ドラゴンソルジャー   作:やまもとやま

7 / 27
7、ドラゴンの事情

 3時間ほど滞在した後、グルグは帰って行った。

 これからさらに2か所を巡る予定になっているのだという。とても忙しい日程が組まれているようであった。

 

 グルグは岩場に出てくると、真の姿を解放した。

 グルグの姿が赤い光に包まれると、グルグの姿は消えてなくなり、その光からは神々しい赤いオーラに包まれたドラゴンが現れた。

 ケントはその光景をあっけにとられたように見ていた。

 

 人がドラゴンに変化した。

 それはケントにとっては信じられない光景だった。

 

 しかし、この世界にはドラゴンと人の両方の姿を持つ存在は認められていて、少なくとも1万人以上いることがわかっている。

 グルグはその一人だった。

 厳密に言うならば、人がドラゴンに変化するのではなく、人がドラゴンを纏うのだという。

 目の前に現れた竜王グルグはいわば、女王グルグが身にまとった装飾品のようなものであった。

 いずれにせよ、それはとても珍しい光景だった。

 

「さらば、グルグ様。また会う日を楽しみにしておりますことよ」

 

 マンダラ―マはハンカチを振りながら、グルグとの別れを惜しんでいた。ガベロ族一行も別れを惜しむように、ガベロ族を象徴する旗を振った。

 

 グルグの側近の兵士たちもドラゴンに乗り込むと、声高く号令を上げて、ドラゴンを離陸させた。

 兵士を乗せたドラゴンはゆっくりと翼をはためかせ、あっという間に上空へと飛び上がっていった。続いて、グルグも翼を広げた。

 グルグは翼をはためかせることもなく、ふわりと浮き上がり、一瞬のうちに上空へと到達した。

 

 兵士らはグルグを守るように囲うとそのまま東の空へと消えていった。

 

 ケントはその様子をずっと見ていた。グルグの神々しいドラゴン姿にも見とれたが、兵士らのドラゴンの扱いのうまさにも惹き付けられた。ドラゴンが高度を上げる際は、搭乗員のバランスが不安定になる。ケントもそれは経験してよくわかっていた。しかし、兵士らは十分に訓練が積まれているようで、なんのぶれもなく上空へと舞い上がっていった。

 

「さて、ケントも故郷に戻るのよね。悲しいわ、せっかく巡り合えたのに離れ離れになるなんて」

 

 マンダラ―マはグルグとの別れよりも悲しそうな顔をした。

 

「ああ、なんて悲しいことなのでしょう。お前たちも、あだじのこの悲しみがわかるかしら?」

「ガッテンでございます、マンダラ―マ様」

 

 ガベロ族一行もマンダラ―マにシンクロするように悲しんだ。とても統率された一族であった。

 

「また来ますから、そんなに悲しまないでください」

 

 ケントがそう言うと、マンダラ―マは人が変わったようにニンマリと笑った。

 

「嬉しいわ、ケント。ぜひいつでも遊びに来てね」

 

 マンダラ―マはそう言うと、握りつぶさんかと言うようにケントを握り抱きしめた。

 

「それじゃあ、あだじが直接送ってってあげるわ。ドロババちゃん、いらっしゃい!」

 

 マンダラ―マがそう言って、手を上げると、どこからともなく、ドロババがマンダラ―マに巻き付くように現れた。

 

 ドロババは大蛇のような姿をした漆黒のドラゴンである。マンダラ―マの忠実なペットであると同時に強力なドラゴンでもある。

 翼はないが、非常に速く柔軟な飛行ができる。

 力持ちでもあり、マンダラ―マをまたがせても、悠々と空を飛ぶことができた。

 

 ケントはカーノルフタンに戻るために、今日相棒になったばかりのドラゴンにまたがった。

 ドラゴンは知性が高く、搭乗員としてふさわしいパートナーが現れたら、そのパートナーを主と認めて忠実になる性質がある。

 

 ドラゴンはケントを搭乗員として認めたようであった。

 

「ケント、お前さんのハープロンはなかなか見所があるだべな」

 

 ガベロ族の男が言った。

 

「ハープロン?」

「なんだケント、おめえ、自分のドラゴンのことも知らねえべか。このドラゴンはハープロンだべよ。おらのハープロンよりたくましくて力強いべ」

 

 ガベロ族の男がそう説明した。

 ガベロ族にもドラゴンに搭乗する者はたくさんいる。ガベロ族の山には、ガベロ族が従えているドラゴンがたくさん住んでいた。マンダラ―マの相棒であるドロババもその一種だった。

 

 ガベロ族の男はさらにドラゴンについて詳しく説明してくれた。

 ケントが相棒にしたドラゴンは「ハープロン」と呼ばれる種のドラゴンだった。

 ハープロンは鱗の色が赤いものは「レッドハープロン」、黒いものは「ブラックハープロン」と呼称される。

 ハープロンの特徴は鋭利な翼にある。翼は非常に硬く鋭い。高速で飛び、獲物を翼を持って両断することができる。

 ほかの性質としては、飛行速度が高く運動性能に優れる反面、持久力に乏しい。炎を吐くこともできる。

 

 ハープロンは主にアルマローズ龍王国、グルグ竜王国、クスリナ竜王国の3国に生息している。

 運動性能の高さ、飛行速度の高さから軍事目的で利用されることがほとんどだった。

 

「そうか、お前ハープロンというのか。よろしくな」

 

 ケントの相棒は黒い鱗を持っているので、ブラックハープロンの種となる。ブラックとレッドの最大の違いは、ブラックは速度が高め、レッドは運動性能が高めということだ。

 ブラックハープロンは時速200キロを超える速度で飛ぶことができる。

 

「ケント、準備はできたかしら?」

 

 ドロババにずっしりとまたがったマンダラ―マが大きな声で尋ねた。

 

「いつでもオッケーです」

「じゃあ、行くわよん。ケントとツーリングなんて素敵な思い出になるわ。ドロババちゃん、レッツゴーよ」

 

 マンダラ―マの合図で、ドロババは目を赤く輝かせた。

 ドロババが体を起こすと、周囲の風が舞い、ドロババは垂直にゆっくりと浮かび上がった。ある程度高空にやってくると、空を泳ぐように飛び始めた。

 

 ドロババは「ペクヨン」と呼ばれる種のドラゴンだ。

 ペクヨンは階級4に所属する上位のドラゴンになっている。

 

 この世界ではドラゴンは階級でランク付けがされており、ハープロンは階級1という最底辺のドラゴンに過ぎない。

 階級2には、スライニモートやミローマなどがいる。

 階級3には、エレベルト、スノーコラなどがいる。

 階級3までは、民間での管理が許可されている普遍的なドラゴンでしかない。

 

 階級が4になると、国の許可がなければ所持や繁殖を行ってはならないと厳密に定義される。

 その理由は階級4のドラゴンはそれだけ大きな力を持っているからだ。

 そうしたドラゴンが雑多に個人が保有すると、世界の秩序が乱れる。

 そこで、階級4のドラゴンは国が監視している。

 

 マンダラ―マのドロババもグルグ竜王国から認可されてようやくマンダラ―マのもとに仕えている身であった。

 

 階級4には、ペクヨンやバハムートやアガースラなど、強大な力を持つドラゴンが定義されている。

 

 しかし、階級4の上がある。

 

 階級5は唯一無二、世界でただ1つしかない究極のドラゴンが所属する。

 グルグはその1種にあたる。

 階級5はひとくくりに「竜神」として崇拝し、祀られる存在だった。

 

 現時点では10の竜神が確認されている。

 

 1、無の炎、グルグ

 2、地獄の業火、アルマゴート

 3、静寂の炎、アロマローズ

 4、裁きの炎、ラスバニア

 5、闇の業火、クスリナ

 6、永遠の炎、ウォルマット

 7、聖なる炎、アルマニ

 8、原初の炎、オルーレン

 9、夢の業火、ユルクス

 10、調和の炎、シン

 

 クレイドラでは、こうした竜神を軸に国が興っており、14の竜王国がある。

 ケントが地球から降り立ったカーノルフタンは「静寂の焔、アロマローズ」が治めるアロマローズ龍王国の一部である。

 

 そして、ガベロ族が支配するこの大陸は「無の炎、グルグ」が治めるグルグ竜王国の一部である。

 

「飛べ!」

 

 ケントは空に舞い上がったドロババを追いかけるべく、相棒のブラックハープロンに指示を出した。

 ケントはまだドラゴンライディングのイロハを何も知らない。

 いまはとにかくドラゴンの首にしがみついているほかなかった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。