第6世界転生記   作:ホリイ

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今回はチート回


10話 ヨタカは囀りをやめた

 イーナムクローの裏路地を、一台のレンラク・カメキチが進む。

 気の抜けた名前と裏腹に、それは市販されてる中で最大の装甲値をもつ輸送車だ。

 戦車に等しいそれは、車内にレンラク・サムライの1個小隊を乗せ、静かな音を立てて進んでいた。

 しかし

 

 カッ

 

 すさまじい爆発が起こった。

 大量の火薬を仕込まれた地雷が敷設されていたのだ。

 さしもの装甲車も、タイヤを吹き飛ばし、横転する。

 

「散!」

 

 しかし彼らは冷静だった。

 とっさに車から離脱すると、それぞれ遮蔽を取りアサルトライフルを構える。

 その視点の先には、一人の白人の男がいた。

 スーツの上に、似合わないアーマージャケットをまとい、SCKサブマシンガンを持っている。

 

「ふむ、中々の練度だね。いやいやもっと火薬を持ってくるんだった。」

『隊長、例のチームのフェイスです。』

 

 そう報告したのは小隊付きのデッカーだ。

 彼は情報収集の達人だった。

 

『フェイスか、時間稼ぎに来たか?ならば対応は一つだ。会話せず、撃ち殺せ。』

 

 それは最適解だった。

 フェイスとは、脅迫と虚偽と交渉のプロフェッショナルなのだ。

 逆に言えば、会話をしなければ、それはただの人だった。

 

「僕の話を聞いてくれるかな、とても君たちのためになる話なんだよ。」

 

 フェイス、スミスはニコニコと笑みを浮かべて彼らに近づいていく、まるで無防備だ。

 

 レンラク・サムライは、発砲した。

 

◎◎

 

「いやいやまいったね…。」

 

 スミスが呟く

 十数秒だ。

 持ちこたえたのはたったの、十数秒だった。

 

「本当に君たちのためになる話だったのに。」

「ば、馬鹿な…。」

 

 倒れ伏したレンラク・サムライの隊長が息も絶え絶えに呟く。

 彼の部下は全員が二階級特進していた。

 そして彼もまもなくそうなる。

 

「な、なぜ貴方が生きて…。」

「レッド・サムライが来ていなかったのは残念だよ。」

 

 レッド・サムライ、それはレンラクが誇る世界最強の特殊部隊だ。

 彼らはコモン・ドラゴンなど軽々と狩る。

 そして命じられたなら、恐れること無くグレート・ドラゴンに挑むだろう。

 

「残念だ、僕を裏切った元部下たちが来てなかったのはね。」

「レッド、サムライ…、マスター…!」

 

 スミスはサブマシンガンをバースト射撃した。

 戦場から、彼以外の生者が消える。

 

「まあ、正直言うと、今のチームでレッド・サムライと正面からやり合うのは厳しい。」

 

 彼はあごに手を当てた。

 サザンカの霊視では、彼の体はベータ以上のウェアで埋め尽くされているということしかわからなかった。

 実際、彼の体に埋まっているのはデルタウェアだったのだ。

 

「サザンカは素晴らしい、彼女はいいが…ジェイムズとロータスにはもう少し成長してもらわないとね。それにもう少し前衛が欲しいかな…。」

 

 そんな事を言いながら、彼はその場を立ち去った。

 

◎◎

 

 イニシエーションと呼ばれる技法がある。

 覚醒者は、己の魔力を高めていく過程で、限界にぶつかる。

 それは一般的には魔力6だ。

 それ以上に魔力を高めようとするならば、特別な儀式が必要となる。

 サザンカはシャーマン様式のメイジだ。

 彼らの儀式は、導師精霊からの試練、ヴィジョン・クエストという形で行われることもある。

 つまり導師精霊が認めれば、彼らの階梯は上がるのだ。

 

「はぁ、はぁ…」

 

 ハチドリは、当たらないアサルトライフルを地面に落とした。

 信じられない目で眼前の女性を見つめる。

 

「お前は…なんなんだ!?」

 

 レンラク・サムライの先遣隊たるサムライ、デッカー、メイジはすでに物言わぬ骸となっている。

 そのメイジが呼んだ神道様式の精霊はとっくに途絶している。

 そして、ドカンと音がして閉まっていた扉が吹っ飛んだ。

 何度目かの、ジェイムズの張り手だ。

 

「サザンカ!?…ひゅー…。」

 

 彼は呆れたような口笛を吹いた。

 ハチドリは諦めて地面に腰をついた。

 イローナを人質にとることも、彼女をかついで逃げ出すのももはや不可能だ。

 

「ごめんね、私イニシエーション3なんだ。」

 

 初期カルマはメイキングアプリのオプションで馬鹿みたいな数値にしていた。

 彼女の魔力が素で10に達していた。

 "絶対に関わってはいけない"ドラゴンの魔力に等しい。

 さらに魔力収束具R3により、それは13まで高まっていた。

 完全なチートだった、すべてはシロガネが『いいよ』と言ったからだ。

 それで彼女の階梯は上がったのだ。

 

 ダダダ

 

 銃声が響く。

 ロータスだ。

 彼女は自分が弱いことを知っている。

 無力状態の敵に、止めを刺さないような真似は、できなかった。

 

「ガフッ」

 

 ハチドリが血を吐く。

 彼は少し呟くと、動かなくなった。

 

「ん、なんて言ったんだ?」

「フチが潰れたときより、マシ、だってさ。」

 

 ジェイムズは不思議そうに言った。

 

「そんなもんかねえ、企業人の考えはよくわかんねえぜ。それで、あれどうするよ?」

 

 彼が指差したのは気絶している子供の工作員だった。

 それが"天然物"つまり普通の浮浪児をさらって改造したのだとすれば、殺すのはどうも気持ちよくない。

 そのとき、声がかかった。

 

「やあ、さすが皆だ。イローナ女史も無事のようだね。」

 

 それはスミスだった。

 傷一つ負わず、サザンカたちに合流する。

 

「スミス、怪我は?」

「僕のやることだよ?安心したまえ。」

 

 心配そうなロータスの問にスミスが答える。

 サザンカはうさんくさそうに彼を見たが、何も言わなかった。

 

「それで、何かトラブルかい?」

「いや、このガキどもをどうするかって…。」

 

 ジェイムズがそう説明しようとすると、スミスは倒れた子供に近づく。

 そしてサブマシンガンを二発ずつ丁寧に発射した。

 血の花が咲く。

 

「スミス!?」

 

 驚き、声を上げるジェイムズ。

 だがスミスは冷徹に言った。

 

「ジェイムズ、彼らは工作員だよ。」

 

 そう言われ、ジェイムズは言葉を失った。

 拳を握りしめる。

 

「意外だね、子供を殺したことが?」

「ハッ、こんな商売やってりゃあそりゃあるさ!」

「なら問題ないだろう?」

 

 ジェイムズは一つ息を吐き出すと、普段どおりに戻ったようだ。

 

「そうだな、すまなかった。だがな、殺せるのと好き嫌いは別さ。食わなくていいなら、それですませたかった。」

 

 サザンカはやっと気を取り直した。

 ここは第6世界なのだ。

 これが当たり前だった。

 彼女は危険を愛していたが、こういった件については、いまだ現実世界の認識が強かった。

 

『好きにしなさい。』

 

 シロガネが言う。

 

『強くなればいいのよ、強者には、全てが許される。』

『ありがとう、シロガネ。』

 

「ん、監視カメラの処理はすんだ。」

 

 ロータスが皆に呼びかける。

 彼らのデータは消えたのだ。

 あとはずらかるだけだった。

 

「イローナは?」

「寝てるだけだね…。彼女のどこにデータが有るのか…それはブドリ氏に聞こうじゃないか。」

 

 そうして、彼らはその場を後にした。

 

◎◎

 

「…昔の話だ、仕事帰りに一人の浮浪児を見かけた。」

 

 ブドリの工房で、彼はイローナを起こさず彼女のデータジャックに自作のサイバーデッキを繋ぐ作業を行っていた。

 

「死んだ娘とよく似ていた。気まぐれだ、車に乗せて家で飯を食わせてやった、そしてそのあと記憶がぷつりと消えた。」

 

 彼はイローナ、つまりナイトバードとの因縁を話してくれていた。

 

「目が覚めたら会社の上司から何件もコールが入ってたよ、会社に賊が忍び込んで、俺の生体データで錠が解かれ、大事なデータがまるごと無くなってたそうだ。」

「それは…よく聞く話ですね。」

 

 ああ、ブドリはそう呟いた。

 

「よくある話さ、自分がそんな目に遭うとは思わなかったし…」

 

 彼はイローナの首筋の皮下ポケットを開いた。

 そこには、通常のものと違うデータジャックが格納されていた。

 

「何の因果か、憎いはずの賊と、こうして暮らしている。」

「なんでそんなことに?」

 

 サザンカの質問にブドリは首を振って答えた。

 

「知らんよ、ただストリートに逃げた俺の前にこいつが現れたとき、こいつは何もかも忘れていて、俺を『お父さん』と呼んだ。」

 

 ロータスは推測を語る。

 

「ん、演技のためのペルソナフィックスが暴走した?フチの崩壊で、メンテナンスを受けれなかった可能性…。」

 

 さてな、そうブドリは言うと、自作のサイバーデッキをロータスの前に置いた。

 

「こいつは今、スペックを限界まで引き上げてある。あと2分でぶっ壊れるが、それだけあれば大丈夫だろう。このデータジャックの中にお前さん方の欲しい物がある。あとは勝手にやりな。」

 

 ロータスは頷くと、サイバーデッキを自分と直結する。

 マトリクスの操作時間は現実時間と比べると圧倒的に早い。

 結果はすぐに出るだろう。

 

「ん、回収した。」

 

 そうロータスが言うのと同時だった。

 イローナが目を覚ましたのだ。

 

「あ、あれ?父さん?私ジャンク屋行って、それから…?」

 

 イローナは以前と変わらなかった。

 サザンカはひょっとしたら彼女が記憶を取り戻し、暴れだすのではないかと警戒していたが杞憂だったようだ。

 

「大丈夫だ、イローナ。全部片付いた。」

「え?」

「もうこの街には何もない、何も、残っちゃいねえんだ…。」

 

◎◎

 

 サザンカ一行はブドリの家の前に出た。

 ブドリは彼らを見送ってくれるようだ。

 その時、ジェイムズがブドリに話しかけた。

 

「こいつは俺の持論なんだが。」

「ん?なんだよセキトリ。」

 

 そう話し出す彼は普段と違って見えた。

 

「不幸だと思ったことが、何年も立ってから幸運のきっかけだったってわかることがある。俺はゴブリナイゼーションしたとき、人生が終わったと思ったが、今はかわいい嫁さんとガキどもがたくさんいる。ダチどももな。」

 

 そういってサザンカ、ロータス、スミスを見る。

 

「だからどうだってわけじゃねえが…まあ、あんたが最後に満足して死ぬのを祈ってるよ。」

 

 それはあまりにも青臭いセリフだった。

 だが彼にしか言えないセリフだろう。

 

「…はん、ガラにもねえ事を…。」

 

 その時、サザンカは家の中から不思議そうにこちらを覗き込むイローナの唇が少し動いたのに気づいた。

 

『ありがとう、ランナー』

 

 サザンカは、彼女がそう呟いたような気がした。

 

◎◎

 

 サザンカの運転する車内では、誰も口を利かなかった。

 その時、かけていたラジオが次の曲の説明を始める。

 

『次のリクエストは、21世紀前半の天才シンガーソングライターの一曲だ。曲名は、"カンパネルラ"』

 

 情熱的で、せつない日本語の唄が車内に響く。

 サザンカは現実世界でも聞いたことのあるその曲に引き込まれた。

 カンパネルラは、ジョバンニの友人で、彼と一緒に銀河鉄道に乗った。

 

『素晴らしかったわ、ゲームマスター』

 

 彼女は恐らく届かない独り言を呟いた。




これにてリプレイ風小説終了です
どこまで創作でどこまで実際にあったのかは皆さんの想像にお任せします
素晴らしいセッションを、GMと参加PLに感謝を

次回は少しお休みいただいて短めの掲示板回にでもしましょうかね
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