とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

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あけおめ(年明けたことに気付かなくて慌てて追記)


お祓い棒

 

 

 お祓い棒。

 

 正式には大幣、祓串等と呼ばれる神道の祭祀において修祓に使う道具。一般的には神主や巫女が振るっているイメージが浸透しているだろう。

 

 そして、霊夢が持つそれは文字通り()を祓う霊装であり、彼女の主武装の一つ。

 

 ──()()()

 

「直せる?」

 

「いやいや、無理でしょ。わちき鍛冶師だよ? 鉄ですらない物は流石に専門外だって」

 

 多々良刃物店にて。

 

 ぽっきりと折れたお祓い棒を手渡された店主はぶんぶんと首を横に振った。

 

「やっぱり、か……」

 

 結局、あの後躊躇無く放り捨てたお祓い棒を霊夢は回収した。戦闘中はノリで捨てたが、もしかしたら修理できるかもしれないと思ったから。あの瓦礫まみれの凄惨なかつて操車場だった場所から折れた先と根元を探し出すことが出来たのは、彼女の勘と幸運の賜物と言えよう。

 

 しかし、見つけたとして結果はこの通り。既にお祓い棒は霊装としての効力を失い、単なる木の棒と化していた。

 

「あ、ごめん……でも本当に私じゃ修理出来ないわ。金具を使えばくっ付けることはできるだろうけどそれじゃ意味無いし」

 

 どことなく残念そうにする霊夢を見て、あっさりと断言し、突き放したことを悪く思った店主は俯いて謝る。

 

「その……大切な物だったの?」

 

「……そうね。愛着はあったのかも」

 

 いつからか。知らない内に、気が付いた時に“陰陽玉”と共にそこにあった。

 

 魑魅魍魎の血を吸った無慈悲なそれは、彼女にとって数少ないあの記憶への繋がりを証明する(よすが)でもあり、だからこそ霊夢はそれが存在することも己が所有していることも至極当たり前の、そう在るべき事象だと認識していた。

 

 それが折れた。いまいち自覚出来ないものの己はそれなりにショックを受けているのだろうか。

 

「きっと、道具も大切に使われて喜んでるよ。修理は無理だったけど、しっかり供養してあげてね」

 

「付喪神になってるってこと? そこまで使い込んだ覚えはないけど」

 

「つくも? 何それ?」

 

「……何でもないわ」

 

 頭上に疑問符を浮かべて首を傾げる店主。それに対して霊夢は知らぬのも当然かと内心溜め息を吐く。

 

「あ、そうだ。発注した封魔針についてなんだけど──」

 

「ふふん。私もプロフェッショナルだからね。夜なべしてもう用意できたよ」

 

「半分近く壊れたからまた追加で」

 

「な、何ですと──ッ!?」

 

 がびーん、と店主は度肝を抜かれる。針の注文を受けてからまだ数日も経っていない。

 

「おったまげた……な、何で? もしかしてまた魔術師と戦ったり?」

 

「いえ。今回はこの街の能力持ち相手よ」

 

「はぇー、やっぱり超能力ってすっごいんだね」

 

 驚きつつも納得する。あの木製なのにやたらと頑丈で不思議パワーに満ちたお祓い棒がこうもぽっきりと折れたということは、それ相応の激しい戦闘があったということは容易に察せられ、そうなれば針も消費しているのは当然の帰結であった。

 

「けどこのペースだと過労死しちゃうよー」

 

「……今回は急がなくても良いわ。代金の方も近い内に用意するから」

 

「ううっ、約束だよ?」

 

「ええ。約束するわ……じゃあ、よろしくね」

 

 そう言い、霊夢は踵を返しながら店主へ手を振ると折れたお祓い棒を持って店を後にする。

 

「うーん……大丈夫なのかなぁ霊夢。まだ高校生なのに」

 

 自分を助けてくれた時は、もっと若かった。その後ろ姿を見送り、店主は腕を組んで悩ましげに呟く。

 

 霊夢が自分の想像も付かないくらい物凄く強いことは知っている。ただそれでも彼女はまだ成人にも達していない子供であり、針よりも花が似合う幼気な乙女なのだ。

 

 社会に生きる大人として、命を救われた個人として、店主は日常のように死と隣り合わせの戦地の中を往く霊夢の身を案じていた。

 

 彼女は常に誰かを助ける。けれど、ならば彼女を助けるのは一体誰だというのか。

 

「………………」

 

 からんからんと、鈴の音と共に戸が開く。

 

「あ、いらっしゃいませー。何かご入り用ですかー?」

 

「……よう、久しぶりだな。こんな所で店を出しているとは思わなかったよ」

 

「へ?」

 

 来客。こんな時間に珍しいと思いながらもサービス精神と元気満点の笑顔で出迎えるが、そんなことを言われてきょとんとしてしまう。

 

 知り合いかと思うも、その顔に見覚えはない。少なくとも過去に商売した客の顔は一人残らずしっかりと覚えていると自負していたのだが……。

 

「えっと、ごめんなさい。どちら様でございましょうか?」

 

「ん? 何だ、やっぱり忘れてるのか」

 

「ほ、本当にごめんなさい……」

 

 しゅんとする店主。知り合いの顔を忘れてしまうなんて、うっかりでは済まされない。

 

 誰かに忘れられるということは、とても、とてもとても悲しいことだというのに。

 

「良いってことよ、そういうもんだ。ぶっちゃけ私らそこまで関わり無かったし、もしかするとガチで初対面かもしれん」

 

 対する()()は特に気にした様子も無く商品棚を見物する。

 

「ほう……クク、相変わらず良い腕前だな。にしても、こうも成り果て、何もかも失ったお前に唯一残されたモノが鍛冶(これ)とはねぇ」

 

「? どういうこと?」

 

「分からないならそれでいい。実のところ私もお前が本当に()()なのか、単なる他人の空似なのかは判別出来ないんだ。どちらにせよ、とんだ奇縁だよ」

 

 発言の意味が分からず、店主は首を傾げる。未だに相手が誰なのか思い出すことは出来ず、しかし何となくであるが、ゾクリと寒気がするような嫌な感覚がした。

 

 ──悪意。

 

 その感情の意味はすぐに理解し、同時に驚く。自分が名前も知らぬ他者にそのような感情を抱くなど思ってもみなかったが故に。

 

 そして、それに対して困惑の他に真っ先に考えるのが罪悪感と自己嫌悪な辺りつくづく店主は人が好く、優しかった。

 

「お前のその心は正しいさ。何一つ間違っちゃいないとも。嫌われ者というのは、嫌われるべくして嫌われるのだからな」

 

「……貴方は、一体?」

 

「そんなに知りたい? ま、知りたいか普通は。誰が教えてやるもんかよバーカ……って、本来なら言ってやりたいんだがなぁ」

 

 特別に教えてやる、と彼女は尊大に振る舞うが、酷く芝居臭かった。

 

「我が名は◼️◼️◼️◼️。単なる通りすがりであり、今はお前の客でもある」

 

 彼女は確かに名乗った。だが、発せられた筈の名前と思われる単語は酷いノイズ混じりで本当に言葉かどうかすらも怪しいくらいに聞き取れない。

 

 まるで脳がそれを拒絶しているかのようだった。

 

「客?」

 

「そう、客。となれば目的は明白だよな? 頼みたい仕事があるんだ。鍛冶師のお前にゃ専門外かもしれんが、その分報酬は弾むさ」

 

 悪い話ではないだろう? と、彼女は法外とも言える金額を提示し、にやりと笑う。

 

 明らかに怪しい。それに先程から言っていることも理解出来ず、訳が分からないので、ただただ困惑するばかり。

 

 そして、悩んだ結果、店主の返事は──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 帰路に就きながら、霊夢は考える。

 

 一方通行によって折られ、使い物にならなくなったお祓い棒。その損失を如何にして埋めようかと。

 

「オイ嬢ちゃん、ちょっと向こうで俺らと遊ば──ぐげェっ!?」

 

「こいつらには必要無いんだけどなぁ……」

 

 道中絡んできた身の程知らずの不良三人組を一撃で叩きのめしつつ、霊夢はどうしたものかと頭を捻る。

 

 いつものようにこの街で暢気に過ごすのであれば、お祓い棒の出番は然程無かった。そこらのスキルアウトや大能力者(レベル4)以下の能力者相手ならば基本的に素手で事足りるからだ。

 

 しかし、逆に言えばそれ以上の相手ならば必然的にお祓い棒を持ち出すことになる。神裂火織や一方通行といった強敵の他、木山春生といった厄介な能力者、テレスティーナが差し向けた駆動鎧部隊にも手っ取り早く片付ける為に用いた。

 

 別にお祓い棒が無くとも霊夢は強い。それは純然たる事実であるが、その戦闘力が少なからず損なわれてしまうということもまた確かな事実である。

 

 今後上述したような面々と同じく一定のラインを越えた敵が現れないという保証はどこにもなく、むしろ魔術師が相手ならばその可能性は跳ね上がることだろう。

 

(霊力を込めて振り回す? 鉄くらいの硬さにはなると思うけど……火織とか相手だと心許ないわね)

 

 わざわざリソースを割いて木の棒を強化するなど無駄の極み。ならばと代用品の霊装を発注することも考えたが、慣れない武器を無理に使おうとするのは逆効果だと思い断念した。

 

(……とりあえずは様子見か)

 

 現状解決策は無く、霊夢は一旦保留する。無いなら無いなりの戦い方を考えれば良いだけの話だ。

 

 それに、もしかしたら土御門辺りなら壊れた霊装を修復する手段やよく似た物の存在を知っているかもしれない。イギリス清教に借りを作るのは癪だが、今度訊いてみようか──。

 

「あっ」

 

「げっ」

 

 第九学区を抜け、そろそろ歩くのも面倒なので飛んでしまおうかと思っていると見覚えのある少女と出会す。

 

「れ、霊夢さん……」

 

「最愛ちゃんじゃない。奇遇ね」

 

 絹旗最愛。ついこの間、思わぬ場所で久々の再会を期したばかりの顔見知りである。

 

「あいつに斬られた怪我は大丈夫? ごめんねぇ、あの後色々あって治療に向かえなくて」

 

「それについては超大丈夫です。薄皮が切れた程度だったので……むしろ霊夢さんが居なきゃ本当にぶち殺されていたので超感謝してますよ」

 

 実のところ心配していた。辻斬りとの戦闘後、御坂に襲われて絹旗の安否を確認する暇は無かったが故に。

 

 とはいえ、あの程度で死ぬようなタマでは無いとも思っていた。しぶとさに関して言えば、彼女は()()()()よりもずば抜けて高い。

 

(まさかこんな所で会うことになるとは……いや、オフの日で超良かったと言うべきですね)

 

 一方、絹旗は安堵する。出会った当初こそ酷く驚いたが、見たところ敵意も無いし、機嫌の方も比較的悪くなさそうであった。少なくとも向こうは前回の施設での一件は微塵も気にしていないのだろう。

 

 それは絹旗としては望ましい展開だった。アイテムとしては敵であり、出来ることならば顔を合わせたくないが、個人としては──。

 

「霊夢さんはここで何を?」

 

「用事を済ませて帰るとこよ。最愛ちゃんはまた例の仕事?」

 

「超休暇です。霊夢さんがうちのリーダーをボコってくれたお蔭でしばらく仕事は超ありませんよ」

 

 麦野、フレンダ、滝壺の三人はまだ療養中である。よって単独で実行可能な任務以外は無い。そして、その程度の任務ならば相応の報酬が必要なエリート扱いのアイテムではなく、より下の暗部に依頼するため実質無期限の休暇のようなものであった。

 

「え? 私が?」

 

 一方、霊夢は絹旗のリーダーをボコったと身に覚えの無いことを言われ、きょとんとする。

 

「……麦野って言う、原子崩し(メルトダウナー)……と、言っても分かりませんよね。なんか眩しいビーム撃ってくる人が居ませんでしたか?」

 

「ビーム? ……あ」

 

 そこで思い出す。辻斬りと戦ってる最中、いきなり攻撃してきたので何だこいつと思いながら開幕夢想封印で吹っ飛ばした茶髪の女のことを。

 

「あいつか。そりゃ悪いことしたわね」

 

「思い出していただけましたか。あの人、超根に持ってるんで気を付けてください」

 

「ふうん……ま、あの時は気が立ってたから少し大人気ない真似しちゃったわ。能力自体は弾幕みたいで面白そうだったけど」

 

「弾幕……? 超よく分かりませんが、“第四位”相手にそんなこと言えるの、霊夢さんくらいですよ」

 

「四位? へぇ……あれがねぇ……」

 

 御坂より下で食蜂より上。確かにそれくらいの実力のように感じたし、妥当と言えよう。

 

 あのビームも恐らく単なる熱光線ではなく、特殊なもの。火力はトップクラスであるし、下手に防御しようものならば霊夢でも危ないだろう。そもそも当たることなど有り得ない話だが。

 

()()って……やはり霊夢さんからすれば、レベル5も超大したことありませんか?」

 

「いや? 普通に厄介だと思うわよ。一位のアクセラとかもう二度と相手にしたくないし」

 

「厄介扱いしてる時点で超異常なんです。……というか、あの噂は本当なんですか? 鬼巫女と第一位が超バトッたっていう話は……」

 

「何? もう噂になってんの?」

 

「はい。与太レベルですが……」

 

 この口振りだと本当のようだ。色々と調べて前回の案件が“絶対能力進化計画”という第一位絡みの実験に関係しているという話は聞いていたためまさかとは思っていたが。

 

「どっちが勝ったんですか?」

 

「……どっちだと思う?」

 

「何ですかその超面倒臭い回答。まあ今ので分かりました。どうやったんですか? あの化け物に勝つとか流石に超人間止めてますよ、マジで」

 

 自分で言ってて、信じられない。

 

「あら、そりゃまた何で?」

 

「霊夢さん、意外とプライド高いですからね。敗けたのなら話題に出された時点で多少なりとも機嫌が悪くなるでしょう」

 

 恐らく非科学(オカルト)の類いを用いたのだろう。霊夢の扱うそれならば一方通行の絶対防御を破る手段を持ち合わせていても別段不思議ではない。

 

「因みに私の()でも通じたりとかは?」

 

「無理ね」

 

「むぅ……超きっぱり否定しますね。一応、あれからも陰で鍛えていたのですが」

 

「素人のやる事なんて、たかが知れてるわよ。なまじ効いたとして、すぐに対応されるのが関の山でしょうね」

 

「……そうですか」

 

 過去に霊夢に教わった(まじな)い。能力者でも使用可能なそれは、魔術などとは到底呼べないレベルの子供騙しであったが、絹旗は自分なりに分析し、隠れて研ぎ澄ましてきた。

 

 途中で比喩ではなく、本当に血反吐を吐いて死にかけたこともあったが、今や能力と併用することで実戦レベルにまで到達していると自負している。

 

 これにより絹旗が本気になれば本来格上である麦野相手でも条件によっては勝利することが可能だった。

 

「超残念です。私も一度で良いので第一位の野郎をぶん殴ってみたかったのですが」

 

「恨みでもあんの?」

 

「そりゃあのクソッタレな実験の超元凶に等しいので多少なりとも思うところがありますよ」

 

 諸悪の根源は実験を主導した連中で一方通行に非が無いということは絹旗も分かってはいる。そもそも彼が居なくても置き去り(チャイルドエラー)は別の実験で利用されるだけだろう。

 

 しかし、その演算パターンを脳に埋め込まれた身からすれば、一方通行を恨むなと言う方が無理があり、好きか嫌いかで言えば間違いなく嫌いであった。

 

 これに、あのイカれた実験の内容を知る霊夢はそれもそうかと頷く。

 

「まあその、悪い奴じゃないのよ? あ、そうそう、口調とか性格とかは海鳥ちゃんみたいな感じよ」

 

「どんなフォローですか。つか、あの糞女と似てる時点で超論外です。要するに超粗暴で超口が悪いってことじゃないですか」

 

「えー? あんなに仲良しだったのに……」

 

「ですから違いますって! 超有り得ないです! 貴方にそう思われてたことが過去一番で超ショックなんですが!」

 

 黒夜海鳥。

 

 同じく暗闇の五月計画の被験者であり、一方通行の“攻撃性”を植え付けられ、その一点においては最もオリジナルに近付いた存在だった。

 

 絹旗は彼女のことが嫌いであり、犬猿の仲であったのだが、どうやら霊夢には今の今まで真逆の解釈をされていたようである。

 

(まあ、恐らくあの“訓練”に最後まで食らい付いてたのがあいつと私だけだから、なんでしょうが……)

 

 きっと、顔や名前を覚えてもらっている理由も、そうなのだろう。

 

 暗闇の五月計画の被験者達にとって博麗霊夢という人間は決して忘れられぬ存在であるが、当人にとっては有象無象に等しく、辛うじて顔を覚えているかどうかだと思われる。

 

「あ、そろそろ行きませんと……」

 

「ん?」

 

「実はこれから映画を観に行くところでして……あ、そうだ。霊夢さんもどうですか?」

 

「映画ぁ? ……別に構わないけど」

 

 いつもなら面倒だと断るところだが、丁度予定もなかったし、以前に可愛がっていた知り合いが誘ってくれたのだ。たまには付き合うのも悪くないと思った。

 

 これに絹旗はぱぁと顔を輝かせる。

 

「本当ですか。それじゃあ、超行きましょう」

 

 霊夢はまだ知らない。

 

 絹旗の趣味が怪しげなタイトルの俗に言うC級映画を鑑賞することであり、今回もその一環であること。

 

 そして、これから超が付くほどつまらない作品を観せられるということを……。





お祓い棒だったり大幣だったり表記がまちまちでややこしいと想われるのでこれを期に「お祓い棒」で統一するっちゃ
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