吸血王と魔法と異世界   作:マスラヲ

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11話

俺とエヴァはモラヴィア王国を出た後、そのまま通常の方法で魔法世界へのゲートがある土地へ向かった。

最近まで魔法世界である『新世界』とこちらの『旧世界』の間では交流がなかったらしいが、ここ何十年かでそれが少しだけ進み、こちらとあちらを行き来できる門(ゲート)もいくつかできたということだ。

そのひとつがヨーロッパは俺の分かる名で言うとイギリスにあるらしい。ちなみにここが世界で初めてこちらとあちらをつなげたゲートだということだ。

 

そしてそのゲート。現在魔法使いにしか通れない道を歩いて向かっているのだが。

周りにいる他の魔法使いにものすごく奇異な目で見られる。

だが当然だと思う。

 

そもそもまだ国交(世界交?)がない時代なのに、子連れで世界を行き来するもの好きがいるだろうか。いやいない。

さすがに話しかけてくるような失礼な奴はいないが、視線をチラチラ送ってくるのはたくさんいる。

だいたいが仕事や調査、探検目的で訪れているような連中ばかりなので、子連れなど一人もいない。

 

というか未だに魔法世界の一部の人間しかこちらの世界の存在を知らないらしい。

普通の魔法世界人にとって、こちらの世界は伝説かお伽話だと思われているのだ。

これは父が一度だけ魔法世界に行った時に色々な所を周って聞いた話だから確かな情報だ。

 

ゆえに。

こればかりは我慢するしかない。

俺も自覚がある。隣を歩くエヴァは年齢はどうあれ見た目が子供。他人から見れば兄妹に見えなくもない俺達が珍しい存在であると言うのはよく分かるからな(ちなみに変装する意味がないので本来の姿でいる)。

 

「ふん、ふん、ふふ~ん♪」

 

エヴァはそんな訝しむ視線など知ったことかとご機嫌に鼻歌まで歌って、俺の手をしっかり握りながら歩いている。

俺もなんだかそんな陽気なエヴァを見ていると、気にしているのが負けな気がしてきたので考えるのをやめた。

 

そんなことをしていると、これまで濃い霧が掛っていて悪かった視界が急に開けた。

 

「どうやらついたようだな」

「うん! 楽しみだね!」

「ああ」

 

石造りの古風な門が目の前にそびえ立っている。だいたい10メートルくらいあるだろうか。

これが魔法世界への扉。

俺が恋い焦がれていた新世界へと誘うゲートか。

 

「いこうエヴァ」

「は~い!」

 

興奮が最高潮に達し、心臓がバクバク言っている中。

俺達は簡単な審査(要は魔法使いかどうかの確認だけだった。まだ検査が甘いな)を受けゲートをくぐった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に目を開けた時には異世界。

その姿は圧巻と言わざるを得ない。

 

空飛ぶ鯨や魚みたな形をした船。杖に乗って荷物を運ぶ人。魔力で動く道具。天まで届こうかという塔に地上や空中からむらがる無数の人影。電力的なものとはちがう独特な魔力的灯の光。見たこともない変わった形の木々や草花。見たこともない食べ物。数は少ないが人とは異なる姿をした人型。水や火を生みだすための魔法を使う人々。

 

地球とは異なるありとあらゆる文化・文明・歴史を積み重ねてきた世界の姿が、目の前に広がっている。

 

「……魔法」

 

そうだ。

これが魔法だ。

 

「……ま・ほ・う!世界!」

「きゃ~! きれいな所だね!」

「ああ!ああ!本当に!」

 

補正かなにか知らないが、俺の目には映るものすべてが輝いて見えていた。

この感動が分かるだろうか!

俺の転生が本当にここにあるものとして。

今まさにその意味を得たのだ。

 

「それでこれから何する?何する?」

 

エヴァもワクワクが隠しきれてない。

かくゆう俺もな。

 

なぜならこの世界には俺の知らない魔法がたくさんあるはずなのだから。

 

「そうだなまずは……」

 

だが興奮をとりあえず落ち着かせる。無理矢理。

いますぐにでも世界と同化するべく飛び出していきたい衝動をなんとか、なんとか沈める。

先に方針を固めておかなくてはならないからだ。

 

その時―――――

 

 

 

 

「おらどうした蛮族! さっきまでの威勢はどうした!ええ?」

「ははっ。こいつ泣いてますぜ。弱すぎだろ!」

「そういってやるな。俺達が強すぎるんだ」

「……くっ。おのれ人間め」

 

 

 

 

 

なんだかこっちにきていきなり不快な状況に遭遇してしまった。

 

「おら立て!」

「ぐっ!」

 

俺達はゲートをくぐった先にある広場で会話をしていたのだが、問題が発生しているのがその広場の端っこ。ちょうど俺から見て右側で起こっていた。

 

俺が不機嫌丸出しで睨みつけるようにそちらに目を向けると、4人の人影がいた。

 

不快な笑いをその顔に貼りつかせている3人の戦士風の男と。

その男たちの一人に拘束魔法のような光る紐で縛りあげられている褐色の肌の美しい少女。

 

……魔法をそんな使い方しやがってぇ。

 

少女は頭の先から二本の角のようなものが生えているので人族ではないだろう。

まだ年代的には十代半ばぐらい。体も平均より小さく、年齢よりさらに若く見える。

エヴァほどではないが、幼いといえる少女だ。

 

そんな少女は今、苦悶の表情を浮かべ、地面に這いつくばる形になっており、それを3人の男が取り囲んでいるという状況だ。

 

「へへっ。上玉だな。こりゃあ奴隷商に高く売れるぜ」

「そうだな、だが見た目がいいからって手を出すなよ? これは商品なんだからな」

「わかってますって!親分。だけどお触りぐらいはいいっすよね?」

「……いいだろう。ただしそれ以上したら許さん」

「ひゃっほーい!」

「……ひっ!」

 

本当にどこにいってもクズはいるのか。魔法世界に来て浮かれていた気分が一気にガタ落ちした。

この世界でさえ、迫害の問題はついてまわるのか。

 

 

 

 

 

『現実』。

 

 

 

 

 

この言葉が重くのしかかる。

 

なんでこんなとこまできて俺はこんな思いを?。

 

魔法とはそうじゃないだろう。

魔法とは奇跡なのだ。神秘なのだ。

 

それを解せぬクズが。

 

存在していいはずがナイ。

 

コロスゾ。

 

「兄様!兄様ッ!押さえて~!」

「……ハッ! す、すまん」

 

いかんいかん。興奮が悪い方向にいってしまった。

だが仕方がない。

歓喜の渦に浸っていたのにこの現実。

 

イライラしてもいいだろう?

 

気に入らない。ああ気に入らない。気に入らない。

 

「しかしなんで誰も助けないんだ?」

 

俺は正直かなり頭にきていたのだが、俺は一旦冷静になってまわりを見渡してみた。

すると驚いたことに、あの不埒な行為に及ぼうという男共を見ているそこらの一般人達は、そちらにチラリと目を向けると、すぐに外してそのままいってしまうのだ。

 

しかもその表情は同情的なものではなく。かといって不快気なものでもない。

嘲笑なのだ。

 

そして同時に気付いた。

俺が見ていた人間じゃない人型の者たちの首には。

 

必ず『首輪』がついていたことに。

 

まるでこいつは奴隷だとでもいうように。

 

これはつまり。

 

「……なるほど。蛮族か」

 

人種的差別。

ここでも『現実』はのしかかる。

 

分かっていはいた。あえて考えないようにしていただけで。

だって魔法世界へのあこがれが。

それによって薄汚れてしまいそうで。

 

魔法世界とて、住んでいるのは人間や亜人。

そこには様々な価値観がある。

その中で自然に生まれる「優劣」の感情。

否定しても否定しきれない心の性。

 

「……くだらないな。心底くだらない」

 

なんだろうな。この胸糞悪い感覚は。

人間と違うことがそんなにいけないことなのか。

亜人であることが罪だとでも?

 

 

 

 

愚かな考えだ。

 

 

 

 

「ねぇ兄様。どうするの? 本当に殺す?」

「……感情は別にしてもあの少女は気になるのは事実だ」

 

俺は憤りを必死に押さえながらも、少女の首に釘づけだった。

彼女には、俺達の傍を通り過ぎる人間に奴隷のように付き従う他の亜人とは違い。首輪が付けられてなかった。

 

これはおかしい。

 

もし俺が不快に感じている光景が『常識』なのだとしたら。

彼女こそが『非常識』な存在。

 

保護してその理由を聞いてみたい。

 

 

「エヴァはなにもしなくていいぞ」

「は~い」

 

これはほんの気まぐれ。

せっかくの良い気分をぶち壊しにしてくれた奴らを、ほんのちょっと懲らしめてやりたくなった。

それだけだ。

 

というか。

 

おそらくこの出会い次第で、俺の今後の予定が変わるだろう。

 

俺はこれこそが現実だと突きつけられて。

 

それを壊したくなっているのだから。

 

来るまで考えていたことなどすべて後回しだちくしょう。

 

常識は壊すためにある。

 

それを魔法という奇跡を生まれながらにして内包している。

 

魔法世界人に俺が教えてやるのだ。

 

「おい貴様ら。殺すぞ」

 

だからちょっとばかり乱暴な言葉遣いになってもいいよな。

決して殺すぞが口癖になってきたとかそんなことはない。断じて。

 

俺がこの世界を。

 

俺のために造り替えてやる。

 

すべてはそれからだ。

 

 

 

 

 

 




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