真夏のクロスオーバーロード!   作:トミー@サマポケ

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第一話

 

 

 

 イーリスとの戦いが終わり、白巳津川に平穏な日々が戻ってから、はや数ヶ月。

 

 目下の脅威は去ったものの、ソフィーの世界から流出したアーティファクトは、未だ俺達の世界に無数に存在していた。

 

 最近のヴァルハラ・ソサイエティの活動といえば、もっぱらその回収。というわけで、今日も俺は探索のアーティファクトを使い、その行方を追っていたのだが……。

 

「……あのさ、希亜」

 

「なに?」

 

「集中できないんだけど」

 

「……彼女が家に遊びに来ているのに、アーティファクト探しなんてしてる翔が悪い」

 

 そう言いながら、背後のベッド上から俺の首に腕を回すように抱きついて、首筋にぐりぐりと顔を擦りつけてくる。さながら、猫みたいだ。

 

「いや、夏休みの間にある程度進めといた方がいいと思う……し……」

 

「そんなの、私がいない時にすればいい」

 

 拗ねたような声を出すが、夏休みに入ってからというもの、希亜は玖方の登校日以外ずっと俺の部屋に泊まってる気がする。

 

「10分でいいからさ。少し時間くれないか」

 

「……わかった。モンバスしてる」

 

 正直不服そうだったが、シャツ一枚でまったりモードの希亜はようやく俺を開放してくれ、ごろりとベッドに横になって携帯ゲーム機を操作しはじめた。

 

 俺を信用しきってくれてるのは嬉しいが、あの薄いシャツ一枚で抱きつかれるとその、色々柔らかくて集中できねえんだよな……。

 

「ふー……」

 

 深呼吸をして気持ちを落ち着けた後、俺は目を閉じて、探索のアーティファクトを起動させる。

 

 直後、まるで地図アプリのように俺の中に白巳津川周辺の地図が表示されるが、見てわかるような反応はない。

 

「むー、見つからん……」

 

 一度街全体に探索をかけた後、今度は細かく探してみる。一度アーティファクトを見つけてしまえば、常に居場所を確認し続けることも可能なんだけど、最初のとっかかりを見つけるのがとにかく大変なんだ。

 

「……アーティファクトが街の外に出る可能性もゼロじゃないらしいし、探索範囲を広げてみたら?」

 

 ……俺が苦戦しているのを察したのか、希亜がゲーム機から目を逸らさずに、そう助言してくれた。

 

「そうだな。最近はこのアーティファクトの練度も上がったし、試してみる価値はあるかも」

 

 俺はその助言を受け入れ、ゆっくりと探索範囲を広げていく。地図アプリを広域化していくように、白巳津川から県全域へと。ゆっくりとだ。

 

「どう?」

 

「んー、ねぇなぁ……」

 

 最終的に日本全域にまで範囲を拡大してみたけど、それらしい反応はなかった。どうも、範囲を広げるほど探索の感度も下がるらしい。こりゃ駄目だ。

 

「……やっぱり、今日は二人で愛を育めって思し召し」

 

「思し召しって言われてもなぁ……」

 

 希亜の言葉に脱力すると同時、耳元にその吐息を感じた。いつの間にかゲームをやめて、また俺の近くに来ていたらしい。

 

「お昼ご飯食べたら、行きたいとこある」

 

「いいぞ。どこだ? ラウンドツーか?」

 

 そんな話をしながら、探索のアーティファクトを停止させようとした……その時。突然メチャクチャ強いアーティファクトの反応が出た。

 

「な、なんだ……!?」

 

「え、翔、どうしたの?」

 

「いや、なんかクソ強い反応がある。ちょっと待っててくれ」

 

 俺は今一度アーティファクトの操作に集中し、反応があった場所を割り出す。頭の中の日本地図が一気に西へ移動した。

 

「……鳥白、島……?」

 

 ……やがて頭の中に、そんな単語が浮かんだ。おそらく、地名だろう。

 

「って、どこだそこ」

 

 俺は今度こそ探索のアーティファクトを停止させ、スマホの地図アプリを起動して、地名を入力してみる。

 

「……瀬戸内海?」

 

「え、こんな遠くにアーティファクトがあるの?」

 

「どうやらそうらしい。俺も半信半疑だけど」

 

 いつの間にか希亜も俺のスマホ画面を覗き込み、驚愕の表情をしていた。

 

「とりあえず、ソフィーに相談してみよう。ソフィー、いるか?」

 

「……いるわよ。どうしたの?」

 

 俺がそう呼びかけると、何もない空間から、無駄にかっこいいエフェクトと共に一体のぬいぐるみ……ソフィーが現れた。

 

「探索のアーティファクトを使っていたら、すごく強いアーティファクトの反応が見つかった」

 

「そうなのね。どこ?」

 

「瀬戸内海の……鳥白島って場所だ。ここからはかなり離れてる」

 

 ……俺はスマホの画面をソフィーに見せながら、これまでの経緯を説明した。

 

「ふうん……どうしてそんな遠くにアーティファクトがあるのかわからないけれど、それだけ強力な反応が出たのなら、放っておくわけにはいかないわね。できるだけ早く回収に向かうべき。可及的速やかに」

 

「そう言われても……簡単に行ける距離じゃないぞ、これは……」

 

 地図アプリから経路検索をしてみるが、移動だけで一日仕事になりそうだ。

 

「この世界では、長距離移動が安価に行えるのでしょう? 夏休みなのだし、皆で行けばいいじゃない」

 

「そうだけど、私達は学生という身分。基本親の保護下にあり、夏休みといえど、移動はかなり制限される」

 

 希亜はソフィーが出てきたことで、普段の凛とした態度に戻っていた。

 

「あら、そうなの。めんどくさいわね」

 

「それに、運賃が安いって言っても、俺達にとっちゃ結構な金額だからな。これは少し考えないと」

 

「なんだか私が思ってる以上に大変そうね……まぁいいわ。予定が決まったら、また連絡をちょうだい。私の方でも、そのアーティファクトについて調べてみるから」

 

「わかった。よろしく頼む」

 

「それじゃあね」

 

 そこまで話をすると、ソフィーはこれまた無駄にかっこいいエフェクトを残して、自分の世界へと帰っていった。

 

「……しっかし、結構な長旅になるぞこれは……」

 

 それを見送った後、俺はもう一度スマホの経路検索結果に目を通す。

 

「この距離だと特急……いや、新幹線か? それも、途中からは在来線で……最終的には船か……学生割引を使っても……うーむ」

 

 何度考えても、かなりの旅費がかかる。もし皆で行くなら学生という身の上、引率者も必要だし。

 

「交通費は天がおとんに頼めば、それなりに出してくれそうだけど……」

 

 でも、それはそれであいつに借り作るようで、なんか癪だし……どうするか……。

 

「お金かかるなら、私と翔でバイトする? いいのあるよ」

 

 俺が頭を抱えていると、希亜が自分のスマホ画面を見せてくる。そこには『コスプレ喫茶のバイト募集!』と派手な求人広告が表示されていた。

 

「近くにコスプレ喫茶ができるらしくて。時給も良いし、一緒にやらない?」

 

「確かに時給良いけど、コスプレかぁ……」

 

 白泉も玖方も、どちらも長期休暇中のバイトは認められている。認められているけど……。

 

「コスチュームは自作歓迎って書いてる。また翔のナイトブレイダー見たい」

 

「あー……あれかー。あれなー……」

 

 ナイトブレイダーというのは、以前二人でコスプレイベントに参加した時、希亜にせがまれて俺が用意した衣装だ。希亜はかなり気に入ってたけど……風通しと視界、可動域に問題があったんだっけ。あれで接客とか、危なっかしくてできそうにない。

 

「……って、このコスプレ喫茶、9月1日オープンになってるぞ」

 

「あ、本当……夏休み、終わっちゃってるね」

 

 当時を思い出しながら画面をスクロールさせていたら、そんな一文を見つけた。9月からだとバイトする意味はない。どうしたもんかな。

 

「……でも、できたら旅行は行きたい」

 

「そうだよなー」

 

 アーティファクト回収の件を抜きにしても、夏休みの思い出作りに二人で旅行したいという案は以前からあった。

 

 希亜の『これまでやれなかったことをしたい』という希望でもあるし、彼氏としてできるだけ叶えてやりたいけど……。

 

「……よし。あまり頼りにするのも悪いと思うけど、アーティファクト絡みということもあるし。背に腹は代えられない」

 

「え、どうするの?」

 

「……禁じ手を使わせてもらう」

 

 俺はスマホのウェブブラウザを閉じると、LINGを起動して九條に連絡を取った。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 ……そして、謎のアーティファクト発見から一週間後。

 

 俺たちは鳥白島へ向かう船の上にいた。

 

 

 

「すげぇ……! この海、めっちゃ綺麗なんだけど……!」

 

「天、身を乗り出しすぎて落ちるなよー」

 

「新海妹よ! その気持ち、わかるぞ! 私も早く皆とあの白い砂浜を駆け回りたくて、うずうずしている!」

 

「他人のお金で瀬戸内旅行! 最高ー!」

 

 短い船旅を楽しもうと、揃ってデッキに出てきたんだけど……皆はしゃぎ過ぎだ。他の観光客もいるんだから、もう少し静かにしてほしい。

 

「ちょっと先生。引率者が一番にはしゃがんでください」

 

「いいじゃない。新海くんも楽しみなさいよー」

 

「そうだぞー。にぃにもバカンス楽しめよぅ!」

 

「だからお前ははしゃぎ過ぎだ!」

 

 思わず大きな声が出る。本来の目的はアーティファクト探しなんだから、そこんところを忘れないで欲しい。

 

「……でも、皆で旅行とか初めてだし、浮かれちゃう気持ちも分かるかも」

 

 賑やかな皆を、九條が目を細めて見ていた。夏らしい白を基調にした帽子にワンピース。九條にしてはなかなかに露出が高い気がするが、どこか気品がある。

 

「九條もありがとうな。結局、旅費のほとんどを出してもらってさ」

 

「ううん。気にしないで。お金はこういう時に使わなきゃ」

 

「他人のお金で瀬戸内旅行! 最高ー!」

 

「イェーイ! みゃーこ先輩に感謝!」

 

 そんな九條の言葉が聞こえているのかいないのか、先生と天はどこまでもハイテンションだった。

 

「天、浮かれてるけどお前、夏休みの宿題終わったの?」

 

「バッチリ終わってない!」

 

 サムズアップしながら言う台詞じゃないからなそれ。

 

「あ、あの……宿題はきちんと終わらせておいた方が良いと思い、ます……」

 

 そんな天の言葉を聞いて、春風先輩がおずおずと進言してくる。

 

「春風先輩、あたしは宿題なんかより、夏の思い出を選んだんですぜ……」

 

「天、センチメンタルな雰囲気出しても、後で泣くのはお前だからな。俺は手伝わないぞ」

 

「お兄ちゃんお願い☆」

 

「うっぜ」

 

 わざとらしい甘え声を出す天を一蹴して、俺は少し離れたベンチへ向かう。そこには希亜が座っていた。

 

「……まったく、皆浮かれすぎだよな」

 

 できるだけクールを装って、希亜の隣に腰掛ける。

 

「……アーティファクト探しはもちろん大切だけど、私も皆と遊ぶのは楽しみだったりする」

 

 至って自然に俺の肩に頭を預けながら、はにかむような笑顔を向けてくれる。

 

「そういえばこの旅行が決まってすぐ、女性陣で水着買いに行ったんだよな。希亜の水着、楽しみだ」

 

「……色々足りないから、期待はしないでほしい。春風や天の、足元にも及ばない」

 

「あー……いや、俺は気にしないぞ。希亜のがジャストサイズだから」

 

 眉をしかめ、口をへの字に曲げる希亜の視線を追った後、俺は慌ててフォローする。本当、そこは気にしないでほしい。

 

「おーおー、さっきまで人にはしゃぎ過ぎだと言っておきながら、今度は鼻の下伸ばしてますよー! 彼女さんの水着姿想像して、内心めっちゃ興奮してますよー!」

 

「馬鹿っ、してねぇよ! だから声がでかいっての!」

 

 そんな俺達のやりとりが聞こえたのか、天が指差してわめく。全く、おかんから人を指差すなって教わらなかったのか。

 

「……お楽しみのところ悪いけど、ちょっといいかしら」

 

 ……その時、ソフィーの声がした。

 

 視線を向けると、いつものように空間が歪み、デッキの柵のところに見慣れたぬいぐるみが現れた。

 

「ソフィー、どうかしたのか?」

 

「もしかして、問題が起こったの?」

 

 俺達も一様に真顔になって、ソフィーの周囲へ集まる。

 

 ソフィーの姿はユーザー以外には見えないし、声も聞こえないんだけど、一応周囲の観光客からその姿を隠すような位置取りをした。

 

「これから向かう島についてだけど、それなりに調べておいたわ」

 

「何かわかったのか?」

 

「特に何も。どこにでもある普通の観光地よ」

 

「島のユーザーの特定はできそうか?」

 

「探してみたけど、そららしい人間は見当たらないのよねぇ。カケルの方はどう?」

 

「探索のアーティファクトか? ずっと使ってるんだが、島を覆うほどの反応の強さだ。とてもじゃないが個人の特定はできそうもない」

 

「そうなの。じゃあ、上陸後に情報を集めるしかなさそうね」

 

 ……ちなみに、鳥白島にあると思われるアーティファクトの持ち主について、俺達は『島のユーザー』と呼んでいる。何か呼び名があった方がわかりやすいだろうということで、ソフィーが付けた名前だ。

 

「とりあえず、島での滞在期間は一週間を予定しているから、その間に見つかるといいわねー」

 

 先生が被っていた麦わら帽子の位置を整えながら言う。

 

 引率者としてついて来てはくれたけど、本来アーティファクト回収は俺たちがやっていることで、先生は無関係だ。何事もなく終われば良いんだけど。

 

 ……そんなことを考えていた矢先、急に霧が立ち込めてきた。

 

「え、なに? 霧?」

 

「これはどうしたことだ。先程まであれほど晴れていたというのに」

 

 天や高峰も困惑している。この辺りの海は春先の早朝には霧が出ることもあるらしいけど、真夏の真昼間に突然霧が出るのは不自然だ。

 

「翔、これはもしかして、島のユーザーの聖遺物の力?」

 

「……かもしれない。皆、気をつけろ!」

 

「りょーかい!」

 

「わ、わかりました!」

 

 俺達はお互いの背中を守るように輪を作り、周囲を警戒する。

 

「レナ、霧に紛れて敵が襲ってくるかもしれない。用心してくれ」

 

「あいよっ」

 

 俺は万一に備えて皆に結界のアーティファクトを発動し、加えて幻体のレナを呼び出しておく。

 

「もしかして、私達の存在が島のユーザーにばれているのかも」

 

 ちらりと見えた希亜も、その左目にスティグマを展開していた。

 

「その可能性、あるかもな」

 

 これだけ強力な反応があるんだ。島のユーザーは複数のアーティファクトを持っていて、ユーザーの位置がわかるアーティファクトも所持しているかもしれない。

 

 最悪オーバーロードの発動も視野に入れながら、更に警戒を強めたその時。視界が強い光に覆われた。

 

「な、なんだっ……!?」

 

 そして次の瞬間、一面に無数の白い花が咲き乱れる空間に俺は飛ばされていた。いや、周りを見ると他の皆の姿もある。これは、転移のアーティファクトか!?

 

 

「……あれ?」

 

 困惑しているうちに、その景色は霧散していき……気がつけば、俺達は元の船上へと戻ってきた。

 

「……今の花畑、一体なんだったのかな」

 

 隣から聞こえた希亜の声で我に返る。その口ぶりからして、希亜も俺と同じものを見たみたいだ。恐らく、他の皆も。

 

「えっと……皆、無事か?」

 

 今の事象に紛れて、誰か連れ去られたりしていないかと周囲を見渡すけど、変わりなく全員が揃っていた。

 

「なんだったんだ。今のは……?」

 

 荷物もきちんと揃っているし、何の変わりもない。

 

 首を傾げる俺を余所に、船は島の港へと進んでいった……。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 やがて船が着岸し、俺達は他の観光客に交じってタラップを渡って船を降りる。

 

「あれー? 観光地って言うけど、そこまで人いないじゃん」

 

「そうだな。むしろ、どことなく寂れているような印象を受ける」

 

 先頭を切って島に降り立った天と高峰のそんな会話が耳に入る。確かに、船にはもっとたくさんの観光客が乗っていた気がするけど、降りたのはほんの数人だった。この島、観光地なんじゃなかったか?

 

「あ、でも野良猫さんがたくさんいますよ」

 

 ……その時、灼熱の太陽から逃れるようにして、港の日陰でくつろぐ沢山の野良猫が目についた。いい塩梅なのか、無警戒に毛づくろいに勤しんでいる。

 

「……猫!?」

 

 春風先輩に言われてそれに気付いた希亜は、引き寄せられるように猫たちへ近づいていく。

 

「新海くん、結城さんを止めなくていいの?」

 

「あー……」

 

 猫好きだし、しょうがねぇよなぁ……とか考えていると、九條が心配顔で声をかけてきた。

 

「ねこねこチャンス……おわさりチャンス……」

 

 大好きな猫を前に我を忘れているのか、希亜は謎の単語を口走っている。怪しいオーラが出まくりだ。

 

「シャー」

 

 過酷な野生の世界で生きている野良猫達はすぐにそれを察し、散り散りになって逃げ去っていった。無理もない。

 

「あぅ……逃げられた……」

 

 希亜は直前まで猫達がくつろいでいた地面をもの悲しそうに見ながら項垂れていた。

 

 ……まぁ、どのみちしばらく島に滞在することになるんだし、猫を触るチャンスなんていくらでもあるだろう。

 

「……ところでソフィー、島に着いてから、何か違和感を感じないか?」

 

 俺はそんな希亜に苦笑した後、九條の鞄の上でぬいぐるみに扮していたソフィーに話しかける。

 

「何かって?」

 

「さっきの霧とか、その後一瞬見えた花畑とかさ。何か不思議な領域にでも入ったような感じなんだ」

 

「そうねぇ……私は別に何も感じないけど」

 

「……そっか」

 

 以前のイーリスとの戦いの時みたく、相手の領域に入り込んでしまったんじゃないか……とか考えたけど、ソフィーが何も感じないのなら、その可能性は低いか。なんか、妙な違和感があるんだけど。

 

「それに、もし危険な目に遭っても、オーバーロードで旅に出る前からやり直せばいいじゃない」

 

「簡単に言ってくれるなぁ……」

 

「アーティファクト探しも大事だけど、せっかくの休みなんだから羽を伸ばしなさいな。あーあ、私も長期休暇欲しいわねぇ」

 

 ソフィーは大きくため息をつきながら言う。よくわからないけど、セフィロトの仕事も忙しいんだろうな。

 

「あー、そろそろホテルに移動しない? 翔くんも、難しい話はクーラーの効いた部屋で! ここ、暑すぎるわ……!」

 

「あたしも賛成ー。とりあえず荷物置いて、身軽になりたいしさー」

 

 その折、先生と天が揃ってそんな声をあげる。確かに、いつまでも港で立ち話ってのも良くないよな。希亜が熱中症になったりしたら大変だ。

 

「わかったよ。えーっと、ホテルの場所は……」

 

 というわけで、俺はスマホを取り出して、地図アプリを起動する。

 

 島での宿泊は先生に頼んで、港近くのホテルを取ってもらっている。民宿の方が安いんだけど、これだけの人数で一週間泊まるとなると、それなりに設備が整った場所が良いという結論に至ったらしい。

 

「……あれ?」

 

 やけにアプリの起動が遅いなと思っていたら、やがて表示された画面には『オフライン』の文字。え、圏外?

 

「あー、さすが島。スマホの電波届いてないみたいだわ」

 

「え、うそっ」

 

 俺の言葉を聞いて、天が急いで自分のスマホを確認する。同じく圏外だった。

 

「希亜、お前のスマホ、確かDOCOCA回線だったよな。繋がるか?」

 

「駄目。圏外になってる」

 

「私のも駄目だね」

 

「私のもです」

 

 それを発端にして、各々がスマホを確認するけど、全員が圏外だった。

 

「えー、これじゃ離れ離れになったら連絡取れないじゃん! LINGも使えないし!」

 

 天が頭を抱えて叫ぶけど今更だ。下調べの段階じゃそんな情報、出てなかった気がするけど。さっそく田舎の洗礼を受けてしまった気がする。参ったな。

 

「で、でも、地図アプリが使えなくても、ホテルはすぐ近くなんですよね? なら、歩いて探しましょう」

 

「それしかなさそうっすねぇ……」

 

 春風先輩の言葉に賛同して、皆で静かに歩き出す。まぁ、小さな島だし、地元の人を見つけたら道を尋ねてみるのもいいかもしれない。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 ……その後、道を歩いていたお婆さんにホテルの場所を尋ねると、丁寧に教えてくれた。

 

 そして辿り着いたのは、お世辞にも立派とは言い難い……長年潮風に当てられた壁が印象的な、なかなかに古いホテルだった。

 

「えー、沙月ちゃん、ここなの?」

 

「そのはずなんだけど……変ねぇ。予約サイト見た時は、この夏リニューアル! って書いてたんだけど」

 

 先生も首を傾げている。とてもリニューアルしたてとは思えない見た目だけど、背に腹は代えられない。俺達は意を決してフロントへと向かった。

 

 

 

 

「……え、部屋が空いてない!?」

 

 引率者の先生にチェックインの手続きを任せていたら、そんな声が聞こえた。

 

「え、部屋がないってどういうこと?」

 

 思わず皆で駆け寄ると、建物の外見と同じく古ぼけた感じのフロントで、支配人と思われる初老の男性が首を傾げていた。

 

「そ、そんなはずはないわ! 成瀬沙月様、7名で予約が入ってるはずよ!」

 

「うーん、そう言われてもねぇ」

 

 男性はかけた眼鏡の位置を調整しながら、宿泊台帳に視線を落とす。

 

「ここを見てよ。お嬢さん達の名前はないよね?」

 

 続けてその台帳の向きを変えて、俺達にも見えるようにしてくれる。

 

 先生に並んでその台帳を覗き込むけど、そこにあるのは知らない名前ばかりで、先生の名前はなかった。でも、それ以外に何か違和感がある。

 

「ちゃんと電話予約したのよ! ほら、これこのホテルの番号でしょう!?」

 

「確かにそうだけどねぇ……」

 

 引率者としての責任感からか、自分のスマホを男性に見せながら必死に訴える先生の声を聞きながら、俺はもう一度舐めるように宿泊台帳を見る。

 

「……え!?」

 

 ……そして、ようやく違和感の正体に気づいた。

 

 

「……2000年 8月 23日?」

 

 

 宿泊名簿の隅に書かれた日付は、遥か昔のものだった。今年は2017年じゃないのか?

 

「あの、今年って2000年なんですか?」

 

「え? ああ、そうだけど」

 

 思わずそんな質問をすると、男性は答えながら訝しげな表情をする。俺は半信半疑のまま、フロントに置いてあった新聞を手に取る。そこにも同じ日付が書いてあった。

 

 次に天井近くに設置されていたテレビに目をやる。古いブラウン管の中では、キャスターが興奮気味にマラソンの金メダル獲得のニュースを伝えていた。

 

 ……あのマラソン選手、随分前に引退したんじゃなかったっけ。

 

「マジかよ……」

 

 新聞も新しいし、テレビも録画じゃなさそうだ。なまじ信じられないけど、これはもしかして……。

 

「にぃに、さっきから変だよ? どうかした?」

 

「いや……なんでもない。皆、一旦外に出よう。お騒がせしてすみませんでした」

 

 俺はひとつ深呼吸をした後、支配人の男性に一言謝り、皆を連れだって表に出た。

 

 

 

 

「ちょっと沙月ちゃん―! なんで宿取れてないのー!?」

 

「へ、変ねぇ……この間予約した時、カードで前金も支払ったのに」

 

「フッ……まさかの宿なしとは。キャンプ用品を持ってきて正解だったな……!」

 

「なら、料理も自分たちで……!?」

 

「食材どうしよう……島にスーパーとかなさそうだし……」

 

「あ、私、カレーなら作れます……」

 

「デスカレー先輩はちょっと黙っててください」

 

「あー、皆、ちょっと聞いてくれ。話しておきたいことがある」

 

 ……明らかに混乱している皆をなだめてから、俺は話を切り出す。

 

「……驚かないで聞いてくれ。俺達はもしかすると、時間を移動してしまったかもしれない」

 

 どう切り出すか迷った挙句、ストレートにそう伝えることにした。

 

「は……?」

 

 直後、アーティファクトだのユーザーだの、非日常に慣れてるはずの皆も流石に絶句した。俺も口に出してはみたものの、すごい違和感があった。

 

「ほう。ということは、我々が乗っていた船はベロリアンだったわけか」

 

「高峰くん、古いの知ってるわねー」

 

 ニヒルな笑みを浮かべる高峰を見ながら、先生が目を丸くしていた。ベロリアンって確か、某有名タイムトラベル映画の乗り物だったか。

 

「そんなのに乗った覚えはないけど、時間を移動してしまったのは確かだと思う。具体的に言うとだな……」

 

 俺は宿泊台帳の件から新聞、テレビのニュースと、順を追ってその理由を説明する。最初は懐疑的だった皆も、次第に納得顔になっていった。

 

「……というわけで、俺達はどうやら、2000年の鳥白島にやってきてしまったらしい。信じられない話だが、そうとしか思えないんだ」

 

「……時間跳躍。それが島のユーザーの力なの?」

 

 先程までとは打って変わって希亜が真剣な表情で言う。

 

「わからない。だけど、島を覆うほどの巨大なアーティファクトの反応は相変わらずあるし、そいつが関わってる可能性も大いにあると思う」

 

「そう……」

 

 それまでの楽しい雰囲気が一転、重苦しい空気に包まれる。皆、時間移動の話は信じてくれたものの、これからどうすればいいか戸惑っているみたいだ。

 

「……あんたたち、どうしたのー?」

 

「……なんだか、深刻そうな顔をしていますけど」

 

 そんな空気を壊したのは、少し離れたところから飛んできた明るい声だった。

 

 どう見ても観光客の俺達に声をかけてくるなんて、物好きだな……とか思いながら声のした方を見ると、そこにはそっくりな二人の少女が立っていた。

 

 

 

 

第一話・完




第一話・あとがき



こんにちは。トミーです。
今回より始まりました、9-nine-とサマポケのクロスオーバーSS『真夏のクロスオーバーロード』。
基本は9-nine-の翔君視点で進行していくことになるのですが、第一話はそんな彼らが鳥白島にやって来るところまでとなりました。
本作では、翔君たちがアーティファクト騒動を経験したのを2017年と仮定し(9-nine-の発売年なので)、その2017年からサマポケの時代である2000年に、何らかの理由でタイムスリップした……という設定になります。
2000年にはスマホそのものが存在しないので、翔君たちの持つスマホが使えないのも当然ですよね。
そして、ラストに出てきたのは空門姉妹です。どうして二人セットでいるかは気にしないでください。その方が盛り上がるからですw
では、次回から本格的にサマポケメンバーとの交流が始まりますので、楽しみにされていてください。
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