ドラゴンソルジャー   作:やまもとやま

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10、レッツ・フライング

 ケントはラバールの教えを受けた。

 

「いいか。ドラゴンにまたがる姿勢はこうだ。常にどの方角にも力を発揮できるように、構えるんだ」

 

 まずは地上での授業。ケントは相棒のブラックハープロンにまたがり、飛行中の正しいフォームを身に着けた。

 

「最適なフォームには個人差もある。最も飛びやすい姿勢を自分で見つけるんだ。飛行中は360度に意識を向けなければならない。ソルジャーにとって目は命。常に周囲に意識を向けるんだ」

 

 地上での訓練を1時間ほど受けた後、ケントは本格的な飛行訓練に参加することになった。

 

「まずは基本的な水平飛行に慣れることから始めよう。飛行感覚は実践することでしか身に付かないからな。では、私の後をついてくるんだ」

 

 ラバールも相棒のドラゴンにまたがった。

 ラバールの相棒はケントと同じブラックハープロンであるが、その中でも「キング・ブラックハープロン」と呼ばれる上位のドラゴンだった。

 キングの称号はドラゴンの大きさだけで決まる。平均的なブラックハープロンより大きい個体をキングの称号と共に分類している。

 

 ドラゴンは大きければいいというものではない。

 竜神の称号を持つグルグも通常のブラックハープロンと同等程度の大きさだった。

 ドラゴンは大きくなるほど、運動性能が低下すると言われているから、キングだから通常の個体より優れているというわけではない。

 

 しかし、大きなドラゴンは翼も大きいため、飛行速度は高くなるし、戦いになったときには、ドラゴンのファイアーブレスが重宝する。ファイアーブレスの威力もまた大きいドラゴンのほうが強い。

 

 一般的に、小回りが求められる空戦では、小さなドラゴンが用いられ、敵の要塞を攻撃する際には、大きなドラゴンが用いられる。

 

 ラバールの相棒は巨大な翼を広げると、ゆっくりと空に昇って行った。大きいドラゴンほど加速に時間がかかる。

 

「よし、僕たちも行くぞ」

 

 ケントはラバールのドラゴンが上空に達したのを確認すると、相棒に語り掛けた。

 ケントの相棒はケントを主として信頼しており、ケントの命令には必ず従ってくれた。

 ドラゴンは良くも悪くも賢い。主を軽んじている場合、ドラゴンは主の命令に反する。場合によっては主をかみ殺してしまうこともある。

 ソルジャーに求められる必須能力の1つが、ドラゴンに愛される風格だった。

 

 ドラゴンが主の何を評価するかは、個々のドラゴンの好みにゆだねられるが、ドラゴン学者らの研究である法則がわかっている。

 

 強い意志、ドラゴンへの愛がドラゴンに愛されるための条件。

 

 ドラゴンには人の心を可視化する力があるとされ、弱き心の持ち主や愛の欠落した心を見抜くという。

 うわべだけ取り繕っても、ドラゴンはすべて見抜いてしまった。

 

 ブラックハープロンがケントを主として認めた背景には、ケントの強い意志があったのかもしれない。

 

 ケントのどこに強い意志力があるのか、それはケント自身もよくわかっていなかった。

 

 ケントが他の人と比べて特殊だと言える点は孤独であることだ。

 ケントは幼少期からずっと孤独感と共に生きて来た。常に一人で多くの時を過ごしてきた。

 自分の居場所ではない場所の中、ケントは孤独と戦い続けて来た。

 

 そうしてケントの強い意志は培われたのかもしれない。

 ケントは相棒にまたがり、そのにおいを感じると、ある悟りが生まれた。ここが自分の居場所で、そして墓場でもあるということ。

 ケントはもとの世界に戻る必要性を感じていなかった。ドラゴンと共にあるこの場所が自分の居場所だと思った。そして、ドラゴンと共に死ぬなら本望だった。空の上が自分の墓場だった。

 

 ブラックハープロンは翼をはためかせると、ラバールを追いかけるように上昇していった。

 

 ◇◇◇

 

 ケントはすでに水平飛行の感覚を身に着けていた。

 ラバールの後に続いて飛ぶこと10分。ケントは片手を離すことができるほどに余裕を持つことができるようになった。

 ドラゴンの高度にも慣れた。

 はるかな地上を見下ろしても、強振を覚えることはなくなった。むしろ、ドラゴンと共に空にあるときのほうが心が落ち着くほどだった。

 

 水平飛行は難しいことではない。

 吹き付けてくる風にさえ気を付けていれば、体にブレが生じないので、よほどのことがない限り、落下することはない。

 

 一般的に飛行は以下の順番で難しくなる。

 

 1、水平飛行

 2、上昇飛行

 3、左右への旋回飛行

 4、降下飛行

 

 高度を上げるために上空に昇る飛行は体の軸がぶれるうえ、ドラゴンも水平飛行に比べて多く翼をはためかせる。翼が動くと、ソルジャーの体は色んな方向に揺さぶられるため、落下の危険性が高まる。

 しかし、下から上に移動する飛行は体が浮き上がらないので、まだ安定する。

 左右の旋回は、明確に体が左右にぶれるので、難しい。特に急激な旋回運動になると、体が大きく旋回方向にもっていかれるため、バランスを崩しやすい。

 ソルジャーは落下さえしなければいいわけではない。周囲の状況を把握しなければならない。

 旋回中は方角も見失いやすい。素人などは、すぐに迷子になってしまう。ケントも初飛行の時は迷子になってしまった。

 

 ここが宇宙空間ならば、二度ともとの場所には戻れなかったことだろう。

 しかし、クレイドラには大陸がまったく目に入らない雄大な空も存在する。そうした場所で方角を見失ったら、二度と地上へは戻れない。

 

 そして、最高難易度になるのが降下飛行だ。

 降下飛行は上から下に移動する飛行なので、マイナスの重力と浮力を極端に受ける。強い力でドラゴンにしがみつかなければ、その力に体が浮き上がって、ドラゴンから引き離されてしまう。

 しかも、降下中は平衡感覚も失われ、最も方角を見失いやすい。

 

 いま、ケントは最も易しい水平飛行をするランクにいるが、すでにこのランクは完全クリアと言ってよかった。

 ラバールは時折、ケントの隣について、ケントの飛行技術を確認した。

 

「うむ、水平飛行はもう完ぺきか。呑み込みが早い。ケントは優秀なソルジャーになれるかもしれないな」

 

 ラバールはケントの才能を高く評価した。

 カーノルフタンはアロマローズ龍王国の中でも末端の田舎。そんな田舎では、あまり有望な人材も入って来ないが、ケントは久しく見る金の卵だった。

 

「何よりドラゴンとの一体感。ベテランにならないと出て来ない一体感をすでに身に着けている」

 

 ラバールは飛行においては、その技術よりドラゴンとの絆が一番大切だと考えていた。ケントとドラゴンとの絆も目を見張るものがあった。

 

 しばらく水平飛行をしたところで、ラバールはUターンをした。Uターンは旋回飛行のことである。

 ラバールはケントがすでに旋回飛行の感覚を身に着けていることを想定して、旋回時間の小さい急旋回でターンした。

 旋回は急激であるほど難易度が上がる。

 

 旋回の急激さを測る指標に、旋回時間というものがある。

 これはUターンを完了するまでにかかった時間で決まる。

 ゆっくり大きく旋回する場合は時間がかかる。急激なほど時間がかからない。しかし、急激なほど体のブレが大きくなり難易度が高くなる。

 

 ラバールは強烈なひねりを加えて0コンマ台でUターンしてみせた。

 これは急旋回というよりもハイターンと呼ばれる高等技術で呼ばれる。そのまま、体を反転させるほどの急激な旋回で、これは素人には絶対にできない。

 

 ケントは目の前のラバールがすさまじい急旋回をしたのを見て目を丸くした。

 まるで、くるっと体と回転させるような旋回。時速100キロを超える飛行中に、そのような反転をするのは神がかり的な技術だった。

 飛行中は常に慣性が働いている。急激な旋回は、慣性を大きく変化させるので、体にかかる圧も相当大きくなる。しかし、ラバールにとっては朝飯前のようだった。

 

 ケントもラバールの真似をしてみたが、とてもラバールのような急旋回はできなかった。

 

 しかし、ケントもなかなかのものだった。旋回時間は約3秒。

 

 平均的なプロのドラゴンソルジャーの急旋回における旋回時間が、1コンマ8秒と言われている。素人だと10秒以上かかるものである。

 しかし、ケントは約3秒で旋回してみせた。しかも、ケントは旋回中一度も体のバランスを崩さなかった。

 

「ブラボー、1か月後には立派なソルジャーだ」

 

 ラバールはケントをそのように高く評価した。

 

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