機動戦士ガンダムSS -アフターストーリー オブ センチネルー 作:豊福茂樹
お初にお目にかかる方もまことにありがとうございます。本話からでも第一話からでも、お好きな方からご覧ください。きっと面白いですよぉ!(本当か?)
相変わらず月2回でやっております当連載も、今回で遂に第一部地上編最終回となりました。
連邦対ジオンゲリラの戦いもクライマックス。隊内の不安。そしてあの残念ヒロインも今回は?
激変する状況に、ヒースロウとルーツが下した重大な決断とは?
それではどうぞ本編をお召し上がりください。
m(--)m
追伸:捩じれ骨子様、感想毎度パワーになっております。みんなもオラにパワーをくれろ(ネタ古い&図々しい)。半分冗談はさておき、読んでくださるだけでも有り難いのですよ、ホントに。
機動戦士ガンダムSS
第6話:――スクランブル・スピーチ――
-1-
南北アメリカの各所の基地で、彼等は姿を消していた。
ある者は公然と休暇を取り―――
ある者はパトロールや買い出しの最中に姿を消し―――
ある者は人知れず脱走し―――
退役軍人達が用意した、自家用ヘリやセスナ、ジェット、民間輸送機に拾われ、空へと飛び立っていたのだ。
その事に連邦軍上層部が気付いた時には、既に手遅れになっていた。
-2-
メキシコの空で強襲揚陸艦アルビオンと、ラマカーニ率いるガウやミデアの編隊がすれ違う。
ヒースロウとラマカーニ、そしてブリッジに居並ぶ主だった人物達が、敬礼を交わす。
豆粒の様なお互いの姿に、刹那、ただ視線の意志をほのかに感じ、次の瞬間には背後に消え去って行く。
「これで肩の荷が下りたな」
ヒースロウは振り返り、ルーツやクルーを労う。
「ええ」
ルーツも、珍しく穏やかな顔と声で応える。
「バカ共を一人も死なせずに済んで、ホッとしています」
「………そうだな」
ヒースロウは制帽を脱ぎ、笑う。
「カリフォルニアに戻ったら、酒でも奢ろう。ホワイト&マッコイを置いてある店を見つけてあるんだ」
-3-
とは言うものの、ルーツの仕事はまだ終わってはいない。
確かに一人も死なせずに済んだ。
これは奇跡と言えば言い過ぎだが、上出来すぎる部類だ。
だが、PTSD(戦闘後遺症)と思われる者も出た。
強い恐怖感に囚われ、感覚が麻痺し、進行すれば、日常においては選択してはいけない短絡的な暴力(戦闘)行為を取る。
その兆候がウォード、ケンザキ、そして小隊長のバックスにまで現れている。
実戦を経験した軍隊においては、不可避の心理傷疵である。
ルーツとクリプト、艦長のサンズが、パイロット各個人から口頭で、今後の部隊運用の参考にするための詳細な報告をしてもらう―――と、言う名目において、件の3人には、実質的なカウンセリングを行わねばばらない。
別室には医療士官が控え、マイクとイヤホン越しにサンズに助言もする。
まず、ランファン、カーリー、オコーナー、バードマンには通常の戦闘報告をしてもらう。
若者たちは自分の戦果を、以前の様にただ自慢と言うよりも、仲間を守り抜けた事を誇らしげに語る。
だがそれでもルーツは釘を刺す。
「確かに、お前たちは仲間を救い、ひいては他の連邦兵士の命を救い、連邦市民の安寧を救った。それは誇りたいだけ誇ればいい。だけどな―――――、人の命を奪った事だけは、今後も誇るな。これは命令じゃなく、俺個人の願いだがな」
この言葉には、流石に4人も神妙な顔をする。
そして、4人の内最後のバードマンからは貴重な話が聞けた。
「幻覚?」
「ええ、そうです」
本来その場にいないはずのドム、グフ、ザクの幻影を見た。最初の戦闘で出会った、バードマンが今までで最も恐怖に思った敵の姿だと言う。唐突に現れ、そしてすぐに溶ける様に消え去った事から、幻覚としか思えない。
サンズが眉根を寄せ、自分の記憶を掘り出す。
「大尉、私が以前聞いた話では、かつてニュータイプと戦い生き残った兵士の報告では、敵の思っている事や伝えたい事が、声や映像として脳に送り込まれる体験が有ったと言う」
「………特にそういう幻覚を送り込む力に長けたニュータイプか。良く生き残ったな、バードマン」
「おまけに仲間まで守り切ったんだ、美味しい所頂きまくりじゃねーか! ヒュー、やるー!」
「……大尉と中尉達のお蔭っす」
それは、以前のバードマンからは、決して聞けなかった台詞だった。
流石に、ルーツとクリプトも照れる。
いよいよ問題となる3人の内、ウォードの番となる。
「ウォード、教えてくれ。一体何が有った?」
ルーツが切り出す。
「狡いだろ、あんなの。人が他に気を取られてる時に卑怯だろ」
「?」
「気を取られてなきゃ、あんなミサイルなんて、それなのに今度は馬鹿みたいにたくさんのミサイルなんて、狡いだろ、どこに隠してたんだよ、おかしいだろ?」
「ウォード」
強めの語気。ルーツの眼光にウォードが息を呑む。
「戦いなら、相手が他に気を取られている隙を突くのは当たり前だ。ヨーイドンで始まる授業とは違う。そしてお前が見た、たくさんのミサイルは、ニュータイプが見せた幻影だ」
ウォードが呆然とする。
「嘘だろ……、じゃあ、なんでバードマンの奴は平気だったんだよ? あいつだって見た筈だぜ? それなのに、エリートの俺が駄目で、落ちこぼれのモルモットが平気だなんてあり得ねえよ!?」
「ウォード」
今度は落ち着いた声。
「これはただの勘だがな。それはお前が怖いと思った物に、卑怯だとか狡いとかの言い訳に逃げて、立ち向かわなかったからだ。そして、バードマンは恐怖に、今度は負けないって立ち向かったんだ。幻影なんて関係ない。ただの闘う意志、基本ってやつだ」
「…………」
「くっだらねえなあ」
クリプトも口を開く。
「大体なんだよ? お前、黙って聞いてりゃあ、エリートだのモルモットだの? 別に俺ぁなあ、誰が美味しい所を頂こうが、それはそれでいいと思ってんぜ。世の中持ちつ持たれつ、花の持ち合い持たせ合いってもんだ。
だがよ? お前のそいつは人が苦労した成果を横から盗んでるだけに聞こえるし、自分だけが得して他人は損するのが当たり前って聴こえんだよ!」
「落ち着け」
ルーツが、立ち上がりかけたクリプトの肩を押さえる。だが彼も告げる。
「ウォード。確かにお前はクリプトの言うように格好悪く見える。お前の言う落ちこぼれって奴は、お前の中では大層クズなんだろうな。何せ、今お前は落ちこぼれになりかかってるんだ。さぞ自分で自分が許せねえよな」
「――――――っ!」
「大尉、中尉。これはカウンセリングだ」
「悪りいな。艦長。一度言っとかなきゃ気が済まなかった」
「俺もだぜ」
そこに、サンズのイヤホンに医療士官からの指示が入る。
「フム。つまりウォード准尉。君を苦しめているのは君自身の価値観という事だ。もっと他者への寛容とリスペクトを持ちたまえ。それが結局のところ、君自身のストレスを緩和するそうだ」
ウォードと入れ替わりにケンザキが入室する。
以前の彼は新人6人の中で、一番自信に満ち溢れていた。
だが、今は見る影も無く憔悴している。
「私はどうしたらいいんですか?」
「俺達の出番は終わったんだ。のんびりすればいい」
「それじゃ駄目なんです、大尉。それじゃ、私の評価はどうなりますか?」
「評価を得てどうするんだ?」
「評価を得て偉くなれば、思い通りにできます。今のままじゃ駄目なんです!」
「思い通りって、どうしたいんだ?」
「それは………」
口ごもるケンザキを見てルーツは頭を掻く。
「お前さ、オコーナーの事をどう思う?」
「……………」
「人の顔色ばっかり窺ってる、格好悪い奴に見えるよな」
「はあ、それはまあ」
「でも、お前も、偉い人の顔色ばっかり窺ってる、格好悪い奴に見えるぜ」
「そ、それは―――――」
「俺には、オコーナーより、お前やウォードの方が子供に見える。お前等は、結局自分より偉い人に自分の人生をどうにかしてもらいたいように見えるし、オコーナーの方が、自分の気持ちと力で生きてるようにも見える」
クリプトも口を開く。
「だから言ったろ、オコーナーの方が、人に惚れる大器ってやつが有んのさ。お前さ、今のまま生きてて楽しいか? 今のまま偉くなったって、きっとずっと楽しくないままだぜ? だって、自分がどうすれば楽しくなるか、いつまでも分からないままなんだからさ。逆に、もし、オコーナーが偉い奴になっちまったら、きっと幸せになるだろうぜ。だって、大好きなみんなの顔色窺って、みんなを守ったり幸せにするのが好きなんだからな。お前はどうなんだよ? きっと偉くなっても、そんなんじゃあ、やりたくない義務ばかり増えて行くぞ!」
ケンザキは、完全に胸を衝かれた。
「あーあ、クリプトに美味しい所頂かれちまったな」
「悪いな、ルーツ。俺の方が愛に満ち溢れてるからな」
「主に女にだろ?」
「否定はしね~」
「まあな、ケンザキ。この際だ、回り道に見えても、自分が偉くなったら何をしたいか、じっくり肌で感じてみろよ。頭じゃ無くさ。『考えるな、感じろ』って、ブルース・リーとやらも言ってたぜ。他人の評価じゃなく、理屈じゃなく、自分の心や魂ってやつが震える、楽しいと思う、今、好きな何かを探してみろよ」
「僕の、好きな、事――――――?」
「やれやれ、こいつはウォードにも言ってやるべきだったな。ケンザキ、出来ればこの事は、お前からウォードにも伝えてくれ。あいつも、俺達から言われるよりも、お前に『一緒に探そう』って、言ってもらう方が、きっと心に響くと思うしな」
「―――――はい」
ケンザキは、やっと過ちに気付いた。
感情論で現実がどうにもならないなんて、自分自身に吐いた、嘘だった。
自分の真心が、魂が幸せに思う、感じる、現実を、選び続ければ良かったのだ――――
そして、最後に現れるはずだったバックスは、体調不良を理由に、書類での報告で済ますとの連絡だけで、姿を見せる事は無かった。
彼の対処は、医療士官に任せる事になったのである。
-4-
パナマ洋上基地。
メガフロートと呼ばれるその巨大人工島は、巨大港湾施設と大気圏内航空機の空港を複数持ち、また、何よりも宇宙への打ち上げ施設も複数保有する、南北米大陸と太平洋大西洋と、宇宙とを繋ぐ最新の軍事的要衝である。
ラマカーニ増強連隊は、一先ず空路でジオン軍を先回り、洋上基地に降り立った。
基地にてラマカーニ達は、基地司令と、増強連隊設立に尽力してくれた、退役軍人会の幹部の歓迎を受ける。
ラマカーニは挨拶もそこそこに、フェリーニ退役中将と抱擁を交わす。
「中将のお蔭です」
「そう言われると、私も老骨に鞭打った甲斐が有った」
「テムジン少将も」
「基地司令などと言う机に縛られているとね、いつも宇宙を夢見るようになる。君達がもう一度飛ぶ宇宙をね」
「後は任せたよ、ラマカーニ君。手筈はすべて整えた」
「はい」
複数の補給物資を積んだトレーラーのコンテナから、人や物資が増強連隊に流れ込んで行く。
逆にゴミや排泄物、クリーニング行きの制服がコンテナに積み込まれ、トレーラーにまた積み直される。
そして―――
基地から兵站施設へ向かうはずだったそのトレーラーが、途中で乗り捨てられ、コンテナの中に睡眠薬で眠らされ、下着姿で拘束され鮨詰の連邦一般兵達が見つかったのは、この後の一通りの事が済んだ、その後だった。
-5-
ジオン軍兵士たちは、黙々と進む。
彼等の精神的支柱であった、ビグザムを失って、尚。
パナマ洋上基地へ向けて。
進む歩みを止めれば、絶望のぬかるみに嵌り、もう、二度と立ち上がれる事は無い。
誰もが口にせず、そう思っていた。
宇宙に還れぬくらいなら、戦って死のう。
誰もが口にせず、決意を共にしていた。
『姉御』
ゴーゴンの手下達が彼女に話しかける。
宇宙でよく使う、無線を用いず銃の先端を味方機に付けての、接触通信だ。
『連中、申し出に乗ってくれますかね』
「どうだろうね」
『………』
「こいつらはさ、プライドってやつが有るんだよ。ドサ回りと傭兵稼業でアタシらが無くした、ジオンの誇りってやつがさ。飼い主が誰でもいいって訳じゃないだろうね」
『姉御はそれでいいんですか? だって、姉御は――――』
「言うんじゃないよ」
『……………』
「馬鹿みたいだよね。今更年頃の小娘みたいに、都合のいい夢が叶うなんて思ったりしてさ」
『――――馬鹿じゃないっすよ』
『そうです』
「すまないね」
『謝らんでください』
「………」
『姉御?』
気付くとゴーゴンのR・ジャジャ・メデューサは、いや、七十余機のMSは、立ち止まっている。
見えたのだ。
パナマ洋上基地の、一際高い、その管制尖塔が。
そして、見えたのだ。
浮塵子や砂粒のような、だが決して砂粒などでは無い、重厚な存在感のオーラを放ち、轟炎の唸りを上げる、鋼の巨人の、八十三の騎影が。
それは、空を、洋上に架けられた巨大橋の上を進み、こちらに近付きつつある。
『皆』
ラドックが全員に語りかける。
『今まで良く付いて来てくれた。後は、先立ったジオンの英霊に恥じぬ、戦士としての真価を示すのみだ』
-5-
アルビオン居住区。
バックスは、自室のベッドの上で膝を抱える。
結局彼は、医療士官にも、ゴーゴンに見せられた幻影について語る事が出来なかった。
今まで彼は、模範的な学生、模範的な兵士、模範的な教官として、常に周囲の期待に応えてきた。
誰もが彼を羨んだ。
このまま行けば、そのうちきっと願いはかなえられると信じていた。
模範的な軍人として。
だが今はどうだ。
教え子に、部下に、命令一つ聴かせられない。
願いを叶える力など、何一つ持っていなかったのだ。
自分は結局、無力な子供の頃のままだったのだ。
あの光景に抗えなかったのも、当然だ。
彼には、ルーツが眩しい。
伝説のトップエース。
かつては、自分も素質では劣っていないと、無邪気に信じていた。
だが、根本的な何かが違っていた。
自分の教え子は、優秀な生徒だ。
しかし結局、ただそれだけだ。
なのに、ルーツの教え子たちは、まさに彼が願った―――――
-6-
MSデッキ。
ブラウンが、いつもの様にALSSの調整に躍起になっていると、ルーツがコーヒーカップを両手に持ってやって来る。
「ほらよ」
差し出すそれを、彼女は少しためらいつつも、結局は受け取る。
「調子はどうだ?」
「アタシが見てるのよ。悪い訳無いじゃない」
「違いない」
彼は苦笑する。
それきり黙る彼を見て、流石に何かを察する。
「貴方の方は?」
「ああ」
彼が困りながらも、訊ねられて救われたような顔になったのを見て、それが間違いで無かった事を感じる。
「生憎うまく行ってない」
「バックス中尉の事?」
「ああ」
「どうするつもり?」
「………もしもさ、アーサーに重大な欠陥が発覚して、ユニットを全部取り替えるか、ALSSをなんとか修復してそのまま生かすか、その選択を迫られたら、あんたはどうする?」
「決まってるじゃない。私がこの子を見放すと思う?」
「だよな」
彼は、顔を輝かせ笑う。
彼女は、この答えが間違いで無かった事を悟る。
「貴方の思うようにしなさいよ。どうせそうするつもりだったんでしょう」
「ああ」
「だって、貴方は―――――」
「?」
「な、何でも無いわよ」
「歯切れ悪りーな、はっきり言えよ」
「あ、アホだけど、そう悪い奴でも無いって事よ!」
「あー、ハイハイ」
「…………ね、ねえ、ルーツ」
「?」
だが、その会話の先が続く事は無かった。
『全乗組員に告ぐ』
ヒースロウからの船内放送。
「「?」」
『今からモニター及び船内放送に重大な映像と音声を流す。傾注せよ』
「何だと?」
「一体何?」
『スクランブル待機せよ。とんだヘイトスピーチだ』
-7-
時は僅かに遡る。
パナマの岸で、両軍は交戦距離ギリギリで対峙する。
そして、その降伏勧告のスピーチは始まった。
-8-
ある放送局では、『終戦より2年、平和への道』と言う、生討論番組が放送されていた。
退役した軍幹部達と軍事評論家達と有識タレント達が、今後の地球圏をいかに平和にして行くかの意見をひな壇で交わし合う、良く有る類の番組に過ぎなかった。
本来生放送の予定では無かったのだが、最後のジオン残党軍とやらに降伏を勧告するシーンが生中継できる、局側に嬉しい誤算が有ったため、生に差し替えられた。
『それでは、今これから、ラマカーニ准将がジオン残党軍に降伏を勧告されるそうです! 今こそ、まさに!戦争の全ての傷跡が拭い落とされんとする、世紀の一瞬です!!』
アナウンサーの声にも興奮の色が隠せない。
-9-
全ての無線通信帯とMSの外部スピーカーから、ジオン残党軍に、そして連邦全ての視聴者に、ラマカーニの、その言葉は投げかけられた。
『真の戦士達よ、我々に帰順し給え』
――――???――――
それは、誰もが予想していた降伏の言葉とは、微妙にニュアンスが違っていた。
耳を貸さぬつもりだったジオン兵達にも、動揺が走る。
『我々と君達は同じなのだ』
-10-
地球の、宇宙の、あらゆる基地や船舶の中で、兵士達は固唾を呑んで聞く。
その中には元ティターンズ兵士も。
「オヤッさん、何を言うつもりなんだ?」
-11-
『刑法には殺人教唆罪と言うものがある。
自らの手を汚さず殺人をそそのかした者は、実際に手を汚した者よりも罪が重いと言うものだ。
だが、悲しいかな、事、軍事の世界においては、その限りでは無い。
自らの信じる理想や正義の為に、己の命を賭した者よりも、安全な後方でそれを煽った政治家や官僚、財界人の方が、素知らぬ顔をして、のうのうと罪に問われず生き残る、それが現実なのだ。
我々ティターンズもそうであった。
安全な後方に引き籠りたがる、己の保身しか考えぬ軍官や政財人の代わりに戦った。
かく云う私も、事務兵站職と言う、安全な後方に居た身だ。誹られても構わない。
そして、確かにジャミトフやバスクは狂っていたかもしれない。
だが狂うほどに同胞を愛し、戦争を憎んでいたのだ!
理想を、正義を、地球圏の永久の平和を、追い求めていたのだ!
それはすべてのティターンズ将兵の、偽らざる本心だったのだ!
なのに、ジャミトフを、バスクを、狂気に追いやった責任を持つべき高官たちは、政財界人たちは、さも自分達が被害者面をして、のうのうと生きさらばえている!
全ての罪咎を、偏見を、蔑みを、負わされたのは、前線で掛け替えの無い命を賭した、忠実で哀れな、真の戦士達だったのだ!
ジオンの将兵よ、貴方達もこう思った事は無いのか?
自分達も、ジオンの理想と正義の為に戦ったのだと! 扇動者たるギレンなどではなく、前線で将兵と命を共にした、ガルマやドズルこそがジオンを率いるべきだったのだと!
我々は誰よりも命を奪い、奪われてきた、その自覚がある!
誰よりも、命の儚さ尊さを知っている。誰よりも同胞を失ってきたが故に!
全てをモニターと書類で、まるで他人事の数字でしか見れぬ、憐れな者達が、如何に世界を治めてきた?
傲慢と無自覚、無感覚、無感動、無神経、その繰り返しだ!
何も見てはいない、聴こえてはいないのだ!
人の想いを、人生を、踏みにじる!
効率と利益の名の下に、自らの心が貧しいから、他人も心など無いのだと思う、この上無く裕福な代わりに心貧しき乞食で、傲慢で、臆病で、憐れな道化達が、世界を治めているのだ!
これほど恐ろしい事が有るか!?
命の重みを知っている、真の戦士が世界を治めるべきなのだ!
この放送を見る心あるものよ、真の戦士よ。ティターンズも、ジオンも、ネオジオンも、連邦も、エウーゴも、カラバも、その軛に意味は無い! 命を賭した者、命の重みを知る者は皆同胞なのだ!
我が元に来たれ!!
そして、新たに≪ウラノス≫の名と旗の下に、団結し、世界を治めるのだ!』
-12-
波紋は各所に広がる。
『君は行かないのかね?』
「何の御冗談ですかな、ゴップ議長。私はティターンズとは関わりの無い、ただのヴァースキです。それよりも、彼等の討伐を私にお命じにならないので?」
『君は彼等の昔の知人に似ている。君を彼等の前に出して、下種の勘繰りをされるのを私は好まない』
「ごもっともで」
『君達高高度緊急展開部隊の任務は、彼等に空路で合流しようとする者の阻止だ。もっとも、私の読みでは、その必要も無いだろうがな』
「愚か者はいないと?」
『いや、既に合流した後だと私は読む。この演説は地球連邦軍に動揺を誘う為のヘイト攻撃だ』
「お前、行かないのか? 元ティターンズで、その中でもエリートのMS開発部隊だったんだろう?」
「いや、僕の仕事はもう戦う事じゃない。どのパイロットも生きて還れる様に、その為に育てる事だ。綺麗事に聴こえるかもしれないけど、もう、人を生かす為にしか操縦桿を握る気は無いよ。それが僕の今の闘いだ」
「滑稽だな、ナナイ」
「彼がですか、大佐?」
「いや、こんな老人に喝破される程、連邦は、地球は腐敗し破綻しているという事だよ。安全な揺り籠の幻想に囚われた人々は、目を覚ますべきだ」
-13-
カリフォルニア基地、アルビオン艦橋。
「シビリアンコントロールの破壊だと? 傲慢なのは貴様だ!」
「どうされます? 司令」
「独断専行の責咎は私が負う。サンズ艦長、直ちにパナマ洋上基地に向けて本艦を発進させたまえ!」
-14-
パナマ沿岸。
「我々が断ればどうするつもりだ?」
ラドックが問う。
『矛盾に聴こえるかも知れんが、平和を乱す犯罪者として討伐する。真の戦士とは認めない』
『ラドック、頼む、聞き入れておくれよ』
「ゴーゴン………」
『アンタには死んで欲しくないんだ、お願いだよ』
ラドックはしばし沈黙に閉じ、考え抜いた末に、答えを出す。
「――――その申し出、私個人は受ける」
『『『中佐!?』』』
『君個人―――、とは?』
「私と、私に賛同する者はお前らに協力する。だがそれには条件が有る」
『―――聴こう』
「私が申し出を受ける代わりに、その代わりに、他の者が去るのを見逃して欲しい。宇宙に還りたい者達は宇宙に還してやり、モビルスーツを捨てられぬ者達が、再び北米に戻るのを許してくれ。それが条件だ」
『…………良かろう』
こうして、ラドックと約1個大隊のジオン兵は彼等に恭順し、残りの者はモビルスーツを捨て、サイド3に還るか、モビルスーツとともに、北米の地に帰って行く。
ラドックと運命を共にしなかった者達のその後は、シャアの反乱やラプラス事変と後に呼ばれる、ネオジオンの闘争の時代に、また名も無き兵として語られている。
-15-
アルビオンMSデッキ。
バックスを除く待機中のパイロットに、ヒースロウから命令が下る。
『ゴップ議長から正式な通達が出た。連中はパナマ基地係留の予備宇宙戦力、マゼラン改級1隻、サラミス改級4隻、コロンブス級3隻で宇宙に上がる動きだ! 我々は全航空戦力でそれを阻止する!』
「C小隊は待機ですか?」
ルーツが問う。
『そうせざるを得まい』
――二重の意味で――、とまではヒースロウは口にしない。
「了解! A小隊及びB小隊、各員搭乗!急げ!」
各ガンダムのジェネレーターが唸りを上げる。
ケンザキはその音を聞いて、不思議な感覚に包まれる。
ああ、そうだ―――――、この音だ。振動だ。操縦桿の手応えだ。
僕はきっと、エリートになりたくてMSの操縦が上手くなったんじゃない―――
MSの操縦が、きっと、ただ好きだったからなんだ。
バックスとの仲がこじれたのもきっと―――
生きて帰って、その事を伝えたかった。
-16-
パナマ洋上基地、マゼラン改級『ウラケノス』艦橋。
「准将、敵性と思われる6機の戦闘機接近中! おそらく打ち上げを阻止しに来た、アルビオンのWRMS部隊と思われます!」
「残念だ………。彼等も、特にルーツ君は、真の戦士の心を持っていると思っていたのに」
「どうされます?」
「セヴ、ノイ。遠隔操縦だが、やれるかい?」
「やってみる」
「どうせサイコガンダムとサイコバイアランは宇宙には持っていけない」
特設のシートに座った少女と少年の頭を、武骨なコードの伸びたヘルメットが覆う。
-17-
「迎撃来やがったぜ!」
ルーツが叫ぶ。
14基のドローンファンネルとサイコガンダムMk.Ⅱ、サイコバイアランが襲いかかる。
『クリプト中尉!』
『何だ?ケンザキ、またサイコバイアランは自分に任せろってか?』
『いえ、それは中尉にお任せします! それより僕はファンネルを相手するので、僕のフォローにオコーナーを付けて下さい!』
『ほ~。いいか?オコーナー?』
『か、構いません。俺もその方が得意です!』
『頼む、生きて帰りたいんだ! ウォードみたいに美味しい所を攫ってくれ!』
『…………ケンザキ』
『な、何だよ?』
『何か、初めて友達扱いしてくれた気がして、嬉しいよ』
『よ、止してくれ』
-18-
「――――駄目、やっぱり遠隔じゃ無理」
セヴのサイコガンダムMk.Ⅱが、ルーツのガンダムSSに墜とされる。
「いや、いい。時間稼ぎは充分だ」
鳴り響くロケットエンジンの轟音。
「もう、間に合わん」
ラマカーニ達を乗せた船たちは、次々と打ち上げを開始する。
-19-
『ルーツ、もう間に合わん! 斯くなる上は、一隻でもいい、ガンダムSSの推力で貼り付いて撃ち落とせ!』
ヒースロウの命令。
ルーツはラマカーニ達の船に向かう。
だが逡巡する。
それでいいのか―――?
脳裏に浮かぶセヴとノイの笑顔。そして―――――
(貴方の思うようにしなさいよ)
(あ、アホだけど、そう悪い奴でも無いって事よ!)
「アーサー、220ミリ砲をパージだ!」
『了解、主砲スマッシュカノンを投棄します』
『ルーツッ!?』
ヒースロウの悲鳴に近い抗議。
「その代わり、ビームマシンカノンをビームサーベル代わりにできるか?」
『可能ですが、およそ1.1秒で砲身が焼き切れます』
「なら両方で2.2秒。充分だ! 船とロケットブースターの接合部をそいつでぶった切る!」
コロンブスの一隻にガンダムSSが追い付く。
「信じられん、奴は化け物か!!!?」
オリンポスの兵士達がGと驚愕に顔を歪める。
そして、ブースターを切断されたコロンブスは、ぐらりと傾き、落ちて行き―――
水しぶきを上げ、海面に不時着した。
-20-
アルビオン艦橋。
「スミス、お前等の部隊は海兵隊の訓練も受けているはずだ。医療士官を伴い緊急連絡艇で突入し、睡眠ガスを用いてコロンブス級を無血制圧し、人員を拘束せよ」
『人使いが荒いぜ、まったく』
「ルーツ。あのまま放っておけば、おそらく衝撃から醒め絶望した彼等の多くは、自決を選んでいたはずだ」
『――――っ、ヒースロウ、すまねえ!』
「戦いだけでなく、平時においても人の心の2手先3手先を読め。私もゴップ議長から学んだ。たとえ考えるより先に体が動いても、動いた後には必ず考えろ」
『……肝に命じる。いや、命じます!』
-21-
6機のガンダムが次々と無事に着艦する。
「Rock’n Roll!」
「「「ロックンロール! ロックンロール!」」」
メカニック達が、クル-達が、歓呼の声を上げる。
『チェッ、こういうとこ敵わねーよな。ルーツにはよ』
クリプトが呆れながらも笑う。
『熱くなったら前に出ちまう、か。まんまロックンロールだぜ』
普段は愛想が無いくせに、いざやの刻、誰よりも誰かを愛する事すらも、躊躇わず前に転がって征く。
気付けばヒースロウさえ、デッキに降りて出迎えに来ていた。
ヒースロウは願う。
R&R。この数奇なイニシャルを持った若者よ。
どうか、優し過ぎたマニングスの様に、死神の手に捉えられる事なかれ。
ガンダムSSよ、メカニック達よ、この若者に、誰よりも速き、疾き、死神の手よりも迅き翼を授けたまえ。
――Ryou Roots―― この転がる(Rolling)石(Rock)に。
―第一部地上編完。第二部宇宙編開始、第7話へと続く―
おまけ。
ガンダムSS設定。
※キャラクター解説。
●リョウ・ルーツ
彼のニックネーム、『ロックンロール(R&R)』が、やっとここに来て本編中に出ました。
狙ったタイミングへの過程を消化するまでが長かった~。はい。エモかったでしょうか?
ちゃんと主人公してくれて、お養父さんは嬉しいです(実父は勿論センチネル原作者高橋さん)。
このままブラウンとも………え?あれが何してそうなるの?ヒデエ。
続きは続きにて(日本語が変)。
●ロデム・ケンザキ
第六話の裏主人公でしたね。吹っ切れて何よりです。ですが成長した彼には、これからウォードと共に立ち向かう問題が有るのですが。続きは(以下略)。
●ライル・バックス
どツボです。
もしジョッシュがルーツ達と共に居れば、彼もこんなふうに打ちのめされた事だろうと、まさにジョッシュの代わりであるキャラクターとしては、予定通りなのですが可哀想(俺が言うな)。
それでも、立ち上がるには、彼が彼の言葉で言うしか、叫ぶしかないのです。
●シン・クリプト
今回いっぱい美味しい所を頂きましたが、最後の美味しいとこはルーツのモノでした。いいコンビですね。
●イートン・ヒースロウ
渋い名将になってきました。アホ二人とセットで不屈の闘志で頑張ってほしいものです。
●シェリー・ブラウン
ヒロインっぽくなってきましたが………。えー?あれが何(以下略)。
●ラドック&ゴーゴン
周りから見てあからさまにそうでも、思い詰めてたりすると、当人なかなか気づかないものですよね。
●ソラン・ラマカーニ
彼は兵を愛し過ぎ、そして悲しみ過ぎた人です。
結果悪役としての行動に走りましたが、彼の言っている事にも理は有るのです。
数字、効率、利益、そして不安と恐怖。それを追い求め過ぎると、他人の大切な何かを踏み潰してしまう。
それは偉い人に限った事で無く、つい誰もがしてしまいがちな事。
人からしてみれば大した事に見えないそれも、後になって大事だと気付く。
他人に踏みにじられても尚、大切にできる人が、結局は名クリエーターや芸術家、名指導者等、各分野のトップランナーになる。そう言うモノです。
きっとそれが、そして挫けそうな誰かに、負けるなと云う事が、本当の勇気なのに、彼は暴力で人に味方する事を選んだ。
踏み潰し踏みにじる側になる事を。
哀将。そう呼ぶべき人でしょう。
※メカ解説。
●ガンダムSS・ハイスピードVer
単にスマッシュシルエットから主砲を外しただけ。ですがそれにより、BstSガンダム以上の推力比を発生。機動力においてはまさに化け物になった訳です。ルーツはさぞ、あれ(衛星攻防戦)から鍛え直したのでしょう。で無いとGで死んでるよこれ。努力って無駄になったように見えても、後でひょっこり役立つもんですよ。
さて、ビームマシンカノンですが、病院船ケルゲレン墜としで悪名高い、某ジムスナイパーの様に、理論上あらゆるビーム兵器は連続照射でサーベルのように使えます。普通はエネルギー供給や冷却の問題で、セーフティーが働き、出来ない訳です。区切る事により、威力の高いビームが撃てたり、砲身が焼け溶けずに済むのです。
じゃあビームサーベルは?って、あれは凄く低出力のIフィールドで閉じ込められた、超省エネビーム兵器なのですよ。Iフィールドで閉じ込められている間のエネルギー供給と冷却の必要はごく僅か。敵に触れて、はじめてIフィールドが壊れて破壊兵器になる(その時はそれなりにエネルギー供給がいる)訳です。
逆に言えば、防禦兵器の壊れない超高出力Iフィールドに比べて、壊れ易く低出力な分、簡易安価なフィールドなんですよね。だから開発順序としては、こちらが先に実用化された訳です。
ふう、またガチオタ解説だったぜ。多分、他で同じ解説してると思うけど、せずにいられなかった(笑)。
そんな訳で第一部地上編終了です。第二部宇宙編のガンダムSS新形態にも期待してね!
ストーリーは? 鋭意努力する所存にございます(政治家の様な胡乱な発言)。
ではでは。
まったねー。
ルーツ達はウラノスを追う為、宇宙を目指す。
回復し切らないバックスたちを敢えて補充兵と交代させず、問題を抱え込んだまま。
ウラケノスと激突する連邦艦隊。姿を現すガンダムSS新形態、ストライクシルエット。
ラグランジュ4の戦いの趨勢や如何に?
第7話 ―ストライク―
ってな訳で、いよいよ始まる第2部宇宙編、ガンダムSS第7話は10月初旬アップの予定ですよ。後半戦突入でますます気合いを入れております!
是非是非是非また次も読んでね!
おっ楽しみに~!
(^^)/