吸血王と魔法と異世界   作:マスラヲ

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「我等の前に敵はなく、我等の後に敵はなし。」

作者が大好きなフレーズです。かっこいいですよね。
これを考えた人はすごい才能だと思います。本当に。

あるライトノベルの中に出てくるのですが、その小説自体もすごくおもしろいです。
作者も語彙力がほしい、今日この頃です。

では本編をどうぞ。



13話

琴音の話はやはり俺の考えていた通りむかむかする話だった。

 

「私は樹人族の族長の娘です。契約があるのでこのペンダントさえ持っていればある程度は人の街も安全に出歩けるのですが……」

 

彼女はそう切り出した。

琴音は身分が約束されていて、危ない目に合わないように(亜人は完全に狩りの対象なので)、この街の人間なら全員が知っているこの国の王家の紋章入りのペンダントを身につけていた。これさえあれば一応人と同じ扱いをしてもらえるし、万が一不埒な行いをされれば、した人間側が罪に問われるようになっていた。

 

だがあの3人はそれを知らずに手を出していたらしい。

 

それはともかく。

琴音のような存在の方が圧倒的に少なく。

人と対等な交渉さえ難しいのが亜人の現状。

 

ちなみに樹人族が交渉できたのは、人間の食料事情に直接関わる能力を持っているためらしい。

その能力とは自然を操ることができる、というものだ。

ないものを生みだすことはできないまでも、木々に宿る精霊のような存在から力を貸してもらうことができ、そのため人間側視点で言えば作物の成長促進にとても役立つ。だから交渉で力を貸す代わりに手を出さないという契約が成り立った。

 

ただ、俺からすれば、契約に応じた人間達は『交渉』の『こ』の字も知らない樹人族をいいように使い潰しているのが目に見えている。しかし琴音もさすがに騙されているとまでは思っていないようだ(だって襲わないなんていう口約束を蛮族と蔑む人間達が守るわけがないだろう)。

 

ともかく話は長くなったので一通り整理しよう。

 

俺が琴音から聞きだした話からわかった魔法世界の現状。

 

人間による勢力拡大にともなって、亜人狩りが激しくなった。特に最近【メガロメセンブリア】という都市国家が樹立してからはそれがさらにひどくなったとも。メガロは純粋な人間による国家で、亜人は蛮族であり人間が管理してこそ世界に秩序が生まれると本気で信じているのだという。

 

おかげで今では亜人の身分は最低辺。これまでも獣や化生との混血とバカにされていたのに、人間達の間ではすでに奴隷として扱われるのが普通となってしまっているとか。

 

体の良い労力や性欲発散に使われているだけ。

人間の言い分では、獣と交わったけがらわしい存在。それが亜人。

 

そんな状態で亜人達はなんとも思ってないのかというとそうでもないのだが、事情がまたあるのだ。

 

亜人の国は人間の国ほど豊かではなく、そもそもひとつにまとまっていないため、人間と戦っても各個撃破されてしまい敗戦続き。亜人の勢力は減る一方。囚われる亜人の数も年々増加の一途をたどっている。

 

魔法の研究も人間達の方が進んでいて、それも負ける要因のひとつとなっている。

戦の方法さえ「伝統」を重んじる亜人達は過去から学ぶという風習がないがゆえに知らず、突撃や魔法の乱発ぐらいしかしない。

 

こんな状況では総合的に見て亜人達はどこかで一致団結しないとじり貧なのだがそれも難しい。

なぜなら種族ごとに忌み嫌っていたり、外界と交流を持ちたがらない種族ばかりだから。

あるいは危機感を持っていたとしてもなかなかそのきっかけがない、きっかけの作り方さえ分からない。

 

そもそも琴音の話しぶりを聞いていると、『国』という概念すら思いつかないレベルの知識量のようだ。博識らしい琴音でさえ知っていても思いつかないようだから、亜人全体のことはある程度察することができよう。

 

種族単位でしか動けない者がほとんど。せいぜい弱小種が大きい種族の傘下に入っているぐらい。

今はまだ数は多い亜人と人間の勢力は拮抗しているが、あと数年すればそれも崩れる危ない戦況。

 

魔法世界の現実はこんなところだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだこれは。

 

こんなものが魔法世界なのか。

 

これで魔法を楽しむことができているのか。

 

 

 

 

 

 

―――――冗談じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

「私はずっと考えてきました。すでに私の中では人間とは脅威そのものであるという認識があります。だからうれしそうに人間達との交渉がやっと上手くいったと話す父を見て、敬愛しているはずなのに、その交渉の大切さが理解できるのに、どこかで侮蔑してしまう自分がいて……なぜ? 私はどうしたいのでしょう……どうしたら……すでに何人も同胞が殺されているというのに……! 私は人間どもが許せないっ!」

 

憤りを胸に燃え上がらせて語る琴音をふと見ると。

彼女はいつからか、ポロポロと涙を流しながら話していた。

 

俺が質問し、それに答えて話しているうちはよかった。

ただの事実確認だ。すでに自分も知っていることをしゃべっているにすぎない。

 

しかしそれは同時に琴音にとっては自分の中に宿る疑問や葛藤を呼び起こしてしまうものだったらしい。

それはとてつもなく大きい悩み。苦しみ。

あの気丈で賢そうな少女は、やはり「少女」だったのだ。

 

族長の娘であるという。ならば他の同族より、より近くで人間と接してきた、見てきたはずだ。

そこから彼女が得た結論は、きっと愛する家族とは異なる。

明言は出来ずとも彼女は言っている。

 

「媚びている父を見るのはつらい」と。

 

彼女は気付いていないだろうが。

 

「ライールさん。私はおかしいのでしょうか……私はただ、故郷の皆と平和に暮らせればそれでいいのに……」

「もういいわかった。わかったよ琴音」

 

俺達は話すためにと寄った広場の近くのオープンカフェみたいなところに向かい合って座っていた。俺の隣にはもちろんエヴァがいる。

彼女は基本俺の意志に従うので、終始無言で視線をテーブルの上に固定し静かにしている。だがそれがこの状況ではありがたい。冷静な者がいることがこんなに安心できるとは。

 

エヴァが静かな空気を隣で発していなければ、俺は激情のあまり、ペンダントがあるが亜人である琴音のことを舐めまわすように見てくる周りの人間を手当たり次第に殺してしまっただろう。

 

だがそれは出来ない。

だから。

 

「俺がなんとかしてやる」

「えっ? ラ、ライール……さん……?」

 

俺はもう見ていられなかった。

 

座っていた席を立ち、静かに泣きじゃくる琴音を後ろから抱きしめる。

どうか心が安らぐようにと。

かつてエヴァにしたように。

 

「え、あ、あの? な、なんとかって……どうやって? と言いますかその……恥ずかしいです……」

 

おそらく彼女は相当悩んだのだろう。悩んで悩んで。答えは見つけられなかったにちがいない。

 

だがそれは俺が示してやれる。

俺にだって所詮個人。限界はあるだろう。

だが。

 

数は力だ。

 

それを俺は知っている。

 

「国を作るのさ。俺達と亜人達とで。そこには友好的な人間もいていいだろうが」

「え?」

 

こんな世界に誰がした?

物事を広く考えられない愚か者どもだ。

そいつらが今。この世界にある国々の上層部に巣くっている。

 

それこそが元凶。

 

自分たちが正しく、自分たちが支配「する」側。だから当然。自らの行いこそが正義。

 

そんなやつらにこの世界をまかせていたら。

魔法が穢れる。汚される。

 

そんなことはさせない。

その思いあがりを叩き潰す。

俺が見せてやろう。

魔法とは無限の可能性を持った奇跡なのだと。

 

魔法世界に住む亜人と人間に。

 

魔力を生まれた時から体に持っているこの世界の住人がいかに素晴らしい存在なのか。

 

前世ではいつしか諦めていたロマンをこの手につかんだ俺が。

 

そのすばらしさを分からせてやる。

 

「エヴァ。少し付き合ってほしい。世界を。魔法を見て回るのはその後だ」

「うん! 兄様がやりたいことは私のやりたいことだよ。一緒にがんばろう?」

「ああ。それに遠回りかもしれないと思ったことが近道だったりするしな」

 

さすがはエヴァ。

俺の思いをくみ取ってくれる優しき少女。

 

「まずは樹人族と話をつける。琴音。協力してくれ。そうすれば―――――――」

 

居場所を奪われ続ける亜人達。

戦争はもはや回避できない現実的な未来に迫っている。

 

だが。

 

ないならつくる。

 

彼らの、そしてなによりも俺達の住みやすいひとつの『世界』を。国を。

吸血王たる俺ならできるはずだ。

 

転生する時に王族とか面倒な地位にはしてくれるなと願ったが、この場合は別だ。

俺が『王』となるのだから、俺の思い通りにことを動かせる。王族に生まれて上の命令に従わなくてはならないとか、俺にとって面倒なことは存在しない。なぜなら俺がトップだから。

 

前世の記憶やらも総動員して新たなルールを持った国を作る。作ってみせる。

それもまた。

俺の信じる魔法のために。

 

「―――――そうすれば、お前の願う未来を見せてやる」

 

俺はうち立てる。

吸血王と魔法を愛せる人々による。

真なる魔法の楽園を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか琴音。よく聞け。このままではジリ貧だ。やがて亜人は人間達の奴隷民族と化す」

「!?……それは」

「わかっている、か? しかしどうすればいいのかわからない?」

「……はい。正直私は故郷の樹人族の里からあまり外に出たことがありません。なのでひどい扱いを受ける私達とひどい扱いをする人間のことを理解しようとしても、せいぜい里に蓄えてある文献を読んだり、里に訊ねてくる商人の方の話を聞いたりするくらいです。そもそも人間達のこともあまり知らないし、どのような目で私たちを見ているのかもわかりませんでした」

 

……やはり琴音は賢い。おそらく亜人の中でも特に優秀な娘だ。

まず相手を知ろうということに思いつく時点で別格だ。

そして実際に情報を収集しようという姿勢を取っていることも好感が持てる。

 

「琴音。君はすで核心に至っている。『人間とは何か』。すべてはそこに起因する」

「え?」

「君も悩んだと言っていたな。恨んでいるとも。それは正しい感情だ。いきあたりばったりで人間と相対しても勝てはしない。人間の一番の強みとは何かわかるか?」

「……群れること、でしょうか?」

「正解だ」

 

さすが。少しカマを掛けてみたがある程度考えていたのだろう。そして今も考えている。

そうだ、思考しろ。

考えることをやめたら、その時点でこの戦争は敗北だ。

 

「だがもうひとつある。それが『学習』だ。彼らは過去から学び、未来を学ぼうとし、そして現在に学ぶ。人間は決して歩みを止めはしない。伝統を重んじて立ち止まってしまう亜人と違ってな」

「学ぶ……」

 

ここからは亜人であり外界を知らない少女にとって未知の考え方。

人間の強み。その一端に触れる話だ。

戸惑いながらも噛みしめるように琴音は神妙につぶやく。

 

「人間達は単体では弱い生き物だ。個人の身体能力的にはほとんどの亜人の足元にも及ばないだろう。だから彼らはまず群れる。集団を作る。国家を形成する。そして彼らは日々学ぶ。考える。戦で負けたならその理由を。勝ちたければ陣形を。食料が足りなければ効率的に作る方法を。生活をより便利にしたいなら発明を。そのための理論を。より豊かに生きるために。そうして積み重なって出来ていく先人達の教えを書物や口伝でちゃんと残し、それをさらに未来に向けて現在で研鑚し、次世代の人間がまた新しいものにしていく。更新していく。これが人間の繰り返してきた『歴史』」

 

人間は愚かで欲張りだが、それゆえに繁栄する。

なにかを「求める」というのはそれだけ強いものなのだ。

 

俺もその意味では魔法を『求め』た。

だから今はどうあれやはり俺もまた、人間的なのだろう。

 

「……」

 

琴音は俺の言葉をひとつひとつ噛みしめるように飲みこんでいる。

必死に理解しようとしているのか眉間を悩ましげにゆがめながら。

 

この魔法世界はまだ未熟だ。それはつまりもともとの住人である亜人もまた未熟ということ。

人間に反感を持っていても、それのぶつけ方が分からない。

人間の真似をしようと思っても、そもそもどうやったらいいかわからない。

 

まずは彼らも『学ぶ』ことから始めなければならないのだ。

 

「なんとなく……なんとなくですが、ライールさんの言いたいことがわかりました。つまり私たちにいま必要なのは人間達と同じ場所に立つこと、ですね?」

「……その通りだとも。琴音。やはり君はすごく聡いようだな」

「い、いえ。ライールさんのおかげで考えることができただけです……」

 

俺の本心からの褒め言葉に素直に照れる琴音。

思わず真剣な話をしているのに頬笑みがこぼれてしまう。

 

「っ!! そ、それより! 話が戻りますが、先ほどライールさんがいった『国をつくる』というのはつまりそういうことなのですよね?」

「ああ。俺も多少腕に自信はあるが、一国を相手にできるなどと傲慢なことは考えていない。数は力だ。それを亜人達もまずは持たなくてはならないと思う」

 

俺は確かに吸血王としてかなりの力を持っている。

数百、数千、数万の大軍を相手にしても、なお勝てる自信はある。

だが俺一人突っ込んで例えばメガロメセンブリアを滅ぼしたとしよう。

それで何が解決する?

根底にある亜人差別は変わらず、ともすれば人間達のさらなる反感を生むだけだ。

人間達をすべて滅ぼすなどという危険思想に俺が染まっていたなら話は別かもしれないがそうじゃない。

 

今は未熟なこの世界の人間もまた、同時に魔法を享受する尊い命だ。

それがすべて敵などとは俺も思っていない。

 

俺がしたいのは新しい考え方、世界のあり方を見せつけてやることだ。

そうして僅かでもいい。

亜人と人間の間になんらかのパイプができれば、少しだけこの世界も(多分に俺にとってという意味を含めた)住みやすい世界になるだろう。

 

「……」

 

琴音は一旦口を閉じると、目をつむり思考の海に沈む。

 

俺が示すことができるのは一つの答えのみ。

それをどう受け止め、どうするのかは彼女しだい。

 

俺としてはできれば彼女と共に歩んでみたいものだが。

 

「むぅ~」

「ん?」

 

期待を込めた目線で琴音を見ていると、横から不満たらたらなうめき声が聞こえてきた。

誰かなど見るまでもなくわかる。

 

「どうしたエヴァ?」

「……兄様は琴音のこと好きなの?」

「な、なぜ?」

「あ~! ちょっと返事が遅かった! やっぱりそうなのっ!? まだ会ったばっかりなのにぃ~!!」

「……」

 

しまった。

これが女の勘と言うやつだろうか。

別に女として意識しているとかではないが、確かに俺はこの出会って数時間の少女に好意を抱いている。

 

はっきり言えばこれほどよく出来た娘はなかなかいない。

なんというか、器量がいいのだ。年齢も自己紹介の時に聞いたらまだ16歳だというのに。

それに見たところ、魔力もそれなりのものを持っている。これに加えて種族的な能力も持っていると言うのだから相当なものだ。

 

良い女、なのは間違いない。

そういった感情があったため多少エヴァの問に詰まった。

別に後ろめたくはないのに、なぜか妻に浮気の追及をされる夫みたいな状況になってしまったな。

 

「落ち着けエヴァ。そしてあまり大きな声を出すな。琴音に聞こえ―――――」

「兄様は優しすぎ! 結局自分のためとか言ってるけど琴音ちゃんとか亜人の人達のためにやるんでしょ?素直じゃないんだから! でも……そんな優しい兄様だから私は好きになった。だから…だから他の女の子と仲良くするのも仕方ないけどっ! だってそれが兄様だから! でもでも、一番は私だからね!」

「おいエヴァ。俺へのフォローと願望がごちゃまぜになっているぞ」

「と・に・か・く! 私が『ほんさい』だから、ね!?」

 

それは『本妻』のことを言っているか。どこで覚えたそんな言葉。

 

「あ、あの~。ライール、さん?」

「お、おう。すまない琴音。連れが暴走してしまって」

 

あれだけ騒いでいたら懸念通り琴音にも聞こえていたらしい。

思考の邪魔をしてしまっただろうか?

でもエヴァは悪くないし。どうしたものか。

 

「い、いえその。もう十分考えることができましたのでいいのですが……ライールさん」

「ん?なんだ?」

 

よかった。答えは出せたようだ。やはり彼女は利口な―――――

 

「ま、まずはお友達からはじめませんか?」

「……そうだな」

 

……女とは複雑な生き物なのだな。

 

 

 

 

 

 

最後はエヴァのおかげで明るい空気に(俺にとってはとんだ展開だったが)なったが、琴音はその後で真剣

 

な表情でしっかりと俺の目を見てこう答えた。

 

 

「協力します」、と。

 

 

 

 

 




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