ドラゴンソルジャー   作:やまもとやま

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24、世界一温かい町

 サーバーナラフはワルスタン南西に位置する町の1つで、通称「世界一温かい町」で語られる。

 この通称は冒険家タクタロフの手記に書かれていた「氷に閉ざされた町の中に世界一温かい心あり」から来ている。

 ほかにも、地下に大きな温泉脈があり、町のあちこちから温泉が湧き出ている。豊富な温泉を構えているところからも、世界一温かい町として知られるようになった。

 

 しかし、平均積雪量は約250センチと言われ、ほとんどのエリアは雪で埋もれている。

 過酷な積雪の町でもあり、降雪被害から逃れるため、サーバーナラフの町は地下街を作っており、そこにほとんどの人が住んでいる。

 ここ一帯の岩は削岩しやすく、それでいて頑丈なので、地下には立派な町が成り立っている。

 

 しかし、地下に閉じこもっていては生きていけない。地下で育つ作物は限られており、サーバーナラフは食糧を外界からの輸入に頼っていた。

 雪で貿易網が途絶えると、それだけでは暮らしていくことはできなかった。

 

 ケントらはサーバーナラフの支援のために駆り出された。

 初めての任務なので、ケントにとっては右も左もわからない状態だった。

 

 ともかく上官のドラゴンについていくことだけに意識を集中した。

 雪山を超えると、より一層太陽の陽が強くなり、その光が眩しく反射してきた。

 ケントは目を細めながら、サーバーナラフの町に目を落とした。

 

 町らしき町は見えなかった。雪に埋まっているのだろう。

 町を進むと、でこぼことした地形にタワーがいくつも建っている場所が見えて来た。

 そこは「デバロ・ナラフ」と呼ばれる場所で、有名スポットの1つでもある。

 観光地でもあり、ドラゴンの貿易路の中心になっている。

 

 タワーが目印になっていて、ドラゴンはそれを頼りに降りる場所を確認する。

 先頭を行くバーザーは後ろを振り返り、若手を誘導するように手を振った。

 バーザーは4本目のタワーと5本目のタワーの間を降下したので、ケントも同じようにその間を縫うように降下した。

 

 雪面で見えにくい着陸路にバーザーは降りて行った。

 ケントも同じ着陸路にゆっくりとドラゴンを降ろした。

 

 ほんの30分の飛行だったが、手がかじかんでいた。

 ケントの部屋の相方であるパースとカトラスも着陸路に降りて来た。

 ケントはカトラスが降りてくる光景にしばらく見とれていた。

 

 ドラゴンの着陸は簡単ではない。

 ケントもかなりの数、着陸を経験しているが、そのたびに難しさを覚えた。今でもまだ降りるときは恐々だった。

 しかし、カトラスの着陸はなめらかだった。

 

 着陸は角度が急すぎると事故につながりやすい。角度が浅すぎるとドラゴンが地面に足を着く前に「ランディングスクリュー」と呼ばれる現象を起こしてしまう。

 ランディングスクリューとは、着陸の際に、速度が足りなくなり、ドラゴンが自分の体を支えきれずに横転する現象であり、ドラゴンライダーの死亡事故の多くを占めている。

 ケントも軽度のランディングスクリューは良く経験した。カーノルフタンの訓練中、ケントはけっこうひどいランディングスクリューを起こしたことがあった。

 そのとき、ケントはドラゴンから投げ出されて体を殴打した。幸い、速度が足りなくなった際に、地面との距離が短かったので、命にかかわらなかったが、何日も痛みがひかない程度のケガになってしまった。

 

 それから、ケントは着陸のたびに全神経を集中するようになったが、カトラスは楽々と絶妙な角度で降りて来た。

 事故につながらなくても、地面直前でドラゴンが傾いて、その反動でドラゴンが転倒してしまうケースは少なくない。だが、カトラスの着地はとても静かで安定した。体のバランスの乱れるところが一切なかった。

 それを見ていただけでカトラスの実力の高さがうかがえた。

 

 パースも無事着地したが、パースが着地したときは、わずかにドラゴンが右方向にバランスを崩す着地だった。その現象は着地の際に速度が落ち過ぎたので、ドラゴンが翼を傾けて調整しようとしたために生じる。

 ケントもよく速度が足りないときはあえて右に傾けて地面との距離と速度の帳尻合わせをすることが多かったが、カトラスはそうした調整をする必要がまったくなかった。

 

 ケントも完ぺきな着陸ができるようになりたいと思った。

 たいていの着陸路は地面が平坦であり距離も長い。

 しかし、場所によっては急こう配の途中や岩場の上などに着陸しなければならない。そういうときにこそ、真の着陸のテクニックが求められた。

 

 ドラゴンソルジャーにはこんな格言がある。

 

「三流はドラゴンが飛ぶ、二流はカラスが飛ぶ、一流はトンボが飛ぶ」

 

 これの意味することは、ドラゴンソルジャーとして優秀になればなるほど、蚊が飛ぶようにドラゴンが飛ぶようになるということである。

 蚊が着地するように、ドラゴンが着地できるようになれば一流という意味でもある。

 カトラスの着陸はまさに蚊のごとくだった。

 

 ◇◇◇

 

 ケントらは降りると、ドラゴンをブリーダーに預けた。

 ここは貿易センターの着陸路であり、大きなドラゴンファームが設けられていた。

 

 貿易ドラゴン用のファームと軍事ドラゴン用のファームはほとんど同じつくりである。なので、貿易センターには軍の施設も設置されていることが多い。

 今日は貿易センターにサーバーナラフの市長がやってきていた。

 市長は現役の貿易用ドラゴンライダーであり、40を超えたいまでも、現役で空を飛んでいた。

 市長はニコニコとほほ笑んで、やってきたケントらに握手を交わしながら挨拶をした。

 

「どうだね? 貿易再開の見込みは立ってるのか?」

 

 バーザーが市長に尋ねた。

 

「こちらはいつでも再開できる状態なのですが、先方の都合しだいですよね。この雪だと、だいたいどこも見合わせるんですよ。困りますよ。向こうは商売ができない程度の影響なのでしょうが、こちらは貿易が命綱なのですから」

 

 市長は笑みを浮かべながらそう言った。サーバーナラフは今日食べる食糧でさえも、輸入に頼っている。貿易が再開しないと、市民から飢え死にする者が続出するという。

 現時点でも、毎日20人の餓死者が出ているという。こういう時分では、300人もの餓死者が出るのが普通なのだという。

 

「じゃあ、軍の権限で貿易を再開させるか」

「助かります。ぜひ、お願いします」

「ライダーはそろってるのか?」

「最近人手不足で、それにこの雪を予想して、ベテランの多くがこの地を離れているんです」

「おい、お前たち。貿易ドラゴンの搭乗経験はあるか?」

 

 バーザーがケントらに尋ねた。

 ケントは首を横に振った。ケントはブラックハープロン以外のドラゴンに乗った経験がなかった。

 パースも首を横に振った。

 唯一、カトラスだけは経験があった。カトラスはすでに8種類のドラゴンの搭乗経験があった。

 

「なら、カトラスは貿易に回ってくれ。ケントとパースはカトラスの護衛だな。おれも貿易に入る」

 

 バーザーがそう取り決めると、さっそく貿易業務に従事することになった。

 

 ◇◇◇

 

 貿易業務のシステムは簡単だが、複雑な事情がからんでいる。

 貿易センターから貿易依頼を行い、貿易ドラゴンで荷物を運んでもらい、その場で現金と交換する仕組みになっている。

 

 貿易には複雑な事情がある。

 

 第一に、地方ごとに貿易ルールが異なっているということ。

 アロマローズ竜王国は「完全王政」と言われており、アロマローズの権限ですべての法律が適用される。

 しかし、それは表向きだけであり、アロマローズは「地方の権限で地方分権を認める」としており、それぞれの地域で貿易のルールが違う。

 

 例えば、サーバーナラフは「アロマローズ竜王国、ハルアヴァラ」と貿易をしているが、サーバーナラフの貿易ルールは以下である。

 

 1、120キロを単位にして、単位関税を指定

 2、貿易ドラゴン1体に対して、護衛ドラゴン2体を義務付け

 3、指定空域は空域交通費無料

 

 一方で、ハルアヴァラのルールは以下のようになっている。

 

 1、81キロを単位にして、単位関税を指定。また、重量に関わらず、指定品目には追加で単位関税を指定

 2、貿易ドラゴン1体に対して、護衛ドラゴン3体を義務付け

 3、指定空域は高度400フィートごとに、貿易ドラゴン単位につき、往復11ドラー

 4、雪、雨など荒天時には、所定の手数料を指定

 

 サーバーナラフは貿易に緩い。貿易で成り立つ国なので、基本的には他の地方より優しい条件となっている。

 しかし、ハルアヴァラは厳しい条件があり、関税が高いうえ、交通費も高額だ。

 しかも、護衛ドラゴン3体義務付けがかなりの厳しい条件である。

 

 護衛はいずれもドラゴンソルジャーを務める者しか担うことができない。当然、人件費は高くつく。

 2体でも経営が圧迫されるが、3体は大きな出費だ。

 

 しかし、サーバーナラフは輸入に生活を依存しているので、先方の厳しい条件に対して強気に交渉できなかった。

 

 ケント、パースともう1人がカトラスの護衛につくことで、護衛3体の条件をクリアした。

 

 ◇◇◇

 

 ケントはカトラスの護衛任務のために、再びドラゴンに搭乗した。

 ドラゴンにまたがり、出発に向けて精神統一をしていると、ケントのもとに誰かがやってきた。

 

「おい」

 

 やってきたのはケントにとって意外な人物だった。

 ケントが振り返ると、目を細めて不機嫌そうにしているカトラスの姿があった。

 

 カトラスは手袋の調整をしながら、ケントに次のように告げた。

 

「貿易ドラゴンは無防備だ。わかってるな?」

「え?」

「命がけで護衛をしろと言ったんだ。お前らの無能で死ぬことになったら、一生呪ってやるからな」

 

 これまで一度も自分から話をすることのなかったカトラスは初めて、ケントに言葉をかけた。

 

「はい」

「……」

 

 カトラスは不満そうな表情を崩さないまましばらくケントの顔を見つめたあと、所定の位置に戻って行った。

 カトラスは貿易ドラゴンである「ミローマ」にまたがった。

 

 ミローマは大きなドラゴンである。ケントの乗るブラックハープロンの3倍ほどの大きさがある。多くの荷物を運ぶことのできるドラゴンである。

 

 ドラゴンは大きければ大きいほどいいわけではない。むしろ、ドラゴンは小さいほど強いと言われている。

 ミローマは体が大きい反面、機動力も飛行速度も乏しい。ハープロンのような素早く身軽なドラゴンに狙われると、まったく抵抗することができない。

 

 そのため、貿易ドラゴンには護衛がつけられる。

 貿易ドラゴンが荒くれ者に狙われた時、それを何とかできるのは、護衛ドラゴンだけである。

 カトラスは自分の護衛がケントやパースなどあまりに頼りない新人であることを不安に思ったようであった。

 

 頼りないが、その中でもそれなりにセンスがありそうなケントに声がかけられた。

 ケントはアロマローズ王室に向かう道中に、テロリストが貿易ドラゴンに襲い掛かるシーンを経験している。

 あのときは部外者だったから、その場から逃げるように離れたが、護衛につく以上、今度は自分が護る側である。

 

 ケントには護衛の経験などない。敵と戦ったことは一度もなかった。

 しかし、未経験だからは言い訳にできない。護衛をする以上、人の命を預かっているのだ。

 

 カトラスがきちんとした軍事用ドラゴンに乗っていれば、敵に襲われても対応できるだろう。

 それをあえて、カトラスは仕事のために、ミローマという非戦闘用ドラゴンに乗り込んで、その命をケントらに預けた。

 ならば、ケントもまた命をかけてカトラスを守らなければならないと考えた。

 

 ケントはカトラスのほうに目を向けた。

 

「おれにどれだけできるかわからないけど、できる限りのことはするよ」

 

 ケントはそう自分の胸に刻んだ。最も、テロリストに遭遇しないに越したことはないだろうが。

 

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