真夏のクロスオーバーロード!   作:トミー@サマポケ

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第五話 その①

 

「第三の体操! 一秒間! 真剣な目!」

 

「星屑ロンリネンス……!」

 

 ……翌日。俺たちは神社のラジオ体操に参加していた。

 

「ねぇ翔、これってあの野球漫画だよね?」

 

「確かそうだな……それこそ、おとんとか、おかんの時代のやつだと思うが」

 

 ぶっちゃけ、かなり変なラジオ体操だった。掛け声ばかりで、ラジオ全く使ってないし。

 

「こらそこ! 鳴瀬家の親戚たち! 私語は慎め! ラジオ体操舐めんな!」

 

「す、すみません!」

 

 懐かしいネタを披露され、思わず希亜と喋ったところをラジオ体操大好きさんに注意されてしまった。こえぇ……。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 ……ラジオ体操を終えた俺たちは、朝食の買い出し当番を決める。

 

 じゃんけんの結果、俺と希亜、そして天の三人が代表して港の商店に向かうことになった。

 

 神社からだと港までかなりの距離があるが、朝の散歩だと思って頑張って歩こう。

 

「いらっしゃい。今日も来たのか」

 

 やがて商店に到着すると、店番のおじさんが笑顔で出迎えてくれた。俺たちを意識したのか、昨日より品数が増えている気がする。

 

「じゃああたし、このツナサンド!」

 

「私はこのクリームパンにしようかな」

 

 選び放題ということもあって、皆のテンションは妙に高かった。

 

 コンビニに比べたら遥かに品数は少ないはずなのに、不思議なもんだ。

 

「……あれ?」

 

 他の皆のパンを適当に選んでいると、店の壁に『お米券・交換します』の文字を見つけた。

 

 そういえば昨日、沙月ちゃんからお米券をもらってたな。

 

「あの、これなんですが」

 

 俺は代金を支払うついでに、同じ財布に入れておいたお米券を取り出して交換を申し出る。

 

「ああ、もちろん交換できるよ。何枚交換するんだい?」

 

 そう聞いてきたおじさんに、俺は迷わず、持っていたお米券全てを手渡した。

 

 鷹原いわく、駄菓子屋でも交換できるらしいが、こういうのは早めに交換してしまうに限る。

 

 

 

 ……そして店を出た後、俺は自身の考えが浅はかだったことを思い知る。

 

「お、重てぇ……」

 

 俺の手元には、現在おこめ券30枚分、約30kgのお米があった。渡した枚数、ちゃんと確認しておけばよかった。

 

 おじさんが「兄ちゃん、男見せるねぇ。頑張れよ」と言った意味も、今ならわかる気がした。

 

 よく考えたら、俺たち全員分のお米だ。少ないはずがないよな。

 

「翔、大丈夫? 少し持とうか?」

 

 隣を歩く希亜が心配そうな顔で言ってくれるけど、さすがに希亜に持たせるわけにはいかない。

 

「なぁ天、お前の能力で米袋の存在感無くして、重さを感じないようにしてくれないか?」

 

「はー、ツナサンドうめぇぇ」

 

「話聞けよ」

 

 希亜と違って、愚妹は兄が苦しむのもおかまいなしにツナサンドに舌鼓を打っていた。こいつめ……!

 

「あたしに頼らず、ご自分の力でどうにかしたらいかがですか、お兄様」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべながら言う。天の言う通り、存在感を消すアーティファクトは俺も使えるが、これって自分に使っても効果薄いんだよな。

 

 精神的にも疲れるし、間接的に天にも手伝わせようと思ったんだけど。

 

「だ、駄目だ」

 

 しばらくは気合いで歩いたが、すぐに力尽きた。このままだと腰をやられてしまう。

 

 米袋を一旦地面に下ろし、俺はスマホを手にする。高峰に連絡して、加勢に来てもらおう。

 

 そう考えるも、すぐにその手が止まる。

 

 この時代はスマホを使えないんだった。習慣って怖い。

 

「えーっと……」

 

 俺はスマホをしまい、改めて周囲を見渡す。すると少し先に、大きなガラスの箱に入った緑色の電話が見えた。

 

 おお、あれは伝説の公衆電話じゃないか。

 

「よし、あれで助っ人を呼ぼう」

 

「にぃに、公衆電話使ったことあんの?」

 

「……ないけど、まぁなんとかなんだろ」

 

 そんな話をしながら三人で電話ボックスに駆け寄り、その扉を開ける。何ともいえない、淀んだ空気が顔に当たる。

 

「これが公衆電話……本当にお金を入れるんだね」

 

「テレホンカード使えます……だって。よくわかんないけど、カード決済できるのかな?」

 

 狭い電話ボックスの中に、希亜と天も一緒に入ってくる。いい匂いがするが、ぎゅうぎゅうで動けない。

 

「えーっと、加藤家の電話番号、誰かスマホに入れてるか?」

 

 財布から小銭を引っ張り出しながら、背後の二人にそう聞いてみる。答えはどちらもノーだった。

 

 しまった。電話があっても、番号が分からない。

 

「ねえ翔。この本で調べてみたら?」

 

 俺が固まっていると、電話が置かれた台の下から、希亜が分厚い本を引っ張り出す。

 

「なんだそれ?」

 

「電話帳。昔、おばあちゃんの家に同じような本があった。きっと、島の皆の電話番号が載ってる」

 

 希亜が埃を払いながら持ち上げたそれは、日に焼けてボロボロだったけど、かろうじて『ダウンページ』と文字が読み取れた。

 

 そういえば、ずっと昔はお金を払って、この本に電話番号を載せてもらっていたと聞いた覚えがある。

 

 プライバシーの欠片もないし、俺たちの時代じゃ考えられない話だ。

 

「えっと、加藤、加藤……」

 

 ぱらぱらと、希亜が電話帳をめくる。ちらりと見えたページには、まるで辞書のように五十音順で家主の名前と電話番号が列挙されていた。

 

「……あった。たぶんこれだよ」

 

 やがて、ページをめくる手が止まり、その細い指が一点を指し示す。

 

 加藤の名字は島に一軒しかなく、この番号で間違いないだろう。

 

「よし、かけるぞ」

 

 俺は奮発し、百円玉を投入口に入れる。直後、ことん、という音がした。

 

「あれ? にぃに、お金返ってきたよ?」

 

「なに?」

 

 天に言われて、おつりの返却口を見る。入れた百円玉が戻ってきていた。

 

「うまく認識されなかったのかな」

 

 自販機でもたまに似たようなことあるし……と考えつつ、財布から別の百円玉を取り出して入れてみるも、結果は同じだった。

 

「あれぇぇ……?」

 

「赤いランプがついてるし、もしかして壊れてるのかな」

 

 俺が首を傾げる中、希亜がそんなことを口にする。

 

 それすらわからない。どうなんだろう。

 

「よし、こうなったら公衆電話の使い方をスマホで調べよう!」

 

「馬鹿、そのスマホが使えないから、こうして公衆電話を使おうとしてるんだろがっ」

 

「のぉーーーーう!」

 

 意気揚々と取り出したスマホを掲げたまま、天が嘆いていた。まったく、役に立たない妹め。

 

「……兄ちゃんたち、さっきから何を騒いどるんかね?」

 

 その時、ガラスを叩く音とともにそんな声が聞こえた。

 

 どうやら狭い場所に三人も入っていたせいでドアが閉め切れず、声が漏れていたらしい。

 

「あ、すみません。すぐにどきますんで」

 

 謝りながら、一旦電話ボックスの外に出る。そこに立っていたのは、駄菓子屋のおばーちゃんだった。

 

「別に用事はないからええよ。兄ちゃんたちこそ、電話かけたいんじゃろ?」

 

 おばーちゃんは電話ボックスを指差しながら言う。どうやら一部始終を見ていたらしい。

 

「そ、そうなんです。恥ずかしながら、使い方がわからなくて……」

 

「ほっほっほ、今時の子は公衆電話の使い方も知らないとは。どれ、手本を見せてあげようかね」

 

 正直にそう伝えると、おばーちゃんは得意顔で電話ボックスへ向かっていく。ガラス越しに見ていると、彼女は受話器を持ち上げてからお金を入れた。

 

 あ、先に持ち上げないといけなかったのか。てっきり、お金を入れないと外れないものかと思っていた。

 

「……以上で公衆電話の使い方講座は終了さ。それじゃ、頑張るんだよ」

 

「ありがとうございます。助かりました」

 

 一通り手順を教えてくれたあと、おばーちゃんは去っていった。

 

 その背を見送ってから、俺たちは再度公衆電話へ向き直る。

 

「よし……再チャレンジだ」

 

 先に受話器を外して、お金を入れて、番号を入力。たったこれだけのことなのに、やけに緊張した。

 

「はい、九條です……じゃなかった。加藤です」

 

 ビー、という聞き慣れない音に続いて、九條の声が聞こえた。

 

「九條、お願いがあるんだけどさ」

 

「え、誰? 新海くん?」

 

 直後、戸惑いの声が聞こえた。

 

 そうか。スマホなら出る前に相手がわかるけど、家の電話だとわからないんだった。

 

「そ、そう。新海翔だよ。それで、頼みがあるんだけどさ……」

 

 俺は時代の差を感じつつ、手短に要件を伝え、電話を切った。

 

 百円でどれだけの時間会話ができるのかわからなかったが、おつりは出てこなかった。

 




第四話 その①・あとがき



 皆様、本当にお久しぶりです。トミーです。


 9-nine-アニメ化決定ということで、久しぶりに更新してみました(と言っても、長すぎるので分割していますが)。


 島の滞在三日目。朝のラジオ体操からの、朝食の買い出しですね。
 今回はサマポケメンバーとの交流はほぼ皆無でしたが、公衆電話の使い方講座がメインとなりました。翔たちはスマホ世代ですし、公衆電話なんて使ったことなさそうだなぁ……と思いつつ書いてみました。

 テレホンカードをカード決済と言ってみたり、時代の差を感じてもらえると嬉しいです。

 ということで、次回に続きます。最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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