とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

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新年明けましておめでとうございます。今年もこの作品をよろしくお願いします。


邪視

 

 

──陰陽鬼神玉──

 

 場面は移り、魔界。

 

 圧倒的な質量が射線上に立ち塞がる何もかもを粉砕しながら降下する。

 

「「!!」」

 

 自らを押し潰さんと迫り来るそれから逃れんと、魔眼と悪魔は動くも、陰陽玉はまるで自我を持っているかのようにホーミングし追尾し続けていた。

 

 ──それだけではない。

 

──博麗弾幕結界──

 

 逃げ場を潰すかの如く幾重もの結界が囲い込み、光弾、封魔針、御札の嵐が幾度も反射し軌道を変えながら降り注いでいく。

 

 (スペル)の同時使用。今は無き制度(ルール)の中であれば禁じ手に近いそれに何ら躊躇も無かった。

 

「……そろそろ終わってくれると助かるんだけど」

 

 陰陽玉と挟み込むように弾幕が衝突し、花火のように炸裂し続け、幻想的な光を迸らせるその光景を見下ろしながら霊夢は顔をしかめて呟く。

 

 二対一ではあるもののあの二人……と言って良いのかは分からぬが、彼女達は連携など取れておらず、各々が好き勝手に攻撃を繰り返していた。

 

 故に、付け入る隙は多く、戦況は霊夢側が優勢ではあったが──。

 

「だいぶ焦っているようね?」

 

 クスクスと背後から笑い声。振り返ることもなく霊夢は針を投擲し、しかし空を切る音しか響かない。

 

 悪魔は、目の前に居た。

 

「被弾を避けているのはまだ見ぬ神の命令(サリエル)に備えてかしら? けどあんなに大技を連発していたら流石に疲弊してきたんじゃない?」

 

 悪魔──エリスと名乗ったそれは愉しげに、唄うように問いかける。その身体は無傷ではなく、それは空間転移を行使しながらも霊夢の弾幕を避け切れなかったことに他ならない。

 

 しかし、彼女は余裕綽々といった様子で笑い続ける。自らを大悪魔などと豪語するだけあってその生命力は頗る高いようだ。

 

「…………」

 

 そして、それと肩を並べる魔眼もまた相応にしぶとい。弾幕をレーザーで打ち消しながら強引に脱け出して霊夢へと襲い掛かる。

 

「チィッ──いい加減、鬱陶しい」

 

 その強襲に即座に対応し、霊夢は現れた魔眼へ照準を合わせ、魔力を込める。空間転移能力を持たぬ彼ないし彼女はエリスよりもダメージの蓄積は大きく満身創痍と見て良いだろう。

 

 故に、この一撃でトドメを刺す。対する魔眼もそれを理解しており、全身全霊で迎え撃たんとしていた。

 

「──◼️◼️」

 

 中央の、人の形をした光が何かを呟く。

 

 五つの眼が肥大化し、その瞳孔に黄色く、しかし禍々しさを感じさせる光が迸る。

 

「へぇ……やるじゃない、目玉のくせに」

 

 大して興味も無かった片割れの力に、エリスが素直に感心する。

 

 それは正しく“呪い”であった。

 

 魔眼、邪眼、或いは邪視、Evil eye──それは、中東からヨーロッパにかけて世界の広範囲に分布する民間伝承・迷信の一つであり、他者を睨みつけることにより対象者に呪いを掛ける魔力である。

 

 様々な民族の間でこの災いに対する信仰は形成され、十字教においてはしばしば魔女が持つ特徴とされ、その視線は様々な呪いを犠牲者にもたらすという。

 

 その眼を、視線を、魔力を、古来より人々は恐れ、忌み、害した。故意にせよ故意でないにせよ呪いをもたらすのだから。五つもの魔眼を持つ彼ないし彼女はそういった者達の成れの果てかもしれない。

 

 であれば、邪視の始祖とされる死の天使に仕えるのは至極当然のことなのだろう。

 

◼️◼️◼️◼️◼️◼️(こっちを視ろ)

 

 五つの眼から放たれたレーザーは一点に集中し、混ざり合い、極光となって空間を切り裂く。

 

 流れ星と見間違う輝かしさに反して、その本質は“呪い”。視線だけで人を死に至らしめる呪いが転じ、破壊力を持って顕現したものだった。

 

「そんな穢らわしいもので、んなの作ってんじゃあないわよ」

 

 呆れるくらいに眩い極太のレーザー。それには確かに既視感があり、故に霊夢は幻想猛獣の時のように苛立ちを覚えた。

 

──陰陽鬼神玉──

 

 事前に込められていた魔力が解き放たれ、先程のような巨大な陰陽玉に瞬時に変化して極光とぶつかる。

 

 両者は拮抗し、鍔迫り合いになるもそれはほんの刹那の出来事。さもありなんと天秤は霊夢の方へと傾き、陰陽玉が極光を押し戻しながら突き進んで行く。

 

「!!」

 

「分かり切ったことでしょうが。あんたと私、相性は最悪なんだから」

 

 他者を物理的に破壊する恐るべき呪い、然れど所詮は呪いであり、それを祓ってみせるのが巫女(霊夢)の仕事である。不意討ちならいざ知らず、真正面から襲ってくる呪いなどに負ける道理などあるはずもないのだ。

 

 浄化の力が、呪いを打ち祓う。魔眼はこの状況を打破せんと思考し、即座に諦めた。自らの命を削って出力を上げたところで止まらぬのは明白であり、かといって逃げようにも少しでも出力を弱めれば勢いを増した陰陽玉を避けることは出来ない。

 

 故に、自らの敗北を悟り、潔く受け入れる。

 

「────」

 

 ジュッ、と陰陽玉の衝突と共に有り難い光が邪悪なる身を焦がし焼き尽くす。

 

「──さて、次はあんたよ」

 

 確かな手応え。霊夢は消え去った魔眼に一瞥もくれてやることなく、エリスを睨む。

 

「キャハハハハハ★ 凄い凄い! 人の身であれだけの呪いをはね除け、“幽玄魔眼”を倒しちゃうだなんて!」

 

 仲間を失ったにも拘わらずパチパチと拍手して笑うエリス。察してはいたが、仲間意識は皆無なようである。

 

 それに霊夢は冷ややかな眼で告げる。

 

「ダンスはもう終幕ね。ああ、安心なさい、口が固そうなさっきのと違ってあんたは生け捕りにするつもりだから」

 

「随分と舐めてくれてるようだけど残念♪ パーティーはまだ始まったばかりじゃないの♪」

 

 エリスは笑う。相も変わらず。

 

 しかし、霊夢は虚勢と見ていた。二対一ではなく、単独ならばこちらが有利なのは先の戦いから明らかだったのだから。

 

「それに、貴女もそろそろ無理が祟ってきたんじゃない? 半神であろうと、ナザレの血筋であろうと、それ以外のナニカであろうと、“人”である以上、魔界の瘴気は猛毒に変わりないのだから」

 

「は。笑わせないでくれる? 羽虫一匹潰すのに疲れる人間がどこに居るのかしら?」

 

 煽りを交えて言い返しつつ内心で霊夢は舌打ちする。

 

 実際エリスの言葉は真実であり、この空間は霊夢にとって不都合な環境であるらしく普段よりも魔力消費が激しかった。そのような状況下で先程のように大規模な術ばかり使っていたのだからエリスが読み取れる程度には疲労が見え隠れしている。

 

 それでも霊夢は彼女達の攻撃の悉くを避け切っており、ダメージ自体は受けていない。余力は充分であり、エリスを屠るのは何ら問題が無かった。

 

 加えて、霊夢からすればエリス達は前座であり、それを見越しておかなければならない。

 

「あらそう。なら、そういうことにしておきましょうか。大変よね、私を倒してもまだ“大物”が控えているんだから」

 

 その心情を、目の前の悪魔は見透かしているのだから不愉快極まりなかった。人間の心や欲望を読み取り、揺れ動かすのは彼女達の得意分野なのだろう。

 

「けれど、やっぱりそうね。舐められるってのは、心底ムカつくわね」

 

 貼り付けていた笑みを消し、そう言ったエリスの手には、いつの間にか何かが握られていた。

 

 ──それは、“黄金の林檎”だった。

 

καλλίστῃ──

 

「…………!」

 

 呟かれた理解不能な言語。何かするつもり、それが何にせよさせるものかと霊夢は御札を取り出してエリスを仕留めんと動く。

 

 次の瞬間、おぞましい寒気が走る。

 

「「ッ!?」」

 

 それは霊夢だけでなくエリスも同様であり、互いに手を止めた。

 

「何……?」

 

「はぁ? このタイミングで……? まだ踊り足りな──ッ、分かった、分かったわよ、行けば良いんでしょ行けば」

 

 当惑する霊夢を他所に、エリスの方は何者かと会話しているようであり、腹立たしげに悪態を吐く。

 

「あーあ……最悪……」

 

「? どうしたのよ」

 

「ちょっと用事が出来ちゃったから悪いけどもうお開きってことで。じゃあね、勇敢で強いヒューマンさん」

 

「……あ? 逃がすとでも──」

 

「ええ。逃がすわよ、どう足掻こうと。まあ、生きていたらまた会いましょう☆」

 

 不機嫌そうに、しかし霊夢に向けては作り笑顔を浮かべ、エリスは手を振る。

 

 霊夢はそれに向けて妖怪バスターを投擲しようとするも、僅かに視界がぶれたかと思えば、突如として目の前の風景が変容した。

 

「!」

 

 空間転移、否、この世界に呑み込まれた時と同じ現象だ。

 

 即ち、世界そのものが創り変えられた。

 

 であれば、やったのは──。

 

「……あんたが、サリエル?」

 

 先程感じたものと同じ寒気が絶え間無く感じ、凍え死ぬかとすら思ってしまう。それだけでなくこの世界の重力が著しく変化したかのような重圧が澱んだ瘴気に満ちた空気と共に、肉体ごと精神を押し潰さんとしていた。

 

 常人ならば既に朽ち果てるか発狂しているであろう状況下で霊夢は冷静に、臨戦態勢でその元凶を見据える。

 

 予想外のタイミングではあったが、漸く対面することが出来た。

 

「──博麗霊夢

 

 純白の、しかし見るのも憚られる禍々しい魔力で覆い尽くされた六枚の翼がはためく。

 

 薄く紫掛かった長髪。手には歪な形の錫杖。天使に性別など無いはずだが、その身体には女性的な凹凸があり、伝承の通りであれば凶眼が存在しているであろうその両の眼は固く閉ざしていた。

 

 かの大天使は、霊夢の問いには答えることなく、静かにどこで知り得たか解らぬ彼女の名を呼ぶ。

 

 凍えるように冷たく、鋭く、また感情の抑揚を感じさせない中性的な声だった。

 

「おまえは、なんだ?」

 

 尊大に、傲慢に。

 

 この世に舞い降りた死の天使(Angel of Death)は、目の前のどこまでも矮小な人間に対して問いを投げかけた。

 

「──ただの人間の巫女よ。目をかっ開いて見てみれば分かるでしょ」

 

 対峙する、その矮小な人間はありとあらゆる威光も威圧もはね除け、悠然と言い返す。

 

 ここに、異伝は成った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「!」

 

 霊夢が死の天使と邂逅を果たしたのとほぼ同時刻に、月明かりのみが照らす闇夜の中で“神の力”と死闘を繰り広げていた神裂は思わず動きを止め、視線を在らぬ方角へと向けた。

 

 敵前ではあまりにも致命的な愚行。しかし、それでもそうさせざるを得ず、そこから視線が逸らせない。

 

「今の、おぞましい気配は一体……ッ!?」

 

「………………」

 

 ガブリエルも攻撃の手を止め、同様に注視する。

 

 そう遠くはない距離で、ほんの一瞬だけ感じた強大で、そして禍々しい力と邪悪な気配。神裂とは違い、それにはその正体に心当たりがあった。

 

 神の敵にして魔なる者、そう在らんと創り出されたモノか、貶められた異教の神々や精霊かは分からぬが、気配からしてどうしようもなく魔に染まった悪性であることは確かであり、そんなモノが自分のように異なる位相から顕現したのだろう。

 

 とはいえ()()()()ならば然したる問題は無いとすぐに関心は失せる。

 

(ッ……上条当麻、どうかご無事で──)

 

 一方、神裂の方は相手が戦闘を続行しようとしているのを察して向き直るも、内心気が気ではなかった。

 

 何故ならあの方角には、上条当麻の実家があるのだから──。

 

「何……ッ!?」

 

 一方その頃。土御門元春は驚愕する。

 

 実父を守らんとする上条と一方的な殴り合いをした後、彼は御使堕しの原因となった儀式場である上条宅を破壊する為に風水・陰陽道に由来する魔術・“赤ノ式”を行使したのだが──。

 

「かはっ……こりゃまずいな……」

 

「つ、土御門?」

 

「悪いカミやん。()()()()

 

「はぁっ!?」

 

 魔術を使用したことによる反動で膝を突き、吐血しながら土御門は告げる。

 

 “赤ノ式”は超長距離からの狙撃を可能とし、かつ家一つくらいならば容易く吹き飛ばす高火力を発揮する高性能な術式──それが途中で()()()にぶつかり、掻き消えた。

 

 それが意味することはつまり──。

 

「ッ──カミやん! 構えろ! 来る──いや、もう居やがるか……!」

 

「なっ……」

 

 ソレは、既にそこに居た。

 

 頭の後ろに赤いリボン、腰にまで届く長いブロンドの髪、左頬には星形のタトゥー、そして()()()()()()()()()()

 

 彫像のように整った、或いは整い過ぎた美しい顔立ちをした少女が、先程まで誰も居なかったはずのその場所に立っている。

 

 圧倒的な存在感。しかし、その姿を見るまでは気配など微塵も感じられなかったという事実に上条は眼を見開く。

 

「ふうん……術式はあの巫女とよく似てるけど、威力は比べるまでも無いわね。ま、人間にしては頑張ってるんじゃない」

 

 にこりと笑い、しかし隠し切れぬ殺意。土御門は勿論、上条も目の前の少女を自分達の敵であると認識した。

 

「誰だ、テメェ……!」

 

「Innocent──いや、今は違うか。そうね……ただの通りすがりの“魔術師エリス”よ」

 

「エリス……?」

 

 その名に土御門が反応する。同僚が使役するゴーレムの名と同じであるが、珍しい名前でも無いので単なる偶然だろう。

 

 しかし、その左手に握られる“黄金の林檎”。それが連想させるのは──。

 

「一応確認するが、俺の術式を防いだのはお前か?」

 

「ええ。そうよ」

 

 あっさりと肯定する。その時点で土御門は身構えるも、彼女の言葉が事実ならば無駄なことだろう。

 

 自身が振るう術式の中でも高い火力を誇る“赤ノ式”を防ぐだけでなく、一瞬にして一切気取られずにこの場に現れることが可能な程の魔術師。万全ならいざ知らず能力開発を受け、反動で深傷を負っている状態の己では相手になるはずもない。

 

 しかし、それを理解しながらも今にも意識が飛びそうな身体に鞭を打ち、毅然とした態度で質問を続ける。

 

「──その目的は?」

 

「儀式場を破壊されちゃうと困るの。だから、一緒に死ぬまで踊りましょう♪」

 

 そう告げると、エリスは右手に持つステッキを振るい、上条達へと光の雨を降り注がせる。

 

 ヒトの皮を被った悪魔が、牙を剥く。





幽玄魔眼と幽幻魔眼、どっちなんだいっ!?

幽~玄~!(この作品ではこっちにした)
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