ドラゴンソルジャー   作:やまもとやま

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11、好意

 ドラゴンソルジャーになるための訓練は毎日続いた。

 ケントにとって、ドラゴンとの飛行訓練はそれがどんなに過酷なものだったとしても耐えることができた。

 

 空の上は孤独な世界と言われるが、ケントは一度も孤独を感じることがなかった。地上にいるときよりも、ドラゴンと共に空を飛んでいるときのほうが、つながりを覚えることができた。

 だから、ケントにとって、空の上は最も安らげる世界だった。

 

 訓練が始まって一か月。ケントの飛行技術は大幅に向上した。

 

 旋回飛行も上昇降下飛行も容易にこなせるようになった。

 このころから、ケントは連携的な飛行訓練に参加するようになった。

 ドラゴンソルジャーは孤独な中を飛ぶが、同時に部隊の一員でもある。部隊と連携して飛ぶことができなければソルジャーにはなれない。

 

 第一に、編隊飛行。編隊を組んで部隊としての飛行ができなければならない。

 隣を飛ぶドラゴンと並んでの飛行。そして、手話によるコミュニケーション。

 空の上では、言葉によるコミュニケーションが取れない。飛行中はあらゆる言葉がかき消され、人の耳には届かない。

 

 そこで、手話によってコンタクトを取らなければならない。

 

 右手を上げる。それは飛行形態の変化を示す。人差し指を突き上げると、「速度を変化させよ」という合図になる。さらに、人差し指を曲げ伸ばしする合図でどれぐらい速度を変化させるのかが決まる。12段階に分けられ、12回曲げ伸ばしが行われると最大速度にあげろという意味になる。

 舞台ごとに独自の合図があり、ソルジャーはそれらをすべて暗記しなければならない。また、その合図を見逃さないためには、視力も求められる。

 ケントは一生懸命それらの合図を覚え、また飛行中に確実に伝達できるようにと訓練をした。

 

 こうした訓練の日々の中、出会いもあれば別れもある。

 長く訓練に参加していたコブスキーがファームを離れることになった。残念ながらバッドエンドによる別れだった。

 

 コブスキーはドラゴン郵便の仕事を目指して飛行訓練を頑張っていたが、飛行中に、小石が目を直撃。そのまま左目の視力を大きく劣化させることになってしまった。

 一応、飛行する者には目を防護するゴーグルの装着が義務付けられているが、ゴーグルは飛行中に容易に曇る。曇ったままでは視界が悪いので、何度もゴーグルの曇りを除去しなければならない。

 コブスキーは除去が煩わしくなり、長時間ゴーグルを外して飛行していた。

 

 もともと、石が目に飛び込んでくるという現象は滅多に起こることではない。しかし、低い確率でも起こりうること。コブスキーは悪運により、そのくじを引き当ててしまった。

 

「自業自得だ。誰も恨めない」

 

 コブスキーは大人の態度でそのように言ったが、荷物をまとめてファームから去っていくその姿はどこか物悲しかった。

 

 ほかにも色々な理由でファームを去っていく者がいる。

 厳しい訓練に耐えられなくなった者、降下飛行中に無理して、背中を痛める者。しかし、それらで去っていくことになるのはまだマシなほうだ。

 

 二度と目を覚まさぬ状態で去っていく者もいる。むしろ、それが中心と言えた。

 

 ライダーの死因ナンバーワンは飛行中の落下事故。

 そうして命を失い、遺体が発見されることもなくファームを去る者も少なくなかった。

 

 ケントのチームメイトだった者の中にも落下で命を失った者が出た。それは明日は我が身ということでもあった。

 しかし、ケントはそれでも飛行をやめるつもりはなかった。飛行中に死ぬことになっても本望だと思っていた。

 

 別れは同時に出会いも連れてくる。

 ケントの後に後輩が何人か入ってきた。

 初々しい少年たちばかりだった。しかし、ケントは先輩でありながら、そうした少年たちに頭を下げた。

 ライダーとしては先輩でも、クレイドラで生活する身としては後輩だった。ケントにとって、クレイドラでの暮らしはまだ半年ほどの歴史しかなかった。

 それに、ケントはまだ訓練を受ける身。訓練生には上も下もない。ソルジャーにならなければ、みな下っ端の扱いだった。

 

 色々な出会いがあったが、ケントにとっての最大の出会いはカヨとの出会いだった。

 カヨはこのファームに所属するブリーダーだが、非常に優秀で、まだファームにやってきたばかりだが、ベテランと同じような仕事をこなしていた。

 カヨはケントのドラゴンの面倒を見てくれていた。

 

 ドラゴンは主にふさわしいと考えた者に服従する性質がある。

 ケントのことを主と認めていたが、同時にカヨにもよくなついていた。

 

 ドラゴンブリーダーはドラゴンに乗るわけではないが、ドラゴンと身近に関わる身であるから、ソルジャーと同じくドラゴンに愛される素質が必要だった。

 カヨはその素質が十分に備わっていて、すべてのドラゴンがカヨにはよくなついた。

 

 ケントはドラゴンブリーダーとしてカヨと関わるだけでなく、最近は一人の女性として見る見るようになっていた。

 一目見たときから、カヨには惹かれていた。カヨもまたケントに特別な感情をいだいていた。

 

 ケントは訓練が終わった後は、カヨの仕事の見学の傍ら、カヨと色々な話をするのが日課になっていた。

 

「ケントさんのドラゴン、日に日にたくましくなっているんです。ケントさんと飛べることがとても喜ばしいと感じているのでしょう。ドラゴンは幸せな飛行を続けることでたくましく成長していくんです」

 

 カヨはドラゴンの翼を入念にチェックしながら、その変化を感じ取っていた。

 

「そう言えば、以前よりずっと速く飛べるようになった気がする」

「でもスピードの出し過ぎは厳禁ですよ」

「うん、ラバール隊長から、時速170キロを超えて飛んではいけないと教えられてる。僕の体は弱いから」

 

 ケントは飛行技術こそ卓越したものを持っているが、体つきはまだまだソルジャーには程遠いものだった。

 ラバールと見比べると、その差は歴然。ラバールは筋骨隆々だが、ケントは明らかに体つきが細かった。

 

 いくら技術があっても、筋力がなければ強度の高い飛行には耐えられない。

 例えば、急降下飛行などは、重力の支援もあって、時速300キロを超える飛行になるが、握力と背筋力が高くなければ引き離されてしまう。

 ケントはまだまだ体ができておらず、速度制限を受けながらの飛行だった。

 

「いえ、ケントさんも日に日にたくましくなっておられますよ」

 

 カヨはそう断言した。カヨはよくケントのことを見ていた。

 

「でも、もっとたくましくなっていただけなければ。ケントさんが無事に帰って来られるか、私はいつも心配しているんです」

 

 カヨは同時にそのようにも言った。統計的に見ると、飛行中の事故者は筋力に乏しい者に集中している。

 飛行中に握力を消耗してしまって、風にあおられて転倒というのが非常に多い事故だった。

 そういう意味で、ケントは事故を起こしやすい部類だった。

 

「そうだな。もっと訓練をしなくちゃな。ラバール隊長の筋力トレーニングを毎日受けてるんだけど、まだまだ足りないのかもしれない」

「けれど、無理はしないでくださいね。疲れた状態での飛行が一番危険なのですから」

 

 カヨは心の底からケントのことを心配してくれた。そうしたカヨの優しさにケントは惹かれていた。

 

「ドラゴンの世話は大変なの?」

「そうですね。異変があれば睡眠中でも面倒を見てやる必要がありますから」

 

 そう言いながら、カヨは眠そうな目をこすった。

 

「大変だな。そういえば、ジョンのドラゴンはどうなったの?」

「発炎器官から炎が漏れ出してしまって自然治癒は難しいということで、昨日手術をしたのですが、まだどうなるかは」

 

 ケントのチームメイトであるジョンの相棒のドラゴンはとある病気にさらされていた。

 ドラゴンの病気も数多くあるが、最も多いのが発炎器官の異常。

 ドラゴンは体内に発炎器官を持っており、そこから生み出した炎でファイアーブレスを吐く。それ以外にも、飛行に必要のエネルギーの70%は発炎器官で作られていた。

 発炎器官の異常は、ソルジャーの相棒となるドラゴンの職業病でもある。

 

 ソルジャーと共に飛ぶからこそ、急旋回、急降下、急上昇、宙返りなどの特殊な飛行が要求される。野生のドラゴンはあまりこうした無理な飛行をする機会がない。

 それゆえ、ソルジャーと共に飛ぶドラゴンは野生のものに比べ、発炎器官に負担がかかる。

 翼は飛行訓練中にたくましくなっていくが、発炎器官は生まれつき、天性のものと言われるように、訓練ではなかなか鍛えられるものではない。

 

 それゆえ、多くのドラゴンが発炎器官を痛めることにつながっていた。

 ケントの相棒はまだそうした病気を患っていないが、いつ患ってもおかしくない病だった。

 

 そうした病気に対応するのもドラゴンブリーダーだった。

 

「ケントさんには悪いですが、私はいずれドラゴンソルジャーという職業がなくなる日を望んでいます」

「……」

「そうすれば、誰も無理して飛ぶ必要がなくなるんです。戦う必要もなくなります。そしたら、世界は今よりずっと平和になります」

「そうだな」

 

 ケントはそのとおりだと思った。ドラゴンソルジャーという職業は国家間の争いから生まれた闇の職業だった。

 闇の職業がケントに空の世界を提供していた。

 ケントは自分が闇の存在ということをこのとき少し感じるようになった。

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