ドラゴンソルジャー   作:やまもとやま

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1、ドラゴンソルジャー

 ケントは上空を翔けぬけていくドラゴンを見つめていた。ドラゴンが空の果てへと消えてなくなっても、ケントはしばらくその一点を見つめていた。

 

「おい、ケント。何をさぼってやがる。暗くなる前にさっさと終わらせちまいな」

「あ、はい、すみません」

 

 主にせっつかれ、ケントは地面に置かれていた野菜の入ったかごを手に取った。

 

 農場の仕事を終えると、ケントはそのことを報告するために主のもとに向かった。

 ここ一帯の農場を経営する主は牧椅子に腰かけて、地平線の先まで広がる農場を見つめていた。趣味のキセルをくわえると、それに火をつけた。

 

「マスター、仕事終わりました。倉庫の戸締りも大丈夫です」

「おう」

 

 主は素っ気なく言った。

 ケントは一礼するときびすを返した。

 

「ケント、ちょっと待って」

「はい」

「まあ、そこに腰かけな」

 

 主はそう言って、自分と同じ椅子を指さした。

 

「失礼します」

 

 ケントは一礼してから遠慮深く椅子に腰かけた。

 

「どうだ、仕事には慣れたか?」

「ええ、もうここに来て一か月ですから」

「そうか」

 

 主はゆらゆらと上がる煙を追いかけるように目線を上げ、上空に留めた。

 空には星空が広がっていた。赤く光る星、青く光る星などさまざまな星があった。ケントもそうした星空を見上げた。

 

「このいずれかにお前の故郷があるんだろう?」

「わかりません」

 

 ケントはそう言いながら、青く輝く1つの星に目をつけた。ちょうど、自分の故郷が放つ輝きと同じ色だった。

 

「なんと言ったか、お前の住んでいた故郷?」

「日本です。もしかしたら地球と言ったほうがいいのかもしれませんが」

「そうだ、地球だ。おれも空き時間に調べてみた。たしか、アースとも言うのだったな?」

「はい」

「考古学者の知人がいくつか伝説を話してくれた。アースにまつわる話をいくつかな」

「本当ですか?」

 

 ケントは目を見開いた。

 

「はるかに遠き地。到達するには竜神の力が必要とか何とか。まあ、しょせんは伝説に過ぎないという話だったがな」

「竜神……」

「グルグ竜王国により詳細な記録があるそうだ。もしかしたら、たどり着く方法もそこにあるかもしれないな」

「グルグ竜王国……」

 

 ケントはうつむいて、地面を這う一匹のトカゲを見つめた。それはにょろにょろと動くと、シッポから小さな火を上げた。

 

 この世界にはドラゴンがいる。

 ケントがこの世界に来たとき、初めて見たドラゴンの迫力を今でも覚えている。

 

 ケントは岡山の田舎の中学校に通う中学生だった。

 学校では幾人かの生徒からいじめられ、それが理由でほとんど学校には行かなくなっていた。

 

 ケントは近くの森に分け入って、そこで一人時間を潰していた。

 家族ともうまくいっておらず、実家にも自分の居場所はなかった。

 

 ケントは誰もいない場所でただ時が過ぎるのを待っていた。

 そんなある日、ケントは異常気象に遭った。

 突然の大雨と雷。ケントは慌てて森を抜けようとしたが、空から降り注いだ雷が彼を覆いつくした。

 

 気が付くと、ケントはこの地にいた。

 ケントは主に倒れているところを発見され、その縁で主の経営する農場で働くようになった。

 

 農場で働く傍ら、この地について学んできた。

 

 この世界は「クレイドラ」と呼ばれること。

 使用されている言語は極めて英語に酷似していること。

 17の竜王国が世界を治めていること。

 

 そして、ドラゴンが存在することを知った。

 

 ケントは農場での仕事の途中、幾度となく空を飛翔するドラゴンを目撃した。

 ドラゴンにはライダーが乗っており、ケントはそれをいつもうらやましく見ていた。

 

 この世界には、ドラゴンライダーという職業があり、その中でも選ばれしライダーは「ドラゴンソルジャー」となり、戦争を戦う。

 ドラゴンを操るためには、特別な才能と訓練がいる。

 

 ドラゴンは極めてプライドの高い生き物で、自分が認めない人間を乗せることはない。認めない人間が近づこうものなら、炎で攻撃し、鋭い牙で噛み殺してしまう。

 第一にドラゴンに認められなければならなかった。

 ドラゴンに認められた後も、ドラゴンと空を飛ぶためには訓練が欠かせなかった。

 

 ケントはドラゴンを見たときから、ドラゴンと飛びたいという思いを持つようになった。

 この世界に来て1か月。まだその夢は叶っていないが、少し前にケントは主に自分の夢を伝えたことがあった。

 

「ドラゴンに乗りたいだと?」

「はい。それはできないことなのでしょうか?」

 

 ケントは上目遣いに期待の目を主に向けた。

 主は応える代わりに相棒のキセルを口にくわえた。

 

「ドラゴンライダー。男なら誰しもが夢見ることだ。いや、男の特権というわけでもないか」

 

 主はケントのほうをジッと見つめた。

 

「おれもライダーを志した」

「マスターも?」

 

 主はシャツをめくり、腕の傷口をケントに見せた。

 

「ケント、この傷がどうしてできたかわかるか?」

 

 ケントは首を横に振った。

 

「ドラゴンが羽ばたいたんだ」

「羽ばたいた?」

「突風にあおられ、えぐられた」

 

 主が見せた傷は非常に深いものだった。今でもその爪痕ははっきりとしていた。

 

「怖い者知らずというなら、近々いいところに連れてってやる。それまでは働け」

 

 主の言葉に、ケントはうなずいた。

 

 それからしばらく、主はそのときのことと今回の話をつなげるように言った。

 

「ケント、明日ドラゴンファームに連れてってやる。もしかしたら、それが故郷に戻る最初の一歩になるかもしれねえ」

 

 主はそう言って煙を吐き出した。

 

「ドラゴンに会えるのですか?」

「そうだ」

「ありがとうございます」

 

 ケントは嬉しそうな表情を浮かべて、それから大きく頭を下げた。

 

「礼を言う話じゃねえ。場合によってはドラゴンの胃袋に収まることになるのかもしれねえんだからな」

「本望です」

「ドラゴンがお前を認めるかはお前次第だ」

 

 ケントは口元を緩めて空を見上げた。

 

 かつて見た空を翔けるドラゴン、大地に立つケントにはそれは遠い存在だった。

 しかしもしかしたら、大地を遠く離れ、大空に飛び立てるかもしれない。

 その可能性があるなら、ケントはドラゴンに食べられてしまってもいいと考えた。

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