ドラゴンソルジャー   作:やまもとやま

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21、道中

 ケントは相棒のブラックハープロンにまたがった。

 すでに、相棒とは長い間、飛行を共にしているから、空を飛ぶことには慣れっこになっていた。

 しかし、ラバールのもとを離れて、まったく新しい人たちと飛行を共にすることになる。

 並列するソルジャーの顔が変われば、緊張感もまた違った。

 

 ケントは前を見つめた。

 先頭にはアスリーがいて、その後ろに4人のソルジャーがいた。

 ちらりと左右を見ると、ケントの右手に二人、左手に一人のソルジャーがいた。左手にいる小柄な少年は、カトラスと見て間違いなかった。

 ケントも先ほど出会ったばかりで、ベテランの人の話によると、カトラスは天才のソルジャーであるという。

 見た目、ケントと同じぐらいの歳であり、意識せざるを得なかった。

 

 ケントが何度も左手をちらちらと見ていると、カトラスが不機嫌そうな横目を向けて来た。ケントはすぐに目をそらした。どことなく関わりにくそうな少年だった。

 

 ちらりと後ろを振り返ると、ベテランのソルジャーが6人いた。彼らは楽しそうに談笑しながら出撃の時を待っていた。

 合計すると、ケントを含めて15人のソルジャーが集う部隊になっていた。伝令の話によると、アスリーの部隊以外にも、いくつかの部隊がワルスタンへ派遣されるという。

 これだけたくさんのソルジャーがいると、ケントもどことなく安心できた。数が多いほど、自分が目立たない。右も左もわからない新人の立場としては、目立たないほうがやりやすかった。

 

 ケントはまだ基本的な飛び方しか知らない。とりあえず、周囲の人を見てその真似事をして対応しようと思った。

 

「出撃だ!」

 

 アスリーが大きな声で合図した。

 アスリーは絵に描いたようなたくましい軍人で、その体つきに見合った大きな声を出した。

 

 ケントは左をちらりと見た。カトラス少年と並列して飛んで行けばいいだろうということで、カトラスに合わせて発進することにした。

 カトラスは少し青みがかった背中を持つドラゴンに搭乗している。ケントも見ただけである程度、ドラゴンの種類を理解できるようになっていた。カトラスの相棒はブルー・ハープロンと見て間違いなかった。

 ケントのブラックハープロンが運動性に優れるのに対して、ブルーハープロンは飛行速度に優れる。

 

 カトラスのドラゴンが離陸したのを見て、ケントも発進した。

 いつもの調子でブラックハープロンに発進の合図を送ると、ブラックハープロンは翼を広げた。

 

 少し離れたところから、ドラゴンブリーダーらが手を振っていたので、ケントは世話になったことを手で示して、空に舞い上がった。

 

 ◇◇◇

 

 ケントは隣のカトラスにぴたりと張りつく形でブラックハープロンを位置させた。

 推定速度は80キロ。ドラゴンにしてはゆっくりとした飛行だった。

 

 編隊飛行で大切なことは、前を行く者との距離をできるだけ一定に保つこと。アロマローズの法律では、貿易ドラゴンで445m以上の距離を空けること、軍事ドラゴンで620m以上の距離を空けることが義務付けられている。

 これらの距離はいざというときに、事故が回避できる一般的な距離として定められている。軍事ドラゴンは速度が速いので、それだけ距離も開く。

 

 いま部隊は34縦列飛行という編隊で飛んでいた。

 これは小隊長を筆頭に以下、横に3列、縦に4列に分かれて配置する編隊で、アロマローズ軍では基本的な陣形の1つだった。

 ケントもそういう基本はラバールのもとで教わっていた。

 

 おこからワルスタンまでは時速100キロで飛んだ場合で、約6時間となっている。

 飛行の予定では、3時間後に45分の休憩、それから3時間飛んで目的地に到着ということになっている。

 

 ただ移動するだけなので、ゆっくりと空を飛ぶだけであるが、ワルスタンは寒いと言われている。

 ケントはあらかじめ支給されていた手袋を装着し、防寒プロテクターと防寒帽を装着して、準備満帆だった。だが、このあたりでは逆に暑苦しく感じる。

 

 アロマローズ王室の大陸を抜けると、立体に広がる果てしない空に出た。この世界では当たり前の光景だが、大地が存在しない世界というのは、地球生まれのケントにはいつ見ても壮大な世界観だった。

 

 アスリーは空に出ると、グッと高度を落とした。

 基本的に、目的地にたいして、できるだけ低空を飛ぶのが飛行の基本である。

 

 しばらく飛ぶと、小さな陸地が見えて来た。小さなドラゴンがグルグルと回るようにして跳んでいるのが見えた。陸地からは煙が上がっていて、ちょうど、その煙を囲うようにドラゴンが飛んでいた。

 あれはおそらく、焼き畑だ。ドラゴンを用いて森林を焼き払い、畑に整備する。ケントもその光景を見たことがあった。

 

 さらに進むと、どす黒い雲が遠くに見えてきた。この辺りまで来ると、ケントも未知の領域だった。コンパスと地図で細かく場所を確かめてみると、カーノルフタンから東北に大きく離れた場所だった。

 どす黒い雲を横目に見ながら通り過ぎると、ドラゴンが降下を始めた。

 おそらく前方の陸地に着陸するということなのだろう。

 時間を確認すると、飛行を始めてから約2時間半が経過していた。おそらく休憩地点についたものと思われる。

 

 陸地に近づくと、それなりに発達した都市が見えて来た。

 地図で確認すると、「ピエラ」という陸地で、アロマローズ北方の陸地の1つ。ワルスタンはここよりさらに北側にある。

 

 アスリーはピエラのとあるドラゴンファームに着陸した。

 

「うい!」

 

 アスリーは独特な大きな声を上げた。

 振り向いて、部隊が無事に降りてくるかドラゴンの上で見守った。そのあたりは隊長らしかった。

 

「全員いるか?」

「おります!」

 

 最後尾のベテランが大きな声を張り上げた。

 

「軽く休んでくぞ」

 

 アスリーはドラゴンを降りると迎えの者に手を振った。

 

「おう、世話になるぜ」

「よく来なすった。ずいぶん大変みてえじゃねえか」

 

 迎えの男はアスリーの友人であり、雰囲気はアスリーに似ていた。

 

「物価は上がっし、女房は子供連れて出てくし、はちゃめちゃだ」

「おれんのせがれも殺人未遂で捕まってにっちもさっちもいかん」

「何もかもはちゃめちゃだな。きっと世界の終わりが近づいてんだ」

「なら、ありったけ酒飲んどくか、がはははは」

 

 二人は豪勢に笑い声をあげた。

 ケントはドラゴンから降りてあたりを見渡した。どことなくカーノルフタンのファームに趣きが似ていた。近くに、大きなアロマローズの木像が祀られているのが見えた。

 隣を見ると、カトラスがドラゴンから降りて、無言で立っていた。誰かに話しかけることもなく、すべてのものから距離を取っていた。

 ケントも話しかけずにいると、最後尾のベテランがやってきた。

 

「あんた、よく飛んでたな。新人いしちゃたいしたもんだ。おれなんてもうふらふらだ。そろそろ引退だな」

 

 ベテランは冗談交じりに話しかけて来た。

 

「おんれはバーザーだ。あんたは?」

「ケントと言います」

 

 ケントはていねいに挨拶をした。

 

「威勢のいいブラックハープロンだ。どこで出会ったんだ?」

「カーノルフタンです」

「ほー、ルフタンか。そんな遠くからやってくる時代か」

 

 カーノルフタンを含むルフタン区はアロマローズの西寄りに広がる地方で、バーザーの感覚では、かなり遠くの民の印章だったようだ。

 

「うし、ミルクでも飲むか」

「はい」

 

 ケントはバーザーについていくことにした。バーザーはそれなりに接しやすい先輩だった。

 

 ◇◇◇

 

 ピエラの町は、グルグ竜王国との連絡地の1つで、ここにはグルグ竜王国の大使館の本部がある。グルグ移民も多く、全市民の2割はグルグ移民と言われている。

 アロマローズ竜王国とグルグ竜王国は沈黙の同盟国と言われる。これは、仲がそんなに良くないが、同盟を結んでいるという意味であり、グルグ移民が強い差別にさらされているところがあった。

 

 ケントはバーザーと共にファームの休憩室に入った。

 

「最近は何でもグローバルだのなんだのでよそ者がいっぱいだ。見りゃわかる。あいつはグルグの民だ。目が赤いやつはみなそうだ」

「そうなんですね」

 

 ケントはガベロ族の地に降り立った時に出会ったグルグ女王のことを思い出した。たしかにグルグも赤い目をしていた。

 

「10年前ならよそ者なんてみんな八つ裂きになってたところだぜ。おんれは犬でも猫でもどうでもいいが、グルグのやつがおれの目の前でしょんべんかけられててな、可哀想に思ったよ」

 

 バーザーはアロマローズ竜王国の事情をあけっぴろげに話した。

 

「移民がなんで多いか知ってっか?」

「いいえ」

 

 ケントは首を横に振った。

 

「グルグってのは火の石がいっぱい取れっだろ? んで、それを売ろうとしても身内はみな持ってっから売れねえからわざわざ売りに来てんのさ。ただの石っころもそんれが珍しいやつには宝石だからな。そんで売りに来てっわけよ」

「なるほど」

「石ころがこっちじゃ10倍で売れんだから、錬金術だよ。んで、連中は金のために身内を捨ててのさ。そんりゃあ、軽蔑されんわな。金目当てで来てて歓迎するやつぁ、どこにもいねえよ」

 

 バーザーは景気よく話をつづけた。

 

「だども、金が好きなやつは集まってくる。金が縁を作んのよ。金で作った縁は金だけが頼りだから、目の色変えていじめにも耐えて、金に魂を売るんだ。見てみい、みんな金の亡者の目になってんだろ。みなピリピリしてんよ」

 

 ケントはグルグの移民のほうを見た。たしかに言われてみると、ピリピリしているようい見えた。

 世界が変わっても、金に突き動かされる者が少なくないようだった。人間とはそういうものなのかもしれない。

 思えば、ケントもファームの事情があったとはいえ、金でアロマローズ王室に呼ばれた身であった。

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