「はああああっ!」
魔力を纏ったアンジェリカの魔法星装が、背中の羽を広げて飛び回る変異体、蟷螂級を両断して塵へと還す。
そして、背後の守りは任せろとばかりに、巨大化したタイプ・クッキーの変異体が「爪」を射出しようとしたところに、クラウディアのメイスが炸裂し、その巨体をひしゃげさせ、押し潰す。
ここに揃っているのがいかに第一世代、第二世代最強の魔法少女たちだとはいえ、巨大なダンジョンから丸々溢れ返ってきた群れを撃退するのは、並大抵のことではない。
戦力の逐次投入は戦術における愚策だとされているが、あのタイプ・ホールケーキはどうも意図的にそれを行っているところがあると、アンジェリカも直感的に理解していた。
「もしかして、消耗戦が狙いですの……?」
「ふふ、私たちが疲れたところを一気に片付けようとは、ゴミにしては小癪なことを考えていますね〜?」
──皆殺しだ。
アンジェリカの言葉を聞いた直後に、クラウディアは穏やかな微笑みを浮かべたかと思えば、一転して底冷えがするような声で、その言葉を舌先に乗せる。
この規模の群れを相手にするのであれば、覚悟していなければならないことだったが、結衣の思考誘導弾を、そして絵理の「毒」を、「オケアノス」による火力支援を受けて尚、その数を減らす気配がないのであれば、こちらとしても切り札を切らされるのは想定していたことだった。
「メタモルブースト!」
クラウディアがその解号を唱えれば、彼女の魂は高次元に至る星の炉へと焼べられて、己を贄にその魔力は今までとは比較にならないほど強く、強く燃え盛る。
しかし、メタモルブーストは諸刃の剣だ。
自分の魂がどれだけの燃料になるかは魔法少女によって大きく異なり、その限界が来た時、魂は消滅して身体は灰になって消えていく。
そのリスクを理解していながらも、クラウディアは膠着した戦局を打破するためにメタモルブーストを使ってみせたのだろう。
しかしそれは、相手の策に乗せられたということなのではないか。
根拠はない。だが、アンジェリカはどうにも、彼女に続いてメタモルブーストを今この瞬間に切ることができそうになかった。
もしも敵の狙いがメタモルブーストを使用させて、魔法少女たちの魂を燃やさせる──本当に消耗戦を狙っているのだとすれば、奴らは、敵星体は正しくこの沖縄に集められたのが、各管区最強の魔法少女であるということを理解している、ということになる。
だとしたら、それは何故なのか。
メタモルブーストを起動したことにより、第一世代魔法少女の通常形態──恒星体と呼ばれるフォームを凌駕する力を見せているクラウディアは、メイスをただ敵陣でがむしゃらに振り回すだけで、変異体やその取り巻きを衝撃波で木っ端微塵に打ち砕いていく。
「クラウディアの奴、張り切りやがって……! だったらこっちも行くしかねえよなあ! メタモルブースト!」
「……同意はできない、けれどこのままでは埒が明かないのも理解はできる……メタモルブースト」
クラウディアに触発される形でその身を恒星体から彗星体へと変化させる、己の魂を星の炉へと焼べる解号を口にしたアリスとアナスタシアもまた、凄まじいまでの魔力を手に、敵星体を駆逐していく。
強力化した「付与」の魔法はアリスの弾丸に地獄の業火を纏わせて、同時にブーストされたアナスタシアの魔力はその氷の魔法を絶対零度の領域まで高め上げる。
己の存在を削り、燃やすことを代償とする代わりに、メタモルブーストは魔法少女たちに大いなる星の加護と、高次元からの力を分け与えることが可能なのだ。
蟷螂級の鎌を魔法星装で受け止めて、返す刀でその胴体を切り裂くと、アンジェリカも深呼吸をして、状況を俯瞰する。
火力支援は十分なほどに行われているが、敵の数は膨大で、空を埋め尽くすほどに敵星体は群れをなしている。
その全てを殲滅するためには、極東管区からの援軍を待つという手段も考えられるが、その間にもあのタイプ・ホールケーキは二波、三波とその群れをけしかけてくるのだから、どの道、待っているのは不毛な消耗戦でしかない。
ならば、迷っている場合ではない。
西園寺の家に生まれた者として、魔法少女に選ばれた者としてその身を立てるために、その証とするために、自分は戦場に立っているのだ。
ならば、やるしかない。
それが未来の可能性を贄に捧げるような行いであったとしても、今ここで犬死にするよりは遥かにマシなのだから。
アンジェリカは強く自分に言い聞かせ、アリスたちに続いてその解号を口にする。
「……メタモルブースト、ですわ!」
瞬間、自らの内にある魂と高次元との接続はより強固に補強され、アンジェリカは文字通りに己の中で何かが燃え上がるような感覚を抱く。
溢れる魔力が光の形を取って、魔法星装の刃に覆い被さるのを見届けながら、彗星体へと変じたアンジェリカもまた、その一薙ぎで多くの敵星体を殲滅し、前へ、前へと歩みを進める。
アリスたちは、そのリスクを理解していなかったわけではない。
確実に自分の存在が削られていくような感覚を抱きながら、やっとか、とばかりにメタモルブーストを起動させたアンジェリカを一瞥し、アリスは、己の内側に湧き起こる激流のような情動に任せて、トリガーを引いていた。
自らの特質である「付与」の魔法が強化されたことで、一発一発が小型のナパーム弾とも呼ぶべきものに変質したアリスの弾丸は、変異体と通常体の区別なく、敵星体を貫いて爆発、炎上させる。
悶え苦しむかのように身をよじる蟷螂級に向けて、いい気味だとばかりにアリスは皮肉な笑みを浮かべると、次のターゲットを探して引き金を引き続ける。
「アブソリュト・ヌーリ」
名前によって定義づけられた氷の魔法はよりその結果を強固なものとして、アナスタシアが呟くと同時に周囲の敵星体を瞬く間に凍結させ、その活動を停止に追い込む。
文字通りの絶対零度によって凍結させられた個体は通常体も変異体もその区別はなく、絵理の「毒」にも匹敵するか、あるいはそれ以上に苛烈な結果をもたらして、アナスタシアは白く染まった息を夏空に立ち上らせた。
──過小評価しすぎていた。
そうとでも言いたいのか、魔法少女たちをただ見つめていたタイプ・ホールケーキは口惜しげに咆哮を上げる。
敵星体の狙いが、消耗戦にあることは間違いなかった。
しかし、メタモルブーストがどれほどの力をもたらすか理解していなかったタイプ・ホールケーキにとって、クラウディアたちの戦力が一気に跳ね上がったのは、予想以上に驚異的だったのだ。
このままでは作戦が崩れかねないと、焦りを見せた敵は、一気に戦力を投入する方向に舵を切ることに決める。
最後衛に陣取っていた「飛竜」級を含めた本命の群れを一気に差し向けて、魔法少女たちを追い込まんと、最後の攻勢に出たのである。
「こりゃあ……敵さんも相当頭に来たってか?」
「……数ですり潰しに来たのね」
アリスとアナスタシアは、思わず弱音を吐きかけた。
だが、それを一喝するかのように振るわれたクラウディアのメイスが、アンジェリカの魔法星装が振るわれたことで千切れ飛んでいく敵星体だったものが、二人を正気に立ち返らせる。
「呆けている場合ではありませんわ、ここを乗り切らなければ死ぬのはわたくしたちの方ですわよ!」
「うふふ、ゴミ相手に死んだとあっては死んでも死に切れませんからね〜?」
幸い、結衣たち第一世代はメタモルブーストを使わずに敵を倒すことができているらしい。
ならば、戦力的にこちらが絶対的な不利を背負っているわけではないということだ。
例えそれが気休めに過ぎないとしても、アンジェリカたちは自分にそう言い聞かせて、突撃してくる敵星体を片っ端から燃やし、凍らせ、打ち砕き、切り裂いていく。
それが未来を天秤の片側に捧げた代償に見合う結果を導くと信じて、そして、人類が生き残る未来のために、第二世代魔法少女たちは命を燃やし、奮戦し続けるのだった。