ドラゴンソルジャー   作:やまもとやま

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2、出会い

 アロマローズ龍王国は竜女王「アロマローズ」が治める地で、クレイドラの南に広がっている。

 ここクレイドラは、ケントの知る世界とは少々異なる。

 

 クレイドラは大地があり、空がある地球とは異なる。

 クレイドラは空があり、大地があり、さらに空がある。

 

 アロマローズ龍王国もまた同じで、ケントの立つ大地は「空の上の大地」だった。

 ケントの住む「カーノルフタン」は第一の大地の上空に位置する第二の大地のさらに上空にある。つまり、ここは第三の大地。

 この世界は地球よりもはるかに空間的だ。

 

 大地から大地へ向かうためにはドラゴンが必要になる。

 さらなる上空へも、低空の大地へも、ドラゴンの力がなければ移動することはできない。

 

 ドラゴンを操ることができない者はこの大地の上でしか生活することができない。

 

 ケントはそんな果てしない大地の一角に立っていた。前方には見渡す限り農場が広がっている。

 カーノルフタンには約17万人の人が住んでいる。

 面積はちょうど日本の北海道ぐらいと推測できる。かなりの広さだが、クレイドラ全体のうちのほんの小さな陸地の1つに過ぎないという。

 アロマローズ龍王国全体のうちでも、カーノルフタンはごく一部の僻地に過ぎない。

 

「ケント、準備はできたか?」

「はい」

「なら行くぜ」

 

 ケントは主の後ろをついて駆け出した。

 

 ケントは主と共にカーノルフタン西端のドラゴンファームにやってきた。

 大陸の端は崖っぷちになっている。

 落下すると少なくとも1万メートル以上落下して、この大地の下方にある大地に叩きつけられることになる。

 

 大陸の端にはドラゴンファームがたくさんある。

 ケントがやってきたファームはまさに大陸末端にある小さなファームだった。

 大陸の端からは強い風が吹きつけて来た。軽いケントはその風に煽られてバランスを崩した。

 

「おい、こんな風にやられてちゃドラゴンに乗るなんざ夢のまた夢だぜ」

 

 主はそう言ってからかった。

 

「まあ、落下しても死にはしない。この大陸の下方にはかなり強い風が吹いてるから運が良ければ、どっかの陸地にたどり着けることもある」

 

 主はそう言ったが、実際にそんなことは万に一つもなく、この大陸から落下した者は強風にあおられ岩壁に叩きつけられて死ぬか、空を飛ぶ野生のドラゴンに捕食されて死ぬ。

 実際、大陸から飛び降りて自殺を試みる者は少なくなかった。

 大陸の端は別に柵で覆われているわけではないから、誰でも大陸から飛び降りることができた。

 

 ケントがやってきたファームは4体のドラゴンを飼育している非常に小さなファームだった。

 ドラゴンファームはドラゴンを人為的に育成する場所であり、世界各地にたくさんある。アロマローズ龍王国だけでも、400か所以上にのぼる。

 ファームにはドラゴンのほかに、その搭乗員もいて、彼らはドラゴンソルジャーと呼ばれる。

 

 彼らはこの大陸の治安を守るため、空のパトロールを行っている。

 この大陸の侵略者は野生のドラゴンということもあれば、外国の兵士ということもある。

 現在、アロマローズ龍王国はウォルマット竜王国と戦争状態にあり、この地にもたびたび敵のソルジャーがやってきた。

 

 ドラゴンソルジャーはそうした侵略者と戦うためにドラゴンに乗る。別に遊びで乗るわけではない。

 ケントが憧れた空を飛ぶ男たちは常に命をかけて空の上にいた。

 対して、ケントは空に憧れて、純粋な気持ちでここにやってきていた。

 

 ケントは主の後ろについてファームの小屋に足を踏み入れた。

 キョロキョロとあたりを見渡してみる。

 

 獣臭が鼻についた。ドラゴンのにおいだろうか。

 小屋の中は色々なものが雑多に詰め込まれていた。何に使うかよくわからない用具が物置らしきところに雑然と積まれていた。

 しばらく進むと、ケントの目にドラゴンの姿が飛び込んできた。

 ドラゴンは小屋の中で体を丸めて目を閉じていた。しかし、ケントらの気配を感じ取ったのか、鋭い目を開いて、鼻息を吐いた。

 

「わあっ!」

 

 ケントはその雰囲気に圧倒されてしりもちをついた。

 

「ったくどんくさいやつだ。これからドラゴンに乗ろうってやつがそんなんじゃ先が思いやられるぜ」

「こんな近くでドラゴンを見るのは初めてで」

「こいつはホワイトミローマだ。小型の荷物運搬用のおとなしいドラゴンだ」

「こ、これで小型なんですか?」

 

 目の前のドラゴンは全長5メートルはある。ケントの背丈より高く首を伸ばしたホワイトミローマはケントを見下ろした。

 

「どなたですか?」

 

 ドラゴンの覚醒に気づいて、誰かが小屋のほうに降りて来た。

 小屋は階段を通して幾層にも連なっている。

 階段は外部に露出していて、強い風が吹きつけている。大陸の下方を見下ろすこともでき、高所恐怖症の者だと足がすくんで進めないような場所だった。

 階段の作りは拙劣で足元はいかにも底が抜けそうだった。

 そんな場所を慣れた足つきで駆けてくる者がいた。

 

「すみません、ドラゴンライダーを希望する者を連れて来たんでちょっと面倒見てもらえますか?」

 

 主は声を張り上げた。

 

「ライダー希望ですか? えーっと、そちらの方ですか?」

「おうよ。ちっと頼りないように見えるが、どうしてもドラゴンに乗りたいと聞かなくてな」

 

 主はやってきた女性にそう言った。その女性はとても優しそうな目をしていた。ケントよりは間違いなく年上だが、まだかなり若い女性だった。

 その女性はケントに軽く会釈して微笑みかけた。

 

「あなたがライダーになりたいという方ですか?」

「あ、はい、そうです」

 

 ケントはかしこまったようにそう言った。

 

「ちょっと待ってください。責任者を連れてきます」

「あんたはここで働いてる人かい?」

 

 主が女性に尋ねた。

 

「はい。私はドラゴンブリーダーです。と言っても資格を取って間もない見習いで、ここに来てまだ3か月ほどなのですが。私はカヨ・ティマクルです」

「こいつはケントだ。実はな、この世界とは別の世界から来たんだ。見てのとおりヒョロヒョロだが、特別な存在だからまあ大目に見てやってくれ」

「別の世界から?」

 

 カヨは今一度ケントのほうに目を向けた。

 

「わかりました。責任者のほうにそのように伝えておきます」

 

 カヨは軽い足取りで階段を駆け上がっていった。

 

「どうだ、ドラゴンに乗るイメージが沸いたか?」

「なんだか圧倒されてしまった感じです」

 

 ケントはドラゴンと向き合っているうちにどんどん自信喪失していった。自分がこんな大きなものに乗れるのだろうか。

 

「まあ、簡単な世界ではねえ。そんなに簡単なら、おれだってとっくに今頃空の上よ。いや、そのさらに上、今頃極楽かもな」

 

 主はそう言って、ドラゴンに近づいた。ケントと違い、主にはドラゴンを恐れることがなかった。そんな主でも乗れなかったのがドラゴン。果たしてケントに乗れるのか。

 しばらくして責任者がやってきた。

 先ほどの女性とは違い、筋骨隆々のたくましい男がやってきた。

 

「ライダー希望はどちらだ?」

 

 男はやってくるなり、主とケントを順番に見た。

 

「こっちの少年です。聞いているかもしれませんが、この世界とは別の世界から来た者です。そういうわけで、元の世界に戻る方法も含め、外の世界に出してやりたいと思い連れて来たんです」

「別の世界か。なるほど、不思議な雰囲気を持つ少年だ。名はなんという?」

「ケントです」

「ケントか。ドラゴンに会う覚悟はあるか?」

「はい」

 

 先ほどまでびびっていたケントだったが、いざそう尋ねられると、強い目でしっかりと返事していた。

 

「いいだろう。ついてきなさい」

「ケントに乗りこなせるでしょうか?」

「すべてはケントしだいだ。ドラゴンがケントを認めるかどうかもまた運命だけが知っている」

 

 男はケントらを上の小屋へと誘導した。

 長く続く階段の下は切り立った崖になっている。落っこちれば、尖った岩柱に突き刺さってしまうだろう。

 ケントは左右の掴みを利用して恐る恐る階段を登って行った。

 

 上の小屋は岩場に通じていて、そこにはドラゴンが羽を休めてたたずんでいた。

 かなり風が強く、まるで台風のようであった。しかも岩場の足場は悪く、場合によっては崖の下にはたき落されるかもしれない。

 そんな場所を進まなければドラゴンに会うことはできなかった。

 

「あれは飼育しているドラゴンですか?」

「いいや、あそこにたたずんでいるのはすべて野生のドラゴンだ」

 

 主の質問に男はそう答えた。

 

「野生のドラゴンに認められた者だけがファームに所属することができる。それがうちの鉄則。いや、ドラゴンの世界に生きる者の掟だ」

 

 男はドラゴンを指さした。

 

「ケント、今からあの中から一匹のドラゴンを連れてくるんだ」

「……」

 

 ケントは男の指したほうに目を向けた。

 そこにいるドラゴンは小屋にいるものとは明らかに異なり、野性味あふれていた。獰猛さがまるで違っていた。近づいたならば、即座に殺されるのではないかという雰囲気がここまで伝わってきた。

 

「どうする? 怖いなら引き返すこともできるぞ」

 

 男の提案にケントは首を横に振った。

 

「行きます。そのためにここに来たのです」

 

 ケントに引き返すつもりはなかった。

 獰猛なドラゴンに対する恐怖はあったが、それ以上にドラゴンの雄大さ、神聖さを感じていた。

 あのドラゴンに殺される最期ならば本望だと思うことができた。

 ケントは足場の悪い岩場を進んでいった。

 

「大丈夫か、本当に……」

 

 岩場を進むのにも一生懸命なケントを見守る主の目は不安げだった。

 

「よしっ、行くぞ!」

 

 ケントは自分に喝を入れると、一匹のドラゴンをにらみつけるようにして前に進んだ。

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