第6世界転生記   作:ホリイ

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15話 マザーズラブ・イズ・ストロング5

 その、看板も何もない2階建ての建物に侵入したのは、アレス重工の特殊部隊だった。

 訓練通りに各部屋のクリアリングを行い、"目的のもの"を探索していく。

 その建物には人員はひとりもおらず、それは見つからないだろうと隊長は考え出していた。

 

「さすが諜報機関だな。我々の動きに気づいたか。」

 

 戦闘が起きることはなさそうだ、そう彼が考え出したとき、部下からサブボーカルマイクで連絡があった。

 

『隊長、課長室に例のものがありました!』

『わかった、向かう。』

 

 自室に残したか…、そう考えながら彼は無人のその部屋に向かう。

 しかし彼は考えを至らせるべきだった。

 その建物には大量の"紙の資料"がそのまま残されていたのだ。

 それは諜報機関が拠点を引き払うにしては、異常なことだった。

 

「これか…見るのは初めてだが、さすがに大きいものだな。」

 

 その部屋の隅には、くすんだ白色の、課長用デスクと同じくらいの大きさの卵が鎮座していた。

 しかし。

 

「隊長!?これは卵ではありません!」

 

 それを霊視した部下のメイジが叫ぶのと同時だった。

 卵に見えるそれが爆発したのは。

 建物ごと全てを破壊する巨大な火柱が起こり。

 その部隊の家族は、全員が遺族年金の対象となった。

 

◎◎

 

 サザンカは自宅マンションに帰っていた。

 議員殺害の実行犯を捕らえたことで、ナイトエラントと話が通り手配が解除されたのだ。

 今や追われるものと追うものの立場は逆になった。

 

「おおっ、いい部屋だな。」

 

 ジェイムズはサザンカのマンションに入るとまっすぐ冷蔵庫に向かう。

 

「ちょっと!うちの冷蔵庫は貴方にかかればすぐ空っぽよ!?接近禁止!禁止です。」

 

 サザンカは悲鳴のような声を挙げる。

 ジェイムズは残念そうに台所から離れた。

 

「ちょっとあんたら、遊んでる場合じゃないでしょ?サザンカを嵌めたクソッタレを探さないと。」

 

 ミルクが憤る。

 ナイトエラントの"軍曹"ことアンダーソンによると、ヤマダ課長は拠点を爆破させて逃走中らしい。

 アレスの部隊が一つ犠牲になった。

 キャロルは疑問を呈した。

 

「で、でも本社が動くなんて変な話です。議員殺害以外に何かあるんでしょうか?」

「たしかにね、どうもアレスが協力的で違和感を感じてるんだ。そのヤマダって奴は企業にとってまずいことをやってるのかもしれない。ツテのデッカーに調査依頼をしてるんだが、まだ結果はきてないよ。」

 

 さすがミルクはそつがなかった。

 サザンカはジェイムズを台所から排除すると、チームに振る舞うための料理を始める。

 アヤメが彼女の足にまとわりつき、ぴょんぴょんと跳ねながら料理の完成を促していた。

 

「情報なしにこの広いシアトルを探し回っても無駄足よ。今は待ちましょう。」

 

 そして彼らは天然コーヒーと彼女の料理したオムライスに舌鼓をうつ。

 卵はこの世界では貴重品だった。

 なにしろ、鶏は油断すると覚醒してコカトリスになるのだ。

 農業も畜産も第6世界では命がけの仕事だった。

 

「サザンカの手料理は最高においしいね。ねえ、アタシのために毎日手料理を作ってくれない?」

「毎度のごとく遠慮させていただくわ。あたしはまだ誰ともくっつくつもりはないの。」

 

 いつもの掛け合いが終わった時、ミルクの動きがとまる。

 どうやら連絡が入ったようだ。

 彼女はサブボーカルマイクで会話をしているようだった。

 

「うちの部下におかしな情報が入ったわ。ウル…じゃなくてラビウル?だっけ、あの女が言ってた卵の話よ。巨大な卵をアレス・ロードマスターから運び出してる連中がいたらしいわ。あいつの依頼を無視すると面倒よ、行ってみない?」

 

 サザンカはうなずいた。

 

◎◎

 

「ああ!殺しちゃいました!」

 

 キャロルが悲鳴をあげる。

 彼女はコンバットナイフを装備していた。

 当然だが両刃のそれで峰打ちはできない。

 

「気にしなさんな。ほら、進むよ。」

 

 その隣では彼らが必死にしつらえたバリケードを頭のおかしい銃で破壊したミルクがリロードを行っていた。

 クライム・コンフェデレイトという名を持つそのドでかい銃は、小型戦車の主砲と同じ威力を持つ携行火器だ。

 クライムは基本ルールブックに三流企業と記載されているが、『クライム・カタログ』という専用サプリがあるほど公式に愛された企業だ。

 ミルクはクライムのブランド信仰の資質を持っていた。

 

「やることねーな…。」

 

 ジェイムズは呆れた顔だ。

 だがそれも仕方あるまい、この建物に立てこもっていたのは戦闘員ではなく、諜報員だった。

 少し小細工をしたようだが、彼らはどの勢力に襲撃をうけていても、対抗できなかったろう。

 

「や、やめろ。降参する!」

 

 一人の男が両手を挙げて震えながら部屋の中から歩みだしてきた。

 

「フォーブ係長です。ええと、担当してるのは…。」

「頼む…命だけは…グハッ!」

 

 だがそのヒューマンの中年男性は背後から銃弾を受け崩れ落ちた。

 仲間から撃たれたようだ、胸を銃弾が貫通している。

 

「あらあらかわいそうに」

 

 ミルクがそういうと、コンフェデレイトを発射した。

 それは人に対して撃つべき銃ではない。

 すさまじい轟音がひびき、そこから人の形は無くなった。

 

「ぐへっ、ミンチよりひでえや。」

「楽にしてあげたんだよ、優しいだろ?」

 

 気持ち悪そうな声をあげたジェイムズにミルクがウインクするが、絶対に嘘だ。

 彼女がヒューマニスに情けをかけるわけがない。

 

「はいはい、いいから進むわよ。」

 

 そして銃弾を恐れもせず、サザンカが裏切り者を撃った誰かがいる部屋に進む。

 イニシエートによる上位魔法、固着術で能力値増強直観力を高フォースで維持し、戦闘感覚のアデプトパワーまで持つ彼女には、レンラクの工作員ですら銃弾をかすらせることもできなかった。

 不意打ちを受けなければ彼女は回避の達人であり、戦闘感覚は不意打ちに対する対抗力まであるのだ。

 

「くそ、人外どもめ!近づくな!」

 

 その部屋にはメガネをかけた白髪の老人がいた。

 ヘビーピストルを構えているがその腕は大したことが無さそうだ。

 そして、彼は巨大な卵を盾にしていた。

 

「これがドラゴンの卵…初めて見たわ。」

 

 ドラゴンには関わるな、という言葉がある。

 それは全くもって正しい格言だ。

 彼らはあまりにも強大すぎる存在であり、そして人間を羽虫程度にしか思っていない。

 友好的に見えるものもいるが、それは貴重な昆虫なので保護しようという程度の認識なのだ。

 

「ヒメネス巡査部長!これを破壊しろ!」

 

 ヤマダ課長が叫ぶ。

 

「ドラゴンは世界の害悪だ!増えることなど許容できない。卵のうちに破壊するのだ!」

「へー。」

 

 ミルクが感心したような言葉をもらす。

 それは一理あった。

 ドラゴンは機嫌を損ねれば人類虐殺など屁でもない。

 実際複数の都市が消滅していた。

 それを実行すれば確実にドラゴンに殺されることになる、自身の命を顧みない英雄的行為ということもできた。

 

『サザンカ。』

『何?』

 

 そのときシロガネが話しかけてきた。

 

『その卵、破壊しなさい。あなたならできるでしょう?』

 

 サザンカは驚いた。

 たしかにシロガネはドラゴンスレイヤーの導師精霊だ。

 彼らは犯罪、不正、汚染を倒すべき敵とみなし、そして実在のドラゴンもそれに含める。

 しかし、同時に約束を守ることをとても重視する。

 サザンカはラビウル…いや真紅の女王の二つ名を持つドラゴン、ウルビラから卵の保護の依頼を受けていた。

 これを反故することは重大な約束破りだ。

 

『本気?』

『"許可"するわ。ドラゴンは倒すべき存在。卵といえど例外ではない。』

 

 サザンカは卵の前に進み出る。

 そして、通過すると素手でヤマダ課長に強力な当て身を入れた。

 彼は何も言えず気絶する。

 

『サザンカ?』

『お断りするわ。』

 

 彼女はシロガネに答えた。

 

『許可してもペナルティは無しと言ってないじゃない?全ての判定に-2なんてごめんよ。』

『うーん、見抜いたか。』

『貴女本当は蛇か鴉でしょう』

 

 シロガネはぺろりと舌を出す。

 サザンカは悪辣な相棒に呆れたように肩をすくめた。

 それに彼女は気づいていた。

 

「ウルビラさん?卵は確保したよ?」

 

 ミルクたちがハッとして振り返る。

 そこには人の姿に変化したドラゴン、ウルビラがこちらを注視していた。

 おそらく、サザンカたちをつけていたのだ。

 

「貴女がおかしなことをしていたら、殺してたわ。」

「約束は守るわ、私にとって約束は大事なの。」

 

 ウルビラは卵を魔法によって引き寄せる。

 

「全く私としたことが油断したわ。報酬はすぐ支払う、そのトロールはいなかったけれども。おまけよ、含めてあげましょう。」

 

 どうやらジェイムズも報酬をもらえるようだ。

 太っ腹なことだ。

 だが彼女はやはりドラゴンだった。

 

「次はケジメをつけなきゃね。ナイトエラント…許すわけにはいかない。」

 

 ええ!?とキャロルが悲鳴をあげる。

 

「待って、これはこの男が勝手にやったことよ。ナイトエラントは貴女の卵を探して返そうとしていたはずよ!?」

 

 サザンカが慌てて彼女を説得しようとする。

 しかしウルビラは無視した。

 建物の窓から外に飛び出すと、ドラゴンの姿を取り戻す。

 その巨大な真紅の姿は、二つ名にふさわしい猛威を誇っていた。

 おそらくナイトエラントの中央署に向かおうとしている。

 

「くそ!おいミルク!ナイトエラントの連中に避難の連絡を!」

「やるけど、多分間に合わない!」

 

 ジェイムズが叫ぶが、ミルクは悲観的な反応をした。

 恐らく彼女がたどりつくまで数分もかからない。

 サザンカは決意した。

 

「アヤメ?あのおばさんを追いかけないといけない。ママを助けてくれる?」

「うん!もちろんいいいよ!」

 

 サザンカのコンタクトの数値はなぜかアプリで36あった。

 そこでギャングリーダーのミルクが6/6で12、フィクサーのスミスが4/2で6、巡回警官のキャロルが2/5で7だ。

 そしてタリスモンガーのコンタクトを1/3で取得していた。

 残りは7ポイントだ。

 シャドウランでは、知識技能とコンタクトはリストから選ぶのではなく、好きなものを設定できる。

 そしてゲームマスターが認めたなら、それを使うことができるのだ。

 だから、例えば知識技能に整髪/リーゼントも設定できるし、コンタクトにJKを持つこともできる。

 

「えいっ!」

 

 アヤメはウルビラが飛び出したのと同じ窓から飛び降りるとその姿を変える。 

 それは、ウルビラがいわゆる西洋竜だったのと違い、長い胴体を持つ東洋の龍の姿だった。

 サザンカのPLは、普通のゲームマスターだったなら絶対に認めないコンタクト:ドラゴン1/6で設定したのだ。

 

『ママ、落ちないでね?』

 

 しかし、コネ値が1で、人間に対して忠誠値が6のドラゴンなど存在しなかったのだ。

 だから世界は、アヤメを創り出した。

 サザンカを母と慕う彼女を。

 

「空中戦ね!行くわよ!」

『がんばりなさいサザンカ!いいでしょう!イニシエート4を認めます!』

 

 シアトルの空で、死闘が始まろうとしていた。

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