ドラゴンソルジャー   作:やまもとやま

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13、グルグのお節介

 ドラケルは女王グルグの護衛のほかに、グルグ竜王国の軍事事情を取りまとめる座についている。

 グルグ竜王国は世界トップの大国であるから、それらの管理は容易なことではない。

 

 ドラケルは伝令としてやってきた者たちの話を順にていねいに聞いて行った。

 

「ドラケル隊長、報告申し上げます。アルマゴート竜王国の攻撃ですが、パリンゲートのキャンビィ都に及んでいます。戦力は拮抗していて、キャンビィを守れるかどうかは五分五分と言ったところです」

「そうか。キャンビィに侵攻してきたか。敵もかなり積極的にパリンゲートを狙ってきているな」

「パリンゲートは貿易の要衝でもありますからね。我々のアキレス腱をよく熟知しています」

「わかった。援軍を検討しよう。キャンビィ防衛に必要な戦力はどれぐらいだ?」

「最低でも70以上。できれば、大型ハープロンを中心にお願いしたいです。敵ドラゴンはスライニモートが中心。タフネスが高く、苦戦しています」

「70か……しんどいな」

 

 ドラケルはグルグ竜王国の戦力図を見ながら苦い顔をした。

 グルグ竜王国は大国である。しかし、要衝を守るために、かなりの戦力を費やしているため、末端の地域にあてがうことができるドラゴンの数は限られていた。

 パリンゲートはグルグ竜王国において、大切な貿易の要衝だが、それでも中心的な大陸に比べれば末端と言えた。そこに70体の追加戦力を送るのは簡単なことではなかった。

 

「援軍は近日送るが、70には届かないかもしれない」

「ありがとうございます。援軍は少なくても、兵士の士気を高めます。よろしくお願いします」

 

 伝令は報告を終えると、駆け足で部屋を後にした。すぐに、戻って戦いに参加しなければならないほどひっ迫している様子がうかがえた。

 

「よし、次」

「はい、グレインゲートより申し上げます」

「アルマゴートの侵攻が激しいと聞いているがどうだ?」

「首尾よく鎮圧が進んでいます。ガベロ族が援軍に来てくれたことが大きいです」

「マンダラ―マか。頼んでもいないが協力してくれたようだな。頭から褒められないが、なるほど頼りになるな」

「ええ、マンダラ―マ女王はグルグ龍王国の防衛に大きな貢献を果たしてくれています」

「援軍は必要か?」

「当然あればあるだけ嬉しいですが、現状の戦力でも十分アルマゴート軍を撤退させられそうです。ただ、アルマゴート軍が援軍を送ってきた場合には必要になるかもしれません」

「わかった。引き続き、戦況を注視してくれ」

 

 ドラケルはグレインゲートを斜線を消した。戦力不足が深刻なだけに、援軍が不要となれば、それはとてもありがたいことだった。

 

「ふう、これでひと段落ついたか」

 

 ドラケルは一応、すべての伝令の話を聞き終わった。さすがのドラケルも疲れたそぶりを見せた。

 

「ドラケル隊長、ご苦労様でした。しばらくお休みください」

「あいにくそういうわけには行かない。グルグ女王から呼び出しを受けている。すぐに向かわないといけない」

「それは大変ですね」

 

 兵士らは同情した。兵士らはグルグ女王から懇意にされているドラケルに嫉妬心を向けることはなかった。

 それぐらい、グルグ女王の相手は疲れることを、兵士ら熟知していた。

 

 ドラケルは疲れた体を叱咤激励して、グルグの部屋に向かった。

 グルグの部屋は城の最上部にあるため、そこに向かうために階段を上るのも大変だった。

 城の上層部には、ドラゴンの離着場があり、ドラゴンから直接向かう場合は楽だが、下層部の部屋で仕事した後は、わざわざドラゴンの用意をするわけにはいかないので、自力で階段を上るほかなかった。

 

 ドラケルは階段を急いで上り、息を乱しながらグルグの部屋に到着した。

 グルグが何を言い出すのか、そのことについても心配しなければならなかったので、ドラケルの顔は自然と憔悴した。

 

「グルグ女王、遅くなりました」

「ようやく来たか、待ってたぞ」

 

 グルグはドラケルの顔を見ると、パッと明るい表情を作った。

 グルグの部屋は立派なつくりをしている。立派なソファーにベッド、すべてが高貴な輝きを放っていた。しかし、それ以上にグルグは輝きを放っていた。

 

「遅くなって申し訳ありませんでした」

「仕事、忙しいのか?」

「アルマゴート軍との戦火は大きくなっていますからね」

「ふむ、ならばちょうどいい」

 

 グルグはドラケルの手を取ると、ドラケルをエスコートしてソファーにやってきえ並んで座った。

 

「ドラケル、私が力を貸そう」

「え?」

「侵略者のアルマゴート軍との戦い、私も参加すると決めた」

「……」

 

 ドラケルは困惑した表情になった。

 

「グルグ女王、おっしゃっている意味がわからないのですが」

「だから私が戦うと言っているのだ。ドラケルがライダーになり、私が飛び戦う」

「……」

 

 ドラケルはさらに困惑した表情を作った。

 グルグは国のことを想って、そう言っているのだろうが、それは正直迷惑行為でしかなかった。

 

 女王が前線に出てくるなんてありえない。女王を守り抜くのが戦争である。その女王が戦地にやってくるなんてありえなかった。

 

 グルグ竜王国には、いずこから「将棋」というゲームが伝わっている。その将棋は自軍の「女王」を守り、相手の「女王」を詰ますことを目的にしている。

 グルグ軍の兵士はみな将棋をそれなりに心得ている。将棋のエッセンスは戦争に通じるということでグルグ軍では、習得が義務化されている。

 その将棋に則ると、女王を戦場に出すなんて非常識だった。女王は囲うものであって、前線に出すものではない。

 

 しかし、グルグは出るという。それが国のためになると思っているのだろう。

 

「私に戦争の心得はない。しかし、グルグの血を継承しているのだ。それなりの戦力になるだろ?」

「グルグ女王、お言葉ですが、何があっても私はグルグ女王を戦地に出向かわせるわけには行きません」

「なぜだ? 私が無能だからか?」

「そうではございません。グルグ女王はグルグ龍王国のすべて。すべての民を犠牲にしてでも守り通さなければならない存在なのです」

「……違うな。それは私の女王の哲学に反している」

 

 グルグはそう言って、強い目をドラケルに向けた。

 

「真の女王は民を守る存在。守られる存在ではない」

 

 グルグは立派なことを言ったつもりだが、ドラケルには迷惑でしかなかった。

 

「グルグ女王、あなたが博愛的な素晴らしい女王様であることはわかりました。しかし、どうかその思いを抑えとどめてください。グルグ女王を危険にさらすわけにはいかないのです」

「だから、それは私の女王の美学に反すると言っているのだ」

「お願いします、グルグ女王。どうか、城にとどまってください。グルグ様をお守りすることは私のすべてなのです」

 

 ドラケルは地面に頭をつけてそう懇願した。

 

 グルグの軍を困らせるお節介はいまに始まったことではない。

 グルグが女王に即位したときもこう言った。

 

「ドラケル、困った民を助ける必要がある。そこで、ゴールドをもっと発掘して配って回ろうと思うんだ」

「金貨を配って回る?」

「そうだ、貧しい者はお金がなくて困っているんだ。だから、ゴールドを増やせば解決するだろ? 巷ではMMTとか言われてるそうだな。MMTで無限にゴールドを増やすんだ」

「……」

 

 その後、グルグは本気でゴールド制定権を改正しようとした。ドラケルはそのときも土下座をして止めた。

 グルグ竜王国のゴールド制定権は物価の計算によって成立したもので、それを廃止して無限にゴールドを造ると、物価が上昇して経済が壊れてしまう。

 グルグは十分な知識がなく、金を増やせば国が良くなると思い暴走気味に政策を作る傾向があった。

 

 良く言えば国想いの立派な女王。悪く言えばバカな女王。それがグルグだった。

 

 今回も、ドラケルは土下座をしてグルグを止めた。

 だが、今回のグルグは土下座するドラケルを不穏な目で見下ろした。

 

「ドラケル」

「はい」

「お前、私のことをバカな女王だと思っているだろう?」

「い、いえ、そのようなことは」

「ごまかさなくてもわかる。お前はいつも私をバカな子供のように扱う。今まで、私を一人の女性として見たことがない」

「そのようなことは決してございません」

「嘘だ!」

 

 グルグは強い言葉でドラケルを押さえつけた。

 ドラケルは黙って頭を地面につけた。

 

 グルグはしばらく表情に怒気を強めていたが、ドラケルを見下ろしているうちに、その表情に哀愁が漂った。

 

「そんなことは私が一番わかっている」

 

 グルグはそう言うと、ドラケルに背中を向けて、窓際まで歩いた。ドラケルは顔を上げた。

 

「私は何もできぬ。城の中で大事にされているだけ。それが苦しいのだ。誰もわかってくれぬが……」

 

 グルグはそう言うと、悲しい表情を窓ガラスに写した。

 

「グルグ様、あなたは本当に素晴らしい女王様であります。私が確信を持って申し上げます」

「嘘だ。本当にそう思っているならそんな言い方はしない。私が女王の身分だからだろ?」

 

 グルグは鋭い横目をドラケルに向けた。

 

「違います」

「ならば自分の言葉で言ってみろ。そんな定型的な誉め言葉ではなく、私のことをどう思っているのか、自分の言葉で」

「愛しています」

「……!」

 

 ドラケルの不意打ちのような一言にグルグは愕然とした。

 

「愛しています。ですから、あなたを危険な目に遭わせるわけにいかないのです。たとえ、グルグの民がすべて犠牲になっても、私はあなたを守るためにあります」

「……」

 

 そう言われると、グルグは何も言えなくなった。それが本当にドラケルの真心だったかは確かめようもないが、その言葉はたしかにグルグの胸に刺さっていた。

 

「ですからどうか、グルグ様は城にいてください。心配には及びません。グルグ軍は負けません。グルグ女王がいる限り、我々は無敵です」

 

 ドラケルはそう言うと、立ち上がって、グルグに礼をした。

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