシー皆無の上条は日頃の恨みもあってかつい余計な一言をぼそりと呟いてしまう。

 

 ギロリ、と御坂が睨む。

 

「何よ、やる気? だったら、いつぞやの決着をここで……!」

 

「はぁ? お前は頭ん中はそれしかないのかよ。大体こんな人が多い場所でおっ始める気ですか?」

 

「ぐぅっ……」

 

 先日の河川敷での決闘の続きをしようとやる気満々の御坂に対し、上条は呆れた様子でそう言う。これに御坂は先に煽ったのはあんたでしょうが! と文句を吐き出しそうになるも言葉自体はまごうことなき正論であるため押し黙る。

 

「ねーねー、あっちもみにいきたい」

 

「ん? おう、分かったよ」

 

「ばいばーい! ときわだいのおねーちゃーん!」

 

「あ、バイバイ。またねー」

 

 少女に手を引かれ、上条は別のコーナーへと向かう。別れ際に少女が手を振れば御坂もまた苦笑いを浮かべながら振り返して見送る。

 

 ふと、視線を落とせば例のパジャマは未だに握られていた。あれくらいの少女ですらお洒落に気を遣うというのに自分ときたら、と御坂は言い知れぬ敗北感に襲われる。

 

「……ふぅ。どうもあいつが居ると調子狂うのよねぇ」

 

「あいつって誰よ?」

 

「!?」

 

 安堵するも束の間、背後から声を掛けられて振り向けばそこには元の巫女装束へと着替えた霊夢が立っていた。

 

「なっ……」

 

「ん?」

 

 時が止まったかのように表情を硬直させる御坂。そのあまりの驚き様と挙動不審な態度に霊夢は一瞬首を傾げるも、その手に握られる派手で可愛らしいパジャマへと視線を移す。

 

「……そういうのが趣味なの?」

 

「は、はぁっ!? いやいや違うから! 全っ然そんなことないし!!」

 

 そう尋ねれば、御坂はあたふたしながら必死で否定する。しかし、それは図星を突かれたようにしか見えなかった。

 

「あー、まあその、私は良いと思うわよ。ちょっと派手だけど」

 

 年頃にしては可愛らしい趣味をお持ちなようだ。その意外な事実とあまりにもバレバレな態度に霊夢はくすりと笑ってしまいながらもぎこちないフォローの言葉を送る。

 

 それを見て御坂は全く誤魔化せていないことを悟り、わなわなと震える。

 

「わ、笑うな──────!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「はぁ……最悪……」

 

 疲れ果てた様子で御坂は溜め息を漏らす。実質今日が初対面の相手にとんでもない醜態を晒してしまった。

 

「あら、結局買わないの? 別に趣味なんて人それぞれだし気にすることないじゃない。なんか似合いそうだし」

 

「うっさいわね。ってか最後どういう意味よ?」

 

 とうの本人は素知らぬ様子でそう語り掛けてきて御坂は目を尖らせる。嫌味でも何でもなく本心でそう言っているのだから余計にたちが悪い。

 

 しかし、人それぞれ。ありきたりな言葉だが、露出の激しい奇抜な巫女装束を人目も憚らず着込んで堂々としている人物が言うとかなり説得力がある。

 

 だからこそ、服の趣味で笑われた挙げ句にフォローまでされてしまっているという事実が果てしなくムカつくのだが。

 

「御坂さんどうでしたー? ……って何してるんですか? 霊夢さんも」

 

「ん? ああ、実はこいつの寝間着が……」

 

「いや! 別に何でもないわよ! 全然良い奴が見つからないなーって話してただけだから」

 

「? そうですか……」

 

 戻って来た佐天たちに当たり前のように先程の一件を語ろうとする霊夢の言葉を慌てて御坂が遮った。

 

(ちょっと! なに普通に言いふらそうとしてんのよ!)

 

(何よ。黙っておいてほしかったの? なら最初にそう言ってくれないと)

 

(察しなさいよそれくらい!)

 

(えー)

 

 小声で怒る御坂に対して霊夢は面倒臭げに肩を竦める。どうやら特に秘密にするように頼まれていなかったから普通に喋ろうとしていたようだ。

 

「で、霊夢さんはどの服を買ったんです?」

 

「さっき試着した奴で適当なの三着くらい。最近の服って高いのね。値札見たときはたまげたわ」

 

 手に持つ紙バッグを見ながら霊夢は言う。田舎育ちで古着屋しか行ったことのなかった彼女は衣服の値段が自身の食費よりも高かったことに驚愕を隠せなかった。

 

 これが一般的な女子の買い物だというのだろうか。とてもじゃないが、正気の沙汰とは思えない。

 

「あー、確かに服とか化粧品とかそういうのが一番お金が掛かりますからねぇ……」

 

「涙子とかはいつもこんな買い物を? 凄いわね」

 

「え? いえいえ。毎日こんなに買ってたら、すぐにお小遣いが無くなっちゃいますよ。ね? 初春」

 

「そうですねぇ……あ、御坂さんや白井さんは結構買うんじゃないですか?」

 

 学園都市の学生たちの生活費は奨学金や補助金が殆ど。能力の強度が高ければその額も跳ね上がるので超能力者である御坂は勿論のこと大能力者の白井もかなりの金額を貰っているはずだ。

 

「黒子はともかく私もそんなに頻繁に服とか買わないわよ。そもそも常盤台(うち)って私服禁止だし」

 

「ふうん……」

 

 流石に日常的にこのような買い物をしている訳ではないようで安心する。かといって理解し難きものであることには変わりないが。

 

 霊夢にとって衣服とはただ着るものに過ぎず、それ以上でも以下でもなく、そもそも着飾るという発想すら無かった。

 

 では、あの巫女装束に拘る理由は何かと問えば、それが彼女を彼女足らしめる要素の一つであるからという他無い。

 

「じゃあ、次は──ん?」

 

 服を買い終え、次の行動について示そうとする佐天だったが、それは突如として鳴り響いた音楽によって阻まれる。

 

「初春。携帯鳴ってない?」

 

「あ、本当だ」

 

 佐天に指摘され、初春は自身の携帯電話から着信を告げるアラームが鳴っていることに気付く。名前を確認すると同僚の白井からであった。

 

「はい、もしもし」

 

『初春っ! 今どこにいるんですの!?』

 

 電話に出ると同時に響いてきた大声。初春は予想外の剣幕にたじろぐが、何をそんなに慌てているのかという疑問は続く言葉によって解消される。

 

虚空爆破(グラビトン)事件の続報ですの! 衛星が重力子の爆発的加速を観測しましてよ!』

 

 その言葉に表情を強張らせる。

 

 世間を騒がせている連続爆破事件、それがまたしても起ころうとしているという。となれば風紀委員として動かないという選択肢はない。

 

「か、観測地点は?」

 

『第七学区の洋服店“セブンスミスト”ですの!』

 

「──え?」

 

 目を見開く。セブンスミスト。それは今正に自分たちの居るこの店の名前だった。

 

 にやり、と誰かがぬいぐるみを玩びながら笑う。




陰陽魚太極図。
 勾玉と勾玉。陰陽玉のマーク。またの名を、八卦六十四掌。
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