最低でも一カ月に1話は投稿していくつもりですので、どうかご了承ください。
よろしくお願いします。
「ん?来たか」
明けた朝。今日も天気がよく、まさに魔法日和(?)。
時々切り倒すのに苦労する大木を農夫と一緒になって切り倒す作業をして暇を潰していた俺は、日も上がりきって照りつける太陽に良い汗をかきつつも(実は魔法を使って身体強化していた)、魔力を感じ取った。
それも思っていたよりも強大な。
俺と比べると小さいが、人の魔法使いではそのほとんどが返り討ちにあうであろうレベル。
(思ったより大物か? いやしかし……)
これだけ強大なのに、隠蔽しないという時点でおかしな話だ。
魔力と技量が釣り合ってないというか。
「とりあえず近づいてみるか。《隠れ蓑》」
俺はオリジナル魔法《隠れ蓑》を発動。これはなんの捻りもなく気配や魔力、果ては姿まで完全に隠してしまう光系統の魔法だ。ちなみにどれかひとつを隠すことに使うこともできる便利魔法だ。人の中に入って暮らす魔法使いにはのどから手が出るほどほしい魔法だろう。
もちろん本来は長ったらしい詠唱呪文があるのだが、俺は当然無詠唱。
(さて、姿を拝ませてもらうよ【黄金の魔女】)
若干初めてのそこそこの強敵にワクワクしながら農夫のおっさん達から離れて(もちろん本来の仕事である盗賊討伐のために気配を探り周囲にいないことを確認した上で)、昼間なのにあまり明るくない木々が生い茂る森に入って行った。
魔力を感じる方向に木の枝から枝へ飛び移りながら移動していると、やっと人影を発見できた。
やけに小柄だ。
というか。
(お、女の子?)
周りをキョロキョロ伺いながら恐々と移動していたのは、まだ幼い少女だった。
この少女、いや幼女が魔力の正体らしい。
背丈は130cmほど。まだ女性としての起伏のある体型ではなく、汚れてはいるが整った容姿と地面に引きずるまでに伸びた金髪から、人形のような可愛らしさがある。
(彼女が【黄金の魔女】の正体なのか?)
だが、疑いようもなく魔力がすべてを物語っている。俺の予測は的中し、やはり魔法による犯行で間違いなさそうだ。
(後は現場を押さえて事情を聞くかな。場合によっては保護しよう)
さすがに俺もこんないたいけな幼女を捕まえて拷問しようなどという鬼畜になった覚えはない。
おそらくなにかしらのっぴきならない理由があるのだ。
(それにこの感じ……まさか同族?)
俺は彼女からある臭いを感じ取っていた。
それは体臭がくさいとかではなく、本当にただ『臭う』というだけの直感的なものだ。
しかし確信があった。
俺は吸血王。
そういうのには特に敏感だ。
そんなことを考えている間に、彼女は踏み慣らされた道の脇まで進み、そこからチラッと少し先を見ていた。おそらく襲う対象の存在を確認しているのだろう。
そして彼女にとっては運良く規模の大きな商隊が現れた。
俺の目にははっきりとその荷物が映っている。
あれは穀物類だ。おそらく開拓した土地に植える種などを運んできたのだろう。
これから必要になり需要が伸びる物を仕入れるのは商人の基本だからな。
そしてついに彼女の前に商隊が到達した。
その瞬間。
「そこまで」
「きゃっ!」
彼女が闇系統の魔法を使って自分の影の中に入る寸前の所で、俺は彼女の腕を掴んで引き戻した。
この時点で俺は確信した。
彼女こそ【黄金の魔女】だと。
「ちょっと移動するよ」
未だに腕を掴んでいる俺を呆然と見詰めている少女を無視して、俺は転移魔法を行使して飛んだ。
「それでどうしてあんな真似を?」
「ひっ……!」
人が入り込めない森の奥深くに転移し、呆然と当たりを見渡していた少女に事情を聞く。
しかし過度に怯えているようで、両腕で体を抱きかかえて縮こまったまま怯えた目で俺を見るばかりだ。
「最初にいっておくよ。俺は君を傷つけたりはしない。これは約束する」
「……ほんと? ほんとに痛いことしない?」
「ああ。絶対だ」
俺がはっきりと断言し、安心させるように優しく微笑みかけると、震えていた体から力が抜け、表情からも怯えが消えていった。
「それじゃあもう一度聞こう。なんで盗みなんか?」
「だ、だってお腹が空いて仕方がなくって……」
おそらく自分が悪いことをしていたという自覚があるのだろう。素直に白状しているが、それは俺の反応を怖々と伺いながらだった。
だが問題はその態度ではなく、「お腹が空いた」という空腹感の正体と、彼女が自分のことをどれだけわかっているかだ。
「単刀直入に言うけど。俺は吸血鬼だ」
「……へっ?」
「証拠を見せよう。ご覧。この牙を」
俺はまず彼女に正体を聞く前に、自分の正体を明かした。
こう言った場合、相手が自分に何をするかわからない、どういった存在なのか分からない状態では聞いたところで正直に答えずらい。
ならばこちらから名乗ってしまえばいい。それも今回はおそらくこれで大丈夫なはずだ。
だから俺は普段から常に自分に掛けている擬態魔法を(といっても牙を普通の歯に見えるようにしているだけだが)解いた。
「う、うそ。あなたもなの……?」
「あなた『も』か。やはりな」
「あっ、いやその!」
「落ち着け。恐がらなくていい。俺は君を怖れたりしないし傷つけたりもしない。だからそう怯えるな」
うっかり言葉を発してしまい指摘すると取り乱しそうになったので、落ち着かせるために頭をゆっくり優しく撫でてあげた。俺も小さい頃はよく母にやってもらい安心したものだ。
「あっ……う、うん」
可愛らしいな。顔を真っ赤にして照れている。
この反応を見るに、よほど人肌に触れていないと見える。どれだけ辛い境遇だったのか分かろうというものだ。吸血鬼として人間の世界を生きていくのは、相当難しい。こんなまだ吸血鬼として成熟していないこの子ならなおさら。助けを求めても自分の正体がバレたら追い出される。ひどい時には殺されそうにもなったろう。噂が広まれば討伐隊も組まれるだろうし、本当に行き場がない。たまに助けてくれる人がいても結局利用されるだけ。
そんな悲惨な運命を辿った吸血鬼の話など、里では良く聞いた。別にそれに対してどうこう言うつもりはない。しかし同族意識はある。できるなら力になってやりたいと思うのは傲慢だろうか。
「落ち着いたか? ならもっと詳しい話をしてほしい。力になるよ。俺の名はライール。ライール・S・R・ヴァンドール。君の名は?」
「わ、私の名前はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルです。あ、あの。それで……」
「大丈夫。ゆっくりでいい。俺は何処へも行かないよ」
まるで俺をこの場に置き留めたいというように、矢継ぎ早に話をしようとするエヴァンジェリン。人と会話をする機会も久しくないのだろう。
だから俺はまた優しく頭を撫で、笑いかけながら語りかけた。
「う、うん。わかった。えへへ」
どうやらやっと気持ちが落ち着いたらしい。
体全体から力が抜け、気を張っていたらしくその反動で地べたにペタンとへたり込んでしまった。
「あ、あれ?」
「いいさそのままで。俺も座って話しを聞きたかったしな」
そうして俺は、エヴァンジェリンという小さな吸血鬼の話しを聞くことにしたのだった。
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