真夏のクロスオーバーロード!   作:トミー@サマポケ

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第二話

 

 

 

 

 

 

 港のホテルの前で、唐突に話しかけてきた二人の少女……どうやら双子らしく、ガラス玉のついた紐で髪を結っているのが妹の蒼、同じようなトンボ玉を紐で手首につけているのが姉の藍らしい。

 

「えーっと、俺は新海翔。こっちは妹の天で、こっちが高峰。その後ろに隠れてるのが香坂先輩で……」

 

 そんな二人に続いて、俺達も自己紹介していく。

 

 というか、ここにいる全員が元ボッチだから、ほとんど俺が代表して紹介してるんだが。おい高峰、いつもの調子はどうした。

 

「九條都です。この島は初めてなので、よろしくお願いします」

 

「引率者の成瀬沙月です。二人とも、よろしくね」

 

 ほら、まともに自己紹介できてるの、九條と先生くらいじゃないか……!

 

「……あれ? 鳴瀬っていうことは、しろはちゃんの親戚になるんですかね」

 

「あー、そういうことねー。こんな小さな島にこれだけの団体旅行、おかしいと思ったのよー」

 

 先生の名字を聞いて、二人は同時に合点がいった顔をしていた。え、親戚?

 

「そーいうことなら、こんな場所で立ち話も悪いわよね。涼しい所に行きましょー」

 

 そして二人は軽やかな足取りで歩き出した。何か勘違いされている気もするけど、無視するわけにもいかず、俺達もその後に続くことにした。

 

 

 

 

「なるほどねー。予約したはずのホテルが取れてなかった……と」

 

「ああ、恥ずかしい話だけどな……」

 

 姉妹を先頭に一本道を歩きながら、俺はこれまでのいきさつを説明する。

 

 当然、未来から来た……なんて突拍子もない話ができるはずもなく、島に旅行に来たはいいものの、手違いで宿が取れなかった……ということにしておいた。

 

「あははー。あのホテルのオーナーさん、結構うっかりしてるとこあるし。災難だったわねー」

 

 クールな感じがする姉とは違い、妹の方は積極的で、からからと笑っていた。

 

 どうやらホテルの前で揃いも揃って暗い顔をしている俺達を見て、心配して声をかけてくれたらしい。良い人達だ。

 

「……ところで先生、この島に親戚がいるのか?」

 

 そんな中、俺はどうしても気になっていたことを小声で先生に聞いてみた。

 

「い、いるわけないじゃない。きっと同じ苗字の人がいて、勘違いしてるのよ」

 

 先生の家は神社だし、成瀬って名字そのものが珍しい気もするけど、島にも同じ苗字があるのか。

 

「というわけだから翔くん、なんとかして誤解を解いて」

 

「え、俺っすか?」

 

「そう。頼んだぞ。男の子」

 

 そう言って肩を叩かれた。いや、男とか関係ないと思うけど。なんで俺が頑張らないといけないんだ……?

 

「え、えーっと、二人とも……」

 

 理不尽に思いつつも、俺は足を速めて先頭の二人に声をかける。

 

「……なるほど。天ちゃんはよくモックに行くんですね。この辺だと本土の駅前にしかないので、ごちそうなんですよ」

 

「モ、モックがごちそう……ありえん……!」

 

「希亜のその服、かわいいわよねー。やっぱりウニクロで買ったの?」

 

「あ、この服は専用のお店があって……」

 

 ……双子姉妹、なんか天や希亜とめっちゃ打ち解けて話をしていた。

 

 心なしか、藍の態度も柔らかくなっている気がする。島民と親戚というだけで、見えない壁が取り払われたような感じだ。まぁ、たぶん勘違いなんだけど。

 

「あー、二人とも悪い。実は話が……」

 

「……あの、空門さん」

 

 改めて事実を伝えようとした矢先、俺の背後から九條が二人に声をかける。

 

「はい?」

 

「どうしたのー?」

 

「あ、そっか。どっちも空門さんだった」

 

 ……すると、前を行く二人が同時に反応した。知り合いに双子とかいないんだけど、これはややこしいな。

 

「その、妹さんの方」

 

「蒼でいいわよ。島に住んでると、名字で呼ばれる方が逆に違和感あるし」

 

「私も藍でいいですよ」

 

「あ、ありがとう。それで、これからどこに向かってるの……?」

 

 独特な距離の詰め方に戸惑いながら、九條がそう質問する。

 

「住宅地の中に、あたしがバイトしてる駄菓子屋があるのよ。せっかくだし、そこで休みましょ」

 

「だ、駄菓子屋さん……?」

 

「そうです。都ちゃんたちも長旅で疲れてるでしょうし。ゆっくりしていってください」

 

 駄菓子屋で、バイト……? 駄菓子屋がそれだけ繁盛するイメージがないんだが、二人は当然のように話を進める。

 

「それでは蒼ちゃん。私は先にしろはちゃんに連絡を取ってきます。せっかく親戚の人が来てるんですから」

 

「りょーかい。電話に出なかったら、のみきに頼んで島内放送してもらった方がいいわよー?」

 

「わかってます。蒼ちゃんたちは駄菓子屋で待っていてください」

 

「あの、ちょっと!」

 

 そこまで話すと、藍はどこかへと走り去ってしまった。

 

 ……蒼もまた希亜と雑談を始めてしまったし、これは説明するタイミングを完全に失ってしまった。こうなったらもう、どうとでもなれだ。

 

 開き直った俺は後ろを向き、先生に対して両手でバツ印を示したのだった。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「ここがあたしのバイト先。島唯一の駄菓子屋よー」

 

 それから15分ほど歩いて、目的地の駄菓子屋に到着した。どうやら店番は蒼だけらしく、他に人の姿はなかった。

 

「へぇ。始めて来たのに、なんか懐かしい感じがするな」

 

 昔ながらの……という言葉がぴったりな佇まいで、これぞ駄菓子屋という感じだ。小さい頃、こんな店が実家の近くにあった気もする。

 

「おおー、うんまい棒! なんかなつい!」

 

「あ、さくらんぼ餅。小さい頃、よく食べてました」

 

「見ろ! ポテトフライがあるぞ!」

 

 そして店先に並ぶ駄菓子の数々に、皆が目を輝かせていた。おお、ビックリチョコバーがある。懐かしいな。

 

 俺達の時代ではコンビニやスーパーの片隅にひっそりと駄菓子コーナーがあったりするけど、この店はなんと言うか、気取っている感じがしないのが良い。全てが自然体だ。

 

「気になるのがあったらら、一つずつ食べていいわよー。しろはの親戚に、あたしからのもてなしってことで」

 

 笑顔でそう言ってくれるけど、実際は勘違いだから、なんか心苦しい。後でバレたら代金を支払おうと思いつつ、俺はかば焼き太郎(わさび味)を手に取った。

 

 

 

 

「……うぁぁぁぁ、うんまい棒、うんまいけど水分持ってかれるぅぅ……!」

 

 やがて、ツーンと来るワサビの辛みに俺が耐えていると、天がそんな事を口走りながら悶えていた。

 

「あ、喉乾いてるんだったら、かき氷もあるわよー。こっちはさすがに有料だけど」

 

 その様子を見てか、蒼がカウンターの奥に置かれたかき氷器を指差しながら笑顔で言う。かき氷。この暑さの中で聞くと、なんて魅力的な言葉なんだろう。

 

「お兄ちゃん、天、かき氷食べたいな」

 

 どうやらそれは天をも同じだったようで、妙に甘ったるい声を出しながら俺の方へにじり寄ってくる。

 

「……そんな甘え声出しても奢らねぇから」

 

「えーだって暑いし!」

 

「言うな! 俺だって暑い!」

 

 視線だけを送って店内の時計を確認すると、ちょうど15時を少し過ぎた頃。まさに暑さのピークの時間帯だった。

 

「でも翔、確かにこの暑さは身体に悪いかも」

 

 その時、九條と一緒に緑色のスティックゼリーを食べていた希亜が言う。半袖とはいえ、希亜は黒っぽい服装だ。黒い服は熱がこもると言うし、確かに暑いかも。

 

「そうだよな。よし希亜、かき氷奢ってやろう」

 

「ほんと?」

 

「……うちの兄貴、ほんっと彼女には甘ぇなぁおい」

 

 天のツッコミは全力でスルーして、俺は希亜と一緒にカウンターへと向かう。

 

「蒼、かき氷もらえるか?」

 

「いいわよー。イチゴ、レモン、メロン、ブルーハワイ。どれにする?」

 

「それじゃ、ブルーハワイで」

 

「どれも同じ味だけどねー」

 

「え、そうなの?」

 

 希亜は驚いた顔で、俺と蒼を交互に見る。俺も初耳だ。

 

「香料と色で違いを出してるだけで、味は一緒よー。他の皆は食べない?」

 

「食べる食べる! 蒼ちゃん、氷レモン一つ!」

 

「わ、私は氷イチゴを……」

 

「私はメロンを貰おう」

 

「私もイチゴにしようかな……」

 

「私もイチゴで―」

 

 待ってましたとばかりに食いついてきた天を筆頭に、春風先輩、高峰、九條に先生と、それぞれ注文をしていく。

 

「ひとつ100万円よー。今から作るから、代金はそこに置いといてー」

 

 ……100万円? まさかこれが、駄菓子屋の鉄板ギャグと言う奴か? 漫画とかで見たことあるけど、実際に言われたのは初めてだ。

 

 動揺しながら皆から百円玉を集めて、六枚まとめてカウンターの上に置く。

 

「あれ? 599万9400円足りないわよー?」

 

「は?」

 

 駄菓子屋のお約束、まさかの二段構えだった。というか、こういうの慣れてないから反応に困る……。

 

「そうそう、練乳かける? 10円増しになるけど」

 

 そんな折、代金を受け取った蒼が、シャコシャコと氷を削る涼しげな音を響かせながら聞いてくる。

 

「ああ、氷イチゴに?」

 

「ううん。全部いけるけど」

 

「全部!?」

 

 思わず素っ頓狂な声が出た。イチゴならともかく、レモンやブルーハワイに練乳をかけたら変な味になるんじゃないだろうか。いや、味は全部同じだってさっき言われたけどさ。

 

 

 

 

『鳴瀬しろはさん、鳴瀬しろはさん。親戚の方が駄菓子屋でお待ちだ。至急駄菓子屋に来るように。繰り返す……』

 

 ……その後、かき氷ができるのを待ちながら店の庇で涼を取っていると、何か放送が聞こえた。もしかしなくても、親戚の人ってのは俺達のことだよな。

 

「ああ、藍ってば結局のみきに放送頼んだのねー。もう少ししたら来ると思うから」

 

 かき氷器を回す手を止めることなく、蒼が言う。誰が来るんだろう。

 

 

 

 

「はい。氷イチゴ2つお待たせー。これで最後ねー」

 

 ……それからしばらくして、全員分のかき氷が行き渡った。

 

 結局、練乳をかけたのは高峰だけだった。練乳メロンになっていたけど、高峰はファミレスのドリンクバーでも色々なドリンクをミックスするタイプだったし、冒険心をくすぐられたんだろう。

 

 ……それより、俺は重大なミスに気付いた。

 

「自分の、頼み忘れた……!」

 

 皆の注文ばかり受けていて、自分のかき氷を注文するのをすっかり忘れていたのだ。

 

 慌てて蒼に追加注文しようとしたけど、今日は氷が無くなってしまったと絶望的なことを言われた。島の駄菓子屋だし、普段はこんなにたくさんの注文を一度に受けることはないのかもしれない。

 

「……あらお兄様。一人だけかき氷がないではありませんか?」

 

 そんな俺を目ざとく見つけ、天が笑顔で氷レモン片手に寄ってきた。

 

「喉乾いてるだろー? あたしの食べさせてやろうか? んー?」

 

「……ぜってぇ貰わねぇ」

 

「遠慮するなよぅ。冷たくておいしいぞー」

 

 スプーンにかき氷を乗せて、俺の目の前まで持って来る。なんでこいつはここまで必死になってるんだ。やめろ。

 

「……かき氷、ちょっと多すぎるかも。ねぇ翔、少し食べてくれない?」

 

 必死に顔を逸らしていると、希亜がおずおずと自分のかき氷を差し出してきた。言われてみれば、100円でこの量はすごいと思う。

 

「それじゃ、遠慮なく」

 

 俺は天を背中でブロックしたまま、希亜からかき氷を受け取って一口食べる。おお……全身に冷たさが染みわたる……!

 

「うまいな。この口に入れた瞬間にふわっと溶けてなくなる感じは、ナインボールの特製かき氷に引けを取らない。きっと氷が違うんだろうな」

 

「……それ、元は普通の水道水ですよ」

 

 柄にもなく浸っていると、戻ってきた藍からそんなツッコミを入れられた。うそだろ。これが水道水……。

 

「き、きっと島だから自然豊かで、水も美味しいんだよ。そう思う新海くんの気持ち、わかるよ」

 

 俺が言葉を失っていると、九條が笑顔でそうフォローしてくれた。

 

「みゃーこ先輩は優しいっすねー。にぃに、次はあたしのもどうぞ?」

 

「……希亜、かき氷もう一口貰うな」

 

「うん」

 

「おいコラ無視すんなよせめて反応しろよ」

 

 どさくさに紛れて自分のかき氷を勧めてくる天を無視して、希亜のかき氷を口に運ぶ。うん。このかき氷は最高だ。

 

 

 

 

「……え、なんでこんなに人が多いの」

 

 その後もしつこく絡んでくる天を受け流しつつ、かき氷に舌鼓を打っていると、見知らぬ少女がやってきた。

 

「あ、いらっしゃーい。しろはの親戚の人たち、来てるわよー?」

 

「え?」

 

 カウンター越しに蒼から指し示されて、少女の視線が俺たちを捉える。なるほど、この人がしろはさんなのか。

 

「……し、知らない。誰?」

 

 そして、しろはさんは当然困惑の表情を浮かべていた。そりゃそうだろう。実際、勘違いであって親戚でもなんでもないんだし。

 

「へっ?」

 

「しろはちゃん、知らないってどういうことです?」

 

 その言葉を皮切りに、空門姉妹を含め、俺達全員の間に何とも言えない空気が流れ始めたので、俺は先生に耳打ちをする。

 

「(……先生、ここは代表して事情説明をお願いします)」

 

「(えー、私なのぉ……? 翔くんが伝えてよー)」

 

「(な、何言ってるんですか。最年長者でしょう?)」

 

「(そうだけどぉ……うぅ……)」

 

 俺に説得され、やがて先生は渋々としろはさんの前に歩み出る。

 

「えっと、そのー……お、お初にお目にかかります……」

 

 ……そして、そう言って頭を下げる。俺たちもそれに続いて、改めて事情説明と自己紹介をすることにした。

 

 

 

 

「……というわけで、全ては誤解なのよ」

 

 腰を落ち着けて詳しく話を聞いてみると、先生としろはさんはどうやら名字の読みは同じで、漢字が違うらしかった。

 

『成瀬』と『鳴瀬』。あー、これは勘違いしてもおかしくない。

 

「……むぅ。親戚じゃないなら早く言ってくださいよ。私、恥かいちゃったじゃないですか」

 

 話を終えると、しろはさんを呼び出すために奔走していた藍がむくれていた。いや、そう言われても説明する前にすっ飛んでいったし。呼び止めたんだぞ。一応。

 

「まぁまぁ。結果的に誤解も解けたんだし、変な噂が広がる前で良かったじゃない」

 

「……大々的に島内放送してしまった時点で、既に手遅れな気もしますけど」

 

 自身も事の一端を担っていたせいか、蒼が取り繕うように言うけど、藍は楽観視していないみたいだった。

 

「あー、それでなんだけどさ……」

 

 そんな中、俺達は先程蒼に奢ってもらった駄菓子の代金を支払うと申し出たが『大した金額じゃないし、気にしないでいいわよ』と笑顔で言われてしまった。

 

「……あの、さっきの話だと、泊まるところないんだよね?」

 

「え?」

 

 そして再び何とも言えない空気になりかけた時、しろはさんが口を開いた。

 

「ああ。手違いで港のホテルが取れてなくてさ。あそこの他に、泊まれそうな旅館やホテルを知らないかな」

 

「うーん……島の宿泊施設は、あのホテルくらいなんだけど……」

 

 この際だから……と、ダメ元で聞いてみたけど、その表情が曇る。これは望み薄みたいだ。どうしようかな……。

 

「そうです。しろはちゃん、ここは似た苗字のよしみで、この人たちを泊めてあげてはどうですか?」

 

「ええっ!?」

 

 その時、藍が滅茶苦茶な提案をしていた。いや、俺達としては願ってもない話だけど。

 

「だってしろはちゃんのお家、広かったですよね?」

 

「た、確かに部屋は余ってるけど……無理だよ。おじいちゃんが許すはずないよ。余所者が嫌いだし」

 

 余所者と来たか。あまりいい気はしないけど、外からやってきた人間を警戒するのは当然だ。きっと、厳格な人なんだろう。

 

「……そうだ。のみきの住んでるアパート、空いてる部屋あったわよね。あそこって使えないのかしら」

 

 藍に続いて、蒼もそんな提案をしてくれる。え、この島、アパートとかあるの?

 

「どうでしたっけ。ほとんど使ってないみたいなこと言ってましたけど」

 

「じゃあ、聞いてみましょ。のみき、まだ役所にいるのかしら」

 

「放送終えたら用事があるとか言ってましたし……大方、また裸の良一ちゃんを追いかけまわしてるんじゃないですか? 夏の風物詩ですし」

 

「あー、それじゃ連絡の取りようがないわねー」

 

 蒼は一度取りかけた電話を置く。それにしても、また知らない名前が出てきた。裸を追いかけまわしてるってのも物騒だな。

 

「じゃあ、紬の灯台に泊まったらどう? あそこ、中は狭いけど外は石畳で寝やすそうよね?」

 

 続けてそう提案してくれるが、灯台に宿泊するイメージはない。というか石畳? それって野宿と同じだと思う。

 

「……って、俺達が泊まれる場所、本気で探してくれてるのか?」

 

 その場の空気に任せていたけど、いつの間にかそんな流れになっていた。

 

「当たり前でしょー。どうしたの? 揃って意外そうな顔してさ」

 

「いや、本当に探してくれてるなんて思わなくて」

 

「困ってるんでしょ? なら、助けるのが当然よー。せっかくこの島に来てくれたのに、嫌な思い出作って欲しくないしさ」

 

 蒼は真剣な表情で言う。こういう場合、都会の人間はうわべだけだったり、見て見ぬふりをするけど……この島の皆は違うみたいだ。

 

「しろはちゃん、確か、隣の吉田さんの家って夏の間空いてましたよね?」

 

「えっと、空いてたはず」

 

「なら、借りられないかどうか電話してみましょう。しろはちゃん、電話番号分かりますよね?」

 

 ……そんな感じで、話はどんどん大きくなっていった。

 

 俺達の住む街ではすっかり薄くなってしまった相互扶助の精神が、この島ではまだまだ受け継がれているらしかった。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「うーん、駄目みたいねー」

 

 しかし、その相互扶助の精神をもってしても、宿泊先は決まらなかった。三人とも、色々手を回してくれたんだけど。

 

 まぁ……一人や二人を一晩だけ……ならともかく、この人数を一週間だもんなぁ……しかも余所者。誰だって躊躇すると思う。

 

「むー、こうなったら先生、あれしかありませんよ」

 

 その時、藍が人差し指を立てながらそう発言する。

 

「え、あれって何?」

 

「しろはちゃんと一緒に、しろはちゃんのおじーさんを説得するんです」

 

「あー、なるほど……」

 

 随分最初の方に出た案だったけど、速攻否定されたおかげですっかり忘れていた。今考えると、一番可能性が高い案かもしれない。

 

「これも何かの縁だし、沙月ちゃん、当たって砕けてきて!」

 

「うーん、無理だと思うけど」

 

「私も無理だと思うけど」

 

 ハッパをかける天に対し、先生としろはさんは同時に否定的な意見を口にする。そこまではっきり言わなくても。

 

「この際だし、行くだけ行ってみたら? 今の時間なら、鳴瀬さんも家にいるわよね?」

 

「いるとは思うけど……どうなっても知らないよ?」

 

「……翔くん、やっぱり代わりに行って!」

 

 蒼に後押しされるも、恐怖心を煽るようなしろはさんの発言に、先生は俺に泣きついてきた。

 

「いや行かないですよ! なんか怖いですし!」

 

「危なくなったらなんとかの力でやり直せばいいじゃない!」

 

「ちょっ……そんなギリギリな発言、やめてくださいよ! とにかく、俺は行きません!」

 

「ぶー……翔くんの、いくじなし」

 

 ……押し問答の末にそんな捨て台詞を残し、先生はしろはさんと一緒に彼女の家へと向かっていった。

 

「はぁ……春風先輩、良かったら疲れない程度に、交渉が上手くいくように能力を使っておいてください」

 

「わ、わかりました。頑張り、ます……」

 

 一応そんな感じで保険もかけてもらった。どうか、交渉が上手くいきますように。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 ……その後、いつまでも店内にいるのも悪いので、一時間後にまたこの駄菓子屋に集合するという約束をして、その場は解散となった。

 

 ……よし、色々あったけど、ようやく本格的にアーティファクト探しに着手できるな。

 

 首尾よく島のユーザーを見つけてアーティファクトを回収することができれば、すぐに元の時代に戻れるかもしれない。そうすれば、宿の心配をする必要もなく……。

 

 ……ぎゅ。

 

「……あの、希亜さん?」

 

「……何?」

 

「皆がいなくなった瞬間、どうして無言で腕を組んでくるんですか?」

 

「組みたいから」

 

 そう言って、今一度身体を寄せてきた。おおぅ……色々と柔らかい。

 

「せっかくだし、このタイミングでアーティファクト探しをしたいん、だが……」

 

「探せばいい。私も協力する」

 

 絡ませた腕を解かぬまま、上目遣いで俺を見る。身長差があるとは言え、台詞と行動が伴ってない気がする。

 

「でも、これだと集中できないからさ……」

 

「……確かに、鼻の下が伸びてる。だらしない」

 

「だっ……!」

 

 そう言われても、彼女にこれだけくっつかれて動揺しない男はいない。

 

「せ、せめて、手を繋ぐくらいにしてくれないか……?」

 

「……わかった。今回はそれで許してあげる」

 

 希亜は悪戯っぽく言って、ようやく俺の腕を離す。そして間髪を容れずに、今度は手をひらひらさせる。

 

 俺はため息混じりにその手を取って、住宅地へと繰り出したのだった。

 

 

 

 

 ……それから二人で住宅地を散策すること数分。当初は至って真面目に島のユーザー探しをしていたんだが、いかんせん人がいなかった。

 

「……翔、思ったのだけど、真昼間から島のユーザーが動くとは思えない」

 

 考えてみれば、希亜の言う通りだった。魔眼のユーザーであった与一しかり、アーティファクトユーザーは夜に動くことが多かった気がする。

 

 探索のアーティファクトが役に立たない今、この炎天下を闇雲に動くのは得策じゃない気がした。

 

「希亜、どこかで休憩するか」

 

 少し前にかき氷食べたけど、それを忘れてしまいそうな暑さだった。仮にも観光地の島だし、近くにカフェでもないかな。

 

 ……というわけで目的を変更し、再び住宅地を彷徨い歩くことにした。

 

 

 

 

 ……結果論を言うと、俺達のいた2017年では観光地として有名なこの島も、2000年にはどこにでもある田舎の島といった感じで、それらしいカフェの類は一切なかった。

 

 屋内での避暑を諦めた俺達は住宅地を抜け、一番近い海を目指すことにした。

 

 

 

 

「……げ」

 

 そして辿り着いた漁港には、見知った後ろ姿があった。天だ。

 

「あれ、にぃに達も港に来たの―?」

 

 急いで隠れようとしたけど、速攻で見つかってしまった。めっちゃ嬉しそうにこっちに走ってくる。小さな島だし、誰かと遭遇するとは思っていたけど。よりによって天とは。

 

「こ、ここは魚臭いから別の場所に行こう。なぁ希亜」

 

「……まるであたしが見えてないような感じで会話するのやめろ。なんかトラウマ感じるからやめろ」

 

 思わず視線を合わせないようにしながら方向転換すると、天がそんな俺達の前にずさっと立ちふさがった。

 

「……お前、九條と一緒に住宅地散策するって言ってなかったか?」

 

「それがですな。出発してすぐにみゃーこ先輩が島の子供たちに捕まってしまいまして」

 

「は?」

 

「そんで、なんか質問攻めにされてたわけですよ。その服どこで買ったの―? とか」

 

「ああ……」

 

 なんだかんだで九條は綺麗だし、コロナグループのお嬢様だ。その服装も洗練されているし、何よりあの雰囲気だ。子供たちも話しかけやすかったんだろうな。

 

「でもその子供たち、あたしには全く聞いてこないわけですよ。庶民のファッションセンスには興味ない感じなんすよ」

 

「その気持ち、俺も分かるな」

 

「……そこで同意すんなよ。かわいい妹のファッションセンス褒めろよ」

 

「うーむ」

 

 ……言われて、天の服装を見てみる。

 

 髪型はいつものそれと同じだが、暑さ対策で花のアクセントが突いた麦わら帽子を被っている。

 

 藍色のサロペットショートパンツを着こなし、その中には白いTシャツ。どれも似合ってはいるが……。

 

「……まぁ、普通だな」

 

「えー、そう言うの一番反応に困るんだけど」

 

 天は不服そうに口を尖らせる。正直なところ、九條の服装に比べると気品が足りない。

 

「それで、その微妙な空気間に耐えきれず、一人抜け出して港で黄昏てたわけか」

 

「そ、そうだよ! 悪いか!」

 

 両手をバタバタさせながら叫ぶ。本当に賑やかだな。

 

「それに黄昏てるだけじゃないぞぅ! さっき、カモメさんと友達になったんだぞ!」

 

 ……カモメと友達? 天の奴、急にファンタジーなことを口にするな。

 

「えー、そのカモメさんは、より高度な飛行技術を身につけると言って旅立っていったのか?」

 

「ううん。飲み物買ってくるって、向こうの商店に入ってったけど」

 

 ……カモメが買い物? 本当に何を言ってるんだ???

 

「……なんか呼ばれた気がした」

 

「おわっ!?」

 

 ……その時、背後から突然声をかけられ、俺は思わず変な声を出してしまった。

 

 咄嗟に振り返ると、そこにはスーツケースとジュースを手にした黒髪の少女が立っていた。

 

「この二人、ソラソラのお友達?」

 

「あー、こっちは兄で、その隣のお人形さんみたいな人がその彼女です」

 

 そのジュースを受けとりながら、天が俺達を紹介してくれる。それがあまりに雑なので、俺と希亜は改めて自己紹介することにした。

 

 

 

 

「ソラソラのお兄ちゃんの新海くんに、その彼女さんのノアノアだね……覚えたよ!」

 

 自己紹介を終えると、そんな風に呼んでいた。俺はさすがに名字だったけど、希亜は速攻あだ名だった。なんというか、距離の詰め方がすげえ。

 

「改めて、私は久島鴎! 三人とも、よろしくね!」

 

「ああ、よろしく……」

 

 本当に鴎って名前なんだな……天はファンタジーなことを言っていたわけじゃなかったのか。

 

「それにしても……この三人、並ぶとすごいね」

 

「え、何が?」

 

「……天(そら)・翔(かける)・鴎(かもめ)!」

 

 そんなことを考えていると、天、俺、そして自分を順番に指差しながら、鴎が得意げに言ってきた。

 

「フライングスカイ。なんかかっこいいよね」

 

「それは同意する。でも、できたら私も加えてほしい」

 

 呆気に取られていたら、まさかの希亜が乗ってきた。

 

「そうだねぇ……ノアノアの名字が結城だから……鴎(かもめ)、天(そら)、翔(かける)、結城(ゆうき)! これでどう?」

 

 語呂は良いけど、どうして希亜だけ名字? それ以前に空飛ぶのに勇気がいるとか、飛び慣れていないカモメなんだろうか。

 

「うん。良い感じ。翔の隣だし」

 

 ……希亜さん、さらっとそう言う発言するのやめてもらえませんか。その、すごく心臓に悪いんで。

 

 

 

 

「それじゃ、私は行くね。またねー!」

 

 ……それからもお互いの名前を話題にして散々盛り上がった後、鴎は元気いっぱいにスーツケースを引いて去っていった。

 

 それを見送った後、そろそろ頃合いということで俺達も駄菓子屋に戻ることにした。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「いやー、賑やかな人でしたなぁ」

 

 住宅地に分け入って進むこと数分。鴎に貰ったジュースをくぴくぴと飲みながら、天はご満悦だった。

 

「ジュースまで奢ってもらっちゃったし、またどこかで会えそうな予感」

 

「……おい、天」

 

「なんですかお兄様」

 

「なんでお前、俺らについてくんの」

 

「帰る場所同じなんだし、別にいいじゃん」

 

「そうじゃねぇよ。その……少しは気を遣え」

 

 ……ちなみに、俺の隣では希亜が手を握って欲しそうにひらひらさせていた。正直、彼女は二人きりの時じゃないと、積極的に甘えてはこない。

 

「島デートの邪魔してやる☆」

 

「……こいつ、ぶっちゃけやがった」

 

「てゆーかあたし、アーティファクト全力発動中なんですけど。なんで当然のように見えてんの?」

 

「俺は抵抗力が高いからな。お前がどんなに存在感を消そうが無駄だぞ」

 

「くっそー。これじゃにぃにを尾行できないじゃんー!」

 

 悔しそうに地団太を踏む。迷惑になるから大きな声出すなって。

 

「……でも結城先輩、正直あたしがいても気にせず、にぃにと手つないだらいいのに」

 

「それはそうなんだけど、どこか恥ずかしさがあって……」

 

 他人にどれだけ見られようが気にしないのに、知人に見られるのは恥ずかしいんだろうか。希亜が顔を赤くしながら視線を泳がせる。

 

「あーもう、かわいいなー! ゆくゆくにぃにと結婚したら、あたしも一つ屋根の下で住むんだし、今更気にしなくても」

 

「待て。お前何しれっと同居する気でいるんだ」

 

「お兄ちゃん、お義姉ちゃん、どうかよろしく~」

 

「……天」

 

「……あ」

 

 俺は思わず強めに制止する。天もすぐに気づいたようで、反射的に口元を押さえていた。

 

 ……希亜は今でこそ明るく前向きになっているけど、小さい頃に妹を交通事故で亡くした過去がある。

 

 それが長い間トラウマになっていたのもあって、俺と希亜の間でも、そこはデリケートな部分としてあまり触れないようにしていた。

 

 それなのに、唐突の『お義姉ちゃん』発言。我が妹とはいえ、ちょっと配慮が足りないと思ってしまった。

 

「その、ごめんなさい。あたしってほんと、考えなしに喋っちゃって……」

 

 さすがの天もしおらしくなり、即座に謝っていた。

 

「別に天が謝らなくていい。むしろ、あなたのような妹なら欲しいかも」

 

「そ、そう言ってもらえると、嬉しいっす……」

 

 希亜はそう言って笑ってくれたけど、天も苦笑いを返すしかなく、俺達の間に何とも言えない微妙な空気が流れた……その時。

 

「う、うわあぁぁぁーーーー!」

 

 ……すぐ近くの路地から、男の叫び声が響き渡った。

 

 

 

 

 

第二話・完






第二話・あとがき

こんにちは。トミーです。

今回で羽依里君を登場させる予定でしたが、話が長くなってしまったので次回とさせてもらいます。羽依里君ごめん。
それにしても、初対面のキャラが多くなる分、クロスオーバーの冒頭ってどうしても長くなりますよねぇ。私だけですか?

さて、今回は空門姉妹やしろは、鴎との交流を描きました。勘違いの発端となった『成瀬』と『鳴瀬』の二つの苗字。
偶然とはいえ、良い感じにキーワードになっているのではと自負しています。
一方で、宿泊先を探す翔君たちは、無事宿を確保できるのでしょうか。そして、ラストシーンの叫び声の正体は!?
サマポケやってる方なら想像しやすいとも思いますが、しまのユーザーの仕業かも!?

……というところで、次回に続きます。最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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