修行を続けてさらに10年が経過した。
どうやらやっと成長が止まり、今の容姿に固定されたようだ。
鏡を見て自分で驚いたわ。
何だこのイケメンはと。身長は順調に伸び、180cm後半ぐらいにまでなった。
前世の俺なら間違いなく妬んでいただろうレベル。
この10年で父と母から教われることはすべて教わった。
二人からも、
「もう教えることは何もない。ライール、立派な男になったな」
「さすが私の子だわ。すごい早さで魔法も覚えちゃったわね。もうライールかっこいいっ。きゃ~」
とお墨付きをもらった。
母よ、落ち着いてください。
「父、母。話しがある」
そしてついに今日、鏡で確認を終えた俺は旅に出ることにした。前々から両親には修行が終わり、成長が止まったら出ると言ってあったので、後は最低限の準備をして俺が「行く」と言えばいいだけだった。
「やはり行くのか」
「ああ。俺は魔法が好きだ。もちろん魔法の使い方によって魔法は悪にも善にもなることはわかってる。だけどそれでも俺は魔法を使いたい。そして楽しく人生を生きたい。不老不死の身だからこそ。俺は俺の納得できる生を吸血王として謳歌したいと思う」
許可はしてくれていたが、寂しさから厳しい顔で再度問いかけてくる父に俺は素直な気持ちを話した。
「……ふっ。まったく、親に似ず素直に育ったものだ。だがそれがうれしい」
父は厳しい顔つきを緩め、一転俺のことを慈しむように微笑んだ。
修行の時は容赦なくこちらを痛めつけてくる鬼のような人だったが、時々見せるこのどこか包み込んでくれるような暖かな表情をする時もあった。それを見るたびに父なりの愛を感じたものだ。
「……ぐすっ。ライールがぁ~。ライールが大人になっちゃったぁ~。でもかっこいいよぉ。うう……だぁ~り~ん」
「まったく……よしよし」
母はいつも真っ直ぐに愛情を注いでくれた。その純心さは、子供のようだったが、その両腕の中に抱かれた時はこの人が俺の母親なのだと確かに感じる温もりが心を満たした。何より母はいつも笑顔で、それを見ているだけで修行の辛さが吹き飛ぶのだから、感謝してもしきれないほどだ。若干父とラブラブすぎて見ているこっちが恥ずかしい時も多々あったが。それさえも息子としては家族を感じる貴重な時間だった。
「ライールよ。聞け」
「……はい」
いつものラブラブ空間を形成していた父と母だが、父はある程度母を慰めた後、真剣な顔をして俺を見詰めてきた。
「今こそお前に伝えよう。我が一族の家名を」
「!?」
今まで気にならなかったが、確かに俺は自分の名前しかしらない。吸血鬼に生まれたからそんなものかと思っていたが、家名はちゃんとあったのか。
「お前の名は。ライール・シュビッツ・ルドラ・ヴァンドール」
「ライール・シュビッツ・ルドラ・ヴァンドール……」
俺は確かめるように時分のフルネームをつぶやいた。
聞くと、なぜかストンと胸の中に綺麗に収まる感じがした。
「そうだ。その名を背負い、世界を見て来いライール」
「ふふっ。きっと大丈夫。なにせ私たちの子供なんですもの。がんばってね」
「はい。今までありがとうございました。時々は帰郷しますので、どうかお元気で」
俺は深々と頭を下げ、その場を立ち上がり荷物を肩に引っ提げて扉に手を掛けた。
そしてもう一度振り返り同じように立った両親に向けて家族がいつもやり取りするように言った。
「いってきます」
「「いってらっしゃい」」
そうして俺は吸血鬼に。
いや。
【吸血王】にふさわしい闇に包まれた森の中に溶け込んでいった。
ここからが俺の。
転生した世界での魔法生活は始まる。
里から出て5時間ほど険しい山を上り下りしていくと、山の中腹で朝焼けの中に人外としてふさわしい視力で人里を発見した。まだ10キロはあるだろうか。それほど大きな街ではなさそうだが、この時代にしてはそこそこの大きさだろう。簡易ながらも城壁があり、最低限街としての機能は整えてあるようだ。
情報ではこのあたりの領地は開拓地らしく、定まった領主がいない無法地帯と聞いている。秩序はある程度保たれているが、所謂騎士などの警察機構が存在せず、代わりにたくさんの開拓民と傭兵や商人が出入りする拠点的役割の場所となっている。
この情報も父の下僕となった人間が実際にあの名も無き街に入って仕入れてきた情報だ。信用度は抜群だろう。
人口はだいたい2千人弱。ただしこれは移動する傭兵や商人を入れた計算なので、本来この街に住む人間は1千~1千5百人くらいになる。未開の地を開拓するには少ないように感じるが、この時代それほど人口が多いというわけでもないので、こんな吸血鬼が隠れ住む奥地の近くまで人が来ているということだけでも立派と言わざるを得ない。
街に入ったら今日は人から色々な話を聞くため、そして何より魔法を使うために仕事を日雇いの探してみよう。開拓地なのだから仕事は力仕事なら腐るほどあるはずだ。そこでばれない様に魔法を使い荒稼ぎして、旅の費用の足しにしようという目論見もある。多少の蓄えは両親からもらったがそれでもあって困るものではない。まぁ別に食べ物を食べなくても大丈夫なのですぐに必要というわけでもないのだが、それでも食べる演技は人の中で暮らす以上必要だろう。服や魔法を使う媒体を購入するためにも必要になるわけだし。
まさに一石三鳥。
もちろん重要なのは魔法だがな。
不届きものを退治する依頼なんかも探してみよう。俺の眼の届く所で悪は栄えさせない。俺は吸血王であり人間を守ってやる義務などないのだが、俺は魔法を使うなら自分も他人も気持のいいことに使いたいと考えている。たとえそれが偽善だとか自分勝手な解釈だとか言われても、俺は俺のやりたいようにやる。それが魔法で楽しく生きていくことにつながる。
助けたい時に助けられず、やりたいことをやれず、暴れたい時に暴れられず、守りたい時に守れない。
せっかく転生までして魔法を手に入れて。
そんな人生真っ平だ。
俺はおそらく自分本意な人間、いや吸血王なのだろう。
だがつまらない人生より、楽しい人生を。
この考えを曲げるつもりはない。
「お? おいあんた。こんな所でどうしたい? 旅人さんかね」
どうやら考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか街の近くについていたらしい。第一街人と接触したようだ。見たところ、木を切り倒して農地を広げる農夫のおっさんが目の前に立っている。良い汗をかいて一息ついた所だったようだ。彼の背後を見ると、街の門が100mほど後ろに見えるほど森が切り開かれている。彼の他にもあちこちで更地と森の境界線で木に斧を振りかぶっている男たちがいる。
「ええ。今各地を放浪の旅の最中でして。よければお金を得られる仕事をと思っているのですが。腕には覚えがあるので力仕事から護衛なんかもできますよ」
「ほほぉ。こりゃちょうどいいや。そんならオラんところでひと働きしていかんかね。ちょうど傭兵が欲しかったところなんよ。最近この街を狙った盗賊団がはびこっててなぁ。他にも雇ってるんだが数が多いに越したこたぁねぇ。一つ頼むわ」
「はい。よろこんで」
その後、報奨金などの話しは別の人間にということだったので、その人間(第一街人の妻という恰幅のいいおばさんだった)に一日あたりの雇い金と盗賊を討ち取った時の追加報酬の話しをして、俺も森の中に入って行った。
さぁ初仕事だ。気合を入れて魔法を使おう。
今までも父に連れられてこの場所とは違う方向の街近くまで出向き、暴れていた盗賊や山賊を訓練と称して粛清していたため、魔法隠匿の方法はある程度熟知しているが、それでも確かめてみたい。今の俺の実力を。
もちろん本気など出さない。
ただ少しばかり地形が変わるかもしれないが。
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