ドラゴンソルジャー   作:やまもとやま

20 / 27
19、アロマローズの決定

 ケントがアロマローズ王室にやってきたその夜、アロマローズは仕事のために外交部の会議に参加した。

 ここのところ、憔悴の著しいアロマローズは少し歩くだけでも息を切らしてしまった。

 

「女王、無理をなさらず。部屋でお休みになられますか?」

 

 アロマローズの付き添いのミリーはアロマローズの体を支えた。

 

「今は休んでいられる場合じゃない」

 

 アロマローズは無理を押してこの会議に参加するつもりだった。

 今日の会議は非常に重要な外交選択を伴うものであり、その選択をするのは女王であるアロマローズだったから、休むわけにはいかなかった。

 

 今回の会議の争点は、激化するアルマゴート竜王国の侵略について。

 これまでの外交方針では、アルマゴート竜王国政府を支持する立場だったが、それが理由で、反政府勢力の侵略を加速させているところがあった。

 これまで通り、アルマゴート政府を支持するのか、態度を変化させるのか、その決定をアロマローズはしなければならなかった。

 

 会議室にはシェイン率いる外交部の者が椅子に腰かけて静かに待っていた。

 アロマローズがやってくると、外交部のすべての者が立ち上がって、アロマローズのほうを向き、敬礼した。

 

「敬礼」

 

 シェインの合図で、外交部の者は一斉に最敬礼した。みな、しっかりと統率されていた。

 アロマローズはミリーの付き添いを受けてシェインのもとに向かった。すでに足が震えていて、体力の余力は少なかった。

 ミリーがアロマローズの状態をシェインに報告した。

 

「女王の具合は決して良くありません。出来る限り、会議の時間を短縮していただきたいと思っております」

「そうですか……」

 

 シェインはアロマローズの様子をうかがった。シェインもアロマローズの具合が優れないことは承知していたが、シェインがアロマローズの身を心配すると、アロマローズはいつもシェインを叱っていた。

 アロマローズはいつもシェインに次のように述べた。

 

「お前は国の指針を決める重要な存在。誰よりも冷酷に決断しなければならない存在。場合によっては私を殺す決断もしなければならない。身分に引かれて判断を見誤るな」

 

 アロマローズは自分が任命した重要な役職には、いつもそのように言ってきた。女王に謙遜して自らのしなければならないことを忘れるなと。

 シェインはアロマローズのその意志を十分に理解していたし、アロマローズが体調がすぐれない中この会議に出席した意志も理解していた。

 だから、シェインはアロマローズにこう言った。

 

「アロマローズ女王、今回の会議は国の未来を占う者。一縷の妥協も許されません。何があろうとも、アロマローズ女王のその意思で決定をお願いします。よろしいですか?」

「それでいい」

 

 アロマローズはうなずいて腰かけた。ミリーは心配そうにアロマローズの様子をうかがっていた。

 

「では会議を始めます。まずは、コルゾナ・ツヴァイハンダ―隊長より受けた報告内容を発表する」

 

 シェインは外交官だが、まるで軍人のような鋭い目をしていた。シェインはもとドラゴンソルジャーであり、目の病に臥さなければ、今頃アロマローズ軍の総隊長を争う実力者だった。

 

「現在、アルマゴート政府は総崩れになっていると聞きます。裏切り者が多数現れ、政権崩壊は時間の問題と。あてにしていたユルクス竜王国の援助も打ち切られたということです」

 

 シェインは簡単にアルマゴート竜王国の情勢を説明した。

 アルマゴート竜王国は正規の「竜神アルマゴート」を巡って対立している。

 青い炎を操るアルマゴート、銀の焔を操るアルマゴートの2つがアルマゴートの血をひいているのだが、唯一神の宗教観念の強いアルマゴート竜王国では、いつもどちらが本物のアルマゴートかということで対立していた。

 宗教の教えでは、青いほうを真とするものもあれば、銀のほうを真とするものもあり、意見は分かれている。

 

 ゆえ、両者を支持する狂信者たちの間で対立が後を絶たなかった。 

 青いほうが優勢のときもあれば、銀のほうが優勢のときもあった。

 いまはクスリナ竜王国などが銀のほうを支援するようになり、銀のほうが優勢だった。

 しかし、アロマローズ竜王国は青いほうを支持している。

 アロマローズ竜王国とクスリナ竜王国の国力では、アロマローズ竜王国のほうがわずかに上回っている。

 しかし、アロマローズ竜王国が支援を渋っている間に、クスリナ竜王国は強烈な支援を続け、気づけば銀のほうが圧倒的に優勢になっていた。

 

 優勢になった銀のほうが自分たちと敵対する勢力に軍事的な圧力をかけるようになっていた。

 青いほうを支援しているのはアロマローズ竜王国とグルグ竜王国だが、どちらも大国でありながらも、支援を出し渋る傾向があった。大国ほど、特に軍事的な支援には消極的だった。

 大国ほど、自国内の情勢安定に力を入れるため、外交はおろそかになるものである。

 

「被害状況ですが、現在ワルスタンへの猛攻が深刻で、日に複数回の襲撃も珍しくないようだ。北部のダイタスタンやペンタグの町および、ペンタグの大森林では現在進行形で山火事の対応に追われているようだ」

 

 シェインの語った被害状況は深刻なものだった。ワルスタンはアロマローズ竜王国の

 

「おまけに、こんな状態にもかかわらず、ワルスタンの州知事のジョニー氏は不倫を重ねて職務を怠り、民から猛反発を受け、ワルスタンは大混乱の状態」

 

 アルマゴート竜王国の侵攻に備えて、政治家のスキャンダルとワルスタンは悲劇のダブルパンチを受けていた。

 

「このまま従来の外交方針を貫くならば、ワルスタンへの軍事支援をより一層高める必要がある。現場からは軍事支援として、ドラゴン300体、ソルジャー85人の援軍を要求している。また施設の増強のために4億ドラーの支援を要求している」

 

 アルマゴート竜王国を抑えとどめるためには莫大な資金が必要だった。アルマゴート竜王国は大国だが、それでもその出費は小さくなかった。

 

「このまま政府を支持するのか、方針を転換するのかまずはそこから決めていく必要がある」

 

 シェインはそう言いながら、アロマローズのほうに顔を向けた。すべての決断はアロマローズの独断で決定される。

 アロマローズは早送りでいくつかの資料に目を通していた。そして、アロマローズはあらかじめ決めていたようにこう言った。

 

「これまで通りだ。アロマローズ政府を支持する。ついてはワルスタンに追加支援を行う」

 

 アロマローズは方針転換はせずに、これまでどおり青いほうを真のアルマゴートとして支持する方針を貫いた。

 いくつかの事情が重なった決断だったが、何よりこの決断を支持した背景には、アルマゴートにとって青いほうのアルマゴートは親友であるという事情があった。

 アロマローズは人一倍警戒心が強い。それゆえ、重度の強迫性障害を患うまでになった。しかしそれゆえに、自分の信頼する仲間に対する「仲間意識」は人一倍強かった。

 

「現場の声を尊重し、ドラゴン300体、ソルジャー85人、4億ドラーを支援する」

「わかりました」

 

 シェインはアロマローズの決定をそのまま尊重した。

 

「ツヴァイハンダ―隊長に支援をお伝えします」

 

 アロマローズの決断が早かったので、会議は長引くことなく終わった。

 しかし、続いてワルスタンへの支援を行うために、政府軍の総隊長であるコルゾナ・ツヴァイハンダ―と打ち合わせする必要があった。

 

 コルゾナは28歳というまだ若い総隊長であり、アロマローズ軍最強のドラゴンソルジャーでもある。

 ドラゴンキラーの異名を持ち、狙った獲物は決して逃さない徹底したソルジャーだった。

 

 コルゾナはアロマローズよりも一回り年下で、まだ総隊長になって間もないということもあり、シェインほどの貫禄がない。

 空の上では最強でも、軍隊を取りまとめる統率力はこれから高めていく必要があった。

 

 実際、アロマローズとの打ち合わせの間、コルゾナは何度も総隊長としての未熟なところをさらした。

 

「ワルスタンに送る人員だが、若手から25名、ベテランから60名とする。5年以上のベテランのリストを見せてくれ」

「えー……も、申し訳ありません、少しお待ちください」

 

 コルゾナは狼狽気味に資料の入ったファイルをまさぐり始めた。きちんとした隊長なら、資料の整理は十分で、リストも頭の中に入っているものだが、コルゾナはまだまだ甘かった。

 

「お待たせしました。えー……こちらがベテランのリストです」

「……」

 

 アロマローズはコルゾナの仕事ぶりを厳しく視察するような目を向けつつ、ファイルを受け取った。

 コルゾナはアロマローズから目をそらした。そういった挙動1つ1つもまだ未熟さを感じさせた。

 

「いま若手をプロジェクトで集めているだろう? 今日集まった者のリストはあるか?」

「えーっと……今日の報告分はたしか……あれ、おかしいな、どこいった? おい、今日のリストはどこにおいた?」

 

 コルゾナは隣にいたスタッフに声をかけた。

 

「プロジェクト志願者のリストは夕食前に隊長にお渡ししたと思いますが?」

「そうだった。しまった。部屋に置いたままだ。おい、すぐに取って来てくれ」

 

 コルゾナはスタッフにそう言った。

 

「申し訳ありません。すぐに用意できますので」

「コルゾナ」

「はい」

「総隊長の仕事は大変か?」

 

 アロマローズは目を細めた。

 

「はい」

「お前は空の上にいたほうがいいかもしれないな」

「申し訳ありません」

「しかし、お前を隊長に任命したのは他ならぬ私。役職が務まらなければ私の責任でもある」

「申し訳ありません」

「むろん、お前を解任するつもりはない。お前のその心は国を背負うに十分な強さがあると信じている」

 

 コルゾナは静かにうなずいた。

 

「もう少し肩の力を抜け、いつもいっぱいっぱいでは体が持たんだろ」

「はい」

 

 アロマローズはそう言ったが、それは自分自身に言い聞かさなければならないことだった。

 

 アロマローズはリストからワルスタンへ送る85名を自らの手でリストアップした。

 今日招集されたばかりのケントの名前もそのリストには加えられていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。