「しかし儲けたな」
「キンピカ~」
国王に加え豚王子ご所望の王女様を捕らえた報酬は思った以上に多かった。
まぁそうなるように交渉したのは俺だが。というか王子がすごいご機嫌で父親にたんまりと払うよう口添えしてくれたのも大きかった。
そんなに価値のあるものかね。あの生気のなくなった人形みたいな目をした女が。
あ、ちなみに王女は噛んでないからな。あれは生身の人間のまま渡した。そういう意味で生気がないのではなく、あれは目の前でモラヴィア国王に父親がなぶり殺しにされたせいだ。もちろん俺の下僕になっていたので俺の力で再生はできるようになっていたがそんなことするわけない。そのせいで王女は精神が壊れた人間になってしまったということだ。
約束通り計8つに袋詰めされて渡された(ひとつ40㎏ぐらいあったので頼んだら王子が馬車もくれた)純金の金の延べ棒の山を受け取り、俺達は王城を後にした。ちなみにもらったはいいが馬車は正直移動の邪魔なのでエヴァの影の中に金ごと収納してある。
まぁお礼に置き土産をしてきてやったが。
今は王都から外にでるために、大通りの一つを門に向って歩いているところ。すでに時刻は夕暮れ。戦勝に沸くこの都は寝静まることなく、むしろ夜も近くなってさらににぎやかさが増してきた。
「おお!我らが英雄様だぞみんな!」
「おや。本当じゃないかい。英雄様、うちに寄ってかんかね!安くするよ!」
「あー!傭兵のおじさんだ!ねぇ、また一緒に遊んでよ!」
「おめぇさんも飲みなせぇ! 今日は無礼講じゃ! はっはっはっ!」
そしてそんな人通りの多い場所を歩いていれば、戦争で目立ちまくった俺の姿を見つけて騒ぎだす人々もたくさんいる。
一般人の間に俺の顔が知られているのは、傭兵として戦に出る以外にも人助けをちょくちょくしていたからだ。これも名声を上げるのに役立った。市民の生活に浸透した活動と並行して、戦で功を立てる。
こうすることで、親しみやすい英雄様のできあがりだ。その目論見はこの反応を見れば上手くいったといえるだろう。
しかし今はこの騒ぎに交じるわけにはいかない。これから街中が混乱の坩堝に陥ることがわかっているからだ。俺の置き土産のせいでな。
だから俺はエヴァの手を引き、喧騒から遠い裏路地に入った。そこから門に向かえばいいだろう。
「これからどうするの?」
「そうだな。十分金は儲けたし。しばらく贅沢できるだろう。なら後は魔法に全集中力を注ぎたいところだ」
「じゃあやっぱり行くの? 魔法世界」
「そうするか。さいわいゲートはヨーロッパにもあるからな」
当初の予定では、『こっち』の世界も一周りするつもりだったのだが。
あるときふと気付いた。
今見て回ってもなにもなくね?、と。
今はまだ1300年代後期になろうというところ。人類の文明は未だ開化していない不毛な時代。
だいたい産業革命もまだずっと先なのに、今から地球を見て回っても、あまりおもしろくないだろうと気付いてしまったのだ。歴史的建造物の数々もむしろこれから増えていくだろうし、秘境の名所なども発見されていないものがほどんどのはずだ。つまり何も建っていない所の土地を見に行ったり、秘境を踏破しなければならないわけで。
俺は自分が楽しくないと見て周る価値もないという根本的な問題に突き当たってしまったのだ。
もちろん現在でもすでに歴史的価値のあるものなどいくらでもある。ヨーロッパひとつ取ってみても有名なパルテノン神殿やキリスト教会の建物など色々と。
しかし一度周って時代が変わってからまた周ると言うのは、俺としては面倒くさいと言わざるを得ない。時間は無限だがその時の気分というのは大切だ。
二度手間はさけたいという意味でも、ある程度人類文明が熟した時に『こっち』は周りたい。
そして考え直した。
知識も技術も倫理観でさえ未発達な今の世界を見るために時間を費やすより、とりあえず魔法を遠慮なく使える世界に旅立った方が効率的ではないかと。
ゆえに『あっち』の世界でも価値のある「金」を大量に手に入れた今こそ、いざゆかん魔法世界という結論に達したというわけだ。
すでにエヴァにもそれは話してあったので、今はそういう話になっている。
『こっち』はもう数百年ほどあとにくれば色々おもしろくなってるはずだ。周るのはその時にする。一応前世の故郷、日本も気にはなるし。というか、魔法世界はいろんな魔法やそれに関連することが盛りだくさんのはずで、嫌がおうにも期待が膨らむ。一度考えるそのことで頭が一杯だ。うむ。
「でもその前に―――――」
俺は気分良くエヴァと今後の予定を語っていたのだが。不快な気配を感じ、一気に不機嫌になった。
そして若干低くなった声で告げた。
「―――――出て来い」
「さすがは紅蓮の英雄様だ。へっへっへっ。」
俺達に殺気を当てて来ていた奴らを呼び出す。
するとゾロゾロと見るからに素行が悪そうな盗賊みたいな恰好をしたゴロツキが物陰から出てきた。20人ほどいるだろうか。
裏路地に入り、確かに人の目からは離れられたが、それと同時に、良からぬことを考える連中にとって活動しやすい状況になったとも言える。特に俺には心当たりがあるので。
そして俺の考えていた通り、「良からぬことを考える連中」がやはりいたということだ。
「俺達は―――――」
「ああ、ああ。言わなくていい。だいたい分かってる。どうせ例の俺の置き土産が原因だろうな。くくっ」
「……」
「沈黙は肯定だぞクズが」
こんな襲撃を受ける理由となった置き土産とは何か。
なに、そんな大したものじゃない。
ほんの少し。
国王と王子がやっていた数々の不正や婦女暴行事件の真相を書類にして提出してやっただけだ。全貴族と官にな。
加えて同じ内容のものを王都の主要施設に張り紙しておいた。うれしいだろう王様。
言い逃れなどできないほど完璧にしてやったからな。
これで一気に国民からの大喝采が受けられるぞ。それがお前にとってどのようなものでもな。
今の戦勝気分でこんな曝露をされて国民はどう反応するかな?
いくら自分達のはたらきを声高に叫んでも、この戦の一番の功労者が俺だということを知っている国民が、特に俺の活躍を間近で感じていた王都や前線の街の住人が、『紅蓮の殲滅者』名義の張り紙を見てなにを思う?
まぁちょっとは「紅蓮の殲滅者にひどい扱いをした」とかいう誇張も入れたが。
すでに悪い噂の絶えなかった王族と、良い噂しかない俺。
立場は逆転している。
「自業自得なんだよ。この国は滅びる。内から。内乱という形でな」
さぁ英雄様からの素敵なプレゼントだ王様。王子も今夜くらいは手に入れた王女を楽しみたかっただろうがそんな時間もないな?
「せいぜい苦しんで死ね」
「ほざけ! てめぇもここで死ぬんだよ!やっちまえ!」
「「おお!」」
そうゴロツキ連中の一人が叫ぶと、それを合図に一斉に隠し持っていたナイフやら吹き矢を取り出す有象無象。
愚かだ。
「エヴァ。遠慮する必要はない。どうせ去るのだから。人目もないことだし」
「うん。わかった」
エヴァは返事をした後、スッと右腕を目の前に突き出して手のひらを開く。
氷の女王降臨なり。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック―――――」
「最後だ。俺達の本当の姿を見せてやろう愚物ども」
そう言って、俺は詠唱途中のエヴァと俺に掛っていた変装魔法を解き、本来の姿をさらす。
「はへっ?」
「おい。なんだよそれ!」
「どうなってんだ!」
「来れ氷精、爆ぜよ風精―――――」
「お前たちに答える必要はない。なぜなら」
「《氷爆》」
詠唱が終わったと同時に。
冷気と爆風が巻き起こる。
冷気は人間の四肢を氷つかせ、自由を奪う。そして一瞬にして脳と心臓に達しその動きを永遠に失わせる。
爆風は人間の体を吹き飛ばす。空間が爆ぜたことで体の一部をもがれる。地面や建物の壁が瓦礫に変わって凶器に変貌する。
「…!…ッ!」
「が……がぎがあぁあああああああああ!」
「し、死にたくな――――」
王一派に雇われたであろうゴロツキどもは。
何も言えずに氷ついて息絶える者。様々な破片が体中に突き刺さりこれまで味わったことのない苦しみを味わいながら死んでいく者。爆風から逃れても徐々に体温が失われる恐怖を感じながら呼吸が止まる者。
最近特にエヴァも得意魔法ということで力を入れてきた氷系魔法の真骨頂が今、目の前で発揮されている。
「さらばモラヴィア。この国もまた、淘汰されていくがいい」
王よ。傲慢なる人の王よ。
約束通り。
苦しみながら死んでゆけ。
国民の手によってな。
「兄様どうっだった? ねぇどうだった? 私の魔法」
「ああ。あいかわらず美しいの一言だよエヴァ。よくやった」
「えへへ~。じゃ、じゃあその……今日もご褒美が……その……」
「そうだな。じゃあどこかゲート近くの街で宿を探そうか。それから、な?」
「う、うん!はやくいこうっ」
さて、これでしばらくこの世界ともお別れだな。
そして次なる目的地は魔法世界。
『魔法』世界。……ワクワクが止まらないな!
いよいよ主人公が魔法世界へ。
果たして主人公は魔法世界でなにを成すのでしょうか。
作者にもわかりません。
~言い訳~
ストックが切れました。
更新速度が落ちます。申し訳ないです。
作者には連日投稿なんて無茶、ストックがなければできないことだったんです。
できればでいいです。それでもいいよと言ってくださる方。
ゆっくりお付き合いしていただけると作者はうれしいです。
ありがとうございました。