ドラゴンソルジャー   作:やまもとやま

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6、グルグのバッジ

 グルグ女王がマンダラ―マのもとにやってきた。

 ガベロ族は熱心にグルグを崇拝しているので、グルグの姿が見えると、例外なくすべてのものが地面にひれ伏した。

 

 グルグは当然のようにガベロ族がひれ伏した花道を速足で歩いていって、マンダラ―マの前にやってきた。

 ガベロ族を治めるマンダラ―マも、女王グルグの前にはひれ伏さなければならなかった。

 

「ようこそいらっしゃいました、グルグ様。ガベロ族一同歓迎いたします」

 

 マンダラ―マは大きな体を倒して、地面に頭をつけた。

 ケントも一応頭を下げたが、ちらりと目線をあげて女王グルグを見つめた。

 

 とても美しい女性だった。人間のように見えるが、これまでに見たことがない人間離れした雰囲気を感じさせた。

 ケントの視線はその不思議な魅力に惹き付けられて、グルグに釘付けになった。

 グルグの異性としての魅力以上の何かに引き付けられていた。

 

 ずっとグルグに視線を向けていたので、グルグもケントに気づいたようで、鋭い目をケントのほうに向けた。

 ケントは慌てて視線をそらして頭を下げた。

 

「グルグ様、歓迎の意を込めて、あだじが自信を持ってお勧めする最高の料理を用意しました。ぜひ、召し上がっていってください」

「後でもらおう。まずは動きがあったんでそれを説明する。おい」

 

 グルグがちらりと振り返ると、後ろに控えていたソルジャーが頭を下げて、グルグの前に出た。

 

「マンダラ―マ殿、申し上げます。このたび、グルグ南端のグレインゲートがアルマゴート竜王国の猛攻にさらされました」

「なんと、グレインゲートが? あだじのかわゆい妹が留学しているのよ。妹は無事なの?」

「ランダラーマ殿の安否は確認できていますが、グレインゲートの情勢は刻々と変化しています。一度、グレインゲートのほうに」

「うーむ、しかしあだじはグレインゲートから出禁を受けているのよね。ひどい話よ。あだじが焔石(ひせき)を密売していると言いがかりをつけて一方的に出禁にするのだから」

 

 マンダラ―マは困った顔をした。

 焔石はケントもよく知っていた。焔石はこの世界にある基本的な魔石の一種である。

 魔石は地球における元素記号と同じように、表にまとめられていて、全部で107種類ある。

 

 焔石は12番目にあたる魔石で、1グラムの焔石には、10000リットルの水を蒸発させるだけの力がある。

 しかし、地球のあらゆる物質と同じように、物質をすべてエネルギーに変えることはできず、実際はその1%未満しか力を引き出すことができない。

 それでも、この世界のエネルギー事情を支える重要な役割を果たしていた。

 

 ここ一帯は火山が多く、地中には大量の焔石が沈殿している。ガベロ族は焔石を売って生活していた。

 焔石には販売制限がある。ならず者にそれらが渡らないように、グルグ竜王国が問題ないと認められた団体にしか焔石を販売できないようになっていた。

 マンダラ―マは許可されていない団体に焔石を高額で売りつける闇商売に手を出したという疑惑がある。マンダラ―マ本人は否定しているが、その疑惑を重く見たグレインゲートはマンダラ―マ出禁にしていた。

 

 しかし、マンダラ―マの妹がグレインゲートに住んでいて、そこに敵国が侵攻しているのだという。

 

「どうしよう、心肺だわ。あだじの愛しのランダマーラが」

「私が様子を見てきてやるよ」

「グルグ様が? しかし、グルグ様にそのような仕事を押し付けるわけには」

「気にするな。お前たちの魔石産業は国にとってなくてはならないんだ。他に要望があれば聞くが、何かあるか?」

「まあ、なんと慈悲深い。さすがは我らが竜神グルグ様」

 

 マンダラ―マはそう言って、グルグを称えた。

 

「そうだ、ケント。せっかくだから、グルグ様にお願いしてみたら? あなた、故郷に戻れなくて困っているんでしょう? 慈悲深いグルグ様ならお力になってくれると思うわ」

「いや、でも……ぼく個人の問題を女王様にお願いするなんておこがましいですから……」

「何言ってるの、ケント。あなたの悩みはあだじの悩みよ。任せて、あだじがケントのために頭を下げてあげる」

 

 ケントに溺愛するマンダラ―マはケントの問題を自分のこと、ついてはガベロ族全体の問題だと認識していた。

 

「グルグ様、どうかお聞きください。こちらはケント。あだじのフィアンセなのですが」

 

 ケントは勝手にマンダラ―マのフィアンセにさせられた。

 

「フィアンセ? ガベロの住民が人間と結婚するというのか?」

 

 グルグはマンダラ―マとケントを交互に見て訝った。

 

「そうなのです。愛があればどんな障害も乗り越えられますのです」

「物好きなやつだな。お前は納得してるのか?」

 

 グルグはケントに尋ねた。ケントは肯定も否定もできない状況にしどろもどろになるほかなかった。

 

「もちろん、ケントはあだじのことを愛してくれてるのよね? ね? ね?」

 

 そのように言われると、ケントは首を縦に振るしかなかった。

 

「嬉しいわ。ますます、ケントのために尽くしてあげたくなっちゃった。グルグ様、お聞きください。ケントはこの世界ではないはるか遠くの異界の地からここにやってきたそうなのです。そう、ケントは異世界から来た運命の星なのです」

「異世界だと?」

 

 グルグは首を傾げた。後ろに控えていた兵士たちも顔を見合わせた。

 

「ケントと言ったか、お前。異世界とはどういうことだ?」

 

 グルグはケントに近づいた。

 間近で感じると、グルグからより大きな存在感を感じた。

 

 グルグはこの地で最も高貴な存在。そんなグルグと話をするとなると、ケントは嫌でも緊張してしまった。しかし、地球からやってきたというのがケントの唯一のアイデンティティ。

 異世界の住民というステータスはグルグに特別な存在として扱ってもらうのに十分なものだった。

 

 ケントは地球からこの地にやってきたことをグルグに伝えた。

 グルグは地球のことを知らなかったようで、後ろに控えていた兵士らに尋ねた。

 

「地球を知っている者はいるか?」

「地球……ひょっとしてアースのことではないでしょうか」

 

 兵士の中でもとりわけ貫禄のある隊長風情の男が答えた。

 

「なんだそれは?」

「言い伝えにある天頂の世界のことです。想像を絶する天空に浮かぶ世界とありますので、その存在は確かめられていないのですが……」

 

 隊長風情の男はケントと向かい合った。

 

「少年はアースから来たというのかね?」

「たぶんそうだと思います」

「どのようにしてこの地に来た?」

「雷に打たれたかと思うと、意識を失って、気が付いたらここにいました」

 

 彼らが言うアースが地球と同じ世界かまではわからなかったが、ケントはありのままのことを話した。

 

「いくらかアースの世界について話してくれないか。その地名や著名な人物、歴史的事件のいくつかが伝説と一致するかもしれない」

「僕が住んでいたのは日本という国です。他には、アメリカとかオーストラリアとか、ブラジルとか、イギリスとか……」

 

 ケントは思いついた国の名前を次々と挙げた。

 隊長風情の男は何かを納得したように何度かうなずいた。

 男は立ち上がると、グルグと向かい合った。

 

「グルグ女王、彼は本当にアースの住民かもしれません」

「そうか」

 

 グルグはあまり興味がなさそうだった。言い伝えのようなものにそもそも興味を持っていないのだろう。

 

「アースにはかつての竜神大戦を戦った聖なるドラゴンや邪悪なるドラゴンが封印されていると言われています。もし、少年がアースの住民なら、彼は重要な存在になります」

「そんなに重要なら、連れて行ったほうがいいのか? 学者どもは喜びそうだがな」

「少しお待ちください」

 

 隊長風情の男は再び、ケントに向かい合うと、懐から光り輝くバッジを1つ取り出した。

 

「グルグ竜王国の紋章バッジを少年に渡そう」

 

 ケントは頭を下げてからそのバッジを手に取った。小さなバッジだったが、その中央からは目を突き刺すような非常に強い光が出ていた。

 

「そのバッジを身に着けていれば、グルグ竜王国のどの地にも上陸することができる。より詳しい話が聞きたい。都合があれば、王室特区であるグルグゲートに参られるがよい。そのときは歓迎しよう」

「それはどうも」

 

 ケントにバッジを渡すと、隊長風情の男は手に付けていた時計を確認した。時計と言っても、ケントの知る時計とは違い、時間を指し示す針はなく、太陽が形取られていて、それが徐々に欠けていく仕様になっていた。完全に欠けると深夜0時を示すということも、ケントは農場にあった時計で良く知っていた。

 

「グルグ様、まもなく1時間が過ぎます。しばらくお休みください」

 

 グルグはとても大切にされているようで、1時間の立ち話だけで、休憩が取られた。

 

「それではグルグ様、あだじが自慢する最高の料理でもてなさせたいただきます。お前たち、グルグ様の席を用意なさい」

 

 マンダラ―マの号令と共に、ガベロ族一行は立ち上がり、せっせと働き始めた。

 ケントは先ほどもらったバッジをしばらく見つめていた。

 バッジにはドラゴンの姿が刻まれていて、そこから赤い光が放たれていた。その光やドラゴンはグルグ女王を彷彿とさせた。

 

「ケント、良かったわね。そのバッジを所得するのは大変なのよ。あだじなんてね30年かかってようやく手に入れたんだから。でも、これであなたの故郷に戻れるかもしれないわね。ああ、それは悲しいこと。だって、愛する二人の別れなのだから」

 

 マンダラ―マは一方的にそう言って、勝手に感傷した。

 

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