とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

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付けられた評価米を閲覧する方法を最近知った。


正義

 

 

「──というのが、事の顛末よ」

 

 とある昼下りのカフェにて。

 

 ガヤガヤと賑わう中、ある二人がテーブルを囲んでいた。

 

「……聞いただけで頭が痛くなるな」

 

「そりゃ御愁傷様。私としてはなかなか面白い物を見せてくれたから別に良かったわ。なんか上条さんが巻き込まれてたのにはビビったけど」

 

「ああ。それには俺も驚いた。作為的なものがないとは限らないが、見たところ全くの偶然……いつもの不幸って奴のようだ」

 

「因果なものねー。ま、あの人はそういう星の下で生まれたんでしょう」

 

 片やアロハシャツを着た、金髪サングラスの如何にもな不良であるといった風貌の男。片や眼鏡を掛けた一見すると茶髪の文学少女を思わせる女学生。あまりにも対照的で些か良からぬ事を想像してしまう組み合わせだが、周囲に居る客や店員はそれに全く違和感を持っている様子は無かった。

 

 多角スパイ、土御門元春。

 

 超能力者(レベル5)第八位、宇佐見菫子。

 

 本来であれば交わることのないはずの二人が、こうして対面し、()()を行っていた。

 

「ところで例の“黒い翼”について……魔術サイドの見解としてはどうなの? あれ思うに、どっちかと言うとオタクらの畑から生えたモンでしょ?」

 

「実際に見ていないから何とも言えない。あの戦闘の記録は既に抹消されていてまともに閲覧することも叶わない有り様だしな」

 

 尤も、何か分かったとて、素直に教えるつもりはないが。土御門はまだイギリス清教の協力者として接触してきた目の前の少女を信用していなかった。

 

「へぇ……やっぱり隠蔽に必死なのね。ウケる」

 

「そういう意味では、お前はあの時に何が起きたのかを知っている数少ない一人ということになる」

 

 博麗霊夢VS一方通行という世紀の大決戦。この夢のマッチアップを見逃す手は無く、霊夢に実験時刻と場所を情報提供してから物見遊山気分で宇佐見は観戦しに馳せ参じた。

 

 結果は予想以上。特に一方通行の能力の凄まじさは目を見張ったものだ。

 

 大気を圧縮させてプラズマを生み出す、地球全土に影響を及ぼしかねない自転操作、そして正体不明の理外の力である黒い翼──そのどれもが規格外にも程がある。

 

 そして、それを相手に一歩も退かず、真っ向から叩き伏せてみせた霊夢……学園都市を飛び越え、太平洋上空で繰り広げられた熾烈なる戦いは宇佐見をして次元が違うと言う他無い。

 

(看過した結果が()()、か。分かり切っていた事だが、本当に勝手な女だ)

 

 一方、土御門はと言うと、内心そう愚痴る。他者の思惑も願いも全く意に介さず、己が目的の為ならば如何なる被害も顧みない。

 

 それだけ聞けばとんでもない暴君であるが、厄介なことに基本的に善行ばかり。彼女は己が良いと、正しいと思ったことを実行しているに過ぎず、結果だけを見れば土御門からしても“正しい”と言わざるを得なかった。

 

 他にやり様が無いのかとは思うも、それこそ彼女からしてみれば知ったことではなく、そこに魔術と科学の摩擦がどうのだの秘匿がどうのだと問題を持ち込むのはこちらの方が勝手な話である。

 

 故に、土御門は二大勢力の均衡の為に排除すべき危険分子だと認識しながらも、博麗霊夢という人間を嫌いにはなれなかった。

 

「それでどうする? その情報をイギリス清教へ売るか?」

 

「まさか。だったら、わざわざ貴方に接触なんてしないわよ。ツッチー」

 

 裏の人間として振る舞う土御門とは対照的に宇佐見は気安い態度で接し、張り詰めた空気を中和させる。

 

「……俺のことはどこまで知っている?」

 

 それを無視し、問う。相手が第八位と言えど、そう容易く正体を知られるほど足元を疎かにしていたつもりはなかったが……。

 

「元々は優秀な魔術師だけど、今は科学側にも属してあちこち奔走してバランスを保っている……ってことくらいは。大変ねぇ、スパイ映画みたい」

 

 そして、完全に他人事の様子で大まかな事を把握していることを告げられ、思わず溜め息が溢れる。どこから漏れたか知らないが、一度見直しておかなければならない。

 

「まあ、私は事を荒立てるつもりはないわ。今回だってここまでヤバい事態になるだなんて思ってなかったから、変に勘繰られる前に貴方に接触したってワケ」

 

「……そうか。意外だな、第八位は好奇心旺盛で向こう見ずだと聞いていたが」

 

「えー? そりゃ心外ね。私は弁えてる方よ、レイムっちと比べればずっと、ね?」

 

「あれは一番基準にしてはいけない存在だろう」

 

 上述した理由以外に、魔術サイドがどこまで今回の事態を把握しているかを知りたかったのもある。学園都市最強の超能力者と原石にして聖人を撃破する程の魔術師が衝突したのだ。場合によっては戦争に発展しかねず、そうなると宇佐見も今後の身の振り方を考えなければならない。

 

 結果を言えば、各勢力が上手く隠蔽してくれて事なきを得ているようで安心した。

 

(たぶん“岡崎さん”も動いたのね。さぞかし焦った……のは想像しづらい。これもあの人の掌の上なんじゃないかって思ってしまうわ)

 

 自らを教授と称する赤髪の女。表向きは原石研究の第一人者として活動しながら暗躍を続けているかの科学者を、宇佐見は世話になりながらも得体が知れぬ、どことなく人間離れした存在だと思っていた。

 

 その計画の要は恐らく博麗霊夢。それはあの入れ込みようからも明白だろう。自分や第七位、その他多くの原石はそれを隠す為のデコイ……そう推理し、宇佐見は気に食わないと思いつつ己も何も知らぬフリをして利用しているのだからお相子なためとやかく言うつもりは無かった。

 

「宇佐見菫子。お前は何を企んでいる?」

 

 すると土御門は唐突に問いかける。

 

「うん? ……何の事かな?」

 

「博麗霊夢が実験について知る切っ掛けとなったのは、佐天涙子がもたらしたドッペルゲンガーの噂だ。そして、それを広めたのはお前であることは調べが付いている」

 

「それで私が意図的にレイムっちを引き込んだと? はは、無理があるわ。メリットが無いし、そもそもそんな回りくどいことしなくて良いじゃん」

 

 勘繰りが過ぎると、宇佐見は肩を竦める。これに対して土御門は表情を変えない。

 

「そうは言ってない。博麗霊夢が知ったのは本当に偶然なのだろう。俺が問題視しているのは、ドッペルゲンガーの噂を流布した動機についてだ」

 

「……へぇ?」

 

 ぴたりと固まる宇佐見。その眼には驚きと好奇の気色が含まれていた。

 

「ステイルは知っているな? 奴から話を聞いた。お前の扱う幾つもの能力の中に、一つだけ魔術に近しいものがあるということを」

 

 それこそが、自己幻像(ドッペルゲンガー)。宇佐見の保有する超能力とは原理も由来も明らかに別系統である怪奇(オカルト)──。

 

 能力者なのに魔術が使える理由はこの際どうでもいい。前例なら博麗霊夢が居る。

 

「伝承による強化や拡大解釈……お前はドッペルゲンガーの噂を流し、より大勢に認知させることで自分の魔術を更に発展させようとした……違うか?」

 

 尤も、その程度で何かが変わるほど魔術は甘くはないのだが、宇佐見は科学側の住人。オカルトマニアらしいので多少心得のあるだけの素人だと読んで土御門はこの推察を立てた。

 

「……さあ、どうかしらね?」

 

 この弁に対して宇佐見は微笑みを返す。それは正解だと認めているようなものであり、土御門は苦い顔をする。

 

「第八位が魔術師だった……となれば、これまた一悶着がある。そういう意味では、お前も爆弾という訳だ」

 

「だとしたら、貴方はそれを起爆させる?」

 

「そうだな。お前の企み次第では、多少のリスクを顧みてでも処理する必要がある」

 

「おお怖。流石は多角スパイ」

 

 サングラス越しからの鋭い視線に宇佐見は肩を竦め、おどけてみせる。

 

「別にどうこうするつもりはないわ。少し訂正させてもらうと、私の自己幻像(ドッペルゲンガー)は厳密には魔術ではなく、単なる()()()。じゃなきゃ能力者の私が使えるはずないし。あれは能力にオカルト知識をちょっと応用したら偶発的に出来ちゃった代物に過ぎない」

 

「ほう……なら、噂を流布した動機は?」

 

「実験よ。ただの普通のくだらない、ね。折角手に入れたんだもの。色々と試したくなるでしょう?」

 

 謂わば愉快犯。悪びれもせずにそんなことを言ってのける宇佐見に対して土御門は本当かどうか疑うも、これまでの彼女の行動を見るからに、充分に考えられる動機ではあった。

 

 それこそ前述したように、彼女は好奇心旺盛なのだから。

 

「……そうか。()()()そういうことにしておいてやる」

 

「お、マジ? ありがと。命拾いしたわね」

 

「だが、理由がどうであれ、お前のやったことは魔術と科学の不可侵に違反している。粛清されたくないのなら、魔術モドキとやらを使うのはもうやめとけ」

 

「はいはい分かってますよって。魔術サイドを敵に回すなんて真似はしたくないもの」

 

 英国、ヴァチカン、ロシア。

 

 超能力者(レベル5)は軍隊に匹敵すると云われているが、本当に国家を相手取って勝てるなどと流石の宇佐見も自惚れてはいない。

 

 尤も、現状の戦力では、という話だが。今ここで事を構えるのはあまりにもタイミングが悪過ぎる。

 

(あちゃー、上手く取り繕ったつもりだったんだけど……しばらくは大人しくしておこっと)

 

 成果は充分に得られた。土御門はドッペルゲンガーの噂の流布程度では大した効力は無いと思っているようだが、実際のところ自己幻像は単なる魔術でもモドキでもなく、より純然たる怪奇(オカルト)──僅かな切っ掛けで途方もなく変容する。

 

 そして、それはドッペルゲンガーという一つの都市伝説に限った話ではなく、計画は水面下で進行していた。

 

(……食えない女だ。良いだろう、精々暗躍しているといい)

 

 対する土御門は実のところ全く納得はしていなかったが、ここで追及したところで惚けられて終わり。

 

 故に、今はまだ動かない。決定的な証拠を掴むまでは、泳がせておくつもりだった。

 

(まったく……監視対象が増えるばかりだな)

 

 溜め息が漏れそうになる。

 

 上条当麻(ヒーロー)博麗霊夢(イレギュラー)、これに加えて宇佐見菫子という愉快犯……この街には本当に多くの火種が燻っている。

 

 世界の安寧の為に、土御門はこれらに睨みを利かせ、今日も奔走する──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 また助けられてしまった。

 

 病室のベッドの上で窓から見える街並みを眺めながら上条当麻はぽつりと漏らす。

 

 つい先程御坂から感謝の言葉を述べられたが、今回自分は何もしていない。一方通行相手に完敗し、ボロ雑巾のようになって地べたに転がっていただけだ。

 

(博麗が居なかったら……俺は──)

 

 間違いなく、死んでいた。あのままどうにか力を振り絞って立ち上がったとして、一方通行はこちらに近付くことなく死に体の上条を追撃していたことだろう。

 

 三沢塾でもそうだ。自分は、彼女の足手纏いでしかないのではないかと思ってしまう。

 

 記憶を失ったのだって、もしかすると──。

 

「どうしたの? 柄にも無く難しい顔しちゃって」

 

 その時だった。

 

 いつの間にか開いていたドアの先で、件の巫女がこちらを見据えていた。

 

「博麗……」

 

「おはよう当麻。無事で……は、ないけどまあ元気そうで何よりだわ」

 

 全身に包帯を巻いた上条に、霊夢はそう言って笑いかける。

 

 かなりの大怪我だが、風で数十mまで飛ばされてそこから自由落下したと考えれば生きているだけでも奇跡。本当に頑丈な肉体であった。

 

「えっと、その、ありがとうな。助けてくれて」

 

「どういたしまして。というか、ほんとに肝を冷やしたわよ、あの時は」

 

「あ、あはは……すまん……」

 

 霊夢の呆れの混じった言葉に上条は苦笑いしながら平謝りすることしか出来ない。

 

 あの時は上条の方もまさか霊夢が駆け付けるとは思っておらず、朦朧とした意識の中で大変驚いた。聞いた話によると、彼女は自分が実験について知る前から動いていたらしいが……。

 

「すまん、じゃないんだよッ!」

 

 すると霊夢の背中に隠れていた白い影が勢いよく上条に飛び付く。

 

「痛ァッ!? イ、インデックスッ!?」

 

「何日も帰ってこないと思ったら入院してるって聞いてすっごく心配したかも!」

 

 体重の乗った衝撃が怪我に響く。情けない悲鳴をあげながら上条は涙目でぷんすかと怒る銀髪シスターの姿に目を剥いた。

 

「途中で鉢合わせしたの。せめて連絡くらいはしてあげなさいよ」

 

「あ、ああ……すっかり忘れてた……」

 

 ばつが悪そうに上条は頭を掻く。

 

「むっきー! 酷いんだよッ! とうまは私を飢え死にさせるつもりッ!?」

 

「いや、買溜めして冷蔵庫に入れていただろ?」

 

「あんなの二日も持たなかったんだよ!」

 

「え? 全部食ったの? マジで?」

 

 つまり今は冷蔵庫の中は空っぽ。あれだけで一週間は遣り繰りするつもりだったのだが、と上条は絶句する。

 

「ついこの間入院したばっかっていうのに、今度は一体何に巻き込まれたのッ!?」

 

「え、えっと、それは……」

 

「病院では静かに、インデックス。こいつにとってここは第二の実家のようなもの。前から厄介事に首を突っ込んでは怪我して病院送りになってるからこんなんでいちいちキレてたら身が持たないわよ? 馬鹿は死んでも治らないんだから」

 

「むぅ……」

 

 未だに怒りが収まらない禁書目録だったが、霊夢に宥められ、不服げではあるものの押し黙る。

 

「そ、そんなに入退院を繰り返してるんでせうか?」

 

 それを聞いて上条も思わず尋ねる。どうやら記憶を失う前から自分はこういう不幸に常日頃見舞われていたらしい。

 

 そういえば補習で会った小萌という子供先生も出席単位が危ういと言っていた。度々入院していたのなら納得出来る話だ。

 

 果たして、入院費や進級・卒業とかは大丈夫なのだろうか……? 急に自分の将来が不安になってきた。

 

「? 何でとうまが訊くの? 自分が一番わかってるはずでしょ?」

 

「え? いやそれは……」

 

「単に自覚してなかっただけよ。そんだけ生傷の絶えない日々を送ってるってこと」

 

「なるほど! もうっ! このアンポンタン! 怪我で済まなかったらどうするんだよッ!」

 

 禁書目録の問いに上条が言い淀んでいると事情を知る霊夢がフォローする。相変わらず記憶喪失であることは隠し通しているようだ。

 

(何でアクセラと戦う羽目になったか訊くつもりだったけど……そういう雰囲気ではないわよねぇ)

 

 大方いつもの不幸が発動したのだろう。もう終わったことであるし、霊夢はここで問い質すことを止めた。

 

「まあけど……インデックスの言ってることは普通に正論よ。かといってあんたは止まることを知らないでしょうし、首を突っ込むにしても自分じゃ手に負えない案件だって少しでも思ったのなら一度は私に連絡を寄越しなさい。()()()()()、ね」

 

「そうなんだよ! れいむが居てくれるなら安心かも! すっごく強いし!」

 

「! お、おう……」

 

 暗に記憶を失う前の己ならそうしていたと告げられ、上条は渋い顔をしながら頷く。御坂にも尋ねられたが、自分と目の前の少女はどのような仲だったのだろうか。

 

 今の上条が知っているのは、自分のクラスメイトであること、魔術師であること、そしてとんでもなく強いということのみ。

 

(……本当に何も知らないんだな、俺。今更過ぎるけど)

 

 三沢塾でのあの場面は酷く恐ろしかった。けれど、一方通行との戦いで駆け付け、後は任せろと自分に語りかけたその姿は──。

 

「なぁ……博麗」

 

「んー?」

 

「お前は何で、実験を止めようとしたんだ?」

 

「何でってそりゃ……単なる成り行きよ。どっかの誰かさんが“お姉様のことを助けてくれないか”ってお願いしてきて、その解決にあのくだらない実験とやらを止めることが繋がるってだけの話」

 

 唐突な問いかけにきょとんとしながらも、霊夢は噛み砕いて経緯を話す。

 

「……そいつ、もしかして御坂の後輩の子か? ツインテールの」

 

「ええ。何だ、知り合いだったの」

 

「まあ一応……」

 

 お姉様という呼び方で思い出す上条。霊夢は既に忘れてしまっているようだが、あの公園で霊夢を見て赤面しながら逃げ去っていた。まさか彼女が切っ掛けだったとは。

 

「じゃあ、俺を助けてくれたのは……」

 

「目の前で死にかけてる奴を見捨てるほど薄情じゃあないわよ。知り合いだってんなら尚更ね」

 

「ただ、それだけなのか?」

 

「そうよ。急にそんなこと質問して、どうしたの?」

 

「いや……」

 

 あまりにも単純な動機。誤魔化している訳でも照れ隠しでもなく、本心からそう言っているということが分かる。

 

 誰かを助けることに理由などない。それは当然であり、自分が言えたことではないのだろう。しかし、霊夢の言うそれは上条の抱く正義感や善意とはまた違うように感じられた。

 

 故に、分からなかった。

 

 あの日、この同じ病院で彼女と会った時に感じた暖かさ。謝る彼女を見て、どうか責めないでくれともはやこの世界には居ない己の言葉に突き動かされた。

 

 ついこの間のことなのに遠い昔のように感じられる。上条当麻は、彼女のことを一体どう想っていたのだろうか。

 

「それは違うかも! れいむはきっと、“ヒーロー”なんだよ!」

 

「え?」

 

「……はぁ?」

 

 すると禁書目録は突然そのようなことを言い出した。

 

「テレビで観たカナミンと一緒で! 困っている人を助ける、優しい正義の味方なんだよ!」

 

「あのねぇ……別にそういう慈善活動家とかじゃあないわよ、私は」

 

 えっへん!と胸を張って自信満々にそう言い放った禁書目録に霊夢は呆れた様子だった。カナミンというのが誰なのかは知らないが、テレビで観たということから恐らくアニメのキャラクターか何かなのだろうか。

 

「ヒーロー……か」

 

 その単語が、妙にしっくりときた。

 

 そうだ。あの夜、朦朧とする意識の中で視た彼女の姿に、自分は途方もない安堵感に包まれたのだ。

 

 正しく“ヒーロー”が駆け付けてきてくれたのだと、そう思ってしまったかのように──。

 

「ああ、そうだな……」

 

「? ちょっと、私はあんたみたいなお人好しとは違うんだからね」

 

 思わず笑みが溢れ、これに霊夢が訝しげな視線を向ける。

 

 実際には違うのかもしれない。少なくとも彼女の根幹にあるのは正義感なんてものではないのは確かなのだから。

 

 けれど、それまでの悩みが嘘であったかのような、胸がすく思いだった。今はそんな都合の良い風に捉えても構わないと、何故かそう感じていた。

 

「改めて……ありがとう。博麗」

 

 博麗霊夢は正義の味方(ヒーロー)。なら、何故助けてくれたなどと考える方が野暮だろう。

 

 今は、そう思うことにした。





???「彼女が正義の味方というのは間違いではない。博麗霊夢は、いつも正しいのだから」
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