機動戦士ガンダムSS -アフターストーリー オブ センチネルー   作:豊福茂樹

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 半月ぶりの御久し振りです。月2回の連載も軌道に乗り、また皆様にお会いできて感謝感激の豊福茂樹です。
 初めましての方は、どうか是非第一話からご覧ください。もちろん今回つまみ読みしてからでもいいですよ~。
 さて、今回はサブタイトル、サイトシーイングの名の通り、半舷休息、のんびりゆったりバカンス回です。
 皆様も肩の力を抜いて隊員たちの日常をお楽しみください。どうしても緊迫した戦闘を心待ちにしていた人は、ラドック君たちの戦いにご注目下さい。
 それではどうぞ本編をお召し上がりください。
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サイトシーイング

 機動戦士ガンダムSS

 

 第3話:――サイトシーイング――

 

 -1-

 

 アルビオン司令官室。

 スクリーンに、地球連邦連邦ゴップ議長のデスクに座った姿が映し出されていた。

『ご苦労だった』

「いえ、満足と言える戦果ではありません」

 ヒースロウは眉根を寄せ応える。

『君達本来の任務では無いのだ。そこまで気に病む事は無い』

「………では、ゲリラ追撃は他の部隊が?」

『そうなる』

「自惚れが過ぎ恐縮ですが、我々以外の部隊では徒に被害を出すだけです」

『他の者には聞かせられん台詞だな』

「失礼いたしました」

『私と言えど、全ての者に頭ごなしに命令が下せるわけではないのだよ。人の面子は立てねばならん。連邦軍内部の立て直しを図る我々が、軍内部の対立を生んでは本末転倒だろう?』

「………戦闘指揮官としてばかり物を考え、官僚の考えが出来ず、未熟を恥じるばかりです」

『君の優秀さは知っているし、未熟さを導くために年寄りがいる。肩の力を抜く事だ』

「重ね重ね恐れ入ります」

 通信が切れる。

 ヒースロウは溜め息をつく。

 議長にも、かつての校長にも、軽くあしらわれてばかりだ。

 だが、それでへこんでばかりいないのが自分の性分のはずだ。

 考えろ、自分にできる事を。

 

「おいルーツ、それじゃあ、俺達の出撃は無しか?」

「ああ」

 食堂でクリプトとルーツは、夕食を平らげた後の配給の缶ビールを傾けていた。

「つまんねえの」

「俺だってそう思って部隊長として上申したんだぜ。文句言うな」

「ヒースロウのおっさん、昔はもっと肉食系だったろ?」

「確かに、やられたらやり返すタイプだったよな」

「俺達も含めて、みんなそんな奴ばっかりだったろ」

「でなきゃ軍人なんかやってねえ」

「言えてらあ。でもテックスはちょっと違ってたかな?」

「それは言える。そういや、あいつ今何やってるんだ?」

「軍兵站局。なんでも輸送艦護衛用のモビルアーマーと長距離用ブースター装備のモビルスーツの運用と研究やらをしてるらしいぜ」

「へえ、そりゃスゲーな」

「今戦艦の数が足りなくって、アルファ任務部隊の時も満足なモビルスーツの補給が無くて苦労したろ? だから輸送船単艦でも安全に物資が届けられるようにって、頑張ってるらしい」

「あー。そういやそいつで苦労したよな。最後にはSガンダムを3機の戦闘機に分離させて、無理やり数を揃えてたもんなあ。チクショー、カッコいいじゃねえか」

「美味しいとこだよな」

「まったくだ。俺達なんかパイロットしか能がねえもんな。シグマンは?」

「ギャプランに乗り換えて高高度航空展開部隊の小隊長だと。ガルーダ級のどれかに乗ってるって」

「あいつもパイロットしか能がねえ口か」

「の割には、こないだ同じギャプラン乗りのヴァースキ小隊とやらに演習でボコスカに負けたらしいぜ」

「だっせー。よーし、メールでからかってやるか」

「俺も俺も」

 喜び勇んでポケット端末をピコピコする二人。

 哀れ、シグマン・シェイド(合掌)。

「ここにおられましたか」

 食堂にバックスもやって来た。

 夕食のトレーをテーブルに置き、ルーツ達の向かいに座る。

「結局、我々の任務はどうなるのですか?」

「相変わらずモビルスーツ実験評価の為の演習任務だ。がっかりしたか?」

「いえ。軍人は命令に従うまでです」

「かわいげがねーな」

 クリプトの挑発。

「評価は実力でのみ得るものと思っております」

「クリプトが言ってるのはそう言う意味じゃねーよ」

「?意図がわかりかねます、大尉」

「仲間がやられたんだ。私怨や復讐が褒められたもんじゃねえってわかってても、悔しがる事までするなって命令は誰にも言えねえんだぜ」

「…………」

「ま、お前の心はお前のもんだから、これ以上は言わねえ。それより質問の答えがまだだったな。カリフォルニア基地で強化人間を含む部隊との演習だ」

「強化人間?」

「新型モビルスーツが、どれくらいニュータイプに対して有効かのテストだそうだ」

「あれ、こないだのルーツの相手って、ニュータイプじゃなかったっけ?」

「だよなー。なんでわざわざ、予定とやらばっか消化させようとすんのかね?」

「実戦でいいじゃん」

「いえ、貴重な実験機を破壊の危険に晒すのは合理的ではありません」

「「……堅ってー!」」

 ルーツとクリプトは天を仰いだ。

 

 -2-

 

 ロッキー山脈。

 峻厳な山岳地帯の中に、その保管庫は秘匿されていた。

 コロラド秘密基地。

 連邦が北米戦線に於いて鹵獲、接収した、ジオン、ネオジオンMSの保管基地である。

 ラドックたちの次の攻撃目標だ。

「抜かるなよ」

『当然です』

『任せてください』

 部下たちの頼もしい声。

『誰に物言ってんだい?』

 ゴーゴンは憎まれ口で返す。

 ここにはラドック小隊、ガルスJ小隊、そして奇妙なバックパックを付けたゴーゴンのR・ジャジャ・メデューサの、計7機のモビルスーツで乗り込む。

 歩兵やMSを失った搭乗兵は遅れてワッパ(ホバーバイク)でついて来ている。

「良かろう。行くぞ!」

 ラドックたちは躍り出た。

 

「う、うわあっ!」

 歩哨のジムⅡが撃破される。

 だが、通信を受けた基地の一個中隊、残り8機のMSが次々と出撃準備に入り、固定防禦火砲にも火が入る。

 

『トーチカからの射撃が邪魔で近付けません!』

「止むを得ん。ドローンファンネルを飛ばす」

『待ちな、ラドック。防禦火砲はあたしが黙らせる』

「ゴーゴンか、だがどうやって?」

『一応アタシもフラナガン上がりさね』

 R・ジャジャ・メデューサのバックパックが唸りを上げる。

 ラドックたちは軽い眩暈に襲われる。

 だが、連邦の兵士を襲ったのはそれ以上だったようだ。

(か、怪物が、怪物が来た!)

(ゆ、幽霊だ! ヒイィイ!)

(や、やめろ、やめろぉお!)

 激しい幻覚と恐怖と混乱に陥る。

 トーチカの火砲が有らぬ方向を撃ち始めた。

『神話宜しく石像には出来ないけれどね、サイコウェーブでこれくらいはできる』

「大した力だ。何故ニュータイプ部隊では重用されなかったのだ?」

『効かなかったのさ。シャアやララァ・スンには。意志の強い熟練兵にも同じ。キシリアに見限られるには十分だったし、ハマーンにも重用されたとは言い難いね』

 それも、威圧能力を高めるため、大蛇や大型猛獣のDNAまで注入されたのに、だ。

 金色の猫の目は虚仮脅しの証。

『ほら、現にあのジェガンたちには効いてない。あいつらは任せたよ、本物のニュータイプさん』

「………充分助かった」

『チッ』

 苛立ちを感じたのはラドックにか、敵にか、はたまたゴーゴン自身にか?

 

 -3-

 

 ネバダ基地を飛び去るアルビオンを見送る三つの影。

「期待以上の出来でしたな」

「ガンダムSS、か」

「いい成果になりそうだ」

「掛けた金額が金額だ。そうでなくては困る」

「忙しい身で無ければ、カリフォルニアにも付いて行きたかったですがな」

「そんな事をすれば、後で若い者の小言が怖い」

 笑い合う老人たち。

 

 アルビオン船内。

「結局、あの爺さんたち、なんだったんだ?」

 ルーツがブラウンに問う。

 結局仲は悪いが、遠慮なくものを言い合うようにはなった。

「ヒースロウでも頭が上がらない感じだったぞ?」

「呆れた、経済誌も読まないの? 宇宙経済の重鎮よ」

「へー。で、なんでここに?」

「か・れ・ら・が、この部隊のメインスポンサーなの! とくにガンダムSSとALSSの!」

「そうか。じゃあ、『ありがとな、爺さん』ぐらい言っときゃよかったな」

「貴方、上流階級のマナーってもの知ってる?」

「お前知ってんの?」

「………」

「知らねーんじゃん」

 ヲタクのブラウンも雑誌や漫画で読んだ以上の事は知らないのであった。

 

 -4-

 

 果てしなく青い空と青い海。

 かつて、ジオン公国軍北米拠点であった、現地球連邦拠点カリフォルニアベースに着いたルーツ達を待っていたのは半舷上陸。

 つまり短めの休暇、バカンスであった。

 部隊の人員は当直を決め、交代でカリフォルニアの街に繰り出す。

 MS隊はまずAB小隊が上陸休暇となり、C小隊が待機である。

 そして用意された2台のレンタルオープンカー。

「ルーツ」

 詰め寄るクリプト。

「何だ?」

「ここは譲らねえからな! 誰が何と言おうと女の子たちのエスコートとドライバーは俺がする! 絶対に!」

「好きにしろよ」

「反対しても無駄だ! うんと言うまで駄々こねるからな!ホントだぞ!覚悟しとけ!」

「いや、だから、うん。好きにしろよ」

「………へ?」

「だから好きにすればいいって。俺だってかしましい女子の面倒ばかり見るのも面倒くせーし、有り難いぜ」

「ルーツー!!」

 熱烈なハグをかますクリプト。

「よせやめろ、うっとおしい!」

「有難う、恩に着るぜルーツ! もしお前が靴を舐めろと言えば喜んで舐める!!」

「いらねーってんだ!このボケえ!!」

 ボディーを貫く鉄拳制裁。

「うへへへ、痛いけど痛くないぜ………」

 腹を押さえ崩れ落ちながらも、クリプトは危ない薬でもキめているかのように、凄く爽やかな笑顔だった。

 

 結果、ルーツの車には、オコーナーとケンザキとスミス。

 クリプトの車には、ランファンとカーリーとブラウン。

 ルーツ一行は主に、のんびり出来る飲食店やビーチを巡り休息を満喫するルート、クリプト一行はやはり、女性中心なので、ショッピングとレジャーを満喫するルートとなった。

 

 -5-

 

 贅沢なランチと観光船のミニクルーズを楽しんだ後は、のんびりと夕食までの時間を、ビーチ際のデッキでスナックとビールやカクテル(ルーツだけノンアルコール)をテーブルに並べ、チェアに寝そべって過ごす。

「今だけはセレブ気分だな」

 スミスが欠伸をしながら呟く。

「ああ、出来れば毎年こうしたいもんだ」

 ルーツもグラスを傾けながら肯く。

「平和様様だな」

「ゲリラにだってこうして欲しいぜ」

「フッ、違いねえ」

「それでは我々の仕事が無くなりますね」

「そ、それは困るよ」

 ケンザキの茶々にオコーナーが狼狽える。

「生憎そうはならねーから困ったもんでな」

「違いねえ」

「喜ぶべきか悲しむべきか」

「だよねー」

「ケンザキ、オコーナー」

「「はい?」」

「―――いや、まあいいか。仕事の話は今するもんじゃねー」

「「はあ」」

「それよりあっちでビーチバレーやってるぞ、お前等混ぜてもらったらどうだ?」

 流石に3月初めでは、泳ぐ者はいない。

「大尉は?」

「年寄りだからな。昼寝の方がいい」

「我々と2歳しか違いませんよ?」

「ていうか、訓練でしごく時、いっつも俺達よりタフじゃん」

「それとこれとは別さ。ほれ、行って来い」

 二人はルーツの言いように、顔を見合わせて肩をすくめてから、それでもバレーをしに立ち上がった。

 だが、その向かう先の砂浜のバレーコートでトラブルが起きる。

 姉弟と思わしき子供が遊んでいたボールが、バレー場に転がり込んだ。

 子供たちはイタチのように素早く走り、ボールを取りに飛び込む。

 当然プレーの邪魔になり、大人たちは子供に文句を言う。

 だが、子供は欠片も取り合わず、無言、無表情で立ち去ろうとした。

 大人たちは当然怒りだして子供たちのパーカーを掴もうとするが、子供たちはするすると逃げる。

 だが、人数の差は明らかで、いかに子供が俊敏でも、いずれ掴まって酷い目にあわされるのは、時間の問題に思えた。

「まずい、あれじゃあ」

 オコーナーは仲裁に入ろうかどうか逡巡する。

「放っておけよ」

 ケンザキは我関せずとチェアに戻ろうとする。

「いや、でも、やっぱり」

 オコーナーはルーツに頼みの視線を向ける。

 だが、チェアに彼の姿は無い。

「あれ?」

 振り返ると、既にルーツは陸上選手のような勢いでバレー場に向かって走っていた。

「ええ、えー?」

 オコーナーは慌ててその後を追う。

 

 -6-

 

 クリプトは途方に暮れていた。

 カーリーはひたすらランファンの世話を焼きたがり、ランファンはそれに抵抗するので一杯で、会話に割り入る隙がない。

 ブラウンはと言えば、イヤホンに音楽を流しっぱなしで、目線は店の食べ物や商品か。それ以外は文字通りうわの空で、空中に絡まった思考やアイディアの糸を、解そうと必死になっているようにしか見えない。

「そ、そろそろお茶にしない?」

 必死に食い下がるクリプト。

「お茶ですって、ならランファンちゃん、ここにしない?」

 端末にお勧めの店を浮かび上がらせるカーリー。

「うっせーな! アタシはこう言うのが好みなんだよ!」

 ゴシックな店とパンクな店に真っ二つに割れる。

「な、なら、間を採ってこんな店は……」

 クリプトは仲裁のふりをして会話に加わろうとしたが―――

「うわー、凄ーい、パンクー! 一度行って見たかったのー。案内してね、ランファンちゃん」

「アタシだってカリフォルニア自体初めてだよ!」

「でもー、パンクな店には行き慣れてるでしょー」

「そりゃそうだけど、おい、ブラウン。お前はそれでいいのかよ?」

 とても上官に向ける言葉遣いではない。

「んー。いいわよ」

 そう答えるブラウンはちっとも気にせず、端末には何か小難しい論文。

「お、俺もそれでいいよ」

「「あ、別に聞いてないから」」

 クリプトは顔で笑いながら、心で滂沱と涙を流した。

(どうして俺はこうも相手にされないんだ?)

 もし、この心の声が彼女らに聴こえていたら、

(ハーレムを羨ましがる男なんてねー)

(自分もっていうか、自分こそハーレムを築きたがってるって公言してるのに気付かないのかしら~)

(アホよね)

 と答えただろう。

 自業自得である。

「こっから近いよな。車よりも歩いて行った方が早いみたいよ」

 端末で道を確かめるランファンに一同が付いて行く。

「あ、この信号機の先だよ」

 一同はシグナルが変わるのを待つ。

 横断歩道の向かいには大きな荷物を抱えた年配の女性。よたよたしている。

(危ないなあ)

 一同が危惧したその通りに、荷物の一部が車道側にこぼれ、それに慌てた老女がバランスを崩す。

「「「やばっ!」」」

 女性陣が驚愕に固まり、やって来た車は急ブレーキを踏む。

 間に合わないタイミング。

 だが、クリプトは既に駈け出し、老女に抱き付きタックルを決める。

 こぼれた商品は轢かれた。

 だが、二人はギリギリで轢かれずに済んだ。

「「「は~~~~~~~」」」

 女性三人はへたり込んで安堵のため息を漏らす。

 車は一度止まったが、ばつが悪かったか、すぐに逃げ去る。

「ふ~」

 クリプトも立ち上がり息を衝く。

「婆ちゃん大丈夫か? 予め言っとくが、俺に惚れるなよ」

 

 老婆は重ねて礼を言い去って行く。

「やるじゃん」

「正直見直しましたわ」

「ホントに」

「まあな。この世の女性は、みんな俺の心のハーレムの姫だからな。皆等しく助ける義務が俺にはあるのさ」

「「「…………………………」」」

「あー、あれだ。お前、ただのアホじゃなくって、本当のアホだったんだな」

「格を下げるべきか上げるべきか悩みますわね~」

「いっそ立派ね。関わりたくはないけど」

「えー、関わってくれないと泣いちゃうよ、俺!」

 一同に笑いが巻き起こる。

 女性陣のクリプトへの扱いは多少マシになった。

「ま、命懸けだったもんな。正直で嘘が無いのだけは、いい奴だと認めてやるよ」

 そう言って笑い涙を拭うランファン。

 

 -7-

 

 不思議な子供達だった。

 大人たちが手を延ばそうと、目つぶしに顔に砂を投げつけても、まるで予め、それがわかっていたかのように、するりするりと身を躱してしまう。

 だが、大人達は輪を作り、それを縮めにかかる。

 こうなると、もう、どう先を読んでもあがいても、子供と大人の身体能力差で無理だ。

 女の子と男の子は逃げ回るのをやめる。

 大人は当然泣いて謝るものと思った。

 だが、女の子は冷たく無表情に言う。

「好きにすればいい」

 男の子も口を開く。

「やっぱり人間て、弱い者いじめが好きなんだね」

「「「なっ」」」

 大人たちは唖然とする。

「ふざけんなよ!」

「てめえが人の邪魔して迷惑かけておいてそれか!」

「親の代わりに躾けてやんぞ、コラ!」

 次々と浴びせられる恫喝。

「ほら、正義を振りかざす」

「自分が時に弱者や敗者に追いやられるなんて考えてない。目を背けてる」

 大人たちは薄気味悪くなる。

 だが、一人がブチ切れる。

「そう言う可愛げの無い舐めた口きいてると、どうなるか教えてやるぜ」

 拳を振り上げる。

 だが、その腕は背後から掴まれた。

 万力か何かで固定されたように動かない。

「地球連邦軍の者だ」

 ルーツが空いている方の手でサングラスを外す。

 猛禽の眼光。

「生憎警察と違って逮捕権は無いが、治安を守る義務と、職務遂行の障害と見做せば拘束する権利はあるぜ」

 大人たちはたじろぐ。

 本物の命のやり取りをした戦士にしか、出し得ない威圧感。

 それはかつてルーツが、敵であったブレイヴ・コッドに感じたそれであったのだが。

「そのガキどもは俺が説教くれてやる。それで勘弁してやれ」

 大人たちは引き下がる。

 

 遅れて(実は大人の数よりルーツにビビッて)やって来たオコーナーは、子供たちに優しい言葉をかける。

「怖かったね、もう大丈夫だよ」

「別に」

「怖くなかった」

「そんな………、強がらなくてもいいんだよ」

「強がってない」

「平気」

「せいぜいぶたれるぐらい、なんでも無い」

「もっとひどい目いっぱいあった」

「―――――――っ!」

 オコーナーは絶句した。

「それでも、例え行きずりでも、お前等が平気でも、俺達はお前らが酷い目に会えば辛い。欲張りなんでな」

 子供たちはルーツの言葉に目を丸くする。

「お前らの言う通りだ。たとえ勝者でも正義でも、何をしてもいい訳じゃない。それでも人は人を労わらなくちゃならない。でも、だからこそ、お前等もお前ら自身を労わるために、礼を尽くし、可愛げも見せて自分を守らなくちゃならない。今お前を愛してくれる人の為、これから愛してくれる人の為だ」

「………むずかしい」

「………出来ない」

「ゆっくり考えてわかってくれればいい。その内できる。きっとそのために、お前たちは今まだ子供なんだぜ」

 ルーツは子供たちの頭をポンポンとあやすように叩く。

 子供たちは不思議とされるがままだった。

「礼を言います」

 近付いてくる年配の黒い肌のアーリアの紳士。

「私の子を助けてくれて有難う。その上、私が、この子らに言わなければならない事まで、貴方は言ってくれた。どう感謝をすればいいかわからない」

「………失礼だが、実のお子さんじゃないな。そりゃあ、遠慮して言い難かったのも仕方ねえ」

「まあ、分かるのは当たり前ですな。歳も違い過ぎるし肌の色も違えば当然の推理。この子らは戦争で孤児になった子です。私は幸運にも引き取り手になれただけ。可愛くて仕方無く、つい説教をおろそかにしてしまう」

「遅れてきた親バカだな」

「まったく」

「俺は、お役に立てませんでした……」

 項垂れるオコーナー。

「いえ、貴方がお優しいのは見ていて分かりました。努力と経験は、これから積まれればいい。私の様に爺馬鹿になる前にね」

 紳士はウィンクした。

「そう言えば名を名乗っていなかったですな。私はソラン・ラマカーニ。この子らはセヴ・ラマカーニ、ノイ・ラマカーニと言います。よろしく」

「……よろしく」

「……よろしく」

「こちらこそヨロシクな」

「よ、宜しくお願いしますっ」

 しゃちほこ張るオコーナーにルーツが苦笑していると、今度は息せき切ってケンザキが走って来た。

「も、申し訳ありません! ラマカーニ准将のお子様とは露知らず! 知っていればこのケンザキ、身命に変えましても――――」

 ラマカーニは手で制す。

「もういい。それ以上言い訳をすると、却って不快だよ」

「………は、」

「まあ、そう目くじら立てんな爺さん。こう見えてこいつらは、お互いに無いものを持ってていいコンビなんだ。それに免じて勘弁してやれ」

「た、大尉、何と不遜な!」

「じゅ、准将ですよぉ?」

「いや、いい。確かに私も大人気なかった。言われてみれば、ケンザキ君とオコーナー君はお互いを見習うと好いようだな。そうしてくれるなら矛を収めよう」

 

 その後、成り行きで皆でビーチバレーをする事にした。

 ただしスミスを誰も誘わなかった。あの背丈にバレーは地雷だろうと、誰も口にせず思った。

 ルーツとソランとセヴ、ケンザキとオコーナーとノイに分かれてゲームを始める。

 ゲーム中もルーツの容赦の無い説教が飛ぶ。

「オコーナー、仲間の顔色ばかり窺ってんじゃねえ! 初めて女をデートに誘った童貞かお前は? 仲間が好き過ぎて仲間の方ばっかり怖がるのは結構だが、敵だっておっかねえんだ、敵にも気や眼を配りやがれ!」

 容赦の無い顔面アタック。

「ケンザキ! オメーはその逆だ! 仲間だって機嫌を損ねりゃおっかねえんだ! いつまでテストで自分だけいい点取ってりゃいいと思ってんだ? 今回の爺さんの事で思い知っただろうが! オメーは仲間や人に惚れる度胸もねえ、金の代わりにテストの点数払って色町に通う素人童貞か? この臆病モン!」

 容赦の無い顔面スパイク。

 二人は色んな意味で砂浜に沈んだ。

 いと哀れ(合掌)。

「礼を言うぜ爺さん。爺さんこそこっちが奴等にするべき説教の機会を作ってくれたもんな」

「では、貸し借り無しだね」

「ああ、おあいこだ」

「だが、この後君達にディナーを御馳走するのは、年長者の見栄という事で勘弁してくれたまえ」

 太平洋の波を、夕日が煌めく黄金に染めていた。

 

 -8-

 

 鋼の巨躯が蹂躙を始める。

 その名を量産型ビグザムと言う。

 Iフィールドがビーム兵器を弾き、ミサイルや戦闘機は拡散メガ粒子砲が迎撃して寄せ付けず、180ミリ砲でさえその装甲を貫けはしなかった。

 中央の収束巨大メガ粒子砲に火が入る。

 火箭は、時にモビルスーツを部隊ごと、時に基地を建物ごと蒸発させた。

 随伴の部隊は連隊規模に及び、最早、これを単独の基地や部隊で止める事は不可能と思われる。

 すでに、それはゲリラと呼ぶには相応しくない規模の災厄、脅威だった。

 

「まさか、こいつが眠っていたとはな」

 ラドックが呟く。

『しかも連邦の奴ら、まさか御丁寧に未完成のこいつを、足りないパーツまで作って組み立ててくれてたなんて、傑作さね』

 ゴーゴンも興奮を隠せない。

『やれる、大尉、これなら北米を再び俺たちの物にできますぜ!』

『調子に乗るな、ジェイス。それより、こいつで打ち上げ基地を奪って宇宙に還った方が得策だろう』

『グェンに賛成』

『そういやオフクロ、サイド3で元気にしてっかなあ?』

『じゃあ、逃げ回ってた生活も終わりか』

『帰れるんだ』

『長かったなあ』

 兵達は、再び目に輝きと希望を灯し始める。

 いい事なのだろう。

 だがラドックは思う。

 この惨禍のツケは、いつか自分の命で償う時が来るだろうと。

 そうせねばならぬ。

 だが、せめて部下たちだけは、生かして家族の元に還したかった。

 

 ―第4話に続く―

 

 

 おまけ。

 

 ガンダムSS設定

※キャラクター解説

 

●リョウ・ルーツ

 紹介2回目。やはり主人公。

 SMどちらかと言えば、やっぱりタカさん系面倒見のいいサディストな性格。きっと星座は牡羊か獅子だと思うけど、大日本絵画社さんに教えて欲しいこの頃。そんなSでもセンチネルから相変わらず、人の言葉をきちんと受け止める、根が素直な処がいい所。

 何?じゃあ、機動戦士ガンダムSSの『SS』は、『素直なサディスト』の略だったのか?(おい)

 可哀そうにAKG6(TT)。だが、今後も被害者は増えるだろうwwww

 

●シン・クリプト

 ついでにこいつも。『M』で嘘が無い欲望に『正直』な人。略して『MS』………苦しい。

 二人ともエースパイロットだけあって、心と行動が常にダイレクトである。別にギャグで言ってる訳では無く、本当にそれは大切な事。自分に嘘や誤魔化しを重ねれば―――、この言葉の先を、AKG6とバックスが早く気付いてほしいものです。で無いと死にます。だってガンダムだから。

 

●セヴ・ラマカーニ(15)

 ムラサメニュータイプ研究所強化人間、セヴン・ムラサメ。

 ナイン・ムラサメとともにムラサメ研究所崩壊とともに行方不明となっていたが、カルト宗教団体に拾われその能力を悪用されていた所を、警察当局が摘発、保護した。

 その後、それを知ったソラン・ラマカーニが、ナインともども自らの養子として引き取ったのである。

 無理な強化処置の所為か、あまり感情を表に出す事が無かったが、今回ルーツ達と出会う。

 本来ならば初恋の一つでもする時期の、中学生の女の子である。

 

●ノイ・ラマカーニ(12)

 ムラサメニュータイプ研究所強化人間、ナイン・ムラサメ。

 彼も感情表現に乏しいが、本来ならば腕白盛り遊び盛りの、小学生の男の子である。

 だが、数奇な運命は彼を姉ともども、巨大で過酷な渦に呑み込んでいくのである。

 

●ソラン・ラマカーニ(62)

 元ティターンズ兵站局長。現北米地区方面軍兵站局長。准将。

 外見は眼鏡をかけたインド系なので、ふくよかなマハトマ・ガンジーの様。

 グリプス戦役後は大佐に降格されていたが、その働きぶりと人柄から、すぐに准将に復帰。

 温厚篤実、公正にして面倒見の良い人柄を慕う者は多く、また、彼が何故、後方勤務専門とは言えども、過激なティターンズに所属していたのか首をひねる者も多く、それが無ければ既に少将以上になっていたろうとの評価を得る人物である。

 せヴとノイを養子にしたのも、美談として疑う者はいない。

 そして、ある意味彼ほどグリプス戦役に関わる一連の悲劇を悲しんで止まぬ者はいないのも、事実である。

 

●アナンダ・ゴルゴン(29)

 通称ゴーゴン。階級は大尉。

 1年戦争時、ニュータイプの素養有りとしてフラナガン機関で訓練を受けるが、キシリアの目には敵わず、すぐにニュータイプ部隊からマハラジャ・カーン提督部隊に転属となった。

 その能力はいびつであり、一般兵への効果は絶大であったが、本文中にもあるようにニュータイプや熟練兵には通用せず、結果、マハラジャもハマーンも、あまり重要でない拠点の制圧任務、所謂『ドサ回り』部隊として運用した。ネオジオンが少数ながらも地球連邦と互角に戦えた一翼を担いながらも、遂に陽の目を浴びる事の無かった悲運の戦士と言える。

 そりゃひねた性格にもなるわ。

 そんな彼女もラドックと出会った事により――――

 だが、それが果たして幸運かどうか。

 戦争とは哀しみと悲しみしか生まぬ存在である。

 

●グェン・ロー(33)

 ラドックの副官。

 冷静な人物だが、思い詰める傾向のあるラドックをおもんばかって、わざとジェイスと同じ様な明るいお調子者を演じている。撫でつけた黒髭の似合う部隊内で一番大人の好人物である。

 

●ジェイス・クール(27)

 ラドック隊最年少(整備兵や歩兵も含めて)。

 こっちは本当のお調子者であるが、それゆえに部隊内では愛されキャラのムードメーカーである。

 

 

※メカ解説

 

●R・ジャジャ・メデューサ

 ニュータイプ同士が精神感応によって、お互いの記憶やイメージを一瞬にして大量に伝達する現象は皆様ご存知の通りだが、ゴーゴンのそれは、一方的に恐怖のイメージを一般人に送りつけるものであった。

 故に本機体は、その精神波を増幅する為のバックパックを装備している。頭部後ろからバックパックには、その為の灰鉄色の装甲ケーブルが、メデューサの蛇の髪の毛の様に複数本繋がっている。

 乗り手ともども『ドサ回り』に使用された、不遇の機体と言えよう。

 

●量産型ビグザム

 ゲーム等で御存知の方もいらっしゃるであろう、重モビルアーマー。本作オリジナルではありません。

 かつて、ドズルの命により、亡きガルマの為、そしてジャブロー攻略の為に地上制圧用に部品を持ち込んで組み立て始めたはいいが、完成率38パーセントの時点で一年戦争終了。活躍の無かった機体であった。

 何故、本機が連邦の手で組み立てられていたかと言えば、サイコガンダム系列開発の為のデータ収集用。本当にこんなでかい機体が地球上で動かせるの? 何だ出来るんだ。じゃあ予定通りサイコ作っちゃえ。である。

 もしこの機体が無ければ、実験データ採取用の試作巨大フレームを、何体も、しかもパーツ一つの設計から自前開発で作らねばならなかったので、予算上最も少ないコストのこの方法が取られたのだが、ただより高いモノは無く、後にサイコガンダムとMk.Ⅱ自体も含め、色々と連邦自身の首を絞める事になったのである。

 たたりじゃあ、ドズル様とガルマ様のたたりじゃあ(おい)。

 




 切なくよぎる、ラマカーニとティターンズの過去。彼等にだって、幸せな時は有ったのだ。
 そして始まるカリフォルニア演習。パイロットスーツを着て姿を現したのはあの―――
 待遇改善を望む元ティターンズパイロット達とルーツ達の意地がぶつかり合う。
 第4話 ―シミュレーション―
 
 そろそろお気付きの人もいらっしゃいますでしょうが、サブタイトルはすべて頭文字『S』で統一しております。
 せっかくメインタイトル『SS』なので。
 六田昇先生の『F』と言う漫画を知っていらっしゃるお方は、ああ同じ洒落方だな。と御納得下さい。。
 さて、次回はまた半月後。ガンダムSS第4話は、8月中旬アップの予定です。
 よろしければ、また次も読んでね!
 おたのしみに~。
 (^^)/

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