「どういうことだ?アーティファクトが力を発揮しないというのは。」
「ハッ、そ、それがどうやら持ち主以外使えないパワーがあるようで…。」
軽く70歳を超えて見えるヒューマンの男が、部下を冷たい目で見ていた。
部下は冷や汗を浮かべながらそれに答える。
「持ち主はヒメネス巡査部長だったね。」
「ハッ、どうやら刑事課の誰かが逃がしたようです。」
男は舌打ちをした。
「探せ。」
「では彼女に命じて?」
「そんな必要はない。」
部下は理解できない顔をしていた。
「ヒメネスくんに死んでもらえれば、新しい持ち主を設定できるのだろう?」
「こ、殺すなどと…本気ですか?」
彼は部下を蔑んだ目で見た。
彼らはもう彼女に殺人罪を着せたのだ。
今更殺したところで大した違いはない。
「急ぎたまえ。」
「は、ハッ!」
◎◎
「私のツテで調べたよ。」
セーフハウスに戻ったサザンカとキャロルは、ミルクの報告を受ける。
痕跡は、しっかりと"消毒"していた。
「ナイトエラントについてだが、怪しいのはこいつだね。」
彼女はデータをコムリンクに送信する。
そこには一人の男のデータがあった。
一見すると70歳以上に見えるヒューマンの男だ。
「あ、ヤマダ課長…?」
「そう、ブーア・ヤマダ公安課課長。ヒューマニスに入ってる噂がある人物だ。シアトルのナイトエラントで、一番市長と繋がりが強い。」
小柄な老人だ。
偏見かもしれないが、陰険そうな顔をしていた。
「どういう人?」
サザンカはキャロルに聞いてみた。
「はあ、研修で一度公安課に行きましたが、よくわからない人でした。研修もなぜかずっと分署の草むしりをさせられて…。」
「なにそれ…。やっぱりキャロルがオニだから?」
ミルクはため息をついた。
「かもねえ、それなら腕のいい彼女のことが余計憎かった可能性はある。」
「主犯らしき人物がわかったわけだけど、あとは実行犯を知りたいわね。」
ミルクはかぶりをふった。
「それはちょっと候補が多すぎたわね。ヒューマニス関連で探したんだけど。」
「こっちで現場検証をして使った武器はわかったわよ。」
「それでも無理よ、まったくクソッタレのヒューマニス。多すぎるのよね。」
サザンカは悩んだ。
「いっそ抽出する?このじーさん。」
「それが手っ取り早いかもしれないね。ただナイトエラントを敵に回すことになるよ。」
抽出とは界隈の用語で、要するに誘拐のことだ。
「そ、それは困ります。」
そのとき、ミルクがコムリンクを手にとった。
どうやらコールがあったようだ。
「ホワイトナイトのお出ましのようだ。」
「え?」
◎◎
「ホワイトナイトって貴方?」
「何だよ、文句あるのか?せっかく助けに来たのによ。」
郊外のバーで合流したのは、ジェイムズだった。
相変わらずアロハを着ている。
だが場に浮いているわけではなかった、ミルクの経営するこのバーは、トロールの客が多い。
「まあ、正確には俺じゃなくてスミスのやつなんだがな。彼女と繋いでくれたのは。」
そう言って彼は隣りにいるサングラスを付けた女性をアゴで示した。
30歳くらいの、なんというかいかにもな軍人に見えるヒューマンの女性だ。
「アンダーソン先輩?」
「名前を呼ぶんじゃない巡査、いや巡査部長か。」
その人物はどうやらナイトエラントの関係者のようだ。
「私は、ナイトエラントではなくアレスの意向を受けてここにいる。」
「へえ?どういうことだい。」
ミルクは交渉慣れしているようだ。
さすが多くのコネをもつギャングリーダーだけのことはある。
そしてアレス重工は、世界トップのメガコーポで、ナイトエラントの親会社のことだ。
「彼はやりすぎたんだよ。ヒューマニスに入ろうが市長と繋がろうが問題ないが、身内から殺人犯を出すような差配はナイトエラントの名誉を大きく傷つけた。本社はこの件を、彼も含めてなかったことにすると決定した。」
君たちのフィクサーが交渉したようだがね、と彼女は続ける。
「ふうん、サザンカのフィクサーはかなりやるようだね。」
サザンカは苦笑いした。
彼が善意で何かするのは想像できない、きっと後で面倒な仕事を任せられるだろう。
「それにどうも彼は最近それ以外でもおかしな動きをしている。タリスモンガー(魔法屋)と渡りを付けているようだが、強力な収束具をさがしているらしい。」
「収束具?それってキャロルが持ってたみたいな?」
アンダーソンはうなずいた。
「そうだ、彼女のカタナは今行方不明になっている。彼の手元にある可能性が高い。」
「わ、私のカタナが!?」
どうやらキャロルが狙われたのはそれが原因のようだ。
「じゃああたし巻き添えじゃない!?」
「ご、ごめんなさいサザンカさん…。」
キャロルが涙を浮かべる。
サザンカはさすがに慌てた。
「あ、キャロルを悪く言ったつもりはないの。キャロルは私の大事な友だちだし…。」
「あ゛り゛がとうございます…!」
キャロルは抱きついてきた。
彼女の意外にある胸が当たる。
男の意識も混ざっているサザンカは真っ赤になった。
「サザンカ…?」
「う、浮気じゃないわよ!?」
しかしサザンカは別にミルクと付き合ってるわけではない。
「ひゅー、修羅場かよ。」
ジェイムズが下手くそな口笛を吹く。
この世界ではLGBTは珍しくない。
手術で性別を変えることもできるのだ。
「しゅらばってなに?おじちゃん?」
「ん?あー…、サザンカ何だこのガキは?」
サザンカはジェイムズの疑問を無視した。
いちいち説明するのが面倒になったのだ。
それに、問題が合った。
「ミルク?」
「ああ…、囲まれている。」
「何!?」
アンダーソンが驚いている。
「ジェイムズ、貴方たち付けられたわね。」
「マジか?気づかなかったなあ。」
ミルクは店のスタッフに指示を出している。
客はそれに素直に従っていた。
マイクロビキニトロールズのかしらに歯向かうものはこの店の客にいない。
「さすが公安といったところか、だが実行部隊の腕はどうかな?」
「ふぅ、SWATには動かないよう指示をだしてある。おそらくヒューマニス関連だろう。好きにしてくれ。」
アンダーソンの許可が出た。
「実行犯が来てくれたのかもしれないわね。」
「すまないね、サザンカ。アタシは殺さないのは苦手なんだ。」
サザンカはミルクにウィンクした。
「任せてよ、全員ふんじばってやるわ。」
◎◎
「攻撃準備は整いました。」
「よし、ナイトエラントとは話がついている。グレネードをぶちこんでやれ。」
そのバーの周囲には思い思いの装備をしたヒューマンの集団がいた。
人種も肌の色も様々だ。
覚醒の結果、それらの差別は下火になった。
メタヒューマンは、それ以上の問題だと彼らは考えたのだ。
浄化せねばならない。
「汚い化け物どもめ、思い知らせてやる。」
「隊長!トロールが一匹出てきました。」
店のドアを開けてアロハシャツを着たトロールがのんびり歩み出る。
ヒューマニスたちは色めき立った。
「いいだろう、やつから殺せ!」
だが隊長の隣で声が出る。
「無理だと思うけどね。」
「何!?」
誰もいない場所から声が出る。
それは、サザンカの透明魔法だった。
そして透明になった彼女の蹴りを受けて、隊長らしき男が倒れる。
残念ながら彼女は非殺傷の範囲魔法を習得していない。
一人ずつ蹴り倒すしかなかった。
「メイジだ!」
混乱したヒューマニスたちはメクラっぽうに銃を撃ちまくる。
同士討ちがあちこちで発生した。
「あら、計算違い…こんなに練度が低いなんて。」
店先を見るとジェイムズが掴んでは投げ掴んでは投げしている。
銃弾は彼の皮膚すら傷つけていない。
相変わらずの強靭さだ。
そして、彼女らは殺人の実行犯を捕らえることに成功した。