俺は今、非常に驚いている。
まさか吸血鬼として転生するとは思わなかった。
いくら俺の知らない漫画の世界とはいえ………。
自分が吸血鬼ではないかと気付いたのは本当に最初からだった。
俺がブラックアウト後、初めて目を開いた時、目の前では自分を抱いて見下ろす二人の男女がいた。
「ダーリン、私たちの希望が目を覚ましたわ」
「ああ、見ているとも」
どうやら察するにこの二人が両親らしい。
母親らしき人物は一言で言えば深窓の令嬢。腰まで届く金髪がまず目に入る。そして愛おしそうににこちらを見つめる瞳と微笑む口元。その表情は母性に満ちている。さらには完璧なプロポーション。完全無欠な美人だ。
一方父親らしき人物はこちらも美形。精悍な顔つきをしている赤髪の男性だ。なにやらにっこりほほ笑むその口の隙間から人間にしてはやけにとがった八重歯がちらちら見えているが俺は目をそらした。きっとコンプレックスな歯なんだろう。きっとそうだ。
……いやまさかそんな。
考えていることが事実なら種族がおかしいだろ。
「ああ、私の愛しい子。まさか私に赤ちゃんができるなんて思ってなかったわ」
そう。俺は転生したわけだから今俺は赤ん坊だ。だからしゃべることはできないし、上手に体を動かすこともできない。
ゆえに今の俺の心の中の複雑な気持ちは、目の前の幸せそうな夫婦にはとどかないだろう。
「運がよかったのだ。吸血鬼である俺が相手ではそう子宝に恵まれる機会があるわけではないのだからな」
「ええ、本当に。ダーリンと結婚したことに後悔はないけれど、やっぱり子どもは欲しかったわ。私だって女ですもの。だから本当に運がよかったわ……」
本当に愛おしそうにこちらを見つめながら頬をなでてくる美人母。
しかし不思議と、こんな美人に撫でられているのに青年という年代の男としてより、息子としての感情が上回り、こちらもうれしくなってきてしまった。
……うん。意図的に父の言葉を無視したがやはり気になる。
吸血鬼。
はっきりそう言った。
なら俺の予測通りそうなのだろう。
正直びっくりだ。
神よ。確かに魔法的な才能が高ければ良いといったが、これは予想外だったぞ。
……まぁいいか。
今は純粋に新たな生を新たな世界で無事得たことを喜ぼう。
そんな感情に浸っていると、途端に眠たくなってきた。
これは赤ん坊としては仕方のないことだ。寝るのが仕事だからな。
さて、とりあえず自分が吸血鬼の血を受け継いだという事実をしっかり受け止めて、ゆっくり休もう。考える時間はたっぷりとあるのだから。
「お休みライール。安らかに」
母の言葉を最後に、俺は腕のぬくもりを感じながら眠りについた。
名前がライールとなってあれから10年。もう前世の記憶もおぼろげになってきた今日この頃。
少し時間軸が飛ぶが、幼少期の頃のことなど語ってもおもしろくないので割愛する。
恥ずかしいわけではない。ただ本当に繰り返し同じことをしていただけなのでおもしろくないのだ。
ただそれだけだ。他意などない。断じて。
さて、この10年で分かったこと、やっていたことを簡単に説明しよう。
まず分かったことだが、これは俺が吸血鬼として生まれたことの続きとでもいうのか。
どうやら俺は具体的には吸血鬼ではなく、その上位種【吸血王】という種らしいのだ。
吸血鬼である父ハインド(推定年齢500歳以上)と人間である母クレア(推定年齢20代しかし吸血鬼と交ぐわったので寿命は延びている)の間に生まれるのは、高確率で吸血鬼だろうと子供ができた時に思っていたらしいのだが、まさか吸血王が生まれるとは、と後から聞いた。
その名の通り吸血鬼の中でも特別な存在で、その能力は他を圧倒している。
まず、普通の吸血鬼としての弱点は生まれた時からない。つまり不老不死であること、魔力が桁外れであること、身体能力が高いこと以外では人間と変わらないということだ。
なんだこのフルスペックはと思った俺は悪くないだろう。
案の定滅多に現れる存在ではなく、数千年に一人生まれるか、という確率らしい。
おかげて里の中では注目の的だ。
俺が生まれた土地は吸血鬼達のみが住む山深くの里だ。人口は家の家族を入れても数世帯しかないが、吸血によって下僕にした人間がたまに(食料や情報入手のため)出入りするので増えたり減ったするが、基本的に十数人ぐらいしかいない。
さすがに吸血鬼は数が少ないなと思った。
これは余談だが、数が少ない吸血鬼だが、真祖とよばれる吸血王の劣化版のような吸血鬼が生まれることがあるらしい。生まれるという表現に若干含みがあり、理由を母に聞いたところ人間の手によって生まれた吸血鬼をそう呼ぶらしい。
この里にはそういった経緯で生まれた吸血鬼はいないが、たまに出てくるらしく、彼ら彼女らは数百年もすれば人間に討たれてしまうのが通例らしい。なぜなら自然に生まれる吸血鬼は普通周りにも吸血鬼がいる可能性が高く、弱い子供のころは守ってもらえるが、真祖は孤独な元に生まれるので、生き残る確率が極端に低くなってしまうとのことだ。
なんとか救いたいと思ってしまったのは、平和ボケと言われる元日本人の性だろうか。
俺はいつか里を出て旅をしたいと思っているので、両親に頼んで情報を得つつ、その時に真祖といった存在がいないか探しに行こうと決心した。
この里に連れて来てあげれば平和に生を謳歌できるだろう。それを望むかどうかは会ってみなければわからないが。
それはさておき今度はこの世界についてだ。
今俺がいる世界はどうやら前世と同じく地球。西暦で大まかに言うと1300年代だ。里のある場所はヨーロッパのどこかの山脈の間にあり、現在の人間の技術では到底到達できない未開の地。たとえ科学技術が発達しても魔法的な結界で覆われたこの里を発見することはできないだろうが。なにせ里一番の魔法の使い手で、歴戦の戦士でもある我が父が張った結界だ。はっきりいって人間の魔法使いでさえ、英雄クラスでなければ発見は難しいだろう。まぁ発見したが最後、我が父に殺されるだけだろうが。
外の世界では戦争が絶えず、たいそう物騒だという話だ。
もともと人間からは恐怖の対象である吸血鬼は人里離れた場所で静かに暮らし、たまに血を求め闇にまぎれて下りるくらいで、人間がどう争おうが関係ないのだが、一応情報は仕入れる方針にしている。里の長である父の意見が採用されてこうなったらしい。
さて次はやっていたことについてだ。
俺は吸血王という良い意味でも悪い意味でも特別な種族に生まれてしまったので、とにもかくにもまずは体を鍛えることから始めた。それが3歳の時。
次に体術の取得を父に頼みこんで教えてもらった。父は若いころ(と言っても100歳~200歳くらいの時)に様々な戦争に傭兵として参加し、あらゆる魔法技能・体術を会得したので、戦闘に関しては父に教えを請うのが一番なのだ。これが5歳の時。
戦闘技術に関しては父に教えてもらったが、魔法全般に関しては母に教えを請うた。父は戦闘に生かせる魔法しか知らず、体術と合わせてそれらも教わり、吸血王であったこともありかなり凶悪な仕上がりになったと自分自身思ったのだが、はっきり言って詠唱とか魔法陣とかかなり大雑把にしか把握していないようで、教え方も……うん。ひどかった。なのでその辺りの細かい理論と、回復魔法などの補助魔法については、どこかの宮廷魔法使いだったという母に教えてもらった。もちろん吸血王の本領を発揮し、あっという間に習得してしまったが。その時母と父には遠い眼をされたが、楽しんで生きるという俺の目的を果たすためには多少のことには目をつむる。そうした魔法関連の全習得にはまだ遠いが、10歳になった俺の今の状態でも、人間の中で天才レベルに達しているので、順調と言えるだろう。
しかし父はともかく母はいったい何者なのだろうか。二人の出会いをぜひ聞きたいものだ。
そして俺は、こういった訓練と合わせて情報収集も行った。やはり何事も情報が命だ。
魔法を習得している時もかなり楽しかった。両親からは目を輝かせて教えを請う俺はかなり教えがいがあったと言われるほどだ。しかしただ覚えるだけでは魔法の楽しみ方としては足りない。
やはり使ってこそ。だから旅に出ると決めている。世界を(この場合は異界にあるという魔法世界も含めて)回れば、魔法を含めた諸々の技術を使う場面が多々あるはずだ。そうして人生を送ることが、俺にとってこの世界にきた本来の目的に最も沿う形になると確信している。里に引きこもっていては体験できないこと、出会えない人々、見ることのできない景色。そして知りえない未知の魔法。
夢が膨らむな!
たとえそれで人の命を奪うことになっても、だ。
俺は吸血王として生まれたからなのか、人間の命を奪うことに関してなにも感慨がわかない。
この前も父に「訓練の成果を確かめに行こう」と言われ盗賊退治に行って、何人か人を殺したが、なにも思わなかった。
人並に良心はあるが、相手が悪(俺の中の判断基準で)ならば、殺してしまう恐怖よりも、魔法を使いたいという欲求が上回るらしい。対象が人間ならばなおさら。
さて、10年間の中で俺が行ってきたことはこれでだいたい確認できた。
あと数年したら成長も止まり、その容姿のまま完全な不老不死となるらしいので、その時になったら旅に出よう。両親の許可も取ってある。あれだけ溺愛してくれていたので渋られるかと思ったのだが、不老不死で吸血王ならどんなことになっても命は落とさない(落とせない?)のでいいらしい。しばらく会えなくなるのはさびしいと言っていたが。
ちなみに容姿は父の血と母の血を半々ぐらいに受け継いだため、髪は先っぽが少し金色で全体的には赤髪。瞳の色はやはり赤で、母のように優しげながらもキリッとしており、一見優男風だが、感じられる覇気がそうさせているのか、父に似て精悍な印象を受ける顔つきで、背もぐんぐんと伸びている。成長が止まるとその後は姿形に変化はないようなので、どうかこのまま美形として立派に育っていってほしいものだ。
旅の目的はもちろん第一には魔法を活かしておもしろおかしく楽しく暮らしていくということだが、明確な目標というものを考えておくのもいいかもしれない。真祖を連れてくるというのも一つだろう。
今のところ他に思いつくのは……ふっ。
俺も男だ。そして運がいいことにイケメンに部類される男だ。
此処まで言えばわかるだろう?
両親に負けないくらいの幸せをつかむことを、男として忘れてはいけないだろう!うむ!
ちなみに俺はその辺り鈍くはないので(なぜなら既に里の女の子から猛烈なアタックがあったから。さすがにまだそこまで飢えてないので遠慮したが)、包容力のある男を目指して頑張りたいと思う。
さて。それじゃああと数年、あらゆる困難から自分と将来の伴侶(予定)を守れるようにひたすら鍛えていきますか。
……やっぱり魔法って楽しい!
評価・感想等待ってます。