とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

63 / 77
夢想天生を描写してると改めてこういうハイパームテキなチートキャラを持て余さずに扱ってる作家漫画家先生方ってすげーなって思う


二色蝶

 

 

 いつも窮屈だった。

 

 誰も尊ぶことなく、誰とも並び立つことなく、誰からも理解されず、しかしそんなものは些末に等しく、何にも縛られず、囚われず、惹かれず、ただただ己が道をあるがままに往く。

 

 自己中心的の権化。それこそが博麗霊夢という人間であり、この世に生まれ落ちた瞬間からそうであり、全てを忘却してもその在り方は不変である。

 

 ──だというのに、彼女にとってこの世界は酷く生き辛かった。

 

 違和感。

 

 不快感。

 

 嫌悪感。

 

 明確な理由も無くそれが胸の奥底に重油のようにこびりついて仕方がなかった。優しき養父と穏やかな日々を過ごしても、科学の街で騒がしくも退屈しない日々を過ごしても、それは微塵足りとも変わりはしなかった。

 

 ありとあらゆるものが、この世界そのものが拒絶している。己を異物として爪弾きにしようとしているのだと、そう悟らずにはいられない。

 

 だからこそ、朧気な記憶に残る“幻想”を渇望したのだろう。

 

 あの光景は、ひたすらに美しかったが故に。

 

 けれど──。

 

「──ah何yq──」

 

 一方通行は困惑した。

 

 本能のまま外敵を滅する理性無き狂獣が、目の前で起きた矛盾に一瞬フリーズする。

 

 博麗霊夢はそこに居る。姿も確かにそこにある。視覚による情報は彼女がすぐ目の前に居ることを脳に伝えている。

 

 ──けれど、そこに居ない。

 

 風の流れ、この空間を構築する粒子のベクトルまで支配する一方通行は、視覚以外の全ての要素で博麗霊夢を()()()()()()

 

 ならば、そこに居るのは何だ? 周囲に高エネルギーに満ちた球体を幾つも漂わせているのは、一体何なのだ? 

 

「──やっぱり気分が良いわね、これ」

 

 踵が、下顎にめり込む。

 

 不可視の力の猛威をすり抜け、瞬く間にこちらへと接近した霊夢が蹴り上げた。

 

「kgi不yji──ッ!?」

 

 否、否、否。

 

 確かにそこに居る。居ないけど、居る。ありとあらゆる干渉をはね除けながら、こちらへ干渉してきた──。

 

 まるで不透明な透明人間のように。

 

「y死ih──nb殺wq──!」

 

 黒翼がうねり、八つ裂きにせんと暴れ狂う。迫り来る光弾を消し飛ばし、陰陽玉を砕き、何もかもを破壊しながら。

 

 しかし、そんな災害が可愛く見える攻撃が繰り広げられる真っ只中で霊夢は意に介さず、涼しげな表情を浮かべていた。

 

 黒翼による打撃も、羽の散弾も、それが発生させる不可視の力場も届かない。その掌から溢れ落ちるように、ひらりひらりと蝶の如く舞って──。

 

「…………ッ!?」

 

「ああ、ぶっちゃけ私もよく分かってないのよ、この力について」

 

 明らかに当たっているのに、当たっていない。そんな理解不能な状況に対する一方通行の動揺を読み取った様子で霊夢は言う。

 

 同時に放たれる弾幕は、先程の物よりも量も質も圧倒的な、より純粋な力。それが黒翼の力と衝突する度に空間が弾け、大気を震動させる。

 

「ただ──」

 

 霊夢は笑う。愉しげに。

 

「──今の私は、何よりも自由な気がするわ」

 

 この時、この瞬間だけは、霊夢はありとあらゆる柵から解放される。

 

 世界という枷すらも──。

 

「──yb狂geh%r──」

 

 涅槃。

 

 まるで何もかもを悟ったような容貌を見せながらそう言い放った霊夢に、一方通行は理解し難いと言わんばかりに叫ぶ。

 

 解析、解析、解析──。理性無き本能のみで動く殺戮マシンは目の前の対象を屠る手段を、方法を導き出さんと脳をフル回転させる。

 

「無駄よ」

 

 しかし、霊夢はそれを待ってはくれない。

 

 ソッと優しく添えるように、一方通行の頭頂部に触れる。

 

 ──触れた? 

 

「ま、追い付けるのなら、あんたもさっさと来なさい」

 

 そして、打って変わって乱暴に掴むと上空数百mから勢いをつけて降下し、地面へと叩き付けた。

 

「iyhッ!?」

 

 一瞬にして地面へとめり込む一方通行。然れど、霊夢は手を離すことなく、そのまま引き摺るように前進する。

 

 岩盤ごと大地が砕かれ、地割れのような跡が残る。拘束から逃れんと一方通行は抵抗するも、霊夢に干渉することは出来ず為すがままだった。

 

 確かに触れられている感触。引き戻しによる裏技でも解析不能なベクトルでもなく、ごく普通に触れられている。

 

 かといって、あの少年の右手のように反射を打ち消しているのではなく、どちらかと言えば機能している反射を無視してすり抜けているかのようであった。

 

 一体どういう理屈なのか。何よりも意味不明で理不尽なのが、こちらは彼女に指一本足りとも触れることが出来ないということ──。

 

「さて、場所を変えようかしら」

 

 すると霊夢は掴んでいた一方通行を思い切り上方へと放り投げ、片手で印を結ぶ。

 

「yq死──」

 

 瞬間、全身に衝撃が走り、打ち上げられる。視界を埋め尽くすのは極彩色の光。追撃と理解した一方通行は即座に己が力をぶつけ、押し戻さんとする。

 

 ──が、勢いは止まらない。それどころか信じられぬスピードで増幅していた。

 

「ッ…………!?」

 

 先程までとは比べ物にならない出力。無尽蔵のエネルギーが拮抗し、徐々に押し返していく。

 

 一方通行は観測出来ないが、森羅万象ありとあらゆるモノから浮き続ける霊夢はより高次な存在へと至り、その魔力は常に増大している。

 

 際限無く──。

 

「吹っ飛びなさい」

 

 ──そして、一方通行はこの街どころか、日本列島から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 常に上昇し続ける出力。

 

 それは霊夢の能力ではなく、あくまでも偶発的な副作用であった。

 

(少し()()()ね。別に支障があるって訳じゃないけども……何かが足りない?)

 

 淡々と己が力を考察する。あの時、テレスティーナ=木原=ライフラインの手によって思い出せた、主に空を飛ぶ程度の能力の真髄であり、奥義。あの噴射の黒翼を発生させた一方通行を圧倒するだけの力を発揮しながらも霊夢はどこか欠けているような気がした。

 

 言うなれば、不安定。かといってかつてのそれと比べて弱体化しているのかと言われれば疑問であり、むしろ安定していないからこそ純粋なる力として具現化され、出力されているようだった。

 

 ──どうであれ。

 

「結構飛んだわね。日本海か太平洋か知らないけど……ここなら街が滅茶苦茶にならないし、より存分にやれるでしょ?」

 

 辺り一面に広がる大海原。荒々しく波を立て、暗い水面には夜空の月が浮かび上がっている。

 

 その遥か上空で、霊夢と一方通行は対峙していた。

 

「──inbf殺wq──」

 

 攻撃に押し負け、猛スピードで日本を飛び出して海のど真ん中まで吹っ飛ばされた一方通行。しかし、未だに健在であり、闘争本能を剥き出しにして霊夢を睨む。

 

 疲弊した様子も無し。多少の生傷ならば細胞分裂を促進させることで治療し、そもそも痛覚や疲労を感じる理性など残っているはずもない。

 

 故に、怪物は止まることなくただひたすらに暴れ狂う。目の前の存在を跡形も無く消滅させるまで──。

 

(タフね。あいつ自身はもやしのはずなんだけど……やっぱり肉体の方のタガも外れてるみたいね)

 

 奥義を披露し、ここまで圧倒しながらも一方通行自身に大したダメージは無い。結局のところ光弾の出力をいくら上げたところで反射の膜を完全に貫通せず、有効打にはなっていないのだろう。

 

 やはりと言うべきか、神の如き力の片鱗というのは伊達ではないようだ。ならば目には目を歯には歯を、と言いたいところではあるが、それが今この場で成功するかどうかは分からなかった。

 

(ま、問題無し。このまま真正面から叩き伏せる──)

 

 圧倒的優位は決して揺るがない。この世界から浮いている霊夢本人の直接攻撃はあらゆる防御をすり抜けて通じるのだから。

 

 対する一方通行もこれを理解しており、この世界に存在する、しないに限らず全ての法則を支配し、霊夢に干渉し、打倒する術を死に物狂いで導き出さんとする。

 

 世界を震撼させる、両者の力が、今一度ぶつかろうとしていた──。

 

「くだらない」

 

 その()()をずっと視ていた“彼女”は、漸く重い腰を上げた。

 

「「ッ!?」」

 

 両者の動きが止まる。誰も気が付かなかった、()()がすぐそこに居たことに。

 

「この感じ……まさか……!」

 

 認識すると同時に即座に霊夢は察する。あれがあの時、路地裏で自分から実験に関する記憶を奪った得体の知れぬ存在であると。

 

 実験の関係者だとは思っていたし、一方通行を差し置いて最大の脅威だとも認識していた。それが、このタイミングで仕掛けてくるとは。

 

「はっ、この前のようには行かないわよ!」

 

 霊夢の行動は早かった。優先順位を切り替え、無数の陰陽玉を射出する。

 

「貴方には、そうでしょうね」

 

 しかし、呑み込まんとするそれらは瞬く間に相殺される。

 

 瓜二つの姿をした陰陽玉によって。

 

「…………ッ!?」

 

 目を見開く霊夢。流石にこの程度で倒せるとは思っていなかったが、よもや同じ陰陽玉を攻撃手段に迎撃されるとは。霊夢の物と全く同質という訳ではないが、その形状はよく似ていた。

 

 一体何者なのか。そう考えると同時にズキリ、と頭に痛みが走る。

 

「ッ……何?」

 

「だが──」

 

 一方、“彼女”はそんな霊夢には目もくれず、突然のことに硬直していた一方通行へと視線を向ける。

 

「──iyp何gn殺qy──」

 

 これに反応し、一方通行は標的を霊夢から“彼女”へと変更し、牙を剥く。

 

「貴方の行動は、無意味」

 

 黒翼の力が磨り潰さんと迫り、届く寸前でぐにゃりと捻じ曲がった。“彼女”はまるで埃を払うかのように腕を僅かに動かしただけである。

 

「ッ!?」

 

「貴方は、博麗霊夢には勝てない」

 

 湾曲した黒翼が霧散する。“彼女”は無表情で淡々と一言、そう発するのみ。

 

「nb何ekァqyh──ッ!?」

 

 同時に、一方通行は更なる力によって上から叩き付けられ、巨大な水飛沫が上がる。

 

「なっ……どういうつもり?」

 

 この行動に霊夢は眉をひそめる。実験に関する記憶を奪ったことから実験の関係者、或いは実験の継続を望んでいるのはほぼ確実だった。

 

 少なくとも一方通行とは味方関係のはず。だというのに、一方通行に対して攻撃を加えるという行為に出たことが理解し難かった。

 

()()()()。これ以上、茶番にも些事にも付き合う義理は無い」

 

「ああん? 誰だお前? いきなり割り込んできたかと思えば……随分と言ってくれるじゃない。水を差された気分だわ」

 

「……そうでは無い。元より割り込んだのは、貴方の方なのだから。博麗の巫女よ」

 

 姿も、声も、言動も、まるで靄が掛かったように曖昧で不鮮明。唯一分かるのは、底が知れぬ強大な力を有しているということ。

 

 霊夢は、目の前の女を量りかねていた。そもそもそんな情報しか分かっていないはずなのにアレを()であると判断出来てしまっていること自体が異常であるが。

 

「──精々戦うといい。気が済むまで」

 

 そして、最大限警戒し、様子を伺っていた霊夢に対してそう言い放った次の瞬間、海面が一気にせり上がり、巨大な水柱が二人を飲み込んだ。

 

「ッ──何?」

 

 濡れもせず、微動だにしない霊夢。しかし、分厚い海水によって一瞬視界が塞がり、晴れた時には既に“彼女”の姿は無かった。

 

「はぁ? まさか、逃げたっての──」

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️────ーッ!!」

 

 霊夢がその姿を探そうと辺りを見回した矢先に、到底言葉とは言えないような獣染みた咆哮が背後から響き渡る。

 

「ッ!? ……アクセラ?」

 

 振り返れば、そこに居るのは一方通行。その背に生えているのは先程までの黒翼ではなかった。

 

 形容し難い、グロテスクな何かに染め上げられた翼かどうかも分からない混沌──。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️──ッ!!」

 

「ちっ……余計に暴走してどうすんのよ」

 

 否、単なる暴走状態ではない。ただ殺意と本能のみで動いていたそれとは違い、そこには理性が無いにも拘わらず強烈な憎悪、怒りが滲み出て、その精神が翼にも反映されているように見えた。

 

(まさか、あいつが何かした……?)

 

 その変異に、霊夢はあの女が関与しているのではないかと疑う。奴の能力が、自分の記憶を奪ったように、原理はどうであれ他者の精神に作用させるものであるのならばその可能性は充分にある。

 

 恐らく霊夢に干渉出来ないため一方通行の方に干渉した……ということなのだろう。頑なに自分で戦わない理由が分からないが、そんな事を考えている場合ではない。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️──ッ!!」

 

 対する一方通行は力を振るう。何かに突き動かされるように、その衝動に抗う余地はない。

 

 ただ、目の前の少女を殲滅することしか考えていなかった。

 

「ッ──!」

 

 ぐにゃりと、空間が歪む。それを見て霊夢は慌てて膨大な量の弾幕を放って迎え撃つ。

 

 数瞬、世界から音が消えた。

 

「ッ……心中でもするつもり? あんた」

 

 地が揺れ、海が裂け、天が荒れる。

 

 相殺しただけでこの有り様。何もしなければ、射程上にあった大陸や島々を巻き込み、甚大な被害をもたらしていたかもしれない。

 

 その力は、世界をも滅ぼすだろう。一方通行自身すらも巻き込んで。

 

(ああもう……これじゃ移動した意味が無いじゃないの)

 

 霊夢がやるべきことは、一方通行を戦闘不能にすること。このまま戦い続ければ勝利するのは霊夢だろう。

 

 だが、その過程で周りは滅茶苦茶になる。果たしてどれだけ被害を抑え込めるか……。

 

「◼️◼️◼️◼️……◼️◼️ay──」

 

「…………?」

 

「──inbf……無y──こ、のrq──」

 

 その時だった。

 

 一方通行の様子がおかしいことに気付く。頭を掻きむしり、苦しそうに唸っている。

 

(今度は何……?)

 

 それに呼応するように、翼の形をしたものが不安定になっていく。グロテスクなそれが先程の黒翼に近付いているように見えた。

 

 否、これは──。

 

「gア……yijpふざ、けaarン◼️──」

 

「……そういうこと。そりゃそうね、あんたは誰かに指図されて動くようなタマじゃない」

 

 霊夢が笑う。あの女が何をしたのかは分からない。しかし、何かされたということだけは本能的に理解したのだろう。

 

 一方通行は、それに全力で抗っている。それに伴って、僅かにであるが、理性を取り戻しつつあった。

 

「──良いわ。手助けしてあげるから、さっさと正気に戻りなさいよ、最強」

 

 極彩色の光が天を覆い尽くす。

 

 光弾、御札、封魔針、陰陽玉。霊夢の有するありとあらゆる弾幕が奔流の如く降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

『ちょっと、何やってんのよ』

 

『あン?』

 

 いつものように喧嘩を売ってきた身の程知らずの馬鹿共を掃除していた時に、そいつは現れた。

 

『ジャッジメントよ。不良に絡まれてる人が居るって通報があったんだけど……こりゃ絡むどころじゃあないわね』

 

 面倒臭そうに首を回し、こちらを見据える紅白の巫女。風紀委員には到底見えない格好であるが、その身分は腕章が証明していた。

 

『とりあえずしょっぴくから、大人しくてよね。白もやしくん』

 

『……あ゛?』

 

 それが、最初の出会いだった。

 

『ベクトル操作、ねぇ……なかなか便利な能力じゃないの。最強を名乗るだけはあるわ』

 

 皆が恐れるその能力を臆すること無く、ただ便利と言ってのけた。散々その力を見せ付けたというのに、そして単なる愚か者ではなく相応の力を有していた。

 

 そんな奴は、初めてだった。

 

(なン、……だァ?)

 

 何故今になってそれを思い出したのか。都合の良い話だろう、あの時はただ鬱陶しいとしか思っていなかったはずだ。

 

 それとも知らない内に、自分でも気付いていないだけで、あの瞬間から彼女に惹かれていたのだろうか。

 

(無様なモンだなァ……)

 

 理性を失って暴走している間、それでも意識はあり、記憶も残っていた。

 

 土壇場で現出した黒い翼。その力は、論理の範疇から飛び出した、自覚すらしていなかった理外の力であり、しかしそれがベクトル操作という能力に隠された、真の力であることは容易に理解出来た。

 

 目の当たりにして、改めて思い知らされる。この力は、世界を敵に回す、否、世界そのものを滅ぼしてしまうのだと──。

 

『貴方は、博麗霊夢には勝てない』

 

 脳裏に過る。そう囁かれた瞬間、目の前が真っ赤に染まり、何も見えず、何も考えられなくなった。

 

 正しくその通りだ。世界を滅ぼす力を以てしても彼女には届かない。ここまで来るともはや笑えてくる。その理不尽な力にも、それに届かぬ己の弱さにも。

 

 けれど、だからこそ、他人の力で倒すなど許せるはずがなかった。

 

「ったく……どこの誰だか知らねェが、ふざけてンじゃあねェぞ……」

 

 酷く頭がスッキリする。縛られていた何かから解き放たれたように。

 

 ──そうか。存外、容易いものだった。この力を制御することなど。

 

「あ、やっとか」

 

 目の前には彼女が居た。あの時のように、面倒臭そうに首を回しながら。

 

「悪りィ……待たせたなァ」

 

 翼は生えたまま。相も変わらず漆黒に染まっているが、勝手に暴れることもないし、理性もはっきりしている。

 

 その分、相応の何かの浪費を大量に促しているようで長時間維持することは出来なそうだ。

 

 ──充分に過ぎる。

 

「ふうん……良い面構えになったわね」

 

 一体どういう心境の変化があったのか? と怪訝な表情。確かに彼女からしてみれば痛め付けられて暴走し、正気に戻ったかと思えば先程とは全く違う様子なのだから当然の反応だろう。

 

 然りとて、その疑問を投げ掛けるつもりは無さそうだ。

 

「じゃあ、早い内に終わらせましょう。あんたが正気に戻るまでにドンパチやってたから霊力が尽きそうだわ」

 

「はン……負けた時の為の言い訳かァ?」

 

「あー? そう言うあんたこそ限界でしょうに」

 

 笑い合う。そこに怒りも、憎しみも、殺意すら無く、命のやり取りをしている関係とは思えぬ程に爽やかで穏やかなものだった。

 

 勝ち負けなど関係無い。散々拘っていたその概念が、今ではあまりにも程度が低く、どうでも良く感じていた。

 

「なァ……もしかして、世界から浮いてンのかァ? オマエ」

 

 ふと、問い掛ける。自分でも突拍子の無い事を言っているのは理解出来たが、そうであれば今も尚目の前に居るはずの彼女を観測出来ないのも、この世のありとあらゆる法則を用いた攻撃が届かないのも納得出来た。

 

 単純明快。そこには存在しないのだから。

 

「あら、ご名答よ。言っとくけど、理屈を尋ねられても困るから」

 

 そして、彼女はその答えを導き出したことに少し感心しながら、さも当たり前のように言い放つ。

 

「そうかよォ……まったく、どこまでも馬鹿げた女だなァ、テメェは」

 

 何が無重制御(グラビディルーラー)だ。この街の科学者共の無能っぷりにはいい加減うんざりさせられる。

 

 であれば、現状用いられる攻撃手段では彼女に攻撃を当てることは限りなく不可能に近い。聡明な頭脳は容易くその結論に至った。

 

「──行くぞ」

 

 だが、それがどうした。どちらにせよ、これが最後の一撃なのだ。

 

「──ええ。行くわよ」

 

 空間が震え、荒れ、歪み、叫ぶ。

 

 これで決着がつく。両者の繰り出した全身全霊の攻撃が真正面から衝突し、交差し、押し合う。

 

 そして──。





ラストの一方通行さんの状態は黒翼以上白翼未満って感じです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。