ドラゴンソルジャー   作:やまもとやま

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18、アロマローズ王室

 夕暮れ時になって、ケントを乗せたドラゴンはアロマローズ王室に到着した。

 ケントの眼前に巨大な岩の塊がそびえ立っていた。

 

 見上げると、超巨大な大陸を臨むことができた。

 

 王室区はアロマローズ王国の中で最大の大陸となっている。

 大陸の底の岩壁は最長10000mにも達する。

 ちょうど、オーストラリアと同じぐらいの大きさであることがわかっている。

 

 いくつかの大陸がひしめくこの世界では、オーストラリアと同等の面積を持つ大陸はかなり巨大な部類に入る。

 大陸棚には穴がいくつか穿たれていて、そこをドラゴンが出入りしていた。

 アロマローズ王室は大陸棚にもドラゴンファームが設置されていた。

 

 ケントらが大陸に近づくと、警備のドラゴンが飛んできた。

 ケントを誘導しているラバールが証明書を見せると、警備のドラゴンがラバールの前に出た。ラバールはその警備のものについていった。

 

 大陸棚を一気に翔け上がり、やがて王室区の大陸の上空に出た。

 一面、青々とした大地が広がっていた。王室区の大半は森林で占められている。警戒心の強いアロマローズは王室を守るために、森林を利用していた。

 これらの森林には空の上からは見えないドラゴンファームがいくつもあり、かなり厳しい監視体制が敷かれている。

 

 警備の者はケントらをとあるファームに案内した。

 森林を抜けたところ、石垣の長城があり、その途中にファームがあった。

 その長城は万里の長城のように果てしなく長く続いていた。これも侵略者を止めるためのものであり、この長城にも4つのファームがあった。

 

 ケントは長城の途中にあったファームに降り立つと、あたりを見渡した。

 地平線の先まで、長城は続いていて、その上空には警備のドラゴンがたくさん飛んでいた。

 カーノルフタンでは見慣れない光景だった。カラスの群れのように、ドラゴンが空にひしめいていた。

 

「ケント、こっちだ」

 

 ラバールが呼んだので、ケントはラバールのもとに向かった。

 

「ご苦労だったな、諸君。ゆっくり休んでいくがよい」

 

 警備の男がラバールとケントを休憩室に案内した。

 ファームには、非常に多くの警備の者がいた。彼らはみなドラゴンソルジャーであり、交代制で、昼夜問わず、あたりを監視している。

 夜勤組はいま休憩室で仮眠を取っており、日勤組はいままさに職務に当たっていた。

 

 休憩室の設備はカーノルフタンより整っていた。休憩室には、休憩中のソルジャーらが談笑して過ごしていた。

 

「それにしてもすごい数のソルジャーだな」

 

 ラバールが休憩室の広さと賑やかさに目をやりながら言った。

 

「これでも、今年はここ50年で最もソルジャーの数が少ない。去年、28人が離職して、いまは人手不足だよ」

 

 警備の者が答えた。これだけのソルジャーがいても、人手不足だという。

 

「ではケントはここに配属されるのか?」

 

 ラバールが尋ねた。

 

「さあな。ここよりも前線部隊のほうが人手不足だからな。まあ、若手が前線に出されるかはわからんが」

 

 警備の者はそう言うと、ケントのほうを見た。

 

「まあ、坊ちゃんみてえな若手だと、まずは大事に後衛で鍛えてもらえるよ。前線に出るのはベテランの仕事だからな」

「前衛ということは、アルマゴートとの戦争ですか?」

「ああ、かなり侵攻が激化している。ワルスタンのほうもけっこう被害が出てるらしいよ」

「ワルスタン。北方の第二都市までも?」

「ああ、まあ都市部のほうは大丈夫だと思うが、高山地帯のあたりはひどく攻撃を受けたらしいよ」

 

 警備の者はていねいに戦争の状況を説明したが、ケントにはいまいちピンとこなかった。

 まだアロマローズ竜王国の地理には詳しくない。ケントはもらった地図で「ワルスタン」の場所を探したが、なかなか見つけることができなかった。

 

「ここだよ、ここ」

 

 警備の者が地図のある場所を指さしてくれた。ワルスタンはカーノルフタンよりさらに北側にある小さな陸地だった。小さいと言っても、カーノルフタンの6倍の面積があった。

 

「ワルスタンは寒いから、誰も行きたがらない。けど、そこでの任務は賃金が25%増しになるから、金欠病のソルジャーで志願するやつもたまにいる」

「なるほど」

「しかし、寒いわ、アルマゴートは攻めてきてるわ。おれはごめん被るな。つうても、アロマローズ女王の命令があれば、行くしかなくなるんだけどな」

 

 警備の男は見たところ30代前半。もう5年も勤務すると引退するような歳になっていた。

 ソルジャーの世界は過酷だから、30歳にもなると、すでに引退時だった。

 

 ひとまず、ケントとラバールは休憩室の椅子に腰かけた。

 

「ドリンクだぜ。色々あるから好きなの選べ。飲み放題だ」

 

 警備の男がドリンクのメニュー表を持ってきた。

 

「メイドに注文すれば持ってきてくれるよ。おれは人事のほうに話を通してくるから、ゆっくりしとってくれ」

 

 警備の者はそう言うと、ゆっくり歩いて事務室のほうに出て行った。

 

「さて、では何かいただこうか。ケントは何にする?」

「うーん……」

 

 ウエストベルト・オンザロック。

 カルベス・ウォン・ゴンザレス。

 ローハーディ・プランタ・エヴェーラ。

 

 表記だけでは何ともわからないものがずらりと並んでいた。

 ケントは見知らぬ何かを注文した。

 

「カルベス・ウォン・ゴンザレスというやつでお願いします」

「ゴンザレスか。ケントは意外に通だな」

 

 ラバールがそう言ったので、ケントは少し不安になった。

 注文した品はメイドの女性がすぐに戻ってきた。

 

「お待たせしました。ウエストベルト・オンザロックをご注文の方は?」

「私だ」

 

 ラバールは手をあげて、ウエストベルト・オンザロックを受け取った。

 

「それでは、こちらカルベス・ウォン・ゴンザレスです。砂糖はいくつお入れになりますか?」

「えっと、1つかな?」

「かしこまりました」

 

 メイドは角砂糖を1つ落として、真っ黒な飲み物をケントに渡した。

 ケントは一口カルベス・ウォン・ゴンザレスを飲んだ。炭そのままの苦さだった。この先、どれだけ長生きしても、ゴンザレスの二口目を飲むことはないことがこの瞬間に確定した。

 

 ◇◇◇

 

 1時間ほど経過したところで、人事の男がやってきた。彼はソルジャーではなく完全な事務スタッフだった。

 ソルジャーとそうでない者の差は歴然だ。

 目の鋭さが違う。体つきが違う。

 

 ソルジャーはみな鷹のような研ぎ澄まされた目をしていて、たくましい体をしているが、事務スタッフは訓練によって鍛えられた感じがなかった。

 人事の男はラバールとケントの間に座った。

 

「やあ、ようこそアロマローズ城へ。で、君が派遣された若者ということで間違いないかね?」

「はい」

「では、まずこの書類に記入して。若手を募集するプロジェクトによる入隊のところに〇をして」

 

 ケントはさっそくペンを受け取って書類の記入を始めた。

 ラバールが人事にいくつか質問をした。

 

「若手プロジェクトでの入隊だと本入隊の場合とは違うのですか?」

「ええ、本入隊はそれぞれの管轄の権限での入隊ですが、若手プロジェクトではアロマローズ女王の権限での入隊です。ゆえに政府から助成金が支給されるわけです」

「その場合の処遇に何か違いがありますか?」

「管轄ごとの権限で入隊した場合、所属勤務地がその管轄になり、左遷の場合も我々の意向で決めることになりますが、女王の権限では、女王から直接勤務地が指定されます。どこに配属されるかわかりません」

「そうか。でも場合によってはカーノルフタンの近くに配属になる可能性もあるということですか?」

「ですね。すべては女王様の胸三寸です。アロマローズ女王は大臣の意向を聞かずに単独で決定されることが多いですから、本当に気まぐれで勤務地が決まってしまいます」

「しかし、ケントはまだ経験が1年未満。いきなり前線で実戦ということはないですよね?」

「普通はないですが、なにせアロマローズ女王の心は我々には理解できませんからね」

 

 ケントはアロマローズに直接雇用されるということになる。そのため、ケントの配属先はアロマローズによって決められる。

 なお、賃金がアロマローズが定めた金額が支給されるので安く使われることはない。

 

 何がどうなろうと、もう引き返すことのできないケントは書類に記入して、人事に渡した。

 

「では、アロマローズ女王にあなたの履歴書を送ります。結果が出るまで、しばらく、お待ちください」

「何日ぐらいかかりますか?」

「早ければ今日。遅ければ来月以降。すべてはアロマローズ女王しだいです」

「そうか。なら、どうする、ケント。一度カーノルフタンに戻って待つか。それともここで待つか?」

「どうするのがいいでしょうか?」

 

 ケントはどちらかというと、一度カーノルフタンに戻って、カヨに会いたいと思っていたが、今日結果が出るなら、戻ってしまうと二度手間になってしまう。

 

「ひとまず、一晩待とう。暗くなるからな」

 

 あたりは夕暮れ。夜の飛行は、新米のケントには難しいということで、ここで泊ることになった。

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