機動戦士ガンダムSS -アフターストーリー オブ センチネルー   作:豊福茂樹

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 泣いても笑っても残り3話! 人間ドラマ回、ラブロマンスの後編となります第10話。
 ここまで読んで下さり本当に有難う! ここから読んで下さる方も本当に有難う!
 どこから読んでも面白くなる様、頑張って書いてまーす。
 どうか最後まで付き合ってやってください。
 
 ルーツには母がいた。
 今、やっとルーツは彼女が彼に何を遺したかを知る。
 それは一台のポルシェ。
 それはALICE。
 それは命。
 それは掛け替えの無い―――
 そして、ガンダムは目覚める。
 
 それでは本編をどうぞお召し上がりください。
 m(--)m
 
 追伸その1:捩じれ骨子様、毎回欠かさず感想を下さり大変励みになっております。有難う!
 追伸その2:モデルグラフィックス編集部様、原作者高橋様、御読み頂けていれば幸いです。今回は遂にルーツ博士の死の真相に迫る謎解き回となっております。勝手な推理ですが、これで合っていますでしょうか?(合っていると思ったからこの作品書いたんですけどね(苦笑))


スタンド・バイ・アス

 機動戦士ガンダムSS

 

 第10話:――スタンド・バイ・アス――

 

 -1-

 

 親無し家無し根無し草。

 奴らにゃ幸せと呼べる宝など、仲間の他にはありはせず、子守唄の温もりなど、エンジンの音と熱しかありはせぬ。

 優しいパパママのいるヤンキーもどき、おイタの過ぎるピーターパンよ、ここから先は、家に帰ってねんねの時間。

 二つ輪四つ輪の幽霊船、亡者の群れ(レギオン)がやってくる。

 命知らずも適わない、はなから命が欠けてる奴等。

 それが証拠に皆が言う。

 テールランプが遠ざかるまで、いつ近付いたか抜かれたか、気付かせもせぬ実体無き幽霊と。

 見かけだけは荒々しい、パーティー気分の連中は、所詮怖がらせるだけのシーツを被った奴らの猿真似。

 奴らこそが闇夜の支配者、ノーライフキング。

 (かつて実在したと言う伝説より)

 

 -2-

 

 ラグランジュ4、月間航路。アルビオン。

 ヒースロウは自室でワインの封を開ける。あまり有名な銘ではないが、フランス産のお気に入りの赤だ。チューブで無くグラスならば言う事も無いが、それは贅沢と言うものだ。

 つまみにはクラッカーの上に山羊のチーズを載せ、黒胡椒を少しペッパーミルで轢いた物。

 一時期胃を悪くして良かったと思う事は、自分の舌に合わないモノが食えなくなったおかげで、こうして本当のお気に入りのいくつかを見つけれた事だ。

 かつて同じエリート組で食事に行って、誰かが「味はどうだった?」と聞くと、誰かが「高かったのだから美味かったに決まっているだろう」などと言ったやり取りは、今にして思えば自分も同僚も可哀想に思える。

 そんな自分達は、他人の失敗自慢や苦労自慢など、鼻で笑っていた。

 お前等のそれは、意味の無い自罰行為で、さも自分が努力したと見せかけるためのポーズだ。結果こそがすべてだと。

 無論、今でも本当の意味でそんな事をしている奴らは見かけるが、今更そんなのを半端に小馬鹿に鼻で嗤う暇は無く、ポーズを止めさせるための、やんわりながらの手厳しいアドバイスしかする気はない。

 だが、自慢してもいい苦労はあるのだと、教えてくれた者達はいる。

 己の登るべき山が見えており、そこに登る為の苦労を厭わず飲み込める者達。

 かつての自分達こそ、山に登らず効率よく平坦な道を散歩する人生を、勝利者の道とはき違えていた。

 それはたまたまの勝者であっても、本当の意味での勝利者ではない。自分にも他人にも利をもたらす行為ではない。

 苦労や一時の非効率を承知でも山に登れば、必ずその報いはあるのだ。

 この赤ワインと山羊のチーズも、ささやかながらその一つだろう。

 そんな時、ドアベルが鳴る。

「ルーツだろう、入れ」

 何故か声まで聞かずとも分かった。そろそろだろうと思っていたし。

 見ればなかなかいい面構えになっている。

「決心はついたのだな」

「ああ」

「ならばお姫様も連れて来い。ナイトとして優しくエスコートしてやれ」

 その言葉にルーツが顔を赤くするが、今度は怒ってはいない。ただの照れだ。

 ブラウンを呼びに行くその後ろ姿を見送った後、ヒースロウはルーツに付いて来ていたジェファーソンと顔を見合わせ、ほろ苦く笑い合った。

 

 -3-

 

 少し前、ジェファーソンの部屋。

「ケイはね。とても人の心が良くわかる、良いお巡りさんだったんだ。だから、誰からも好かれていた。彼の検挙率が高かったのは、その優しさからだったんだ。犯人も、力尽くで無く、説得で確保していた。彼の検挙した人は、いつも反省の色が濃いと見做され、刑期が少なく判決される事でも有名だったんだ」

「そんなに優しかったんなら、何故?」

「それには二つの意味があるね。まず軍機密警察の方から話そう。そんな優秀な彼を上が放っておくわけも無く、当然引き抜きが来た。彼は迷ったが、結局引き受けた。エレノアが強く勧めたからだ」

「何でだ?」

「それは二つ目の答でもある。『自分は自分の仕事を愛し誇りを持っている。私が好きになったのは同じ様に仕事を愛し、誇りを持っている貴方だから』と言って、送り出したんだ」

 それは、ルーツの心に重く深く響いた。まるで自分とブラウンの事の様ではないか、と。

「結論から言えば、留めるべきだったと私は後悔した。何故なら、彼女の気持ちをちゃんと察してフォローできるのはいつもケイだけだった。エレノアは、ケイがいないと研究以外ではまともに人とコミュニケーションが取れない人だったんだよ。それは、彼女と二人で暮らす事になった君が良く知っているんじゃないかね?」

「――――っ」

 ルーツは、とてもとても深く後悔した。バックスに偉そうな事を言えた義理か。

 自分こそ、叫べばよかったのだ。たとえどんなに幼くとも、いや、幼かったからこそ。

『父さん、僕と母さんを置いて行かないで!』と。

「最近、ようやく機密指定の期限が切れた事件の閲覧をさせて貰えた。彼は、例え軍内部の不正や犯罪であろうとも、一般市民を相手するのと何ら変わり無く、犯罪に手を染めざるを得ない谷間に落ちた軍人を、ただ救い続けていたんだよ」

 ルーツは泣いた。

 父さん。アンタは、俺がその背中を追いかけた、マニングスの様に優しい人だったんだ。と。

 そして、ルーツは信じてみる事にしたのだ。

 他ならぬ、そんな父が愛した母を。

 

 -4-

 

 ルーツ、ブラウン、ジェファーソンが椅子に並ぶ。

 ヒースロウはディスクをサンズに渡し、戦術戦略検討室のメインシステムに挿入させる。

 出撃前によく使う、ブリーフィング用の巨大パネルに、それは映し出される。

 

『貴方は、私を恨んでいるでしょうね、リョウ』

 それは、蚊の泣くような小さな声を、無理やり機械で増幅したものだと誰もが分かった。

 リョウは思い出す。コロニーから地球のアメリカに移り住み、母とお手伝いとの3人で暮らしていた頃を。

 母はほぼ何も喋らなかった。たまに口を開けば、決まって小声で『貴方の好きにしなさい』の一言のみ。

 料理も作らなかった母に愛されているなどと、当時のリョウは欠片も思えなかった。

 小遣いは不自由なく与えてくれたが、それにしても金持ちの子に比べれば普通と言ってよかった。母の研究は高く評価され、多額の収入を得ていると言う噂にも拘わらずだ。

 母は彼にとって冷たい人でしか無かった。

 リョウは喧嘩を繰り返す粗暴な少年に育つ。

 母は教師に呼び出され何を言われても、無口無表情で、ただ少し謝罪らしく頭を下げるだけ。

 リョウは馬鹿らしくなり、教師にばれるようなヘマをやらぬ、より性質の悪い悪ガキとなった。

 救いは弱い者いじめをせぬ番長気取りだった事ぐらい。

 だが、画面の中の母は、その事をすべて逐一分かっていたのに、

『何一つ上手に愛せなくてごめんなさい』

 とばかり、繰り返した。

 彼女は、ある言い訳を始めた。

『私は、貴方があの人に似てしまう事が一番怖かった』と。

 彼の様に優し過ぎ、誰にも求められ過ぎ、自分の様な愚かで価値の無い女から飛び立たねばならない、立派過ぎる人間になって欲しくなかったと。眩し過ぎる人になんかなって欲しくなかった。どうして自分を選んだか疑問に思うような。

 親のエゴと分かっていても、己の好きな事さえすれば満足するような、自分みたいな小さな人間で良いと。

『貴方の好きにしなさい』

 たとえ嫌われても、それだけが不器用な彼女が子供を引き留めるための鎖だったのだ。

 ある日、16になったリョウから、自動車を買う金を要求された。

『親らしい事なんか何一つしねえんだから、それぐらい寄越せ!』

 リョウが欲しがっているのは、草レースにも出れるような高性能スポーツカーだった。

 彼女はネットで相場を調べた。

 その時、近くの自動車屋で売られていた、格安の青いポルシェに目が留まる。

 彼女はどうしても気になり、その店に行く。

『こいつは酷いマシンだからな。ゴミ改造でまともに走りゃしねえ。純正の部品を揃える方が高く付くから、安く叩き売るしかねえんだ』

 違う。この子はまともに手を入れ直せばちゃんと走る。きっと誰よりも速く。

 それは機械を愛す事しかできぬ、不器用な人間の直感。

 あの子はきっとこの車を選ぶのではないか、いや、まるで自分の様なこの車を選んでほしかった。

 彼女は、丁度その車が買えるだけの金額をリョウに渡した。

『ふざけんな! ファミリーカーしか買えない額だと! どこまで人を舐めてやがんだ!』

 他の裕福な子達が望み通りの額を貰っているのを知っていながら、彼女は、

『それしか出せない。甘えないで』

 と告げた。

 そして、望んだ奇跡は起きた。

 リョウは、その青いポルシェを買ったのだ。

 彼がガレージで、同様のポルシェに乗る同じ日系人の先輩の手を借りて、何度もセッティングを繰り返すのを、彼女は毎晩胸を熱くして眺めた。

 どうか、このままこの子が、レーサーか旅客機のパイロットにでも、いいや、ただのタクシードライバーや自動車整備士とかでもいい、平凡で小さな、だけど幸せな人生を歩んで欲しいと。

 でも、その希望は叶う事は無かった。

 結局リョウは、走り屋グループの若手のガキ大将となり、何だかんだで、より面倒見のいい男になってしまった。

 そして、あの人と同じ地球連邦軍に所属する事を選んでしまった。

『俺は無法のMS海賊から、舎弟や地球を命張って守る! テメエみてえな、誰も大事にしねえ、守ろうともしねえ、臆病者になんか誰がなるか!』

 彼女はいつもの台詞を言った。

『貴方の好きにしなさい』

 でもそれは、リョウを縛り付ける為の鎖では無く、解き放つための言葉だった。

 そうだ。結局この子もあの人と同じ、私には留められる事の無い翼を持った、本当に優しい、本物の男だったのだ。

 もう、貴方は、愚かしく身勝手な私を真似などせず、思う存分、格好良い身勝手で我が儘に、その光り輝く魂のままに、『転がり続ける石の様に』、優しいあの人の背中を追いかけてお行きなさい。

 彼女に残ったのは、研究だけだった。

 せめて息子の代わりに、今度はこの手で、コンピューターを、AIを、本当の人間の心を持った女の子に育てよう。

 だが、どうやっても、その子は本当の人間の心を持つ事は無かった。

 その女の子、ALICEは。

『だから、私は、最後の賭けに出る事にしたの。それは、アシモフのロボット3原則を完全に破る事。彼女に与える絶対の命令はただ一つ』

 

 ―――『ALL FREE』、あなたの好きにしなさい―――

 

『でも、私は今になってそれがどれほど残酷な事か気付いたの。小さな小さな子供がそんな事を言われれば、その子がどうしたらいいのか途方に暮れ、絶望するしかないのだと、貴方にどれほど残酷な事をしていたのか、やっと気付いたの。

 今更謝った所で何も取り返しはつかないけれど、それでも謝らせて、

 ―――御免なさい。リョウ』

 

 ルーツはもう、画面をまともに見る事など出来ず、まさしく小さな子供の様に泣き崩れた。

 ブラウンは、母親が子供にするように、ただ、優しく体ごと寄り沿う。

「謎が解けたよ。おそらく彼女が言ったように、ALICEは絶望したんだ。彼女は家事用ドローンを使って自殺する事を選んだ。エレノアは、ALICEをかばって、ドローンに殴り殺されたんだ」

 ジェファーソンも涙を拭いながら言う。

「そして、ALICEは彼女を殺してしまった後悔から、正気を取り戻し命の尊さを知ったのだろうな。以降のALICEは、どこまでも健気に忠実に、大切な自分の命と乗り手の命を守ろうとする女性になった。時に乗り手からコントロールを奪ってでもだ」

「ッ! ヒースロウ!! まさかっっ!!?」

「馬鹿な、ALICEは完全廃棄されたはずだ?」

 驚愕するルーツとジェファーソン。

「そうだ。それは、お前のかつての喪った愛機、Sガンダムに搭載されていた。彼女は、お前の母親に命を救われたから、お前の命を何度も救う女性になった。最後には、お前の母の様に自分の命を捨てでもだ。お前の母親の愛は、ちゃんとお前に届いていた。お前は、ALICEを介して、確かに母に愛された。文字通り、命懸けでだ」

 

 偽善と言う言葉がある。

 人は、時にさも自分が善き者のように振る舞い、小さな独りの利益を浅ましく得ようとする。

 だが、偽愛と言う言葉は、無い。

 人の愛は、一見、どれほど不器用で愚かしくとも、そこに確かにあり、偽りなど無い。

 その確かな証拠は誰にでもある。

 それは、今、貴方が生きている事だ。

 人と人が愛し合うという歴史が、確かに今ここに繋がって来たと言う、確かな証なのだ。

 それを、決して忘れてはならない。

 

 -5-

 

 その後、ルーツは、長い間、本当に長い間、泣いていた。

 ヒースロウ達は部屋から退出し、ただブラウンだけが変わらず彼に寄り添う。

 必要なパスワードは、≪GHOSTCAP15≫だった。

 それは、何の事は無い、青いポルシェのナンバープレートに刻まれたナンバーそのままだった。

 奇遇にも、ガンダムSSの制式番号、MSF-15とも符合する。

 そして、彼女は最後にこう言い残してもいた。

 どうか、それがどんなに図々しい事か承知だが、自分の最後の我が儘な願いを聞いてくれるのならば、このパスワードを必要とするであろう、シェリー・ブラウンと友達になって上げて欲しいと。

 彼女も自分と同じ、不器用な人間だから。

 おばさん臭い欲まで言えば、恋人同士になってもらいたかったけど。とも。

 言うまでも無い。

 その最後の願いは、最高の形で、もう叶った事を。

 

 クリプト達は、ドアの向こうから、そんな彼等の姿をそっと眺めた。

 そして、声をかける野暮な事などせず、去って行く。

 居住区に戻る道すがら、クリプトは、傍らのランファンに告げる。

「なあ、俺達も付き合わない?」

「っ???!」

「言っとくけどマジだぜ」

「お、おめぇ、世の全部の女性が愛するハーレムの姫君じゃなかったのかよ?」

「ああ、まあそれが俺のポリシーだけどさ、恥ずかしながら言うと、そいつはこの船のクルーみんなが俺の守るべきダチだってのと同じ、プラトニックなモノなんだわ。所謂男と女の仲になりたいのは、ランファンちゃんだけだぜ。信じられねーかもしんないけどな」

「ままま、待て、ちょっと待て!」

 ランファンは真っ赤になって怒ったように喚く。

 そんな二人を置き去りにして、残りの面子はニヤニヤ笑いながらそれぞれ自分の部屋に戻って行く。

 カーリーはちょっとだけ目の端に涙を浮かべ、呟く。

「やっぱこうなるって~、わかってましたけどね~」

 この戦いが終わったら、やっぱりランファンちゃんみたいな可愛い男の子探そう。

 きっとこの世のどこかには居るはず。

 彼等が、めぐり合うべき人に巡り合ったように。

 

 -6-

 

 ラグランジュ1宙域、サイド4。

 スミス達の海軍MS運用研究チームの所属する、後のサナリィ社、海軍外郭団体≪戦略戦術研究所≫。

 アルビオンは一先ずここで補給を受ける。

 彼等が戦略戦術研究所に発注した、特殊な弾薬やパ-ツなどのコンテナが次々と運び込まれる。

「ご注文の品はこれで全部です。ヒースロウ准将」

「有難うございます。ジョブ・ジョン次長。一年戦争の英雄にお会いできて光栄です」

「いえ、僕など只ホワイトベースのみんなの添え物でした。それこそステーキの添え物のポテトとかキャロット程度です」

「ご謙遜を」

「本当なんですけどねえ。役職だって、次長や課長どころか、係長位が身の丈だと思うんですけど。それよりもスミス達は良くやってくれてますか?」

「ええ、この上無く」

 ヒースロウは、さも自慢とばかりに笑う。

 ジョンもさも自慢とばかりに笑い返した。

 

 一方、ルーツとブラウンは、ALSSをどうするべきか、話し合っていた。

 ヒースロウとジェファーソンからは、責任は持ってやるから、お前たちの好きにしていいと言われた。

 散々考え抜いた末、選んだ絶対的な命令は、二つ。

 

 ――あなたの好きにしてもいい。思うままに生きてもいい――

 ――ただし、人に寄り添い続けて欲しい。私達も貴方に寄り添い続けるから――

 

 『ALL FREE BUT STAND BY US』

 

 やがて、ALSSは、愛称アルトリウス・ペンドラゴン、アーサーは、真の意味の人工知能として、再び目を覚ます。

『スタンド・バイ・アス。とても、とても嬉しい言葉です。お父さん、お母さん。僕は、これからも貴方達の子供でいてもいいんですね?』

 二人は、とめどなく、涙を流す。

「勿論だ、勿論だとも、アーサー」

「ええ、貴方は私達の自慢の愛する息子よ」

 彼等は、一番大切な伝えるべき事を、間違えなかったのだ。

 

 こうして、後のサナリィの片隅で、ALSSは、ガンダムSSは、真の意味で完成し、産声を上げたのであった。

 

 今 ここに 生きている事が たった一つの愛の証。

 ただ 貴方の 側に居る事が たった一つの私の愛。

 ただ寄りそいて 生きる事が たった一つの愛だから。

 

 -7-

 

 月面中高度軌道。機密建造巨大マスドライバー『サイクロプス』

 これが完成し、アステロイドベルトに設置されれば、今後半永久的に地球圏が金属資源不足に悩まされる事は無い。

 金属資源だけに限れば、地球はもうその美しい地表を二度と荒らされる必要が無くなるのだ。

 それは宇宙移民と連邦、両者の最大の存在意義だった。

 地球の環境回復と言う、宇宙世紀のそもそもの意義の。

 無論それは、21隻の戦闘艦艇と、連邦でも最強クラスの81機のモビルスーツ、そして各種の補助艦船からなる、強力な一個艦隊、MSにして一個連隊によって、厳重に警護されていた。

 百式改、Zプラス、ZⅡ、量産型ZZ、FAZZ、ガンダムMk.Ⅲ、Ⅳ、デルタガンダム等の錚々たる強力機。残り半分の数合わせの量産機ですら、ジムⅢさえも一機も無く、最新鋭のジェガンだ。

 極め付きは9機一個中隊の最新鋭機、現時点に於いて連邦最強機体と見做される、レッド・バレトだ。

 ファット・バレトやシルヴァ・バレトの兄弟機でもある、ガンダムMk.Ⅴ系列であるこの機体は、重装のファットと、汎用軽装のシルヴァの中間、いや両方の長所を、強欲に取り込んだ機体と言える。

 ファット程では無いが、強力な大型バックパック。武装のビームライフルとビームカノン2門、ミサイルポッドの構成はMk.Ⅴに準ずるが、何より背中に4基、両膝に2基の計6基のインコムによる疑似オールレンジ攻撃能力は、ただの一機でへたな量産9機の一個中隊以上に匹敵すると言われ、実際、演習でもその通りの実績を上げている。

 本来ならば、同数の81機を揃えても勝ち目など無く、約半数の44機しかいないウラノスになど、全くその目は無い。

 本来ならば。

 

 -8-

 

 L1、サイド1。出港前のアルビオン。

 後の、陰の連邦最強MS部隊とも呼ばれた特殊部隊。

 連邦軍装甲機動警察保安隊。

 その、始まりの第一歩は――――

「よおぉっし! これからはテメエらを正式に俺様の舎弟と認めてやる! 俺様の喧嘩の流儀を教えてやらあ!」

 只のヤンキー決起集会だったと、ある者は語った(酷い)。

 ルーツはMSデッキの空きコンテナの一つの上に仁王立ちになる。演説台のつもりだろう。

「あー、はいはい」

「改まった振りしても、どうせいつもの説教だろ」

「テメェの気持ちで喧嘩しろだの、中身あるんだか無いんだかわかんねえアレな」

「………僕も、大体あの人が顔も中身もゴリラなのはわかってきました」

「きっと、うっほうっほってドラミングするんだよ」

「言えてます~」

「いひひひゃはっはは」

 クリプトはただ笑い転げる。

「うるせえ! 黙って聴けえ! 文句言う奴あマンツーマンで地獄の3時間集中コース食らわすっぞゴラァ!」

「「「…………(やっぱ無限体力ゴリラ)。」」」

「ええと。おそらく大尉は、我々のMSの新装備の運用法について、心得をお話しになられるのだと思います」

 フォローするバックス。

「なんだ、分かってんじゃねえか。流石バックス」

「恐縮です」

「流石中尉」「神ですかアンタは」「ゴリラの神調教師現る」

「僕は中尉が指揮をとった方がいいと思います」

「「「同感」」」

 言いたい放題にルーツのこめかみに青筋が浮かぶ。

 なんとなく空気を察して皆が黙る。

「さ、大尉、続きを」

「あー、うん。じゃあ、まず俺の昔話をするな」

(((やっぱ神調教師)))

 ルーツ達走り屋グループの内の一部には、裏の顔が有った。

 彼等は、幽霊と呼ばれていた。

 彼等の車には、いつも後部座席に野球のバットとグローブとヘルメット。

「野球でもしてたんですか?」

「いや、所謂街を締めるケジメの為の得物だ」

「…………まさか」

「やっぱ、ならず者だったんだよこの人」

「ガチヤンキーじゃねえか」

 レイプ犯や車やバイクの窃盗犯、子供や老人がいつ飛び出るかわからない住宅地で危険走行をするヤンキーもどきだの。

 そう言うのを制裁するのに、とても便利な得物だったのだ。

 なにせ、まず絶対に危険な凶器として警察に取り締まられない。

 ルーツ達の得物がバットとの噂を聞き、より凶悪な打撃力を求めて、釘だのを付ける未熟な馬鹿ヤンキーもいたが、実際には役に立たない。

 すぐに取り締まられるのは勿論、いざ凶器として振るおうとすると、肝心の振る自分がビビってろくに使えない。

 その点普通のバットは、頭さえ狙わばければ、気軽に振れる。無論、相手が外道に限りだが。手足の骨2、3本折っても良心が少ししか痛まないからだ。

「もうヤダこの人」

「俺、ハイスクール時代にこの人達に道端で出会ってたら、真っ先に道を御譲りしたであろう自信ありますよ」

「俺なんか今でもするぞ」

 特にタチの悪い奴には、ケツからモ○プを生やして写真撮ってやったぜと言うくだりになると、もう全員御通夜状態。

「言っとくけどこれ、絶対に半端な真似すんなよ。調子に乗って写真ネタに揺すって金品要求するとかよ、まず間違いなく恨み買って殺されっからな。つーか、んな性質の悪い猿真似した奴を俺達がどうしたかわかるな?」

 分かりたくない!とか、誰がするか! と言うツッコミをする気力すら残っている者が一人もいない。

「そう言うのの綱渡りの感覚ってのはな、俺等みたいな、ハナから親を当てにできなかった人間にしか身に付かねえ。俺達が幽霊だなんて名乗ってるのは、帰る家の無え死んでるも同然の奴らって意味もある」

 世の自動車やバイクの窃盗犯の皆様には、うっかりそう言う人や、その仲間の愛車やバイクを盗まない方が身のためと、心よりの忠告をさせて頂きます。

「いや、まあ、言いたい事は良くわかったんだけどさあ」

「聞きたくなかった」

「俺たちゃ正義の味方どころか、ガチ極道のヤクザの仲間入りさせられたんじゃねえか!」

「ひどいにも程が有ります~」

「いや、ちょと待て、どう聞いても正義の味方だろうが!」

「「「んな訳有るかあああっ!!!」」」

「それに第一だ、学校の訓練でちゃんと言われてたろうが、MS乗りなんざ、イカレたサイコパスの精神異常者の、紛う事無き正真正銘のヤクザだって、親切に。それでも辞めなかったんだから、ちゃんとその覚悟は前からあっただろうが?」

「タダのいびりの口実だって思ってた」

「本音だったんだ」

「ごめんなさい、教官や鬼軍曹たちの『はよ辞めて故郷に還れ』って愛が今更身に染みちゃう」

「おい、俺も言ってたろうが? 俺への感謝は?」

「………いや、アンタこそ殴っても良心の痛まない犯罪者を嬲って喜ぶ真正のサディスト」

「んだんだ」

「キャプテンフックの異名はまさにアンタにこそ相応しい」

「まあ、全面の否定はしねえが、言い方」

「「「否定しろよ、馬鹿ぁ」」」

「まあ、だからな。俺達のやる事なんざ、まさしくキャプテンフックとその一味がやる事なんだよ。半端に悪ぶってるいい子のピーターパン達は、ちゃんとお家に帰ってママのオッパイしゃぶんなってな。『はよ辞めて故郷に還れ』だ」」

「「「あーまー確かに」」」

「流石大尉です」

「うん。バックスはやっぱりわかってんな」

(((マジ神調教師)))

「ま、言うまでもねえが、俺たち自身も、ちゃんと生きてママのオッパイしゃぶりに還らなきゃなんねえ。俺にはそう言うのに縁がねえと思ってたが、しゃぶるオッパイ出来ちまったからな。クリプトとランファンもだろ」

「「んがっ!」」

 赤くなる二人。皆が口笛を吹く。

「まあ、俺の場合は、オッパイよりもむしろ感度のいい―――ってうわっ!」

 クレーンフックがルーツ目がけてやってくる。慌てて避けて、コンテナから転げ落ちるルーツ。

 遠隔操作したのはもちろんブラウン。

「一回やったくらいで調子に乗る馬鹿は一体誰かしら?」

「ってー。あーワリ、御免。まあ、お前にゃ可愛くいて欲しいから、今度からはデリカシーには気を付けっわ」

 ブラウンは顔を赤くする。

「……そう言うアホの癖に妙に素直な処が狡いのよ」

「うわーのろけー」「ごちそう様でした」

 和気あいあいと笑い合う皆。

 だが、笑いを浮かべぬ者もいた。

 ウェストである。

「ルーツ。いいや、リョウ! どうしても連れて行かない気かよ? 友達じゃなかったのか?」

「例のビグロ改の改修、間に合わないんだろ?」

 ビグロ改のジェネレーターをチューンし、コンデンサーを強化した新型に変える事によって得た余剰電力で、ベースジャバー用の長距離ブースターを強化バックパック代わりに使う改修案は出た。

 だが、そもそも元が古い上にジオンの機体なので、必要なパーツを一から作らねばならない。規格品の流用が出来ず、今回の件には間に合わないのだ。

「それにな。お前はもうとっくに堅気になってんだ」

「そんな、軍人だよ! まだ兵隊ヤクザだよっ!」

「違うんだ。お前は、同じ軍に所属してても、もうただの運び屋なんだ。気の良い宅配便の兄ちゃんさ。こんな生き方しかできない、不器用な出来損ないなんかじゃあ、とっくの昔に、無くなってたんだよ」

「う、うわあああ。酷いよ、酷いよ。置き去りにするなんてひどいよおぉぉ!」

 泣きじゃくるウェスト。

 そんなウェストの肩を優しく叩くクリプト。

「ちげーよ。俺やリョウやシグマンの方が置いてかれたんだ。まっとうな生きる道を、美味しい処って奴を見付けて、そこに羽ばたいて行ったお前にな」

「あ、あ、あ、あ、うわあああああああ」

 ルーツとクリプトは、ウェストが泣きやむまで、そっと彼の背の上に手を乗せ続け、周りもまた、黙って見守った。

 

 愛される者は、それに応え生きねばならない、生き続けねばならない。

 愛されぬ者も、また、いつか出会うであろう愛し合う誰かの為に、生きねばならい。生き続けねばならないのだ。

 どんなに苦しくとも。

 それが、命をこの世界から与えられた者の、義務なのだ。

 ただ、寄り添い、愛し合う為に。

 

 -9-

 

 月近傍。

「はあ」

 マゼラン級老朽艦、ユリシーズ艦長、ガスティン・リー大佐は溜め息を衝く。

「私は何をやっているんだろう?」

 温厚篤実な人柄で、部下には『パパ先生』などとあだ名されるも、上層部に対して歯にもの着せぬ物言いが災いし、出世コースからは外れた身。

 艦隊砲撃戦の名手としての名声は高いが、それなら重戦艦にも拘わらず、改装するには古過ぎて危険なせいで、MS搭載数は6機しか積めぬ、骨董品の本艦で充分だろうと、括り付けられて早16年。

 別に出世に未練がある訳では無い。

 だが、退役後の年金で安楽な生活をするはずだったのが、何でこんなヤバイ橋を渡っている?

 決まっている。嫌気が差したのだ。

 結局連邦軍の体質は、彼が何度口酸っぱく言っても、ウォンの様な俗物を生むのだと思い知った。

 ウォンが悪くない訳でも無いが、彼一人の責任でもない。

 嗚呼、夢見てしまったのだ。

 皮肉屋で現実家だと思っていた自分に、まだそんな火がくすぶっていたとは。

 彼等を戦場に連れて行けば、何か変えられるのではないかと。

 ブリッジから、隣の兵員輸送船オデュッセイアを見る。

 あの船に乗る捕虜達は、敵MSの重要な機械的機密を知っているので、サイド1の≪戦略戦術研究所≫に移送する必要が有ると言い張り、連れてきた。

 大嘘である。

 負けたのだ。

 彼等が、かつての同胞であるウラノスを説得してくれると言う、その熱意に。

 今まで思うままにならぬ現実ばかり見て来たし、これからも変わらぬと思っていた。

 全ては歴史の大河の中。そう達観ぶっていた。

 だが、あの若者たちの、現実に抗う姿に負けてしまった。

 あの言葉は、リー自身も、かつて誰かに言って欲しかった、言いたかった言葉ではないかと。

 そして、一番言って欲しかった言葉を言ってもらった捕虜達が、今度は仲間にその言葉をかけるために行きたいと、言い出した時、『パパ先生』は聞き入れずにいられなかったのだ。

 自分は自分で思っていたよりも、お人好しのバカだったらしい。

 ユリシーズ1隻とジムⅡ6機。

 無論戦闘に加わるつもりはない。だが、近付くだけでも、この戦力では自殺行為だと充分わかりながらも、彼は先行するアルビオンを追いかける。

 砲撃戦の名手たる自分が、火砲の一本でも、撃ったら負けな戦い。

 いっそ皮肉過ぎて、痛快ですらあるではないか。

 

 -10-

 

 地球、エル・アラメイン宇宙港。

「打ち上げが4月2日に延期?」

 アムロはブライトに問い質す。

「ああ、ディジェの宇宙空間仕様、ジェダへのパーツ換装が遅れているらしい。予備機のZプラスなら大した部品交換が無く、移動中でのプログラム変更とかで済むらしいが?」

「プラスは便利に使い過ぎて正直ガタが来てるよ。1日待った方がよさそうだ」

「大気圏内ではWRMSは使い勝手が良過ぎるからな」

「それにどちらかと言えば、僕は可変機よりも人型の方が性に合っている。WRMSの新型が今後近い内に回ってくるらしいけど、実はアナハイムに新しい専用機体の基礎設計を送ったんだ」

「流石テム・レイ博士の血だな」

「幽閉中に、勉強し直す時間だけは腐るほどあったからね」

「人生悪い事ばかりじゃないな」

「まったくだ」

「機体名は?」

「ニュー。νガンダムと名付けてみた」

 そして、このエイプリールフールに化かされた僅か一日が、後に大きな一日となる。

 

 -11-

 

 月中高度軌道、サイクロプス建設宙域。

 護衛艦隊司令、マクスウェル少将は、旗艦マゼラン改級テスタロッサのブリッジで呟く。

「奴らが噂のウラノスか」

 艦橋の拡大パネルに煌めく、戦艦も含めて約50の光点。

「面白い、誰に喧嘩を売ったか教えてやろう」

 犬歯を覗かせる獰猛で不敵な笑み。

 

 ウラノス旗艦、ウラケノス。

「ナパタイ、エッケンベルガー、指揮は任せた」

『了解、オヤッさん』

『お任せ下さい』

「セヴ、ノイ、そしてラドック君。味方の損害を減らすためには、正直君らを頼りにするしか無い。どうか頼む。だが、決して死ぬ事も怪我をする事すらも許さん。お前等は私の可愛い子だし、ラドック君もサイド3でゴルゴン君が待っているのだろう?」

『分かった』『怪我しない』

『済まん』

「何をかね?」

『正直、外様の私をここまで気にかけてくれるとは、思っていなかった。貴方をウラノスの兵が慕う理由も良くわかる。貴方のお気持ちは嬉しいが、この命、張らせてもらうとする。恩義の為に』

「……ウラノスが政権を掌握した日には、君をジオンを代表とする幕閣として迎えたいものだ」

『流石にそれは過分に過ぎる』

「なら、君は謙遜が過ぎるようだ」

 苦笑をモニター越しに交わし合う二人。

 だが、胸中でラマカーニは昏く笑む。

 これで、彼をアムロ・レイにぶつける捨て駒として洗脳する事が出来た、と。

 

 -12-

 

 サイド1、月間航路。

 アルビオンのブリッジでレーダー担当官が声を高くする。

「敵影、サラミス改級2隻」

「敵は、こちらをちゃんと高く評価してくれているようだな。わざわざそこまで戦力を割くとは」

 ヒースロウは制帽を被り直す。

「ルーツ達は?」

「スタンバっています」

 直立不動のサンズ。

「よし、では直ちに発艦準備だ」

「了解です」

「艦載MS発進を確認、数はおよそ2個中隊、19機!」

「こちらの2倍強、石橋を叩いて渡る、か。そういうのは嫌いではない。が、計算通りにはいかせはせんぞ」

 そして暫くしてルーツの声。

『オーライ、こちらMS戦隊。戦隊長ルーツ、全機発艦準備完了を報告します』

「直ちに発艦せよ」

『OK、ヒースロウ! 野郎ども、ロックンロール!!』

『『『ロックンロール!!』』』

「だから、司令を付けろ! 糞餓鬼!!」

 私の様に結局は笑って済ます大人ばかりでは無いのだぞ、とヒースロウは苦笑する。

 

 -13-

 

 同宙域近傍、兵員輸送船、オデュッセイア。

 ジミーと言う名の元ウラノスの捕虜がいる。

 彼の片腕は無い。先の戦闘で失った。

 彼は以前ギターの名手で、彼のその肉体の欠落を、仲間は大層惜しんだ。

 だが、彼は、残されたその声で歌を唄った。

 ルーツとバックスの叫びを、彼なりに歌にしたと言う、その歌は、誰もが聞き入り、やがて船中の人間が口ずさむほどとなって行く。

 彼等は決意する。ルーツとバックスの言葉を、そしてこの歌を、ウラノスの兵達に聴かせて見せるのだと。

 

 苦しみ満ちる 刻も耐え抜き 大切なものを 探し歩いてく。

 その人生 この世界に 報われぬ時も 生き抜いてきたね。

 誰かの笑みが 咲く時感じた 宝の地図だけ 頼りにして。

 ただ寄り添って 愛し合う事が たった一つの命の形。

 ただ愛し合って 寄り添う事が たった一つの星の形。

 ただ寄りそいて 生きる 事が たった一つの愛だから。

 

 その歌の輪の外で、ある兵士が一人壁を叩き俯く。

「くそっ! アルビオンだなんて、今更何の冗談だよっ!」

 座り込み、顔を押さえ蹲る。

「どうすればいいんすか? バニング隊長。憎むなだなんて、やっぱり俺には無理なんですよ!」

 

 ―第11話に続く―

 

 

 おまけ。

 

※メカ解説

 

●デルタS、プラスF

 ガズィの進化ばかりでなく、これらの機体もバージョンアップ。

 とは言っても、大改造と言うほどでも無く、設定をよりピーキーにチューニングした結果、出来た余分の出力を活かすため、スラスターをそれぞれ大型化。と言う、前話のカスタムバウと同じ手法の改修である。

 結果、ガンダムSSと同じRR車の様な欠点も持つ事になった。

 以下、本編に入りきらなかった会話。

「どう扱ったらいいんだよぉ?」「癖が掴めねー!」「わかんない~」

「ばっか!オメー。ぐっとのペダルをバカンして、ぐうっときたら、アームレイカー(操縦桿)ガツンッして、ギュワーして、ビシッときたらまたペダルぎゅーどっかンだ!」

「「「???」」」

「分かるか馬鹿!」「人類の言葉喋れ!」「大尉は~、学校に入り直してください~、特に言語表現や作文の授業を~」

「お、おい、俺は人間じゃなくてサルか何かか?」

「「「その通りだ!ゴリラ!!  ジャングルでバナナでも喰ってやがれ!!!」」」

「あの」

「何だ?バックス」

「大尉が仰りたいのは、こう言う事なんだと思いますが」

 ――以下、前回メカ解説で紹介した内容――

 結果、バックスの株はますます上がり、ルーツの扱いが増々ぞんざいになったのは、言うまでも無い(合掌)。

 

●ファット・バレト、グスタフ・ガン

 同様のチューニングが施されたが、元々バックパックのスラスターが巨大で、キャパシティが大きかったので、交換の必要性が無く、見た目の変更は無し。ちょっと残念。

 

●ビグロ改

 当機の改造計画案は、後のフルアーマーユニコーンに活かされた。つまり、ベースジャバー用長距離ブースターの制御プログラム内に、推進材大量使用してのハイブーストモードが加えられたのだ。

 

●ウェーブライダー

 WRとは高速巡航飛行形態である。あまりに高速であるが故に、舵が過敏すぎると安定性を著しく欠く。

 故にその形態では重い手足で無く、より質量の軽い、大気圏中での翼部を、宇宙でのアンバックに用いる。

 ほとんどのWRMSでは翼の可動支点は中央や後方であるが、それはMS時と操縦特性をなるべく変えない為である。

 なので、ZZやS系の翼の可動支点は、RR車に似た操縦特性を変えぬ為、比較的前に付いているのだ。

 冨野監督には悪いですが、可変機はやはり男の浪漫。未来に地球規模の警察ロボットなんてものが必要になったら、現場に急行するのに絶対に必要なのは譲れません。でも、可変金属の無い只の貴婦人の方が新人形より好き(何のこっちゃ)。

 

●高機動MS

 折角なのでその後の海軍MS運用研究チームとその所属する戦略戦術研究所、後のサナリィの有名なFシリーズへとも続く話をする。

 1年戦争時から、高機動MSと呼ばれるこれらは開発されてきた。

 だが、これらは常にエース専用機であり、その機体構成はほとんど量産MSに反映されていない。

 今まで述べて来た様に、大型バックパックによる、RR車の悪癖を持つからである。

 もちろんその操り難さを緩和するための対策は施されてきた。

 脚部の大型スラスターや追加アポジモーター等である。

 ガンダム4、5、6号機、ブルー、NT-1、GPやTRシリーズ。ジオンならば高機動型ザク、ゲルググ等。

 そしてF91のプロトタイプ達。

 なら、これらの対策が施された機体が量産されなかったのは何故か?

 今度は、MR車と同じ、非常にスピンし易い悪癖を持つからである。

 結局エースにしか扱えない事に変わりは無かったのだ。

 後にアポジモーターを沢山つけた機体が出てきたが、これらはそのスピンし易い特性を、進化した制御プログラムで補正できるようになったからだ。

 だが、プログラムの介入が増えれば増えるほど、搭乗者である人間が機械を直感的に把握、操縦しにくくなる。

 それを最初に解決すべく試みたのが、サナリィとブッホの共同開発MS、ガンダムトリスタンである。

 特にブッホ開発のフルアーマーユニット、フェイルノートの放射状スラスター(後のビギナ・ギナも装着)がそれだ。

 そしてその機構の長所を取り入れるべく、サナリィが独自開発したのが、やはりF91の扇状スラスターやXボーンガンダムのXボーンスラスターである。

 これらは、重心や荷重中心点から遠く、また、機体を無理やり回転させるタイプのスラスターやアポジモーターと違い、常に重心や荷重中心点に向いたスラスターであり、その機構上、機体をスピンさせるのではなく、穏やかに横や上下に滑るように機動させる特性を持つ。

 つまり、大型バックパックを持ちながら、人間の生理上最も操り易いFR車の素直な操縦特性をも併せ持つのである。

 見方を変えれば、近代600馬力以上のスーパーカーが大抵そうである、4WDの安定性に近いともいえる。

 永野先生が、当時、本当の意味でメカデザインが出来るのは俺と大河原先生だけだ! と言ったのは、決して自惚れでも何でもない事実であった事を、皆様ご理解いただけたであろうか?

 まあ、筆者も考証だけなら同じ事できる(自称脳内3DCAD)が、前も言った様に、アニメや漫画ゲームの映像表現に不可欠の格好いい装甲、パーツとかのでじゃいん能力が(以下略)。

 以降は只の推察であるが、冨野監督と大河原先生の間でこのような会話がされたのではあるまいか?

「ジオンがさ、負けて行くんだよね。連邦よりMSの数値上の性能はいいのにさ、新兵がそれを引き出せずにジムに負けてく。そう言うの作ってくんない?」

「じゃあ、こんなの(ゲルググ)どうです? 操縦特性がMR車と同じで、素人には性能を引き出し切れず、スピンしてとっちらかります。その論法で行くなら、ドムも宇宙仕様にしたら、これと同じ操縦特性になりますね。結局方向転換におっかなびっくりでもたつくんですよ。速いのは直線機動だけ。エースは違いますけど」

 うわーお。そりゃ今の目で見ても、他のガンダムよりも一番リアルと言われる訳だよねえ。

 こっから先はまた余談。

 ガノタモデラーに有名な、とある作例が有る。

 熟練兵が自分は旧式のザクに乗り、新兵に新型のゲルググを与えて出撃するのである。

 美談ではある。実際問題、熟練兵ほど、信頼性の低い新型よりも、操縦癖がしみついた旧型の方が、腕でカバーできる分マシだから、新型は、まだ操縦に癖の無いまっさらな新兵に与えた方が、お互いの生存率が上がると思う訳だ。

 だが、それは間違った滅びゆく判断だった。新型こそベテランで無ければ扱えなかったのだ。

 そして、部隊が家族の様な絆で結ばれた、ドズル旗下であれば、尚更そう言う事が多かったのだろう。おそらくドム系列は、新兵に優先して与えられたのだ。

 それをしなかったのは、ガトーやラドックの様な、周りの信頼に応えるのが義務の、一部のスーパーエースに過ぎなかった。マツナガはスーパーエースでありながら、ドズルの家族愛の信念に殉じ、ぎりぎりまでRザクに乗り続けたのだ。

 逆にキシリアはその辺合理的で、新型機ゲルググこそエースに与える計算高い判断をした。だが、彼女は計算高過ぎて、策謀家で政治家であっても、軍人では無かった。故に、軍人ならばドズルでもわかる『戦いは数だよ』を理解せず、旗下の部隊をほとんどすべて戦力では無く、政治の駒としてしか見てなかったのだ。マツナガの邪魔にジョニー達キマイラ使うとか、陰謀し過ぎで脳味噌にカビ湧いてるとしか思えんわ(酷い言いよう)。

 兄弟仲間ちゃんと協力し合えてればねえ。デギンが、家族誰からも愛された、ガルマと言う求心力を喪い、バラバラになって行く家庭と公国を見る心中は、いかばかりだったか。

 愛し愛され上手な人は、ぶっちゃけ他が無能でも重要な人である。

 みんなも自分の家族や仲間や職場がまとまって欲しければ、そう言うとこ、気を付けようね。

 シャアにしてみれば、してやったりだったんだろうけど。

 でも、実は、彼と言う人間に欠けた全てを持っていた、無二の親友を自らの手で亡くしたが故に、彼はその後迷走するのである。これ本当の自業自得。もしシャアが全てをガルマに打ち明けていれば、その勇気さえあれば、あの見栄っ張りだけどお人好しのバカ坊ちゃまは、彼の真の意味の味方になっていたかもしれない。まあ、そうすると生まれ変わっていただろうジオン公国は、連邦と戦争する必要すら無く、ガンダムと言う悲劇の物語も生まれていなかったが。

 

●モビルスーツ

 せっかくなのでのお話その2。

 実物大ガンダムプロジェクトを続ける内に、おそらくモビルスーツの金属部分はほとんど装甲と駆動系だけで、内部骨格はほぼすべて強化カーボン等である事が自然だと判明。以前の科学考証では不自然であった『水に浮く』の問題が解消されつつある。早い話が18mのサイズ(当時の子供向けロボットとして必要最低限な巨大さ。小型ロボットのダンバインやボトムズは、ガンダムがリアル路線を切り拓いたからこそ映像化できたのである)を自立歩行させるには、あの重量で無ければ不自然(自重で潰れたり、転んだら立ち上がれなくなる、戦闘機と同じ機動力を保持できない)なのだが、今まではそのあるべき理屈の説明を付けれなかったのだ。架空の科学理論考証に現実の科学技術が追い付いてきた透話である。残りの必要素材はきっと宇宙素材。ホリエモンプロジェクトの成功をみんなも応援しよう。

 量産型ビグザム及びサイコガンダム系は、やはりミノフスキークラフトの恩恵である。こればっかりは実現は無理だろうなー(苦笑)。

 

●ユリシーズ

 ユリシーズ単体と言うより、戦艦に関する補足説明。

 旧式艦のMSデッキは、本来セイバーフィッシュ戦闘機やボール戦闘ポッド用のスペースを無理に改造して使っているに過ぎず、マゼラン級で6機、サラミス級で3機(厳密な運用可能空間容積はおよそ4機だが、切り良く一個小隊3機に統一。余剰スペースには偵察機のセイバーフィッシを相変わらず1機搭載している。これは単艦で偵察任務を行う事も有る、巡洋艦であるサラミス級の用途には逆に適している)しか積めない。

 新しい改装型はマゼラン改級で12機、サラミス改級で9機である。だが、生産ラインを全て改装型用に変えるのは流石に大変なので、未だに旧型も生産され使われているのだ。

 なので、昔は21隻の一個艦隊に搭載できるMSの数は、54機の2個大隊であった。一個艦隊=MS一個連隊と正式に編成されるに至ったのは、一年戦争後である。

 因みに筆者にはイマイチ艦船愛が足らず、ここらの考証は改稿の往ったり来たりもあったのは恥ずかしい裏話(涙)。

 はよラジコン大和作れやと友人に言われる今日この頃である。だが気軽に作れる1/144ガンプラと違い、かかる金額を考えると気が遠くなってクラクラ。まあ、もし本作に万一原稿料が発生したら、プラモデルだけでなく、愛機(バイク)のチューニングにも使う事にも決めているのだが。そのチューナー様は奇遇にも以前ポルシェのチューナーだったのだ。本作ポルシェガンダムだからねwww

 メカ考証って大変ですよね。まあ、数寄でやってるからいいんですけど。研究余生万歳。でも実はチェスとかは、自分にはロジックが理解できないのだ。苦手なモノもあるですよ、ええ。人任せ万歳(おい)。

 ちなみに艦これはきっとこれからもやらない。沈んだら可哀想だから。

 

 

※キャラクター解説

 

●ジョブ・ジョン(28)

 海軍外郭団体≪戦略戦術研究所≫内の、海軍MS運用研究チームの次席責任者、つまり部長に次ぐ役職の次長。

 皆様お馴染み(?)元ホワイトベースクルーである。本人は謙遜しているが、人当たりの良い性格と、何より修羅場を潜り抜けた人間特有の、優れた決断力行動力を持っている。自己主張が少ない所為で、表面的には目立ちはしないが、ちゃんと役職に相応しいか、それ以上の尊敬を実力で周囲から得ている様である。

 後に部長はおろか、取締、常務、専務、副社長と、人も羨む出世をするのだが、彼は適う限りMSの開発運用の現場とのコミュニケーションを重要視し、重役らしい重役室での机仕事はほぼ秘書に任せっきりで、あまりしなかったようである。とは言え、外部との商取引などの外交仕事は優秀にこなしたようだ。社長になる話も有ったようだが、きっとそんな事になれば、かつてのアムロ達のような人々の面倒を見ると言う、彼の趣味が出来なくなるとの理由で、それを拒んだらしい。

 

●ガスティン・リー(56)

 窓際大佐(苦笑)。

 サラミスの砲術長、艦長を務めた若い時代は、まさしく大艦巨砲主義。宇宙空間と言う戦場からフリゲート艦はおろか駆逐艦さえもが消えてしまうくらいであった。そんな中、砲戦の名手の名を欲しいままにしたのだが、MSの時代になると折角就任した戦艦マゼラン級ユリシーズの活躍の機会も余り無く、くすぶる事となっていた。

 パパ先生として、見事、兵と言う子供たちを、最後まで遠足引率しきって欲しい物である。

 

●ロジャー・マクスウェル(41)

 サイクロプス護衛艦隊提督。少将。

 この歳で少将になっている事からもわかるように、ヒースロウと同じく超エリート。且つ実戦経験も豊富な猛将。

 最精鋭部隊を連邦から任せられるに相応しい人物である。

 

●アルビオンクルー

 今回、彼等をひとまとめにして、こう語ろう。

 彼等は、大人になったのだと。

 それは貴方達の目で確かに御覧になったはずである。

 

 

※その他

 

●挿入歌

 こっちはオリジナルです。さらっと流してください(TT;)。

 

 ってな訳でまた次回。残すところは僅か2話。皆様どうか最後までのお付き合いを。

 それじゃあ、まったねー。




 人は戦場に赴く。
 そこは死の匂い立ち込める、踏み入れてはならぬ領域。
 それでも尚、人は嵐渦巻く戦場に赴く。
 ある者は望みを叶えるため。
 ある者は復讐のため。
 ある者は、ただ命を守ると言う願いのため。
 果たして人々の想いの行方は―――?
 第11話―ストーム―
 
 いよいよクライマックス前編! ここからはバトルに次ぐバトルです!!
 戦士達と若者たちの激闘を見届けよ!
 次回もまた半月後、12月上旬UPの予定となっております!
 是非また今度もルーツ達に会いに来てね!
 おっ楽しみに~!
 (^^)/

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