【完結】魔法少女、クビになりました   作:守次 奏

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13.魔法少女、その事後処理

「つまり、突然現れた魔法少女が敵星体のほとんどを殲滅した、ということになるのか」

「はっ、大佐殿!」

「そうか……報告に感謝する」

 

 内藤からの救援要請を受けて現場に到着した諏訪部は、文字通り巨大な敵星体が跡形もなく消え去っている現場を見て、静かに嘆息する。

 魔法少女は人智を超えた力を行使できる存在だということは承知していたつもりで、あの「救世の七人」作戦では航宙駆逐艦「村雨」の艦長を務めていたのが諏訪部進という男であった。

 だからこそ彼は戦後に魔法少女たちの統括を束ねるポストに収まることとなったのだが、それはともかくとしても彼女たちが文字通りに世界を救うだけの力を行使できる存在であるということを諏訪部は誰より理解し、承知している。

 だからこそ、内藤から報告された現場の異様さもすんなりと呑み込むことができたのだが、そんな彼が密かに溜息をついている理由は別なところにあるということだった。

 

「やってくれたな……」

 

 軍属の魔法少女は、戦後、その力を警戒して、平時における出撃に際しては色々と面倒な手順を踏まなければならないという制約が課されている。

 例えば防衛大臣の認可であったり軍務局長の認可であったりと、いくつもの承認を経なければ出撃できないのが、諏訪部たちの救援が遅れた原因であり、今現在、怪我人の治療に当たっている魔法少女──赫星戦役を生き抜いた英雄たる「原初の七人」の一人である水瀬絵理の出撃に時間を要した理由だった。

 

「……これで、大丈夫です……」

「あ、ああ……ありがとう……」

 

 片手を食いちぎられるという重傷を負っていたはずの市民が、長い黒髪を靡かせる少女の掌にぼうっと灯る光に触れたかと思えば、失われたはずの腕が再生していくという奇跡を目の当たりにして、感謝より先に当惑する。

 だが、それも無理はないことだった。

 可変性を持つ高次元からのエネルギーである魔力を、自在に行使できるのが魔法少女というものだったが、中でも回復魔法というのは極めて希少なものであり、絵理が用いているそれは、治癒もさながら「限定的な時間の巻き戻し」も概念に内包している強力な魔法だ。

 だが、その理屈を知っていようがいるまいが、タイプ・キャンディに食いちぎられたはずの腕が何事もなかったかのように元通りになっていくのは市民にとって不気味なことだというのは、無理もない話だった。

 絵理はどこか化け物を見るような目で自分を見て、日常に戻っていく市民をその碧眼で一瞥すると、しょぼくれたように小さく俯く。

 感謝が欲しくて魔法少女をやっているわけではない。

 それでも、善意でやっていることに対して化け物を見るような目で見られるのはいつだって堪えるものがある。

 気弱で引っ込み思案で泣き虫で、魔法少女になる前は学校でひどいいじめを受けていたのが水瀬絵理という少女の半生だった。

 それ故に彼女の心は脆く、傷つきやすい。

 だとしても、絵理があの赫星戦役を生き抜いた魔法少女の一人であることには変わりなく、芯の部分では折れないとわかっているからこそ、諏訪部は戦後にこうした後方任務を絵理に任せていたのだ。

 

「怪我人の治療は一段落したか?」

「……は、はい……その……一応……」

「すまないな。苦労をかける」

 

 弱々しい絵理の返事を汲み取って、よくやったとばかりに軍帽を被り直すと、諏訪部は恐らくこの事態を引き起こした張本人であろう存在に、現在唯一軍属ではないからこそ最も自由に動ける魔法少女、小日向結衣に想いを馳せる。

 結衣に除隊扱いでの休暇を言い渡したのは、決して彼女を邪険に扱うためではなく、その擦り切れた心を癒すのには時間が必要だという合理的な判断に基づくものであったし、彼女もそれは承知していると諏訪部は受け取っていたのだが、こうして恐らく現場に舞い戻ってきたとなれば、結衣にとっての戦いは終わってなかったのではないのかと、寂寥たる気分を抱くなといわれても、到底無理な話だった。

 3年前の、あの戦いがもたらした傷痕はあまりにも深い。

 それは生き残った魔法少女たちにとってもさながら、日々を生きる市民にとっても、連邦防衛軍にとっても等しく背負わされた十字架であり、「赫星一号」が破壊されたところで、それがすぐさま癒えてくれるということはないのだ。

 忘却は人間に神が与えたもうた唯一の権利であり贈り物であると、どこかの誰かが言っていたが、背負い切るのも辛いとこであれば忘れてしまえるのは確かに一つの権利だともいえる。

 だが、それが組織となれば、一つに寄り集まった政体となれば忘却することは許されず、ひび割れた舵を無理やりにでも取って、戦後の戦争という荒波を乗り切っていかなければならない。

 それがただでさえ諏訪部のような現場上がりにとっては心労の種であったというのに、加えて呪術結界の中に敵星体が現れたとなれば、溜息の一つや二つ、零れるのも仕方なかろうと言い訳をするように諏訪部は再び小さく、長く息を吐き出す。

 

「……ご、ごめんなさい……」

「なぜ君が謝る、水瀬絵理?」

「あ、あの……心の傷とか、ストレスとかは、わたしの魔法で……癒せないので……」

「……君が責任を感じる必要はないよ、これは俺の問題だからな」

 

 万能ともいえる治癒魔法が人の精神状態までも癒すことができないのは、心というものがどうも魂に直結しているかららしいと諏訪部は研究結果や結衣の証言から仮説を立てているが、細かな理屈どうこうよりは、まあそうだろうな、という軍人らしからぬ直感的な理解でもって、そう納得している。

 

「小日向結衣……休暇を与えたのは失敗だったか?」

 

 敵星体及びその変異体を残さず殲滅できたという結果だけ見れば、それは成功に近いのだが、魔法少女を一人野放しにしておくという決断とその代償として潰れた連邦防衛軍の面目については、今度の会議でひどく糾弾されることだろうな、と諏訪部は軍帽を脱いで胸元を仰ぎながら、どこか他人事のように考えを巡らせる。

 特に、佐渡ヶ島奪還作戦で華々しいデビューを飾る予定だった呪術甲冑が踏み台のようになってしまった件については、あの軍務局長がお冠になることが目に見えていた。

 

「……えっと……その、すみません……結衣さんは、元気なんですか……?」

 

 こってりとあのカイゼル髭に絞られる自身の様子を思い浮かべてげんなりとしていた諏訪部に、恐る恐るといった様子で控えめに手を挙げて、絵理はそう問いかける。

 あの戦いを生き残った「原初の七人」から引くこと四人、これといった呼び名はないものの、三名の生存者の中でも絵理は、特に結衣へ懐いている節があった。

 そうなればやはり、慕っている相手の様子というのは気になるものなのだろう。

 

「そりゃあ元気だろうさ、ここまで派手に暴れてくれたんだ」

 

 街への被害を最小限に抑えている都合上、表立った文句をいうこともできない完膚なきまでのその仕事は、小日向結衣という少女の性格を物語っているようなものであったし、敵星体を塵一つ残さず消し飛ばしているその御業は、現役時代、常に先陣に立っていた彼女の戦い方そのものだと、絵理はどこか恍惚として頬を赤らめる。

 絵理にとって、結衣は救世主のようなものだった。

 眼の色が理由で虐められていた自分を救い出してくれた、それだけで自分の命を差し出してもいいと思えるほどに絵理は結衣に入れ込んでいたし、それは無理もない話なのだろうと、諏訪部は事前に受け取っていた調査資料からの記述を思い返して、肩を竦める。

 

「何にせよ、小日向結衣からは話を聞かなきゃならないんだ、同席するか、水瀬絵理?」

「……は、はい……お願い、します……!」

 

 か細く弱々しい声でありながらも即座にレスポンスを返してみせる辺りは流石だと、絵理には悟られないように苦笑を浮かべ、諏訪部は警察への引き継ぎ手続きを簡略的に済ませて検証の現場を後にするのだった。

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