吸血王と魔法と異世界   作:マスラヲ

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9話

「や、やめてくれ。これ以上は! 他のものならなんでもやる! だからっ」

「悪いがそうはいかない」

 

グシャ。

 

また一人。人が『潰れた』。

 

俺はただ背負っていた大剣を目の前の少年に振り下ろしただけ。頭から股の下まで一直線に叩きつけたらこうなった。もちろん腹で叩いたので挽肉みたいに潰れるのは予想していたが。

 

だが俺からすればたったそれだけの作業で。脆い人間の肉体は。肉片に作り変えられた。

文字通りバラバラに。

 

おかげでまわりは大惨事だ。高価な絨毯が敷かれている床一面が真っ赤になってしまった。

俺の服にもそいつの押し出された目玉が飛んできて血がこびりついてしまった。

まぁこの程度、魔法で綺麗になるので後で落とせばいいだろう。

 

「あ、ああ……クリス! クリスッ!」

「無駄だ。お前の息子、シーラス王国第一王子クリスは死んだのだ」

「ッ!? この悪魔めがぁ!」

「黙れ」

 

ガスッ!

 

「があっ!」

 

いいかげんピーピーうるさいので、俺は現在モラヴィア王国と戦争状態のシーラス王国の国王を鞘で殴り飛ばした。

手加減して腹を強打したので、気を失うことはないだろう。

もっとも。彼からすれば気を失いたかったかもしれないが。

 

しかしまだこの男には用がある。

生きて捕らえて報奨金の足しにもなってもらわないといけないし、なにより。

 

「問おう。第二王女セシリアをどこに隠した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間は遡り。モラヴィア国王との会談の後の話。

 

俺は宣言通り絞れるだけ搾り取ることにした。

こちらの突きつけた報奨金の条件は簡単だ。

 

一つの戦に出るだけで払え。大将級を殺ったら払え。街や村を占領したら払え。王族などの重鎮を捕らえたら払え。

そして王子の目的の王女を捕らえる事ができたら特別手当を出せ。

 

もちろん最初は文官も俺のことを下に見て要求を跳ね返してきた。

安く使い潰す魂胆が見え見えだ。

 

しかし。

 

交渉役の無駄に偉そうな文官をちょっとおちょくったらあっさりうなずきやがった。

ちょろいな。俺はただ「傭兵風情に小金も払えない情けない貴族もいたのか」といった趣旨のことを言ってやっただけなのにな。ククク。

 

奴もあれよあれよという間に、結構多額の報奨金の約束を取り付けられていたことに交渉が終わってから気付いていたな。

あの顔は傑作だった。

それでも俺がこんな大手柄を立てることなどできないと高をくくって自分を納得させようとしていたようだが、無駄だ。

俺を常識の範疇で考えては痛い目を見ることになる。それを教えてやろう。

 

金の支払いについては心配していない。

その理由は二つある。ひとつは、そもそも払えないほど、国の経済が傾くほど要求したわけじゃない。少し無理すれば払えるレベルを選んで突きつけたからな。

第二に、プライドの高い奴は一度自分で言ってしまったことは死んでも守る人種だ。そういう意味では信用はできると言っていい。

 

俺は俺の思い通りに交渉終えられたことに満足し(若干王への仕返し的な意味も含んでいたので)、エヴァの待つ宿へと帰った。

 

そして俺は交渉後、エヴァを連れて(一緒に戦いたいと涙目で甘えてきたので負けた)さっそく戦争地域を回った。

 

ある東の戦場では。

 

「死ね」

「がぁああああ!」

「ぐぼぁっ」

 

俺の剣一薙ぎが数十の敵兵を薙ぎ払い。

 

ある北の戦場では。

 

「じゃま!」

「こんな、こんなガキにぃいいいいい!」

 

エヴァの弓矢が連射で幾人もの人間を同時に仕留める。

 

吸血鬼無双。人外の力を魔法というさらなる力で底上げし、戦術や作戦が意味を為さない、敵からすれば理不尽極まりない存在が暴れまくる。ちなみにエヴァが戦っているのはすでに紅蓮の殲滅者の弟子と公表したからだ。一緒に戦いたいという望みをかなえるためにそうした。

 

そんな俺達のせいでもはや戦線などあってなきもの。

相手国であるシーラス王国軍には同情を禁じ得ない。

そもそも距離という概念が魔法によって消えている俺たちにとって、奇襲など無意味であり、いくら俺達の後ろを突こうとしても無駄な結果に終わる。

相手にとっては悪夢のような戦いが続くが、これも運命。

俺のお眼鏡に叶わなかったのだ。甘んじて滅びを受け入れるがいい。

 

こうしていくうちに結果的に幾人かの将軍の首級を挙げ、いくつかの砦や街を奪い取った俺たち。報奨金も約束通りたっぷりもらった。しっかり証拠を突きつけて言い逃れできないようにしてやったからな。

 

しかしこの結果は当然だ。

俺にとって、いや俺とエヴァにとって。「敵」と呼べるものなど存在しなかった。

まわりを飛びまわるハエを払うがごとく。

たんたんと敵国からの湧き潰しを行っていった。

 

本当に俺たちにとって、この時代の人間はその程度の認識なのだ。

 

例えばだ。

人間だって。その日踏んだアリのことをいちいち数えていたり覚えていたりしないだろう?

そういうことだ。

 

特に俺に限らず、最近エヴァも順調に常識から足を踏み外し始めているため、本当に手に負えないだろう。

 

そんなことを繰り返している間に、あっという間に決戦。

シーラス王国がとうとう王城まで追い詰められ、最後とばかりに持てるすべての戦力を王城前に結集した。

対するモラヴィア王国は俺達の活躍によって節約されていた兵力をこちらもすべて投入。

その戦力差は5倍以上となっていた。

まぁほとんど俺とエヴァのせいだけどな。

 

だが俺はこの決戦では前線に立つことはない。

なぜなら他に用事があるからだ。

しかしこの頃になると、前線の兵達にとって俺とエヴァはまさに神様のような存在になっていたらしく。俺達が参戦すれば勝てるとまでいわれているため、すさまじく戦いに出てくれることを熱望されているような状態なのだった。

しかし出ない。そんな勝手な都合に付き合う義理はないだろう。だいたい傭兵に全軍の指揮を高めろとか命令されても、それは俺の役目じゃないだろうに。それに名声を残してもらうだけの活躍はすでにしているので、別にもう頑張る必要はない。

 

だが、あとひとつやり残したことがある。

 

俺は搾り取ると決めた。

だから俺のこの決戦での第一目標は。

自害される前に。

王女含めた王族連中を見つけ出すことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一度問う。王女はどこだ」

「誰が教えるものか! ワシは死んでも絶対に口を割らんぞ!」

 

せっかく裏技(魔法)を使って城に忍び込み、前線での決死の戦いをしている敵兵を避け王城内に直接入りこんだというのに。

 

肝心の王女がみつからないとは。

そのかわり国王と1人の王子を見つけたが。

もういっそこの国王に暗示にかかる魔法でも使ってやった方がはやいのだろうか。

 

「兄様。見つけた」

「ああ。ありがとうエヴァ。でもできればもう少しこの爺さんをいじめたかったな」

「性格悪いよ兄様」

 

 

めっ、とエヴァが人差し指を立てて「私怒ってます」アピールをしてきた。

なにこれかわいい。

 

おっといかんいかん。

今は王女探しが最優先だ。

今の話から分かる通り、俺は国王で遊んでいたため(だってここ最近戦いばかりで気持ちがやさぐれていたのだ)、利口なエヴァが俺のかわりに魔法で熱源探索をしていてくれたようだ。

それも俺のために。なんて健気な娘だ。今夜も可愛がってやろう。

 

「な、なにをいっておるのだ! そんな簡単に見つかるものでは―――――」

「残念。これが見つかるんだな。魔法で」

「ま、魔法だと? 頭がおかしいのではないか?!」

「そう思うか? なら後ろを見てみろ」

「は?……なっ! ク、クリス!?」

「……」

 

どうせこの後こいつも俺の下僕にするので見せてもいいだろう。

そう。こいつ『も』と言ったように。

俺はすでに殺す前から王子を噛んで下僕にしていたのだ。

 

報奨金が支払われる王族を俺が自ら殺すわけがない。つまりは殺しても死なないのでよかったということ。潰れても再生させれば良いだけの話だし。

王女の居場所を吐かせる脅しにも使える上、それで殺しても死なないのでこのままモラヴィア側に差し出せば報奨金ももらえるという俺に都合がいいことばかりだな。

下僕にされた人間は見た目は普通の人間と変わらない。せいぜい噛んだ首筋に噛み跡がのこるぐらいで、後はこちらの命令どおりに人間らしくふるまうこともできるのだ。モラヴィア王国側に差し出したところで誰もすでに死んでるだなんてわかるまい。

 

「さて。王女の居場所もわかったし、俺も十分楽しんだ。そろそろ貴様も逝っとくか?」

「く、来るな化物! お前たちはいったいなんなんだ! クリスッ! 目を覚ませクリス! おのれぇええええええええ!」

 

ガブリ。

 

 

 

 

 

この日一つの国が滅んだ。

歴史書には他国との戦争に敗れたためと記されているがその実。

一般に伝わる伝説の中には、その戦いで最も活躍したひとりの傭兵が登場する。

紅蓮の殲滅者。

彼は千の敵を打ち払い万の敵を恐れさせた英雄だ、と。

 

こうしてシーラス王国は。

裏で暗躍した吸血王によって滅びを迎えたのだった。

 

 

 

 

 




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