真夏のクロスオーバーロード!   作:トミー@サマポケ

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第四話

 

 

 

 

 ……朝。いつもなら目覚ましで起きるところだが、今日は不思議と自然に目が覚めた。

 

 身体を起こしてみると、両サイドに敷かれた布団のうち、一枚は既に畳まれていた。もう一枚の布団の上では、高峰が大の字になって眠っている。

 

「そういや、鳥白島に来てたんだっけ……」

 

 昨日の出来事を思い出しながら、スマホで時間を確認する。……6時過ぎ。鷹原の奴はこんな朝早くから起きてるのか?

 

「おーい、にぃにー」

 

 そんなことを考えていると、閉じられていた襖が遠慮なしに開かれ、そこから身支度を整えた天が顔を覗かせた。

 

「うーわ、まだ寝てんじゃん。ありえねぇ」

 

 半分布団に入ったまま上半身だけ起こしている俺を見て、天が呆れたような声を出す。

 

「お前こそ、どうしてこんな早くから着替えてんだよ」

 

「いやー、同じ部屋のうみさんが朝早くてさ―。一緒に目が覚めちゃったら眠れなくて」

 

「ああ、そういうことか……こっちの鷹原もいないんだよ。島民は皆朝が早いのか?」

 

「あー……そういえばうみさん、鷹原さんと一緒にラジオ体操に行くって言ってた。皆勤賞狙ってるんだって」

 

 隣の畳まれた布団を見る俺の視線を追って、天が思い出したように言う。

 

「なるほど。じゃあ鷹原はそんなうみちゃんに付き添って行ったわけか。大変そうだな……」

 

「んじゃ、あたしは引っ込むから。高峰先輩も起こしといてねー」

 

「……待て。危うくスルーしそうになったが、どうして俺たちも早起きしなきゃいけないんだ? 別にラジオ体操には行かないぞ?」

 

 そのまま笑顔で襖を閉めようとした天を慌てて呼び止めて、問いただしてみる。

 

「いやー、あたしだけ起きてるのもなんか癪だから、他の皆も起こそうかと」

 

「はぁ?」

 

「すでにみゃーこ先輩や香坂先輩、結城先輩も起こしてたりする」

 

 ……なんてはた迷惑な妹だ。

 

「というわけで、高峰先輩もよろしくー」

 

 今度こそ笑顔で手を振りながら、ぴしゃりと襖が閉められた。

 

「……はぁ、起きるか」

 

 なんか妙に負けた気がするけど、俺はまだ夢の中にいた高峰を揺り起こしてから、顔を洗いに洗面所へと向かった。

 

 

 

 

「あ、翔、おはよう」

 

「おはよう、希亜」

 

 そして洗面所に行くと、Tシャツ姿の希亜が鏡の前で必死に髪を整えていた。

 

「どうした? 寝癖か?」

 

「……うん。さっきから、直そうとしてるんだけど……あう」

 

 直ったように見えて、少し時間が経つとぴょこんと髪が跳ねる。これは強敵っぽい。

 

「希亜、ブラシを貸してみろ」

 

「うん」

 

 そんな希亜の背後に立ち、一緒に鏡を見ながらブラシを受け取る。その間に軽く手櫛をかけてやるけど、髪質が柔らかい分、寝癖はなかなか戻らない。

 

「……昨日、中度半端に乾かして寝たからかな」

 

「俺のドライヤー、天に渡したはずだけど。借りて使わなかったのか?」

 

「……それなりに乾いてたし、大丈夫かと思った」

 

 鏡越しに希亜がため息をついているのが見えた。その後も水で濡らした上でブラシをかけたりしたけど、寝癖は直らない。

 

「どうしよう。流石にこのままじゃ出かけられない」

 

「帽子被って誤魔化すとかしたら? 朝から暑そうだしさ」

 

「うぅ、それしかないのかな……蒸れるから苦手なんだけど」

 

「こらーー! 朝からいちゃつくな!」

 

「うっせーな。いちゃついてねーよ!」

 

 そんなやりとりをしていると、明らかに不機嫌そうな天の顔がこれまた鏡越しに見えた。その後ろには、春風先輩や九條の姿も見える。皆揃って、どうしたんだ?

 

「今から皆で朝ごはん買いにいくぞ! さっさと着替えろ!」

 

「ちょっ……お前、引っ張んな!」

 

 一瞬疑問に思っていたら、即座に天が答えをくれた。というか、無理矢理引きはがすな! 背中に柔らかいもんが当たってるだろが!

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 ……というわけで、俺たちは港へ向かって駆けていた。

 

 天によると、島で唯一朝からパンを売っている商店が港にあって、早めに行かないと売り切れる可能性があるらしい。

 

 まぁ島だし、そこまでたくさんの数を入荷しないんだろう。港の近くってことは観光客や本土に行く人も立ち寄るだろうし。急ぐに越したことはない。

 

「よし、到着!」

 

 女性陣の脚力に合わせながら、できるだけ急いでお目当ての商店に到着した。

 

 そのままの勢いで店内へと飛び込むと、これだけの人数で押し掛けたのもあって、店長が目を丸くしていた。

 

 しかし二言目には「鳴瀬さんとこの親戚だろ。噂になってるぜ」と、笑顔を向けられた。もう島の隅々まで噂が広がっているようで、俺たちは今更を訂正することもなく総菜パンを買わせてもらうことにした。

 

 

 

 

「いやー、走ったらお腹すいたー。いただきまーす」

 

 買い出しを終えて商店を出た直後、天が袋を開けて総菜パンにかじりついた。

 

 ……つか、わざわざこれだけの人数で押し掛ける必要があったのか? じゃんけんか何かで、代表者を決めて買いに来れば良かった気もするが。

 

「しかし、朝食を用意するのにここまで疲れるとはな」

 

「ほ、本当ですね。毎日これだと、大変になりそうです……」

 

「なら、明日からは交代で買いに来ればいい。そのほうが、お店の迷惑にもならないで済む」

 

 高峰や春風先輩、希亜も同じ考えだったようで、そんな提案をしながら自分のパンを口に運ぶ。一緒に飲み物も買いたかったけど、朝はまだ仕入れができてないとの話だった。

 

「……コンビニってすげぇ」

 

「え、新海くん、何か言った?」

 

 思わぬところでコンビニの偉大さを痛感していると、隣でコーンマヨパンを幸せそうにかじっていた九條が不思議そうに俺の方を見てきた。

 

「いや、なんでもない。それ、美味しそうだな」

 

「ちょっと高めだったんだけど、思わず手が伸びちゃって。旅行だし、いいかなって」

 

「奮発したわけだな」

 

「そう。奮発したのです」

 

 開き直ったような笑顔を向けた後、再びパンを口に運ぶ。そうは言うけど、あのパンの値段は確か120円だった気がする。値段なら高峰の買っていたカツサンドの方が上だ。

 

 ……ちなみに、俺のはホイップクリームがたっぷりと挟まれたコッペパンで、値段は90円。一口かじると、これでもかという甘さが口の中いっぱいに広がる。

 

「……でも、食べ歩きとかお行儀悪いかな?」

 

「別にいいんじゃないか。皆も普通に食ってるし、島なら誰かにぶつかることもないだろ」

 

「なら、いいかな」

 

 幸せそうにパンをかじるお嬢様を眺めつつ、俺たちはゆっくりと帰宅したのだった。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「あ、皆さんおかえりなさい!」

 

 加藤家に帰宅すると、エプロン姿のうみちゃんが出迎えてくれた。どうやら、朝ごはんを作っているらしい。

 

「おおお、うみさん料理できるの?」

 

「はい! ラジオ体操のログボを使ったチャーハンです!」

 

「え、ログボ?」

 

 突然の聞き慣れた単語に、天が目を丸くする。その後のうみちゃんの説明によると、どうやら、この島のラジオ体操に参加すると、スタンプの他にログインボーナスと呼ばれる品がもらえるらしい。

 

 その内容は日によって違うらしく、今日は鶏のささみ肉なんだとか。

 

「鷹原さんはこのお肉が好物らしいので、今日はささみチャーハンにします!」

 

 そんなことを言いながら台所へと戻っていった。他の皆も自室で休んでいるようだけど、特にやることのない俺は居間に腰を下ろし、鷹原と話をすることにした。

 

「うみちゃん、あの年で料理できるとかすごいな。天にも見習わせたいくらいだ」

 

「ああ。この夏の間はあの子にはお世話になりっぱなしだよ。なんだかんだで、毎朝チャーハン作ってくれてるしさ」

 

「え、毎日なのか?」

 

「そう。チャーハンの申し子なんだ」

 

 ご機嫌に鼻歌が聞こえる台所へ目をやりながら、鷹原は何とも言えない顔をしていた。朝から毎日チャーハン。それはどうなんだろうか……その、栄養バランス的に。

 

「最近はトレーニングしているし、島のラジオ体操にも毎日行ってるしさ。運動はそれなりにできてると思うんだけど」

 

 自分のお腹をさすりながら、そんなことを言う。やっぱり、本人も栄養バランスは気にしているんだろうな。

 

「ああ、もしかしてとは思ってたけど、鷹原もラジオ体操に参加してたのか。てっきり、うみちゃんの付き添いかと思ってた」

 

「俺の他にも、良一やのみき、蒼たちも参加してるぞ。せっかくだし、明日から翔たちも参加してみたらいいんじゃないか?」

 

「え、部外者の俺達が行っても大丈夫なのか?」

 

「別に構わないと思うけどな。初日から参加してないとログボはもらえないけど、本来は島民じゃない俺やうみちゃん、鴎だって参加してるしさ」

 

「そういうことなら、明日から参加させてもらおうかな。朝のラジオ体操って、なんだかんだで健康に良さそうだしさ」

 

 ……明日も天に起こされるくらいなら、いっそ早く起きて皆でラジオ体操に参加するのも良さそうだし。

 

「あ、この島のラジオ体操はかなり変わってるから」

 

「は? 変わってる?」

 

「ああ」

 

 ……気になって聞き返すが、鷹原は笑顔を浮かべるだけでそれ以上は教えてくれなかった。変わったラジオ体操。どんなのだ?

 

 

 

 

「ふぁ……おはよー」

 

 その時、欠伸を噛み殺しながら先生が居間にやってきた。そういえば、皆で商店に行った時にも姿がなかった気がするし、一人だけ寝てたのか。

 

「あー、朝食のパン、先生の分もあるみたいですよ」

 

「ツナマヨパンだー。翔くん、ありがとー」

 

 そして九條がパンを二つ買っていたのを思い出し、食卓に置かれたパンを指し示す。先生は嬉々として総菜パンを受け取ってパジャマ姿のまま座って食べ始めた。

 

 この人、休みの日は家でもこんな感じなんだろうか。まぁ、沙月ちゃんらしいっちゃらしいけど。

 

「はい! ささみチャーハンの完成です!」

 

 その時、完成したらしいチャーハンをおぼんに乗せたうみちゃんが居間にやってきた。それと同時に良い香りが鼻腔をくすぐる。

 

「あらー、いい匂いねー」

 

「まだ入るんでしたら、先生や新海さんの分のチャーハンも作りますよ?」

 

「え、それはさすがに悪いよ」

 

「そうですか? なんなら、皆さん全員分のチャーハンを毎日作っても良いですけど」

 

 うみちゃんは笑顔で言ってくれたけど、それはさすがに悪いと思う。いくら、チャーハンの申し子でも。

 

「それにほら、お米を用意してないしさ」

 

 昨日のお風呂じゃないけど、これだけの人数が食べる米を用意するだけでも大変だと思うし。

 

「……ふっふっふ。こんなこともあろうかと、お米券持ってきて正解だったわ」

 

 そんな折、先生は扇を開くように手に持ったお米券を広げる。パジャマ姿なのに、どこに持ってたんだ。

 

「なんで持って来てるんすか。お米券なんて」

 

「お盆になると、氏子さんが色々持って来てくれるのよ。でも、最近は氏子さんも年配の方が増えて、米袋を直接持って来るのも大変みたいでね。そこで、このお米券の出番ってわけ」

 

 確かにこれなら軽いし、封筒に入れて渡せば見栄えもいい。

 

「やっぱり、手前たちの食べる米は手前で準備しなきゃねー」

 

 もくもくと総菜パンを食べながら、そんなことを言う。理にかなっているとは思うけど、本人がその手のもの一切信じていないせいか、沙月ちゃんが神社の娘だってこと、時々忘れそうになるな。

 

「なら、自分たちの食べる米は用意しておくよ。鷹原、この島にもお米券を交換できる店はあるよな?」

 

「ああ。確か駄菓子屋か、港の商店でやってくれたと思うぞ」

 

 あの駄菓子屋は米まで扱ってるのかという素朴な疑問が浮かんだけど、交換してくれるのならどこでもいいか。

 

「それに、食事の準備も皆ですればきっと早くなると思うよ?」

 

 そう提案してきたのは九條だった。

 

「え、九條さん、料理できるんですか?」

 

「ふっふっふ。うみさん聞いて驚け。ここにいるみゃーこ先輩は地元で有名な喫茶店でバイトしていて、料理の腕は超一流なんですぜ」

 

「チャーハンが有名な喫茶店!?」

 

 ……なんか変わってた。まぁ、九條ならチャーハンも絶品かもしれないが。

 

「えーっと、大したものはできないけど、やるとなったら頑張らせてもらうね」

 

 天に持ち上げられて戸惑いながらも、そう言って握りこぶしを作る。どこかの枝で九條のハンバーグを食べさせてもらったけど、あれは絶品だった。これは、明日の朝食が楽しみだな。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 朝食を済ませた俺は、今日こそ気合いを入れてアーティファクト探しをすることにした。

 

「氷水用意してきましたよ。スイカ、しっかり冷やしておきましょう」

 

「そですね!」

 

 ……アーティファクト探しをすることにした。

 

「パラソル持ってきたよ。場所はここでいいのかな」

 

 アーティファクト探しを……。

 

「ほらにぃに、パラソル立てるの手伝って。みゃーこ先輩にさせるつもり?」

 

「わ、わかったよ……九條、貸してくれ」

 

 俺はため息をつきながら、九條からパラソルを受け取る。どうしてか、俺たちは水着姿で浜辺にいた。

 

 そこには俺たち以外にも、昨日知り合った島のメンバーも揃っていた。

 

 加えて、近くで海の家を経営しているらしい静久さんと、自称卓球部の天善、灯台暮らしの紬という女の子もやってきていて、その場で友人になった。

 

「それで、これは何の集まりなんだ?」

 

「そうね。せっかくだし、お客さんとの交流を兼ねて、浜辺で遊ぼうって話になったの」

 

 水玉模様の水着に身を包む静久に尋ねると、笑顔でそう教えてくれた。昨日の今日でこんな流れになるとは思わなかった。

 

 ……ちなみに、静久が年上ということで一度は俺も敬語で話しかけたんだけど、すぐに訂正された。

 

 この島の誰かと知り合いになる度に思うんだが、彼らは打ち解けるのが異常に早い。自己紹介が終わったら、すぐに古くからの友人のように接してくれる。まぁ、悪い気はしないんだが、こっちとしては対応に困る。

 

「パラソル立て終わったら、男子はこっち手伝ってー。ビーチバレー用のポール立てるわよー」

 

 蒼が右手を上げながら指示を出す。「へーい」と、気だるげな声を出す良一に続いて、鷹原や天善、俺と高峰もそれを手伝うことにした。

 

 

 

 

「……ビーチバレーももちろん良いのだが、せっかく海に来たのに皆泳がないのか?」

 

 普段から体を鍛えているからか、ポールを軽々と持ち上げる高峰がそんな質問を口にする。

 

「泳いでみてもいいわよー? この辺の海、お盆を過ぎるとクラゲだらけになるから」

 

「何?」

 

「そうなのか?」

 

 言われて、高峰と同じように視線を動かし、波打ち際から舐めるように海を見る。よく見れば、所々に半透明のプヨプヨした物体が浮かんでいた。これは、知らずに入ったら大変な目に遭うところだった。

 

「あー、だから、わざわざ浜辺でできる遊びを用意してくれたのか」

 

「そーいうこと。入れないけど、せっかく島に来たなら海を楽しんでほしくてねー」

 

「……でも、できたら入りたかったけどね……暑い、暑い……」

 

 笑顔の蒼の向こう側では、水着姿の沙月ちゃんがパラソルの下でぐったりしていた。まぁ、気持ちはわからんでもないが。

 

「よし翔、俺が支えとくからガイドラインを地面に固定してくれ」

 

「ああ、この杭で打ち込めばいいのか? 変わった形の杭だな」

 

「砂浜用の『サンドペグ』ってやつだ。俺はテントコレクターだからな。こういうのも持ってるんだよ」

 

 頭上でポールを支える良一がニカッと笑う。テントコレクター? 聞き慣れない単語だが、キャンプが趣味なんだろうか。

 

「ペグを地面に刺す角度は60度で、最後までしっかり打ち込んでくれな。中途半端だと、抜けちまうからよ」

 

「わかった」

 

 俺は言われた角度になるように気を配りながら、金づちを振るう。この手の作業は慣れてないけど、まぁ、やって出来ないことはないだろう。

 

「あいてて!」

 

 そんな折、反対側で同じように杭打ちをしていた鷹原が指を押さえて悶絶していた。自分の指を叩いてしまったらしく「何やってるんですか」と、うみちゃんの呆れた声が聞こえる。俺も同じ轍を踏まないようにしないと。

 

 

 

 

「……よし、こんなもんか」

 

「おおー、立派なバレーコートですなー」

 

 広々とした浜辺に二つのコートが完成したところで、天がペットボトルのお茶を片手にやってきた。

 

「俺たちが汗だくになってるってのに、良いご身分だな」

 

「にぃにも飲む? 半分くらい飲んでるから、妹との間接キスだけど」

 

「ぜってぇいらねぇ」

 

「そう言うなよぅ。ほら、冷たいぞー?」

 

「ちょっ、やめろっ」

 

 誰かがクーラーボックスにでも入れて持ってきたのか、横腹に押し付けられたペットボトルは思わず飛びのいてしまうほど冷たかった。

 

「で、この飲み物はどうしたんだ?」

 

「朝にパン買いに行ったお店の人が差し入れだって。にいやんの分もあるから、後でもらってきたら?」

 

 天が指差す先、沙月ちゃんが座るパラソルの下に、青色のクーラーボックスが置かれていた。あの店、一度しか利用していないのに、わざわざ差し入れを持ってきてくれたのか。

 

「……ところでにぃに、どう?」

 

 その時、天が俺に見せつけるようにくるりと回り、なんかウインクしてきた。

 

「あ? どうって何が?」

 

「相変わらずニブチンだなぁ! あたしたちの水着!」

 

 天は叫びながら自身を、続けて少し離れたところにいる皆を指差す。島に行くわけだし、当然全員水着を持ってきているわけだけど……。

 

「ああ、水着。水着か……」

 

 俺はしどろもどろになりながら言葉を紡ぐ。

 

 目の前で胸を張る天は髪の色と似た感じの白いモノキニだった。見たことない水着だから、たぶん、この夏のために買ったやつなんだろう。

 

 九條はワンピース型の水着で、胸の方をレースアップにしていた。九條らしいと言えば、九條らしいのかもしれない。

 

 希亜は胸のところに飾りのついた、いわゆるフレアー・ビキニと言う奴だった。可愛らしい感じで似合っている。

 

 春風先輩はシンプルなビキニだった。それでもスタイルが良いので、十分な破壊力がある……って、俺は何を考えているんだ。

 

「あははー、鼻の下伸びてるわよー?」

 

「本当です。恋人さんの前だと言うのに、はしたないですね」

 

 無意識に表情に出てしまっていたのか、お揃いのパレオを着た空門姉妹が俺を見ながら同じ顔で笑う。

 

「こ、こういう時は目のやり場に困るんだよ。もちろん、希亜の水着が一番……って、何を言わせるんだ」

 

 俺は妙に恥ずかしくなって視線を逸らす。その先には、水着姿の島の皆がいた。

 

 静久は先に言った通りの水玉模様の水着で、のみきはハイネック、紬は黄色のワンピース……。

 

「だから、目のやり場に困るんだよっ!」

 

 ……俺は頭を抱えながら、思わず叫んだ。なんか、男女比率もおかしい気がするし。さっさとペットボトルのお茶もらって、少し頭を冷やそう……。

 

「新海さん、どうぞ!」

 

 なんて考えていたら、唐突にそのペットボトルが差し出された。顔を上げると、笑顔のうみちゃんが立っていた。

 

「ああ……お茶、持ってきてくれたんだ。ありがとう」

 

「いえいえ。顔真っ赤なので、早くも熱中症になりかけてるんじゃないかと思いまして。大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫だよ。ありがとう」

 

 恥ずかしさからか顔が赤くなっていたのか。思わず自分の頬をさすった後、うみちゃんからペットボトルを受け取って一口飲む。冷たさが全身に染みわたっていく感じがする。

 

「……ところでうみちゃん、どうしてスクール水着?」

 

 二口目、三口目とお茶を喉に流し込みながら、気になっていたことを聞いてみる。他の皆は自前の水着っぽいのに。一人だけ紺色のスクール水着だ。

 

「しょ、しょうがないじゃないですか。これしか持ってないんです!」

 

 先程の俺のように顔を赤くしながら言う。胸のところに大きく『うみ』と書かれて、子供らしさがにじみ出ている。でも、あそこって名字を書くんじゃなかったか? まあいいけど。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「それじゃ、ビーチバレー大会を始めるわよー」

 

 その後、静久や空門姉妹が中心となって、ビーチバレー大会が催された。

 

 コートは二つ用意してあるので、俺たちから4つ、島の皆から4つ、それぞれペアを用意して、トーナメント方式で競い合おうという感じだ。

 

「それでは、今からくじを引いてペアを発表しますよ。あらかじめ、この中には皆さんの名前が書かれた紙が入っていますので」

 

 がさがさと小さな箱の中身をかき混ぜながら、藍が言う。まったく、箱が二つあるところからして、俺たちと島の皆は分けてあるのかな。

 

「まず、最初のペアは……私と蒼ちゃんですね」

 

 藍は紙を開くと、すぐに砂の上に自分と妹の名前を書き記した。同じようにトーナメント表も砂の上に書かれているし、砂浜ってこういう時便利だな。

 

「ちょっと待て。藍、不正してるんじゃないか?」

 

「そうだそうだ! ピンポイントで引きすぎだろ!」

 

「は? まさか、私が蒼ちゃんと一緒のペアになりたいからズルしてるとでも言うんですか? これはそう、双子の絆ですよ」

 

 鷹原と良一が非難の声を向けるが、藍は素知らぬ顔だ。双子のペアとか強い以外考えられないし、強敵になりそうだ。

 

「よーし、にいやん、あたしたちもペアになって、兄妹の絆を証明してやろう!」

 

「断る」

 

「なんですとぉー!」

 

 両手に握りこぶしを作って鼻息を荒くする天を、俺は軽くあしらう。

 

「お前、俺とペアになったら、どさくさにまぎれで絶対抱きついてくるだろ」

 

「んなわけー、あるわけないじゃないですかー。やだなー」

 

「おい、こっち見ろ。ちゃんと目見て話せ」

 

「うっさいなぁ。絶対にぃに引き当ててやる!」

 

「引くのは藍だけどな」

 

「大丈夫! 願いは届く!」

 

「残念ながら、天ちゃんは都ちゃんとのペアですね」

 

「そんなぁーー!」

 

 天は両手を合わせ、それこそ天に祈っていたが、その願いは届かなかったみたいだ。

 

 続いて、羽依里とうみちゃん、春風先輩と沙月ちゃんのペアが決まった。察するに、俺たちと島の皆、交互に発表していくスタイルみたいだ。

 

「ちょ、ちょっと待って! なんで私まで入ってるのよー!」

 

 その時、くじの結果を聞いた沙月ちゃんがパラソルの下から走ってきた。

 

「全くやる気が感じられなかったので、こっそり沙月ちゃんの名前書いときました☆」

 

 慌てふためく沙月ちゃんを見ながら、天はしてやったり顔だ。

 

「でかした、天」

 

「でかしてないわよ! 取り消しなさい! 今すぐ!」

 

「どうしてもというなら引き直しますけど、そうすると春風ちゃん、男の人とペアになる確率が高くなりますよ? 男の人、苦手なんですよね?」

 

「え? えっと、その……」

 

 心なしか心配顔の藍に言われて、春風先輩が視線を泳がせる。確かに俺と高峰も残っているし、その確率はかなり高い。もし男性とのペアなんてなったら、先輩にとってかなりの苦痛のはずだ。何より、水着姿だし。

 

「……できたら、先生とペアの方が……」

 

「らしいっすよー。沙月ちゃん、ファイト♪」

 

「わ、わかったわよー。そんな顔されちゃ、しょうがないわねー……」

 

 春風先輩の懇願するようなまなざしに負けたのか、沙月ちゃんはがっくりと肩を落としながら了承する。先輩もその方が安心だろうし、沙月ちゃんも参加させられたし、一石二鳥だ。

 

「それでは続けて引きましょう。良一ちゃんと美希ちゃん、新海さんと希亜ちゃんがペアですね」

 

 ……よっしゃ!

 

 俺は平静を装いつつ、心の中で全力のガッツポーズをしていた。見たか天、見事に希亜を射止めてやったぜ! これが愛の力だ!

 

「うーわ、顔ニヤけてるっすよ。我が兄として、あれはどうかと」

 

「い、いいじゃねーか、嬉しいんだからよ!」

 

 ……否。装えてなかった。思いっきりバレてた。

 

「私も翔とペアになれて嬉しい。絆を感じる」

 

 う……希亜、まっすぐな瞳で言わないでくれ。反応に困るから。

 

「さすが恋人同士は絆も強いわねー」

 

「ラブラブ空間に入るのは後にしてくださいね。それでは残り二つのペアも発表しちゃいますよ」

 

 むず痒い空気になりかけたところで、それを振り払うように藍がくじを引く。それにより静久と天善のペアが決まり、残るは……。

 

「高峰さんと……あれ?」

 

 最後の紙を読み上げていた藍が、首を傾げる。

 

「あの、ここに書かれているレナって子は誰ですか?」

 

 ……もしかして天の奴、人数合わせのためにレナの名前を書いたのか?

 

 よくよく考えたら、そうしないと4つのペアができない。にしても、まさかレナの名前を書くなんて。

 

「え、えーっと、島の近くに住んでる親戚の子でさ。今朝方、島に来たんだ。もう近くにまで来てると思うから、ちょっと呼んでくるよ」

 

 俺は思わずそんな嘘をついて、浜辺から離れる。人目のない防波堤の裏までやってくると、そこでレナを呼び出した。

 

「……突然呼び出して悪いな。それで、今の状況だけど」

 

「ああ、オレは大将の幻体だ。言われなくても状況は把握してるよ」

 

「話が早くて助かる。悪いけど、よろしく頼むな」

 

「りょーかい。にしても、親戚の子か。ウソつくならもっとそれらしいウソつけっての」

 

「悪い。とっさに思いつかなかったんだ」

 

「ま、どーでもいーけどな」

 

 本当に気にする様子もなく、レナは頭の後ろで手を組みながら浜辺の方へと歩いていく。

 

「……ところでよ。大将」

 

「どうした?」

 

 そんな彼女に続くように歩き始めた時、レナは足を止めて、しげしげと自分の格好を眺める。

 

「なんでオレは水着姿なんだ?」

 

「状況を把握してるんじゃなかったのか? 浜辺でビーチバレーするんだから、普段と同じ格好の方が浮くだろ。水着のデザインが気に入らないなら我慢してくれ。俺の想像力じゃ、それが精一杯だったんだ」

 

「別に文句はねーよ。あんがとな」

 

 何に対してのお礼なのかわからなかったが、レナはどこか満足そうだったし、良しとしよう。

 

 

 

 

 レナが合流したことでようやく全メンバーが揃い、ビーチバレーの準備も整った。

 

 再度くじを引いて対戦順を決めた結果、俺と希亜は一回戦第一試合で空門姉妹と対戦することが決まった。まさかの開幕戦かよ。

 

 ちなみに隣のコートでは一回戦の第二試合が行われる予定で、沙月ちゃんと春風先輩のペアが、天善と静久のペアと戦うことになっている。先輩や沙月ちゃんが運動できるって話は聞いたことないけど、二人とも頑張れ。俺たちも頑張るから。

 

「言っとくけど、男子はブロックとアタック禁止だかんねー?」

 

 いよいよ試合が始まろうかという時、ネットを挟んで俺たちと対峙する蒼が大きな声で言う。

 

「……ちょっと待って。ブロックとアタックが禁止?」

 

「当たり前でしょー。ネットの高さだって女子に合わせてるんだし。あ、女子はどっちもやってオッケーだから」

 

「そ、そっか……」

 

 俺は思わずパートナーの希亜を見る。本気か? 希亜はこの身長だぞ。

 

 さっき一緒に少しだけ練習したけど、全力でジャンプしてもギリギリネットの一番上に届かなかった。これじゃ、ブロックはおろか、アタックなんて無理だ。

 

「……翔、アーティファクト使っていい? 瞬間移動するやつ」

 

「駄目だ。お前、まだアレは使いこなせてないだろっ」

 

 俺と同じように青ざめながら、小さな声でそう提案してきた。以前俺と同調してからというもの、俺の持つアーティファクトは希亜も一通り使えるんだけど、アーティファクトはその適性には個人差があるらしく、希亜は瞬間移動のアーティファクトをまだ十分に使いこなせない。ボロが出たりしたら大変だ。

 

「むぅ。翔は使えるのに」

 

「お、俺は良いんだよ。その、わきまえてるからな」

 

 ソフィー曰く、数多くいるアーティファクトユーザーの中でも俺は特別らしい。オーバーロードで世界の壁を越えつつ、いかなるアーティファクトでも使いこなせる代わりに、強制的に契約しない限りアーティファクトから選ばれることはないらしい。まぁ、今は色々あって、ものすごい数のアーティファクトを持ってはいるが。

 

「それが駄目なら、幻体を使って私の背を伸ばしてほしい。ほら、前のコスプレの時、髪伸ばしてくれたじゃない」

 

「確かにやったけど……シークレットシューズ的な?」

 

「そう、それ」

 

「けど、砂浜だから素足だし。いきなり背が伸びたらそれこそ不審がられるぞ」

 

「うぅ……」

 

「それじゃー、試合始めるよ! 四人とも、準備良い?」

 

 そうこうしているうちに、鴎がスコアボードを持ってやってきた。

 

「あれ? 今更だけど、鴎はビーチバレー参加しないのか?」

 

「そうだよー。私とツムツムは、今回は審判役!」

 

「そですね!」

 

 思わず質問すると、隣のコートを担当するらしい紬と一緒に笑顔を向けてきた。考えてみれば、この二人が参加したらペアが9組になって、歪なトーナメントになるわけか。

 

「くじ引きだし、恨みっこなしだね! その代わり、今日は思いっきり盛り上げるよ!」

 

 悔やむ様子など微塵もなく、鴎は腕を突き上げる。本当に元気だな。

 

「ところで少し気になったんだけど、この大会って優勝賞品とかあるのか?」

 

「あるよー。じゃーん!」

 

 少しだけ気になっていたことを聞いてみると、鴎が二枚のチケットを取り出す。水着なのに、どこに持っていたんだ?

 

「鴎、それは何?」

 

「海の家・ご優待券! このチケットを見せれば、あの海の家の名物カレーとドリンクのセットが無料に!」

 

 そう言いつつ、鴎はここから少し離れた場所に見える建物を指し示す。どうやら、静久のやってる海の家というのがあれらしい。なんにしても、名物カレー無料券は魅力的だ。昼飯代が浮くし、狙わない手はない。

 

「それにあの海の家、時々三毛猫やってくるから、タイミングが合えばモフリ放題!」

 

「モフリ放題!」

 

 ちょっと希亜さん、そっちに反応しない。ほら、猫耳しまって。

 

「翔、優勝を狙おう」

 

 希亜の目が本気になった。つか冷静に考えて、猫目的で行くんなら優勝賞品の優待券いらない気がする……なんて、口が裂けても言える雰囲気じゃなくなった。

 

「やる気になってくれて何より。それじゃ、試合開始――!」

 

 そんな希亜を見てから、鴎はどこに持っていたのか、ぴー! とホイッスルを吹いた。ここまで来たら腹をくくるしかなさそうだ。

 

 

 

 

「いくわよー。てい!」

 

 ……試合開始のホイッスルを受けて、蒼がサーブを放つ。

 

 俺は砂に足を取られないように気をつけながら落下点へと移動し、ボールを受ける。ネット際で腕を上げていれば防げそうな高さだけど、ブロックは禁止だし。

 

「いくぞ希亜、アタックだ!」

 

「う、うん!」

 

 俺はそのボールを優しくネット際へと上げる。トスとしては最高のボール……のはずだ。

 

「……えい!」

 

 しかし、希亜が全力でジャンプしながら打ち込んだアタックはネットを直撃した。やっぱり、身長が足りないらしい。すぐに「0-1!」と鴎の声が飛ぶ。

 

「……翔、ごめん」

 

「気にするな。ドンマイだ」

 

 俺はそうフォローしつつ、今度は全力でサーブを打つ。アタックとブロックを封じられた俺が許された唯一の攻撃手段だ。リスク覚悟で、コートの端を狙ってやる!

 

「……ほいっ。蒼ちゃん、いきますよ」

 

「オッケー。うりゃあっ!」

 

 そんな俺の渾身のサーブは藍に軽く受けられ、そのまま蒼へトスされる。俺と希亜は慌ててレシーブの体勢をとるけど、その間を綺麗に抜いていった。

 

「……翔。あの二人、強い」

 

「さすが双子の連携だな……実質的に俺たちはアタックできないし、ボールをひたすら拾い続けてミスしてくれるのを待つしかないな。安心しろ。俺は粘り強いぞ」

 

「翔はオーバーロードの使い手だし、それは知ってる。期待、させてね」

 

「ああ、任せておいてくれ」

 

 

 

 

 ……その後、俺たちは粘りに粘った。

 

 どれだけアタックされてもその度に拾いに行き、相手コートに返す。同じ動作を何十回繰り返したかわからない。

 

 ……だけど、あと一歩届かなかった。

 

「9-11! 試合終了! ノアノアたち、惜しかったよ!」

 

 試合終了を告げる鴎の笛が聞こえると、俺と希亜は砂の上に座り込んだ。

 

「くそ。もう少しだったんだけどな……」

 

 如何せん、あの姉妹は強すぎだ。どっちからでも強烈なアタックが飛んでくるし、その連携は完璧で全くミスしない。俺たちとしても、良くここまで粘ったと思う。

 

「負けちゃったけど、楽しかったね」

 

「……そうだな」

 

 ……優勝賞品は逃したけど、希亜と一緒にビーチバレーを楽しめた気がするし。良い感じの充実感があった。

 

「……でも、モフリたかった……」

 

 ……まぁ、どのみち海の家には行くことになりそうだけど。時々いるらしい三毛猫とやら、頼むから居てくれよ。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 自分たちの試合を終え、俺と希亜はパラソルの下で水分補給をしながら、他の皆の戦いを見守る。

 

 ちなみに希亜は俺の膝の上ですっかりリラックスモードだ。同じように汗をかいたはずなのに、顔のすぐ下にある希亜の髪からは不思議といい匂いがした。

 

「奥義・鳶影! 今だレナ君、決めろ!」

 

 そして目の前のコートでは、一回戦第三試合……レナと高峰のペアと、良一とのみきペアの試合が繰り広げられていた。

 

「これで終わりだぜっ! オラァ!」

 

「ぎゃーー!」

 

 俺と同じく、高峰はアタックもブロックもできないんだが、相棒のレナが強烈だ。髙い威力を誇るアタックが良一の顔面を捕え、打ちあがったボールにのみきがとびつくが、返しきれない。

 

「ハッ、ざまーねーなぁ!」

 

「くっ、ハイドロが使えれば……あんなボール、打ち返してやると言うのに……!」

 

 のみきは悔しそうにネット際を見つめていた。希亜とあまり変わらない身長だし、仮に良一からまともなトスが上がっていたとしても、不利なことに変わりはない。

 

「高峰たち、さすがに強いな……」

 

 思わずそんな感想が口をつく。

 

 俺たちと同じ時間に別のコートで試合をしていた沙月ちゃんと春風先輩のペアも敗北しているし、この二人には白巳津川代表として頑張ってもらいたい。

 

 最後に残ってるペアは正直、戦力的に微妙な感じだしな……。

 

「おお……お兄様、やれてしまうとは情けない」

 

 そんなことを考えていると、そのペアの一角である天が含み笑いを浮かべながら歩いてきた。

 

「うっせ。男にはハンデがあんだよ。しょーがねーだろ」

 

「あ、そっかー。早く負けたらその分長く結城先輩と長くいちゃいちゃできるもんなー。そっかー」

 

 直後、俺の膝で幸せそうな顔をしている希亜を見やりながら、何かを悟ったような顔をする。

 

「言っとくが、断じて違うからな。俺は本気で優勝狙ってたんだ」

 

「はいはい。そういう事にしておきますよー」

 

「おまっ、信じてねーだろ! 俺は……」

 

「天ちゃん、私たちの番だよ」

 

 明らかに信じていない天に言葉を投げようとしていると、九條が天を呼びに来た。どうやら、二人の試合の順番が回ってきたみたいだ。

 

「ほら呼んでるぞ。まぁ、お前も頑張れ」

 

「うっす! お兄ちゃんパワーで頑張る!」

 

「ほ、ほどほどにな」

 

 一応応援してやると、天は拳を突き上げながらコートへと向かっていった。ちょっとやりすぎたか?

 

 

 

 

「勝った!」

 

 ……そして10分もしないうちに、試合を終えて戻ってきた。

 

「アタックもブロックもできない鷹原と、参加メンバーの中でも一番身長の低いうみちゃんのペアだぞ。そりゃ勝って当たり前だ」

 

「ご褒美!」

 

「そんなもんねぇよ!」

 

「くっそ―――! 絶対優勝して、午後からにぃにとデートしてやる―――!」

 

 大袈裟に地団駄を踏みながら、天が去っていった。つーか、なんで勝手に報酬追加してんだ。絶対しねーから。

 

「くそー、攻撃はともかく、ブロックできないのは予想以上にきついな」

 

「負けちゃいましたー」

 

 ……そんな天と入れ替わるように、鷹原とうみちゃんがパラソルの下にやってきた。

 

「二人ともお疲れ。最後、うみちゃんを肩車してブロックしたのは驚いたぞ」

 

「直後に返されて負けたけどな。まぁ、楽しめたよ」

 

「はい! 楽しかったです!」

 

 お互いに顔を見合わせて笑う。試合には負けていたけど、本当に楽しそうにしていた。

 

 

 

 

 ……その後、高峰とレナのペアは順当に勝ち上がり、続く準決勝は高峰とレナ、天と九條の仲間内対決となった。もう一つの試合は静久と天善のペアと空門姉妹の試合で、これまた身内対決だ。

 

「加納のせがれ、頑張れよー」

 

「空門の嬢ちゃんたち、ファイトたぜー!」

 

 気がつけば見物人も何人か来ていて、出店まで出ていた。いや、盛り上がりすぎだろ。

 

「いくわよ! おっぱいサーーブ!」

 

 観客に圧倒されているうちに試合が始まった。なんか卑猥な言葉が聞こえた気がするが、気のせいか?

 

「藍、お願い!」

 

「任されました」

 

 独特な放物線を描いて相手陣地へと放り込まれた静久のサーブを、藍が拾う。それから見事な連係で蒼がネット近くへトスを上げると、タイミングを見て藍が飛ぶ。

 

「天善ちゃん、覚悟してください」

 

「チョレーーイ!」

 

 アタックをする藍に対し、天善は卓球のラケットを振りかざす。当然ブロックはできずに撃沈していたが、あれってありなのか?

 

「さすが双子の息の合ったコンビネーション! 脱帽だねぇ」

 

「はい! ダツボーです!」

 

 いつの間にか得点係の鴎と紬も島の仲間を応援しに来ていた。あれ? それじゃあ、天たちの得点係は今誰がやってくれてるんだ?

 

 何の気なしに隣のコートに目をやると、気だるげな表情で沙月ちゃんがスコアボードをめくっていた。

 

 そして、それ以上に気になったのが……。

 

「存在感消して……インビジブルアタック!」

 

「バカか! オレには見えてんだよ!」

 

「ぎゃーー! やっられたーー!」

 

 ……島の皆の目が届かないのをいいことに、アーティファクトを全面解禁して激闘を繰り広げていた。

 

「天ちゃん、アタックお願い!」

 

「うっしゃーーー!」

 

「させるかよ! ブロックだ!」

 

「みゃーこ先輩! あいつの視力奪って!」

 

「う、うん!」

 

「なっ……テメェ、きたねーぞ!」

 

「うっさい! 勝てば官軍!」

 

 存在感を消すアーティファクトでこっそり攻撃しようとしたり、レナの視力を九條のアーティファクトで一時的に奪ってみたり、やりたい放題だった。皆水着だから、スティグマも丸見えだ。

 

「おーい! いくら誰も見てないからってやりすぎだ! 普通にやらんか、普通に!」

 

 俺は思わず駆け寄って叫ぶ。下手に皆の能力が露呈したら、またオーバーロード使わなきゃいけなくなるだろが!

 

「えー、いーじゃんほら、あいつなんか瞬間移動使ってるんだよ!」

 

「はい。レナちゃんチームに追加点ー。これで6-9、天ちゃんに九條さん、そろそろ危なくなってきたわよー」

 

 得点係の沙月ちゃんは特に気にする様子もなく、あくびをしながらスコアボードをめくる。もうめちゃくちゃだ。

 

 

 

 

 ……激闘の末、この勝負はレナと高峰のペアが勝ち、決勝へと駒を進めた。反対の山からは空門姉妹が勝ち上がってきて、いよいよ決勝戦だ。

 

「誰かと思えば、決勝まで勝ち上がってきたのは双子の嬢ちゃんたちか」

 

「相手にとって不足はない。正々堂々、勝負しようではないか!」

 

「負けないわよー!」

 

「けちょんけちょんにしてあげます」

 

 藍はそう息巻いていた。けちょんけちょん。久しぶりに聞いたような気がする。なんか藍って、大人びてるようで妙に子供っぽい時あるよな。

 

「それじゃ、決勝戦! 試合開始――!」

 

 そして司会の鴎が試合開始宣言をし、決勝戦が始まった。

 

「蒼ちゃん、行きますよ」

 

「オッケー」

 

 高峰のサーブを一度蒼が受け、藍がトスを上げる。安定の流れだ。

 

「ハッ、させるかよ! ブロックだ!」

 

 そこを狙ったかのようにレナが立ちはだかる。こっちも安定の身体能力だな。

 

「甘い! うりゃあ!」

 

 一方の蒼も負けておらず、レナの守備範囲外へ向けて角度のあるアタックを打ち込む。さすが上手い。

 

「甘いのはそっちだぜ!」

 

 ……そう思った矢先、レナの姿が一瞬だけブレて、少しずれた空間へと移動した。

 

 直後、レナにブロックされたボールが空門姉妹の陣地へと落下した。

 

「タイム!」

 

 それを見た俺はたまらず試合を止めて、レナの元へと駆け寄る。

 

「お前今、瞬間移動のアーティファクト使ったろ」

 

「ほんの少ししか動いてねーから大丈夫だって。わかりゃしねーよ」

 

「だーかーら、アーティファクトは禁止だ!」

 

「大将は真面目だねぇ。わかったよ。もう使わねーよ」

 

 レナは俺の幻体だから、弱体化しているとはいえ俺の持つ全てのアーティファクトが使える。瞬間移動のアーティファクトもその一つだ。

 

 空中にいる時しか発動できない欠点はあるけど、あれは十分強力なやつだ。俺の幻体なんだし、真面目一本で頼むぞ。

 

 

 

 

「……よっしゃ、もらったぜ!」

 

「5-5! また同点に追いついたよ!」

 

 ……それからレナたちは正々堂々と勝負をし、一進一退の攻防が繰り広げられていた。

 

「私のレシーブ能力を甘く見ないでもらおう! 奥義・飛猿!」

 

 そして高峰はひたすらにボール拾いに徹していた。空門姉妹が何本打ち込もうとも、そのほとんどを拾っていた。もっともらしい技名を叫んではいたけど、あれはアーティファクトじゃない。なんつー運動能力……。

 

「藍、お願い!」

 

「いきますよ。レナちゃん、覚悟してください!」

 

「甘いぜ!」

 

「……なぁ鷹原、なんか同じ声が3人分聞こえる気がするんだが」

 

「そうか? 気のせいだろ」

 

 空門姉妹は双子だし、声が似てるのはわかるとして、なんとなくレナの声も似て聞こえる。不思議だ。

 

 というかあの姉妹、幻体のレナと互角の動きをしている気がするぞ。あの身体能力は何なんだ。

 

 

 

 

 死闘の末、勝利の女神は空門姉妹に微笑んだ。最終的なスコアは11-10。本当に接戦だった。

 

「じゃー、このカレーのタダ券、二人にあげようかしらねー」

 

 表彰式が終わった後、何故か姉妹は俺と希亜へそのチケットを差し出してきた。

 

「え、いいのか?」

 

「いいわよー。ずっと試合見てるだけで、可哀想な思いさせちゃったしねー」

 

「いや、俺は希亜と一緒に過ごせて、幸せだったけど」

 

「……可哀想な思いさせちゃったしねー」

 

「そ、そうだな。ありがとう」

 

 思わず本音が出てしまったけど、蒼はその笑顔を崩すことはなかった。謎の恐怖を感じた俺は、そのままチケットを受け取った。

 

「ありがとう。これで、モフれる……!」

 

 希亜は受け取ったチケットを心底大事そうに抱きしめていた。なんか目的が変わってる気がするけど、そのチケットはただのカレー無料券だからな。無料モフり券と勘違いしてるんじゃないのか。

 

 

 

 

 それからはお昼まで、皆でスイカ割りをしたり、浜辺の砂で高度な城や彫刻を作って遊んだ。

 

 ……って希亜、いくらなんでもナイトブレイダーの砂像は無理だと思うぞ。「なんとかして」って目で俺を見られても、どうにもできないからな。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 ……やがてお昼時になり、皆で海の家へと足を運ぶ。

 

 希亜は着くなり三毛猫の姿を探していたけど、その姿はどこにもなかった。海の家を切り盛りしている静久曰く、お昼時は暑いから姿を見せないことが多いらしい。

 

「その……希亜、気を落とすな。次があるって」

 

 俺はそんな希亜の肩に優しく手を置いて、慰めてやった。心底残念そうだったし、三毛猫、食事中にでもひょっこりやってきてくれないだろうか。

 

「お待たせ。鳥白島名物、チキンホワイトカレーよ」

 

 しばらくすると、静久がカレーを提供してくれた。ここはビーチバレーの会場と近いし、ちょくちょく抜け出して準備をしてくれていたらしい。スパイシーな香りが嫌が応にも食欲をそそる。

 

「悪いのだけど、数が多いから奥へ回してもらえるかしら」

 

「わかりました」

 

 大きなおぼんに乗せられてきた人数分のカレーを、九條から順に渡していく。

 

「天ちゃん、どうぞ」

 

「デスカレー先輩、ありがとうございまーす」

 

 ……はて。春風先輩からカレーを受けとりながら、天がものすごく失礼なこと言ったような。気のせいかな。

 

「あれ、白くない!」

 

 そして目の前に置かれたカレーを見た瞬間、天が叫んでいた。言われてみれば名前の割に、普通のカレーと同じ色だ。具材もシーフードが主な気がする。

 

「チキンも入ってない! 誇大広告だ!」

 

「ふふ。名前と見た目は必ずしも一致しないものよ。狸うどんに狸は入っていないでしょう?」

 

 クレームまがいのことを言う天を静久は笑顔でたしなめる。それに、「つべこべ言わず、まずは食べてみなさい。きっと文句言えなくなるから」と蒼が続く。

 

「こう見えてあたし、ハンバーグやカレーにはうるさいっすよ? ナインボールの期間限定カレー、毎回頼んでたんすから。いただきまーす!」

 

「いただきます」

 

「いただきまーす」

 

 天に続いて、俺たちもきちんと挨拶をしてスプーンを手に取る。

 

「……うんまぁぁい!」

 

 ご飯とカレーを程よいバランスですくった時、一足先にカレーを食べた天が叫んでいた。

 

「みゃーこ先輩! これヤバい。ナインボール負けるかも」

 

「えっ、そんなに美味しいの?」

 

「どれどれ……あ、うまい」

 

 天の反応に、俺も期待値をあげながらカレーを口に運ぶ。確かにうまい。

 

 この手のシーフードカレーは色々な店で見かけるし、昨日もカレーだったからどうかな……というのが正直なところだったけど、魚介の旨味が全然違う。

 

「……本当。このコクは野菜やお肉じゃ出せないね……でも生臭くもないし、スパイスだけじゃなくて、やっぱり食材が新鮮なのかな」

 

 同じくカレーを食べた九條も驚いた顔をしていた。さすが、新鮮な魚介類が獲れる島ならではのカレーといったところか。

 

 これが鳥白島名物というのも納得の味だった。

 

「うーん。おいしい……けどなぁ……」

 

 そんな中、うみちゃんはあまりカレーが好きそうに見えなかった。子供ってカレーは無条件で好きなものだと思ってたけど。

 

「……そうだ。皆、食べながらで良いので聞いて欲しい」

 

 そんなことを考えていると、のみきが立ち上がって皆に注目を促す。なんだろう。

 

「今夜、成瀬さんご一行の歓迎会を催したいと思う。ここにいる皆にも、ぜひ参加してもらいたい」

 

 ……そういえば、昨日のみきに出会った時にも同じようなことを言っていた気がする。歓迎会、本当にやってくれるんだ。

 

 そんなことを考えている間にも、島の皆は続々と参加表明をしてくれる。俺たちにしてみれば、嬉しいような恥ずかしいような。

 

「ありがとう。開始時間は18時から、場所はいつもの食堂だ」

 

 結局その場にいた全員の参加を確認したのみきが、笑顔でお礼を言う。「りょーかーい」という声が聞こえたけど、いつもの食堂と言われても、俺たちは場所を知らない。

 

「食堂の詳しい場所は鷹原が知っているから、新海たちは鷹原に案内してもらってくれ」

 

「ああ、わかった」

 

 そんな俺たちを察してか、のみきがそう付け加えてくれた。へぇ、この島に食堂があるのか。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 昼食後はそのまま解散となった。

 

 駄菓子屋に行くとか話している九條たちを尻目に、俺は希亜と一緒にアーティファクト探しを始めた。ようやくだわ……。

 

「……翔、向こうに変わった形の建物がある。見に行ってみよう」

 

「ああ、そういえば灯台があるって言ってたな。行ってみるか」

 

 自然に手を繋ぎ、海沿いの道をのんびりと歩いて灯台へと向かう。昼下がりだから暑いはずなんだが、海からの風が心地よく、そこまで汗をかくこともなかった。

 

「見て。綺麗な灯台だよ」

 

「本当だな。真っ白い灯台とか珍しいよな」

 

「写真撮っておこう。あと、翔と一緒にも撮りたい」

 

「いいぞ、えーっと、自撮り設定は……」

 

 俺はスマホを取り出し、カメラを起動させて……。

 

「……ってこれ、ただの観光だよな? アーティファクト探しは?」

 

「違う。ちゃんと探してる」

 

「本当かよ……」

 

「ほら、もっとくっつこう。入りきれないよ」

 

「お、おぅ……」

 

 スマホを構えた反対の腕に希亜のぬくもりを感じながら、俺はシャッターを切った。

 

 

 

 

 その後も何枚か写真を撮った後、灯台の周りをぐるりと見てまわる。

 

 この灯台は港から遠いせいか、いかにも観光地っぽいのに俺たち以外の姿はなかった。風よけ用の背の低い塀の向こうに砂浜と海が見えるが、同時に『遊泳禁止』と書かれた看板も見えた。せっかく綺麗なのに、泳げないのか。

 

 灯台の周囲に広がる石畳の途中に小さな水道設備があり、その近くに『ご自由にお飲みください』と書かれたメモと、大量の缶コーヒーが置かれていた。

 

 ちょうど喉が渇いていたから一本もらおうと思って手に取ったけど、この暑さでホットコーヒーになっていた。賞味期限は大丈夫っぽいけど、少し冷やしてから飲もうかな。

 

「……ところで希亜、少し気になったことがあるんだけどさ」

 

「なに?」

 

 熱々の缶コーヒーに水道水で冷やしたタオルを巻きつつ、希亜に話を振る。

 

「空門姉妹さ……ビーチバレーの時、幻体のレナと互角の勝負をしていたんだ。もしかしたら、身体能力向上のアーティファクトでも持っていたりしないかな。あの腕や髪につけてたアクセサリーとか、それっぽくなかった?」

 

「あれはトンボ玉。ガラス製だし、皆が持ってるアーティファクトとは違うと思う」

 

 ……言われてみれば、皆の持つアーティファクトは形こそ違えど、一様に銀色を基調としたアクセサリーだ。あの二人が身に付けているものとは根本的に違う。

 

「それに、アーティファクトの使用中は体のどこかにスティグマが浮かび上がる。二人とも水着だったし、隠せないはず」

 

「じゃあ、あの二人が島のユーザーである可能性は低いか……」

 

「うん。一緒に試合もしたし、決勝戦も見ていたけど、スティグマが出ている様子はなかった」

 

 ……なんだかんだで、希亜も見てくれていたんだな。

 

「……もし、お尻とか胸に出てたら、さすがにわからないけど」

 

「確認してもらうわけにもいかないしな……とりあえず、あの二人はシロかぁ」

 

 もしかしてと思ったんだけど、どうやら違うらしい。俺はため息混じりに缶コーヒーに口をつける。

 

 ……ものすごく苦かった。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 ……灯台を堪能した後、山の方も探索してみたいという希亜の希望で、今度は山へと向かった。

 

 舗装された道を歩き、気になった横道があればふらっと入ってみる。横道といっても基本は獣道なので、俺たちはすぐに鬱蒼とした森に飲み込まれる。

 

 最初こそ「小さい頃を思い出す。まるで冒険してるみたい」とはしゃぐ希亜と一緒になって、俺も楽しんでいたんだが……。

 

「うーむ」

 

 迷った。

 

 好奇心に任せて森の中を歩き回るうちに、完全に道に迷ってしまった。ここはどこだ。

 

 俺は思わず地図アプリを起動する。

 

 ……サービスエリア外だった。くそ、2000年だってこと忘れてた。

 

「なんとかして人のいる場所に戻らないと」

 

「確か、川下に向かって進めば人里に着くと聞いたことがある」

 

「よし、それを信じよう。確か、こっちのほうに小川があったよな……」

 

 俺は先頭に立ち、希亜の背丈ほどある草藪をかき分けて進む。やがて目当ての川を見つけると、それに沿って山を下る。ほとんど遭難だった。

 

 

 

 

「……あれ、ここは海?」

 

 そして辿り着いた先は、山の中の小さな池。どうやら、農業用のため池ってやつらしい。

 

「人気はないけど、こんな建造物があるってことは、そろそろ人家もありそう……」

 

「希亜、しっ」

 

 希亜は安心感からか明るい声を出すが、人の気配を感じた俺は慌ててその口をふさぐ。同時に、存在感を操作するアーティファクトを使うのも忘れない。

 

 ……こんな所に、誰だ。

 

 できるだけ音を立てないようにしつつ、草むらの中に二人でしゃがみ込み、様子をうかがう。ため池の縁に人影があった。髪が長いし、どうやら女性のようだ。

 

 息をひそめていると、その人影はまるで銃を撃つように両手を構え、こう言い放った。

 

 

「れいだーん」

 

 

 俺も、おそらく希亜も、その声に聞き覚えがあった。あの声は間違いなく、しろはさんだ。

 

「……もしかして、アーティファクトを扱う練習をしているのかも」

 

 ありえる。両手を構えているところからして、希亜のように撃ち放つタイプのアーティファクトなのかも。つまりは、攻撃型。

 

「れいだーん」

 

 そんなことを考えているうちに、もう一度。

 

 思わず結界を張り、その身を強張らせるけど、何かが起こっているような感じはしなかった。まだ使いこなせていないのか?

 

「……ふふっ」

 

 満足いく練習ができたのか、しろはさんは小さく笑うと、踵を返して森の中へと消えていった。海水浴の時も来ていないとは思っていたけど、こうやって人知れずアーティファクトの練習をしていたんだろうか。

 

 ……これは、夜に皆に報告するべきだな。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 ため池から道なりに歩くと、見知った場所に出ることができた。そのまま住宅地へと向かい、加藤家の門をくぐる。朝から動き回っていたし、ようやく一息つけそうだ。

 

「あ、にぃにおかえりー」

 

「外、暑かったでしょー?」

 

 部屋へと続く廊下を歩いていたら、水を張った金ダライに足を突っ込んだ天と沙月ちゃんが縁側で涼んでいた。

 

「二人とも、馴染んでんなー……」

 

「あ、にぃにも入る? 妹の残り水」

 

「……言い方。ったく、俺と希亜が必死にアーティファクト探ししてるってのに」

 

「なんか進展あった?」

 

「あー、夜に話す。それより、他の皆は?」

 

「みゃーこ先輩は春風先輩と駄菓子屋。高峰先輩は天善さんや良一さんと一緒にえーと……秘密基地? に行ってる」

 

「秘密基地? この島、そんなもんもあるのか?」

 

「みたいだよー。えらく意気投合してた。ミニヨンク? がどうとかって」

 

 よくわからないが、楽しんでいるならそれでいいか。

 

「それと、うみさんは鷹原さんとプールでトレーニングしてくるってさ」

 

 トレーニング? こっちもよくわからないが、あの二人は本当に仲が良いよな。まるで兄妹みたいだ。

 

「歓迎会もあるし、夕方には戻るって。散々動き回ってんだし、にぃにもそれまで少し休みなよ? んじゃねー」

 

「じゃあ、後は若いもん同士ってことでー」

 

 十分に涼んだのか、横に置かれていたタオルでささっと足を拭くと、天と沙月ちゃんは去っていった。

 

 ただ残された俺と希亜は顔を見合わせた後、苦笑しながら水の張られたタライに足を突っ込んだ。

 

「おお、気持ちいい」

 

 散々こき使われて熱を持った足が一気に冷えていくのがわかった。その感覚はやがて全身へと伝播し、なんと言えない心地よさに包まれる。

 

「……しっかし、今日は動き回ったな」

 

「うん。普段からしたら有り得ないくらい動いてる。本当、子供の頃の夏休みみたい」

 

「だな。あの頃って、朝から晩まで走り回ってた。それでも不思議と疲れなかったのは、やっぱ子供だったからかな」

 

「そうかもしれないね。そういえば、翔は子供の頃、どんな夏休みを過ごしてたの?」

 

「俺? 普通の夏休みだったけどな。宿題やってラジオ体操して、近所の公園に遊びに行って……あ。時々、おとんが休みの時には家族で近場のレジャー施設に連れて行ってもらってたな。水族館とか……ふあ」

 

 ずっと昔、まだ小さかった頃の記憶を思い起こしていると、不意に欠伸が出てしまった。

 

「……もしかして眠い?」

 

「ん、あー……悪い」

 

 普段動かないくせに、島に来てからはずっと動き回ってる上、少しでも早くアーティファクトを見つけようと気を張りまくってるのもあって、気を抜いたら一気に眠気が来た。まずいまずい。

 

「……翔、一人気を張ってる気がする。もっと、肩の力を抜いても良いと思う」

 

「え?」

 

 目を覚ますため、タライの水で顔でも洗おうかと本気で考えていたら、まるで心を読んだかのように希亜が言う。

 

「状況が状況だけど、変わった夏休みだと思って楽しんだらいい。現に、他の皆は楽しんでるし、私もそう」

 

 ……確かに、皆はなんだかんだで島の皆と一緒に遊んでるよな。俺、一人だけ背負いすぎてんのかな。

 

「ほら、そんなふうに眉間にしわ寄せてたら、夜の歓迎会も楽しめないよ。今は時間あるし、何も考えないようにして、少し休んだらいい」

 

 そう言って微笑んでくれた。その笑顔を見ただけで、すっと肩が軽くなったような気がした。

 

「……わかった。それじゃ、少し休ませてもらうよ。気を使ってくれて、ありがとうな」

 

 俺は希亜にお礼を言って、足を拭いてから立ち上がる。鷹原も高峰もいない今なら、部屋でゆっくり休めそうだ。

 

「……ちょっと、どこ行くの?」

 

「え、どこって部屋に……」

 

「……」

 

 希亜は立ち去ろうとする俺の足をがっしと掴み、無言でぽんぽんと自分の膝を叩く。

 

「……それってまさか、膝枕?」

 

「そう。風がある分、縁側の方が涼しい。きっとよく眠れる」

 

 ……そりゃ眠れるだろうけど。

 

「でも……誰かが通りかかったら、恥ずかしくないか?」

 

「私は気にしない」

 

 俺は気にする。縁側に面した加藤家の庭柵、竹製で隙間だらけだしさ。表通りから丸見えで、プライバシーも何もあったもんじゃない。

 

「ほら、かもん」

 

 ……いや、かもんて。

 

 もう一度ぽんぽんと膝を叩く。これは、言うことを聞く他なさそうだ。

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

 観念した俺は再び腰を下ろし、仰向けになってゆっくりと希亜の太ももに頭を預ける。

 

 ……くっそ柔らかい。どんな高級枕よりいい。

 

「あー、これやばいわ。すぐに眠れそう……」

 

「……翔はずっと皆のために頑張ってくれていたんだし、今くらい休んでいいと思う。おやすみ。翔」

 

 そんな言葉と、希亜の細い指が頭を撫でてくれる感覚に身を委ねていると、俺はすぐに眠りへと落ちていった。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 ……目を覚ますと、夕方近くになっていた。プールでのトレーニングを終えた鷹原とうみちゃんも帰宅していたので、身支度を整えてから鷹原の案内で港の食堂へと向かった。

 

「ようこそ、鳥白島へーー!」

 

 鷹原たちに促され、先に店内へと足を踏み入れると、そんな声と共に紙吹雪が舞い、クラッカーが鳴った。あまりの歓迎っぷりに、俺たちは呆気にとられてしまった。

 

 我に返って周囲を見渡すと、店の中には島の皆が勢揃いしていた。思わず、「どもっす……」と恐縮してしまう。

 

「すでに全員顔見知りだと思うが、改めて紹介しよう。彼らはしろはの親戚……という名目でこの島に数日間滞在することになっている、成瀬さんご一行だ」

 

 のみきは笑顔のまま、俺たちをそう紹介してくれた。どうやら、ここにいる皆は俺たちの事情を理解してくれているみたいだ。もしかすると、鏡子さんがのみき辺りに事情を話してくれたのかもな。

 

「昼間もこの面々で遊んだばかりだし、もはや自己紹介も必要なさそうだな。それでは、こっちに座ってくれ」

 

 そう言って奥の座敷へ案内される。仕切りを兼ねた襖を取り外して、二つの部屋を繋げているみたいで、小さな食堂なのに、なかなかな広さだった。

 

「いやー、なんかこういう席って緊張するっすね」

 

「お前、普段あれだけ騒がしいくせに、実は人見知りだもんな」

 

 促されるまま奥の席に腰を下ろすと、すぐ隣に天が座った。まぁ、今回は仕方ないか。

 

「ねぇねぇ。隣いいかな?」

 

 続けて、そんな天の隣に鴎がやってきた。天は半分声を上ずらせながら「どうぞ」と答えていた。おい、いつもの元気はどうした。

 

「えっと、俺たちも隣に座っていいか?」

 

 直後、俺の隣には鷹原とうみちゃんがやってきた。了承するとうみちゃんから、「お邪魔します!」と元気な声が返ってきた。

 

「希亜ちゃん、よろしくお願いします」

 

「よろしくねー」

 

「うん。よろしく」

 

 一方、俺の向かいに座った希亜は空門姉妹に挟まれていた。そんな蒼の隣には沙月ちゃん、その横には静久に紬……といった感じに、島の皆は俺たちの間に入るように座ってきてくれた。交流が主な目的なんだし、嫌な気はしない。

 

「お前たちとの勝負、実に有意義な時間だった」

 

「おう! またやろうぜー」

 

「あの秘密基地をそこまで気に入ってくれるとは。俺たちとしても嬉しい限りだ」

 

 そしてテーブルは離れてしまったけど、高峰は良一や天善とすっかり意気投合しているみたいで、その二人と同席していた。秘密基地、そんなに楽しかったのか?

 

「バイトで慣れてるし、配膳手伝うね」

 

「わ、私もお手伝いします」

 

「いや、九條さんも香坂さんも、今回はお客さんだ。気にせず座っていてくれ」

 

 そんな男子三人組の同列に、のみきと九條、春風先輩がいた。二人はさっそく手伝いを申し出ていたけど、やんわりと断られていた。

 

「んー、お酒頼んじゃおうかしら」

 

 背後の二人の気遣いなどつゆ知らず、唯一成人している沙月ちゃんはドリンクメニューを片手にあれやこれやと悩んでいた。最年長者なんだし、頼むから恥を晒さないでくれよ……。

 

 

 

 

「それでは、今宵の出会いを祝して! 乾杯」

 

「「かんぱーい!」」

 

 やがて、のみきが乾杯の音頭を取り、歓迎会が始まった。

 

 それと同時に、次々と料理が運ばれてきた。揚げ物に吸い物、そして鯛の尾頭付き。あれ、実在するんだな。

 

「この店の店主が腕によりをかけて作ってくれた料理だ。皆、堪能してくれ」

 

 のみきはそう言うけど、料理を運んできてくれるのは島の皆で、当人の姿はなかった。たぶん、水入らずで楽しんでもらうために、奥に引っ込んでくれているのかな。

 

「皆、まずはこの刺身を食ってくれよ。島といえば、新鮮な魚介類だからな」

 

 その矢先、良一が一枚の大皿を運んできてくれた。そこには一面、色とりどりの刺身が敷き詰められていた。

 

「すっげ……」

 

「この魚は今朝港にあがったばっかのやつだ。うまいぜ」

 

 想像以上の豪華さに言葉を失うが、良一は気にすることなく説明を続ける。

 

 タイ、タコ、アジ、サザエ……それ以外の詳しい魚の名前はわからないけど、とにかく大量に盛られていた。これ、街で食ったらいくらになるんだ?

 

「ちょ、ちょっとにいやん、固まってないで食べないと」

 

「そ、そうだな。いただきます」

 

 天にわき腹を小突かれて我に返る。できるだけ平静を装いながら挨拶をして、ワサビと醤油をつけて口に運ぶ。

 

 ……うん。上品な脂と旨味が舌の上に広がる。これは、おかんが時々スーパーで買ってくる刺身の盛り合わせなんかとは、比べちゃいけない美味さだ。

 

「うまい。これは白飯が欲しくなる奴だな」

 

「おむすびならあるぜ!」

 

 思わずそう口にすると、横からにゅっと腕が伸びてきて、おむすびが二つ乗った小皿が俺の前に置かれた。あれ、この子は誰だろう。

 

「ああ、ありがとう。えーっと」

 

「僕は識さ! この食堂を手伝っているんだ。まだまだお替わりもあるから、欲しくなったら言いなよ!」

 

 満面の笑みで言うと、識と名乗った少女はカウンターの向こうへ消えていった。かっぽう着姿が妙に似合ってたし、大方、この食堂の娘さんとかなんだろう。

 

「この野菜サラダも、島で採れた野菜を使っているんだ。たくさん食べてくれ」

 

 そんなことを考えながらおむすびをかじっていると、今度はのみきがガラスの器に乗った大盛のサラダを持ってきてくれた。

 

「希亜ちゃん、よそってあげます」

 

「このドレッシングも手作りなのよー。ぜひ使ってみて」

 

 藍がどっさりと盛ってくれたサラダには、しっかりとミニトマトが入っていた。希亜の大嫌いな、ミニトマトが。

 

「……! ……!」

 

 声にこそ出さないけど、希亜が全力で目で訴えてきた。希亜、ここは頑張れ。ドレッシングとか他の野菜とかで、なんとか誤魔化して食べるんだ。

 

 俺が表情で応援してやると、覚悟を決めたのか、たっぷりのドレッシングをかけた野菜とともに、ミニトマトを口に運んだ。

 

「……ぅぇ」

 

 ……直後、両サイドの二人に見えないようにしながら、軽くえづいていた。希亜、頑張ったな。プラーナが濁ってないと良いな。

 

 

 

 

 そんな感じに宴は続く。ふとした時に周囲を見渡してみると、高峰は良一や天善とフライドポテトばかり食べているし、沙月ちゃんは刺身を肴に日本酒を堪能している。

 

 紬と静久はそんな沙月ちゃんが時折発する愚痴に笑顔で対応してくれているし、その反対側では春風先輩と九條がのみきとのおしゃべりを楽しんでいるらしかった。

 

 うみちゃんと鷹原はこういった席は慣れた様子で、一緒に茶碗蒸しをつついている。昨日ののみきの言い方からして、長期滞在者が来る度に歓迎会をやってそうだし、この二人も経験済みなのかも。

 

「今更だけど、ソラソラの名前って変わってるよねぇ」

 

「えー、そうっすかねぇ……」

 

 その時、隣からそんな会話が聞こえた。その台詞、天も鴎にだけは言われたくないだろうな。

 

「ねぇねぇ。『さよなら、テンさん……』とか言われない?」

 

「いや、言われないっすけど」

 

 ……どこかで聞いたネタだと思ったら、以前沙月ちゃんが同じ話をしていたのを思い出した。2000年。うーん、ジェネレーションギャップだ。

 

 

 

 

「……あれ、そういえば今日、しろはさんは?」

 

 飲み物のお替わりをもらって席に戻った時、そんなことに気がついた。全員知った顔ばかりの中で、誰か足りないと思ってたんだ。

 

「しろはちゃんですか?」

 

「そういえば来てないわねー」

 

 何の気なしに目の前の空門姉妹に話を振ると、二人も今気づいたような顔をした。

 

「一応声はかけたんですが、しろはちゃんはシャイなので」

 

「シャイ?」

 

「人がたくさんいる所が苦手なの。彼女持ちなら女心分かってるでしょうけど、見かけてもちょっかい出しちゃ駄目よ?」

 

「あ、ああ。そういうことなら、了解したよ」

 

 どうやら、元からあまり積極的に人と関わり合いになるタイプじゃないみたいだ。昼間のこともあるせいか、変に勘ぐってしまいそうになる。

 

「……ところで新海さん、あの子は来ていないんですか」

 

「あの子?」

 

「ほら、ビーチバレーの時にいた、あの子です。お話がしたかったんですが」

 

「ああ、レナのことか」

 

 一瞬誰のことかと思ったけど、ビーチバレーという単語でピンと来た。そういえば、島の皆には親戚だと紹介していたっけ。

 

「あー、ちょっとビーチバレーで張り切り過ぎたのか、疲れちゃったみたいでさ。今は休んでるよ」

 

 少し考えて、そう誤魔化しておいた。呼び出したところで、幻体のレナは食べ物を摂れないしな。

 

「そうだわ。この際だから、新海君に聞いておきたいことがあるのだけど」

 

 続けざまに、空門姉妹と同列の静久から声をかけられた。

 

「えっと、なんすか?」

 

 この人とはビーチバレーの時に初めて会ったし、そこまで話をしているわけでもない。どんな質問が来るんだろうか。

 

「新海君は、どんなおっぱいが好きなのかしら」

 

「……は?」

 

 身構えていたが、予想の斜め上の質問が飛んできた。いや、なんて答えればいいんだこれ。俺は何か試されているのか?

 

「静久ちゃん、翔くんは希亜ちゃんサイズが良いのよ。そんな質問は愚問よ。愚問!」

 

「そですね!」

 

 静久の隣で明らかに酔ってる沙月ちゃんが顔を赤くしながら言う。紬は紬で何か安心したような表情で希亜の胸を見てるし、なんだこの状況。

 

「私からも質問があります。希亜ちゃん、新海さんとはどこまで行ってるんですか」

 

「藍、いきなり直球ね……!」

 

 俺が視線を送った希亜も空門姉妹に左右から質問攻めにされてるらしかった。蒼が赤面してるし、あっちはあっちで何の話をしているんだ?

 

 

 

 

 ……その後も、入れ代わり立ち代わり俺たちは質問攻めにあった。

 

 こうなることは予測できてきたけど、住んでる街や学校、趣味について色々突っ込んだ質問をされたので、それこそボロが出ないように必死だった。

 

 俺の趣味のガンプラも、希亜が好きなナイトブレイダーも、春風先輩が好きなコードゲッシュも、まだこの時代じゃ存在しないものばかりだしなぁ……。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 ……そんな歓迎会をなんとか乗り切り、帰宅。

 

 昨日と同じ時間。夜10時に俺たちは九條の部屋に集まった。

 

「……この島の夏を満喫してるみたいね」

 

 そんな俺たちの中心には、ソフィーの姿があった。半分呆れているような、羨ましがっているような声色だったが、無表情のぬいぐるみから感情は読み取れなかった。

 

「サツキはすっかり出来上がってるみたいだけど、他の皆は何か進展があったのかしら」

 

 結構な量の酒を飲んだらしい沙月ちゃんは、帰宅と同時に布団を敷いて、既に夢の中だ。

 

「ああ、それなんだけど……」

 

 そんな沙月ちゃんには追々話すとして、俺と希亜は昼間にため池で目撃した情報をソフィーを含めた皆に話して聞かせた。

 

 

 

 

「……れいだん?」

 

 話を聞き終わったソフィーが、開口一番に言う。

 

「わからないけど、そう言っていたんだ。もしかして、希亜みたいに力を使うのに段階を踏む必要があるのかもしれない」

 

「その線、あり得るわね。強力ゆえに、一種の起動キーが必要なアーティファクトも存在するもの」

 

「それで、その『れいだん』の効果は?」

 

「わからないんだ。俺たちが見てた限り、何かが起こってる感じはしなかった」

 

「ふぅん。つまり、攻撃系のアーティファクトだけど、まだ使いこなせていないと」

 

「その可能性もある。どうも、しろはさんは一人で行動することが多いらしいしさ。こっそり練習しているのかも」

 

「……あ。そういえば、海水浴の時も歓迎会の時も。しろはさんは居なかった気がするね」

 

 九條が口元に手を当てながら言う。俺も疑いたくはないけど、しろはさんには疑わしい要素が全て揃ってしまっている。

 

「なるほど。スティグマは確認できたのかしら?」

 

「いや、わからなかった。少なくとも、顔や手足には出ていなかったと思うけど」

 

「じゃあさ、あたしみたいに背中とか? 結城先輩みたいに瞳に出てて、遠くて見えなかったとか」

 

「その可能性も捨て切れないが……」

 

 天が自分の背中を指し示した後、自身の左目を指差す。アーティファクト使用中には必ず体のどこかにスティグマが浮かび上がるから、それを視認できれば一発なんだけど。人によって位置がバラバラだから、本当に厄介だ。

 

「……わかったわ。そこまで気になるのなら、私の方でもそのシロハって子について調べてあげる。一日だけ、時間をちょうだい」

 

「わかった。ソフィー、頼んだぞ」

 

「他の子がユーザーだって可能性も残っているから、少しでも気になることがあったらまた報告すること。いいわね」

 

「心得た」

 

「うっす!」

 

 俺たちの返事を聞くが早いか、「それじゃあね」という言葉を残し、いつものように無駄にかっこいいエフェクトでソフィーは自分の世界へと帰っていった。

 

 その時空の渦が収まると一気に音が消え、沙月ちゃんの寝息だけが一定の間隔で聞こえるだけになった。

 

「そんじゃ、俺たちもそろそろ寝るか……」

 

 ソフィーがいなくなった以上、九條たちの部屋に居座る理由もない。俺がそう言葉をかけると、他の皆も賛同し、各々が挨拶をしてから部屋を後にした。

 

 

 

 

 高峰と一緒に部屋に戻ると、鷹原が俺たちの分の布団を敷いてくれていた。

 

「今日のミーティングは終わったのか? 早かったな」

 

「ああ、今日はそこまで話し合うこともなかったしな」

 

 俺はそう答えながら、ダミーとして持っていたノートを鞄にしまう。

 

 というのも、毎晩九條の部屋に集まるのを不審に思われないよう、『夏休みの課題で、島の暮らしと文化に関するレポートを作成している』と、俺たちは口裏を合わせていた。

 

 正直、鷹原に嘘をつくのは心が痛むし、もし部屋を覗かれても会話の中心にいるソフィーの姿はアーティファクトユーザー以外には見えないんだが、念には念を入れておこうという、皆との取り決めだ。

 

「今日食堂で出された料理とか、良い資料になるんじゃないか? 写真、撮っとけば良かったな」

 

 そう言う鷹原が取り出したのは、インスタントカメラだった。随分久しぶりに見たと思いながら、歓迎会の最中に天がスマホで写真を撮ろうとしたのを慌てて止めたのを思い出した。天も油断していたのかもしれないが、慣習って怖い。

 

「そ、そうだな。まぁ、後でなんとでもなるよ」

 

 俺はそう言ってはぐらかし、敷いてもらったばかりの布団へともぐりこんだ。

 

 ……鳥白島二日目の夜。島のユーザー探しは多少の進展があったと思いたい。

 

 

 

 

第四話・完




第四話・あとがき

こんにちは。トミーです。

 島の滞在二日目。今回から本格的にサマポケメンバーとの交流が始まりました。翔くんも島のユーザー探しを始めるつもりが、速攻で浜辺に連行されてしまいましたね。
ビーチバレーに海の家、最後は歓迎会と、これでもかと詰め込ませてもらい、どの場面もどれも書いてて楽しかったです。

 ちなみに、空門姉妹とレナは声優さんが同じなので、ビーチバレーの時に少しネタにしてみました。他にも、作中にサマポケの要素、9-nine-の要素とバランスよく取り入れているつもりですが、いかがだったでしょうか。

 また、本来は共同浴場の話も盛り込もうと思っていたのですが、さすがに長くなりすぎたので次回以降に飛ばします。こちらも楽しみにされていてください。

 そして忘れてはいけないことが一つ。果たして、しろはは島のユーザーなんでしょうか?それとも、濡れ衣なのか……?

 ……というところで、次回に続きます。最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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