とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

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魔砲

 

 

 緩やかな漣の音だけが響く。

 

 先程まで天地を揺るがす激闘が繰り広げられていたのが嘘であったかのように、そこは静寂に支配されていた。

 

「ハァ……ハァ……!」

 

 神裂火織は、その場に片膝を突いていた。全身で傷だらけで滴り落ちる血が地面を赤く染める。

 

 息も絶え絶えで、刀を杖代わりにどうにか倒れ込むのを防いでいる有り様。もはやその身体は限界に達しているのは明白だろう。

 

(まだ、ですか……? 土御門……上条当麻……!)

 

 朧気な視界でこちらとは対照的に衣服こそ多大な損傷を受けてはいるが、それ以外は全くの無傷でこちらを見下ろすガブリエルを捉えながら、神裂は内心悲鳴のように叫ぶ。

 

 唯閃を酷使し続け、体細胞の大半が崩壊してしまっている。これ以上、聖人としての力を行使すれば肉体が耐え切れずに制御不能に陥って自爆してしまう。

 

「……退け、ヒトの子よ。そうすれば命までは取らない」

 

 それを分かっているのだろう。ガブリエルは不可解な天使の言語から人間にも通じる言語へと戻し、そう警告する。

 

 人間相手に、ここまで足止めをくらうのは予想外だった。強靭なる肉体と魔術の手腕もそうだが、敵わぬと理解しながらも果敢に立ち向かった精神も称えるべき偉業と言えよう。

 

 だからこそ、ガブリエルは惜しんだ。神裂という強く、敬虔な信徒の命を──。

 

「ッ……断り、ま……す……」

 

 しかし、神裂は立ち上がった。

 

「………………」

 

 ガブリエルは残念そうに、しかし分かりきった返答だったと静かに目を伏せる。

 

 同時に、水翼が四方八方から無慈悲にも放たれた。

 

(──申し訳ありません。インデックス)

 

 元より死を覚悟していた神裂は結局守りきれなかった親友のことを想起し、しかしただでは死なぬと刀に力を込め、最期の一撃を放たんとする。

 

「!!」

 

 だが、それは未遂に終わる。

 

 突如として水翼がぴたりと停止したことにより。

 

「…………? 何事ですか?」

 

 ギリギリで動きを止め、神裂は困惑する。対するガブリエルはそんな彼女のことなど既に見ておらず、虚空へと視線を向けながら微動だにしていなかった。

 

「──何rq」

 

 次の瞬間、ガブリエルは驚愕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 星々が降り注ぎ、荒波がうねり、幾千幾万の軍勢が狂乱する。

 

 上条宅、及びその周辺ではまるでこの世の終わりかのような光景が広がり、混沌を極めていた。

 

「──しぶといわね。いい加減死んでくれない?」

 

 ステッキを振るい、破壊の流星群を降らせながら魔術師エリスは愚かにも無駄な足掻きを続ける人間二人をつまらなそうに見下ろす。

 

 すぐに終わると思っていた。黄金の果実を放り投げ、トロイアの軍勢を喚び出し、それがあの“幻想を殺す右手”で無効化出来ないことを確認した時点でエリスは己の勝利を微塵たりとも疑っていない。

 

 軍勢は周囲の憤怒、憎悪、恐怖、狂気といったありとあらゆる負の感情を魔力へと変換させて稼働する。それは何と術式である()()()()()()()()()()()()も含まれており、それ故に自給自足可能なため半永久的に術式は発動し、狂った古強者達は敵味方一切合切区別無く延々と殺し合い続けるのだ。

 

 加えて、エリス自身の魔力量もまだまだ余裕がある。対して洪水クラスの水を操ってみせているあの土御門という魔術師には既に疲労が見え隠れしており、魔力切れに陥るのは時間の問題だろう。

 

 そうなれば、残った上条は何も出来ずに兵士達に蹂躙されるしかなかった。

 

 だというのに──。

 

「死んで、たまるかよ……! テメェをぶん殴ってそのふざけた幻想をぶち殺すまではなァ……!」

 

 上条はそう叫び、ただ我武者羅に駆ける。土御門からの援護を受けながら地獄にも等しき猛攻を恐れもせず突撃していく。

 

 そのギラギラした眼は、悪魔が如き邪悪なる少女の姿を決して捉えて離さない。着実に距離を詰め、その顔面に拳を見舞わんと死力を尽くす。

 

「あらそう。勇敢と讃えてあげましょうか? 無謀なお猿さん」

 

 啖呵を切られたエリスはそう嘲りと共に返しつつ、内心苛立っていた。

 

 あまりもの往生際の悪さだけではなく、もしかするとこのまま突破され、彼の拳が届くかもしれないと僅かばかり恐れを抱いてしまっている己自身に対して。

 

 同時に、()()()()を覚える。

 

「……あなたみたいなのを、哀れな人間共は“英雄”って呼ぶのでしょうねぇ」

 

 かつて、神々の思惑により勃発したかの戦争も、多くの英雄を生んだ。

 

 アキレウス、ヘクトール、アイアス、オデュッセウス、アイネイアス、ピロクテテス、etc……etc……戦争が無ければ、彼らが名を馳せることは決して無かっただろう。

 

 災いの中でこそ、英雄は生まれる。そう言う意味では、ありとあらゆる“災いの母”である女神エリスは、()()()()()()()()とも言えよう。

 

 嗚呼。

 

 何と、くだらないことか。

 

 英雄(ヒーロー)など、いくら人々から願われ、持て囃されようと、大抵その末路は悲惨なものであり、いずれ消え失せ、忘れ去られる運命であるというのに──。

 

「であれば、私は“災い”とならん」

 

 英雄をも、神々すらも破滅へと導く災禍。それこそが、かつて◼️◼️だった成れの果て、無邪気な悪魔(Innocent Devil)なのだ。

 

「──いいや。それら全てを打破してこそ、英雄だろうよ」

 

 その時だった。

 

 横合いから、叩き付けられる。

 

『ッ!?』

 

 煌びやかな星々。それは上条達にとってはもはや見慣れた光景であるが、違うのはそれを放ったのはエリスではなく、また自分達は狙われておらず、迫っていた軍勢へと降り注いで蹴散らしたということ。

 

 思わぬ出来事に、この場に居る全員が驚愕し、動きを止めてしまう。

 

「ウフフ……随分と面白いことになってるじゃないの」

 

 そこに居たのは、“魔女”だった。

 

 尖り帽子を被り、箒に跨がって宙に浮いている、まるでお伽噺から飛び出してきたかのようなオーソドックスな魔女の姿をした、()()の少女が不敵な笑みを浮かべている。

 

「……何者だ?」

 

 思わぬ闖入者に対し、土御門は警戒しながら問う。その尖り帽子を被った姿や箒で浮遊する魔術は清教派が有する移動要塞“カヴン=コンパス”の魔女達によく似ているが……。

 

「たまたま通りすがった普通の魔術師……というのは冗談で“御使堕し”を止めに来たわ。ここが儀式場なのでしょう? 水を操る魔術師さん」

 

「! ……所属は?」

 

「無し。ま、フリーランスと思ってちょうだい」 

 

 野良の魔術師。ミーシャ=クロイツェフ……その正体は“神の力”だったが、彼女のように御使堕しをよく思わない魔術師の一人であり、自力で儀式場を突き止めた……彼女の言うことを信じるのであればそうなる。

 

 無論、信用出来る要素は皆無であるが……。

 

「やぁ、ごきげんよう。元気にしていたかしら? ウフフ」

 

 疑いの眼差しを向ける土御門から視線を外し、魔女は上条の方へと顔を向けるとそう笑いかける。

 

「え? ……ああっ!? その格好に喋り方、もしかしてあの時の……!」

 

 忘れもしない。あの日、ハンバーガーショップで出会い、アルバイトと称して姫神秋沙救出を依頼して上条を三沢塾へ行くように仕向け、吸血殺し事件に関与させた魔女っ娘──。

 

 顔立ちは微妙に違うし、頭髪も金髪から赤毛に変わっているため気が付かなかった。恐らく彼女も御使堕しの影響で容姿が入れ替わっているのだろう。

 

「知り合いか? カミやん」

 

「あ、ああ……敵ではない、と思う。多分な」

 

 暗に信用出来るのかというのも含めた問いかけに、上条は何とも言えぬ表情でそう答える。

 

 怪しいことこの上無いが、吸血殺し事件でのバイト代をたんまりと貰っているので悪く言うのもどうかと思った。

 

「なになに、またパーティーの参加者? 流石に面倒臭くなってきたんだけどさー」

 

 するとエリスが笑みを浮かべつつも、辟易とした様子で呟く。

 

「……お前、()()()だ?」

 

 対して、魔女が向けた視線は先程までの態度が嘘のように冷たく、淡々とした問いかけにエリスは眉をひそめる。

 

「はぁ? どういう意味かしら?」

 

「──ああ、そう。こりゃ驚いた、()()()()()()でもなく、全くの別モンなのね」

 

 質問の意味が分からず、聞き返せばそれが回答だと言わんばかりに魔女は頷く。一人で勝手に納得され、エリスは不快に思う。

 

「……だから、どういう──」

 

「──分からないならそれでいい。別に知る必要の無いことだから」

 

 パチン、と指を鳴らす。

 

 それだけで魔女の前方の空に魔法陣が描かれ、展開されていく。

 

「!」

 

 魔術を発動しようとしているのは明白であり、これを見たエリスはさせまいと即座にステッキを振るう。

 

ースターダストレヴァリエー

 

 そうして先程のように魔力で構成された星々が暴風雨の如く──()()()()()()()()()()

 

「は──?」

 

 思いもしていなかった光景を前にエリスは瞠目し、近くの兵士達と共に光へと呑み込まれる。

 

 何が起こったのかは至ってシンプル。ほぼ同時に魔女の魔法陣から射出された星を象った“弾幕”がエリスの放ったものを()()()()、そのまま勢いを殺さずに彼女へと襲い掛かったのだ。

 

「弾幕はパワー。同じタイプの魔法だが、少しばかりアレンジと創意工夫が足りない。それとも今は人の皮を被ってるからだとか言い訳するか?」

 

「ッ……言ってくれるじゃない。人間風情が」

 

「ああ。言ってやるぜ、“妖怪”風情さんよ」

 

 光に呑み込まれたはずのエリスは五体満足で姿を現す。どうやらギリギリのところで転移したようだ。

 

 しかし、既にその余裕は崩れ、顔には驚きと焦りが見え隠れしている。あの魔女が放った同系統の星の魔術は、今見せた光景が表す通りエリスのそれを凌駕する火力を誇り、またより実戦向けに術式自体に改造が施されていた。

 

 到底受け入れ難いが、()()()()()()いくらやったところで押し負けるだろう。

 

「さて……お二人さん。どうやら幸運にも私達は共通の目的を持っているみたい。信用出来ないかもしれないけど、ここはお互い協力しないかしら?」

 

 そんなエリスを傍目に魔女は、同じように驚いていた上条と土御門へとそう提案する。

 

「え? えっと、俺は構わないっていうか、むしろ有難いけど……」

 

 女口調から男勝りになったと思ったらまた女口調。ころころと口調が変わる魔女に上条は内心戸惑いながら土御門の方へと視線を向ける。

 

「……そうだな。まずは御使堕しを止めるのが先決だ、味方が増えてくれるというのなら拒む理由は無い」

 

 心に犇めく警戒心とは裏腹に、土御門はあっさりとその提案を承諾した。優先すべきは御使堕しなのは明白であり、その正体を探るのは後からでも可能であろう。

 

 それに、今しがた何気無く放った魔術の規模。あれだけの魔術を詠唱も無く即座に放てる実力者が敵に回った場合、エリスと同時に相手にして勝てるビジョンはまず見えないので裏切りを想定したところで意味は無かった。

 

「決まりね」

 

 これに魔女はにやりと笑う。

 

「じゃあ、少し下がってて」

 

「何?」

 

「私の魔術は火力特化型、かつ広範囲。巻き込まないように気配りするのは難しいの。──それに、アレを倒すよりも手っ取り早い解決法があるでしょう?」

 

「! ……そうか。なら、要望通りにしよう」

 

 魔女の狙いを察した土御門は言われた通りに後退していく。

 

「お、おい土御門……」

 

「話は聞いていただろカミやん? 安心しろ、俺もこのザマじゃなきゃ取っていた手段だ。ここは一つ、お手並み拝見と行こう」

 

 少女一人に相手させるのはどうかと思う上条だったが、土御門にそう言われ、迷いながらも危なくなったらいつでも助けに出れるように身構えつつも同じように後退することを選んだ。

 

「一応、言っておく。敵は、ギリシャ神話の不和の女神、エリスをモチーフにした術式を使う。今使ってるのはトロイア戦争を再現する術式だと思われ、あの兵士の大群は魔術や能力は使わないが、身体能力はかなり高い。気を付けろ」

 

「何? ふうん……ギリシャ神話、それに女神ねぇ」

 

 下がる前に、すかさず情報提供を行う土御門。しかし、これを聞いた魔女は一瞬神妙な面持ちをする。

 

 奴は間違いなく妖怪、或いはそれに類するナニカ。にも拘わらず女神とは? 

 

「──ああ、成程。女神の成れの果て、異教により貶され、落ちぶれた妖怪ってこと」

 

「────」

 

 ぽん、と手を叩き、思い付いたようにそう呟いた瞬間、エリスから表情が消える。

 

「ほざいたな、人間」

 

「おっと、図星だったか」

 

 殺気と共に発せられた無機質な声に対し、魔女は漸く本性を現したなと笑い、帽子の中から何かを取り出す。

 

「…………?」

 

 それは掌サイズの、八角形の小箱のようなもの。表面には術式が刻まれており、中心には太極図が描かれている。

 

 慣れぬアイテムを前にエリスは眉をひそめる。知識ある者の中にはそれを見て、西遊記において道教の神である太上老君が鉛を煉して仙丹を作るのに使用する炉であり、斉天大聖孫悟空が閉じ込められたという“八卦炉”の形状に酷似していることに気付く者も居るだろう。

 

 しかし、実物と比べてあまりにも小さく、また華奢な少女でも片手で持ち歩けるくらいに軽い。

 

 ──宛ら、“ミニ八卦炉”とでも言ったところか。

 

Magicae516(魔法と紅夢からなる存在)──そうそう。こっちでは、こう名乗るのが礼儀って聞いたわ」

 

 ふと、思い出したように、魔女は郷に入っては郷に従えと自らが適当に付けた、殺し名を唱えた。

 

 それと同時にガチャリ、と八卦炉の表面が変形して開き、機械的な放出口のようなものが露出する。それは“砲門”であり、既に膨大な魔力が熱量と化して凝縮し始め、眩い光を放っていた──。

 

「──ッ!?」

 

 ここで漸くエリスは、相手が何をしようとしているのかに気付き、瞠目する。

 

 加えて、向けられている砲門が狙っている角度は己ではなく僅かに下の方。──つまり、“御使堕し”を構築するこの儀式場そのものだった。

 

「こいつ……ッ!!」

 

 一点に凝縮される魔力。それが生み出す破壊力は明白であり、エリスはステッキを振るい、また上条達へと向かわせていた兵士達も動かし、全リソースを魔女へと向け、それを阻まんとする。

 

 ──だが、既に手遅れ。その魔力量とは裏腹に、あまりにも早く“チャージ”は完了した。

 

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「──吹っ飛べ」

 

恋符

 

ーマスタースパークー

 

 

 次の瞬間、鳴り響く轟音。

 

 そして、それを遥か彼方へと置き去りにして迸る“極光”が空を切り裂き、地を穿つ。

 

 エリスが放った星の雨も、津波のように押し寄せる軍勢も、一切合切を焼き尽くしながら。

 

「チィッ──させるかッ!!」

 

 エリスは舌打ちし、迫り来るそれへと向けて両手を翳す。避けるのは容易く、しかし()()()()()()()()()()()()ため魔力を注ぎ込んで受け止めんとする。

 

 この儀式場こそが生命線。神の命令から与えられた役目を全うしなければ、どのみち己は消えるが故に、エリスは死力を尽くす。

 

「ぐ、ぐぐ……有り得ない、ただの人間がこれ程の──」

 

 だが、極光の勢いが緩まることはなくジュッと膨大な熱量により手が焼けていく。

 

 信じられなかった。たとえこの身が人の肉皮で覆われた器であろうとも、これを放つ少女は現代において聖人と呼ばれているナザレの血筋でもなければ、神の領域に達した魔術師でもなく、あの先程戦った巫女のような突然変異の如き異常者でもないというのに。

 

 人と魔。その“垣根”の上に立ち、しかし未だに“垣根”を越えられずに居る半端者──そう認識していた、エリスという悪魔は、数多もの人間を玩び、殺してきた◼️◼️は今ここで只人により練り上げられた“魔法”の一端を目の当たりにする。

 

 同時に思い出す。

 

 人とは、愚かだ。人とは、哀れだ。

 

 しかし、他のどの存在よりも不可解な──。

 

「……あーあ」

 

 無理だわ、こりゃ。

 

 そう判断した途端、気が抜けたエリスは投げやりに吐き捨てて、儀式場ごと光に呑み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

『おお! 何だ、良い“熱”よのう!』

 

 とあるバーにて。

 

 驚嘆するような、感嘆するような声が響く。

 

『とことん“火力”を突き詰め、練り上げられた術。相当な使い手だ、今世の術師もなかなかやるではないか!』

 

「喧しい! 急にはしゃぐな!」

 

「あらあら。同じ“火”の使い手としてシンパシーでも感じたようですねぇ……」

 

 天使と聖人。悪魔と魔女。外で起きている激闘などまるで関係無いとばかりにバーは相も変わらず落ち着いた雰囲気のまま営業を続けており、レトロチックなBGMと客の喧騒のみが聴こえる。

 

 しかし、不思議なことに聴こえてくる声は三つにも拘わらず客はいつもの女性二人だけだった。

 

「ったく、復活して早々に……」

 

「正確にはまだ準備段階でございます。ここでは肉体の構築にはまだ時間が掛かるようでして」

 

「私に対する嫌味か? 尤も、今のこいつは霊体ですらない有り様な訳だが」

 

『うむ! 早う酒が飲みたいわ! それに今世ではどうやら美味なる物が沢山あるそうではないか!』

 

 呆れる緑髪の女を他所に、愉しげに声の主は笑う。何度か殺気を向けられているが、微塵も気にしていない。

 

 当然だろう。如何なる遺恨があれど、今や彼女達は同志なのだから。

 

「──にしても、随分と面白い展開になりましたね」

 

 からんと氷が揺れる。ウイスキーの入ったグラスに口を付け、青髪の女は遠くから放たれる魔力を感じながら微笑む。

 

「ふん、私はどうでもいいがな」

 

『我は気になるぞ! おぬし達の言う“巫女”にもな!』

 

「あれは論外だ。一方通行(アクセラレータ)とやらの戦闘を経て少しは“マシ”になったようだが、未だに我々が何足るかも理解出来ておらぬだろう」

 

 ──巫女。

 

 今現在巻き起こっている事態の渦中に居るであろうあの少女に対し、忌々しげに嘆く。

 

「ええ。ですが、今回の騒動……いえ、“異変”は予期せぬ恩恵をもたらしました。既に“土壌”は完成しており、“あの方”の介入はもう待つ必要は無いかと」

 

 しかし、青髪の女の発言に目を見開いた。

 

『む?』

 

「! それはつまり──」

 

「──計画を早めましょう。我らが偉大なる主君の復活を」

 

 歓喜の声が二つ。

 

 千年と四百年待ち続けた悲願。かつては成就し、しかし失われた大望が今ここに。

 

 貶められ、失墜した“幻想”は甦り、虚構を否定せし現実へと舞い戻る。

 

 始まりは、紅霧でも春雪でもなく──。

 





次と次くらいで終わるかな……タブンネ
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