ドラゴンソルジャー   作:やまもとやま

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5、龍の女王、グルグ

 ケントはガベロ族の地を治めているマンダラ―マから特別な寵愛を受けた。その影響で、予定の時刻よりも早く宴が始まった。

 この宴は本来グルグ竜王国を治める女王グルグを歓迎するためのものだったが、ケントを歓迎するものに変化していた。

 

 グルグ竜王国はここ一帯を治める大国で、ケントもカーノルフタンにいたころに主から聞いていたことがあった。

 農場の主の話によると、グルグ竜王国には、ケントの故郷である地球に戻る方法の詳細があるという話だった。

 女王グルグはそのグルグ竜王国を治める王であるから、ケントにとっても地球に戻るうえで重要人物になる。

 

 しかし、ケントは別にもとの世界に戻りたいとは思っていなかった。たとえ、もとの世界に戻っても、ケントにとって心休まる場所はなかったから。

 ドラゴンの住むこの世界のほうが、ケントには親しみ深かった。ドラゴンに乗って空を飛んだ感覚はまだケントの心の中に鮮明に残っていた。

 しかし、いまはドラゴンではなく、マンダラ―マの手の中で過ごさなければならなかった。

 

 マンダラ―マはケントのことをひどく気に入った様子だった。

 マンダラ―マはペットのドラゴンを飼っている。

 

「ドロババちゃん、いらっしゃい!」

 

 マンダラ―マがそのように言うと、ケントの頭の上からノロリと黒いドラゴンが顔を出した。

 

「わっ」

「心配いらないわよ。ドロババちゃんはちょっとシャイだけど人懐っこくてとっても賢いのよ」

 

 ドロババは翼を持たないが、まるで空気に巻き付いているかのように、空中を蛇のように移動してきて、マンダラ―マに巻き付くようにとぐろを巻いた。

 マンダラ―マはドロババの頭を犬を撫でるようになでなでした。

 

「ねえ可愛いでしょう?」

「は、はい」

 

 ケントはドロババから獰猛さを感じた。全長は軽く10メートルは超えているだろうか。ドラゴンというよりは大蛇と考えたほうがしっくり来た。

 全身は漆黒の鱗に覆われていて、体は蛇のように柔軟だった。しかし、背中には鋭利な突起がいくつもついていて、何でも切り裂いてしまいう凶器に見えた。

 

 ドロババは警戒するようにケントを見ていた。

 

「ダメよ、ドロババちゃん。ケントはあだじの大切なお婿さんなんだから。さあ、ちゃんと挨拶しなさい」

 

 マンダラ―マは勝手にケントを婿扱いした。

 ドロババはマンダラ―マによく懐いていて、マンダラ―マの命令には忠実だった。

 

「さあて、みんな揃ったところで、始めるわよ。お前たち、ケントのためにも盛大に盛り上げなさい」

「わおーわおーわおー」

 

 マンダラ―マの掛け声と共に、ガベロ族一行は盛大に声を上げて踊り始めた。

 そんな喧騒のリズムに乗って大量の肉料理と謎の木の実が次々と運ばれてきた。

 話によると、ガベロ族はここの山脈一帯に生息する「オブトーガ」というドラゴンを主食にしているようだ。

 おそらくはそれの肉と思われるものがびっくりするような量運ばれてきた。

 

 肉は真っ黒になっていた。高音のマグマを使って雑に丸焼きにされているのかもしれない。

 ガベロ族の男は巨大な鉈を振り上げて、肉を骨ごと両断し始めた。

 外は真っ黒だが、中はミディアムぐらいの焼け具合だった。

 

「まあ、おいしそう。今日の料理は活きがいいわね。ケント、遠慮なく食べてね」

「は、はい」

 

 ケントは人間が食べて大丈夫なものなのか不安になった。

 異世界のことはよくわからないが、この地にしかない病原菌もはやり病もあるだろう。

 一応、ケントはこちらに来てから特別な健康被害を受けてはいなかったが、ドラゴンの肉を食べるのは初めてなだけに不安だった。

 

 マンダラ―マは用意された肉料理の先端の骨を掴むと力強く持ち上げた。

 マンダラ―マは大きな口を開いて肉をむさぼった。5キロはあると思われた肉の塊を一口で半分ぐらい失われた。

 

「うーん。とってもおいしいわ。さあさ、ケントも好きなだけ食べるのよ」

「い、いただきます」

 

 マンダラ―マの食べかけの肉がケントの前にやってきた。せっかくもてなしてもらったのに食べないのは悪いと思ったので、ケントはいただくことにした。

 どうやって食べようとしばらく考えて、ケントはマンダラ―マの手の上で立ち上がると、両手で肉を引っ張った。

 何とか肉の一部を引きちぎることに成功した。

 大量の肉汁がしたたり落ちた。

 

 ケントはドラゴンの肉を実食した。

 卵を産まなくなった親鳥の肉のような食感だった。非常に硬い肉だった。地球で売られている肉は熟成が進んでやわらかくなっているが、この肉は獲れたてをそのまま焼いているものと思われた。

 

 ゴリゴリと何度も噛まなければならなかったが、味は悪くなかった。あとは食中毒にならなければいいなと思いながらケントは肉を呑み込んだ。

 

「どう、おいしい?」

「はい、とても」

 

 味は問題なかった。

 

「それは良かったわ。さあさあ、じゃんじゃん食べて食べて」

 

 マンダラ―マはそう言うと、次々と肉を口に運んだ。鉄のように硬い骨もバリバリとかみ砕いて一飲みにしてしまった。

 ケントがいくつかの肉を呑み込む間に、数十キロはあったと思われる山盛りの肉はなくなってしまった。

 

「足りないよ。もっと持ってきなさい」

 

 マンダラ―マがそう言うと、追加の肉料理が先ほどと同じように山盛りでやってきた。

 ケントはガベロ族の食欲にはとてもついていけなかった。

 

 ◇◇◇

 

 宴が半ばに差し掛かったころ、ガベロ族の治める山の上空にドラゴンの群れが現れた。

 山を監視していたガベロ族の者たちは近づいて来るドラゴンの群れを見て確信した。

 

「グルグ様が来られたべ」

「ほいな、マンダラ―マ様に報告してくるだ」

 

 グルグがやってきたということで、ガベロ族の伝令たちは駆け足で山を下って行った。

 残ったガベロ族の男は松明に火打ち石のようなものを使い火をつけると、松明を空に突き上げて振った。

 

「ここだべよ。こっちこっち」

 

 

 伝令はマンダラ―マにグルグの到着を伝えた。

 

「あらま、そういえば今日はグルグ様が来られるんだったわ。やだわぁ、すっかり忘れてた」

 

 ケントとの出会いもあってマンダラ―マは宴の目的をすっかり忘れていたようだった。

 

「お前たち、グルグ様を迎え入れる準備よ。急ぎなさい」

「ガッテンだす」

 

 ガベロ族の男たちはよく統率されていた。マンダラ―マの命を受けると一斉に整列して、グルグのための花道を作った。

 

「あの、グルグ様というのは女王様という話でしたけど、どのような方なのですか?」

 

 ケントは気になったのでマンダラ―マに尋ねた。

 

「気になる? でもダメよ、グルグ様に色目を使うなんて。そんなこと決して許されないんだから。それにケントにはあだじというかわゆーいお嫁様がいるんだから」

 

 マンダラ―マは本気でケントの嫁になったつもりになっているようだった。

 

「だいじょーぶよ。グルグ様も美しいけれど、あだじには敵わないんだから。あだじが世界一、グルグ様には申し訳ないけれど、グルグ様は世界第二位の美貌の持ち主ね」

「そ、そうなんですね」

 

 ケントが知りたかった情報はまったく得られなかったが、ずいぶんと高貴な存在であることは間違いなさそうだった。

 

 

 グルグ一行は人為的に整備された平坦な岩場に降りて来た。

 ガベロ族もドラゴンを使う。そのドラゴンの離着陸のために、山のあちこちに平坦なエリアを作っていた。

 ドラゴンの着陸は簡単なことではない。ケントも経験したが、少し間違うと、ドラゴンに乗るソルジャーはしたたかに地面に突き落とされて命に係わる。

 

 グルグ一行は5匹のドラゴンだった。前を行く4匹のドラゴンはケントが乗っていたドラゴンに酷似しており、4匹いずれもソルジャーが乗り込んでドラゴンを操っていた。

 手慣れたベテランと思われ、難なくドラゴンを着陸させることに成功した。

 最後に舞い降りて来たドラゴンはひときわ存在感を強く放っていた。

 

 言葉ではどのようにも表現できない神々しさに包まれたドラゴンだった。その顔つきは知性と凛々しさを感じさせ、7つの尾は赤白く透き通っていて、全身が赤いいかずちに覆われていた。

 それは誰が見ても「竜王グルグ」であるとわかる特別な姿をしていた。

 グルグはソルジャーを乗せていなかった。

 

 グルグが岩場に降り立つと、赤い光がグルグを包み込んだ。

 そして……。

 

 驚くことにグルグは消滅し、代わりにその赤い光からはとても美しい女性が現れた。

 その女性は鋭い視線を前に向けていた。

 どこか、グルグを彷彿とさせるオーラを放っていた。

 

 ドラゴンに乗っていたソルジャーのうち、隊長格と思われる長身で鷹のような目を持った男がすぐにその女性のもとに歩み寄り跪いた。

 

「グルグ様、長旅ご苦労様でした。体調のほうに変わりはございませんか?」

「問題ない。行くぞ」

 

 グルグ女王は素っ気なくそう言うと、さっさと歩き始めた。ソルジャーらはそのグルグを護衛するようにポジションを取ると、マンダラ―マのもとに向かった。

 

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