第6世界転生記   作:ホリイ

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テキスト3時間2回、ボイセ3時間1回でやったセッションです


17話 アリス・イン・ザ・エレメンタル1

「サザンカさん、朝ですよ。ほら起きてください。」

「うーん、あと5分…。」

 

 サザンカが治療のための培養槽から出てから1ヶ月が経っていた。

 第六世界の技術はすさまじい。

 焼けただれていた彼女の肌は元の白さを取り戻していた。

 そして、その間には色々なことがあった。

 

「うーん、あと5年。」

「アヤメちゃんも変な真似しない!」

 

 まずオニ種族の警官であるキャロルがマンションの隣に引っ越してきた。

 サザンカの監視任務を受けたらしい。

 そして毎朝彼女の元を訪れてくる。

 さすがに服装は警官の制服ではなく、ジーンズにコットンシャツだ。

 キャロルは真面目なのだ、緑色の頭髪もきっちり整えられている。

 

「キャロルに合鍵渡さなきゃよかったかな。」

 

 サザンカはぼんやりと目を覚ますと寝癖まみれの金髪をかきむしった。

 この一ヶ月、何をするでもなく過ごしている。

 いや、一応やることはやってるのだ。

 

「アヤメちゃん、早くしないと遅刻しますよ。」

「はーい。」

 

 次にアヤメをスクールに入れた。

 それなりにいいところだ。

 嫌がるかと思ったが意外に楽しんでいるらしい。

 もちろん正体は内緒だ。

 サザンカはアヤメが人間を下等生物だと思わないようになって欲しいと考えたのだ。

 サザンカとアヤメは洗面台に並んで一緒に髪をとかす。

 

「サザンカさん、今日のスケジュールを教えてください。」

「んー、そうね。イニシエーションの修行かしら。」

「まだ強くなる気ですか…。」

 

 そしてなぜかシロガネがいなくなった。

 やはりドラゴンに敗北したのがよくなかったのだろうか。

 導師精霊も資質の一つだ。

 ならば消えてなくなることもあるのかもしれない。

 

「なんだか覚えてないんだけど強くなっておかないとまずいような気がするのよね。」

「強迫観念では?精神科医を紹介しますけど…。」

 

 そこで修行に打ち込んでいるのだがどうもイニシエーションが成功しない。

 ひょっとしたらこれは初期カルマが切れたのだろうか。

 だとしたら『ラン』をする必要がある。

 そして扶養家族の資質を得た今、生活費も工面しなければならなくなっていた。

 

『おはようサザンカ、今日も美人だね。』

 

 そのときコムリンクがコールを伝え、トロードからではなく手動で通話をオンにすると、見慣れた平凡な男の姿が写った。

 

「その義務感みたいな枕詞いらないわよ。」

『うーむ、女性というのは難しいな。』

 

 それはフィクサーのスミスだった。

 おそらくサザンカの身の回りが慌ただしかったせいだろう、最近連絡をよこしてこなかったが、いつもどおりの調子で話しかけてくる。

 

「ところで今キャロルがいるけど大丈夫なの?彼女企業SIN持ちよ?」

『あーできれば聞こえないところに行ってもらえると助かるね。』

 

 というわけでサザンカは今トイレの中だ。

 さすがにキャロルもここまでは来ない。

 

『久しぶりに君に依頼をしたくてね、なにしろ「信頼できる人材」を求められた。』

「また昆虫精霊じゃないでしょうね。」

 

 サザンカはこの世界に来て最初のランを思い出した。

 あれも命がけだった。

 命がけでないランなど無いかもしれないが。

 

『いや、戦闘はないかもしれない。君のタリス・モンガーとしての力を借りたいのさ。』

「え?私別に専門家じゃないけど…。」

『聞いてるよ、ずっとイニシエーションをしてるらしいじゃないか。アルカナに関する知識は深くなっているんじゃないか?』

 

 それは事実だった。

 アルカナ技能はイニシエーションをする際に判定する技能だ。

 サザンカのそれは相応に高まっている。

 

「そうね、それで何をすればいいの?」

 

 スミスは少し間をおいた。

 どうも何かジョークを言うために溜めを作っているようだ。

 

『眠れる美女をキスで起こすのさ。いや、美少女かな。』

「はぁ?」

 

◎◎

 

「ん、サザンカ久しぶり。」

 

 キャロルを振り切ってたどり着いた待ち合わせ場所にいたのは、ロータスだった。

 スミスの手駒で、優れたデッカーであり、サムライでもある。

 大掛かりなサイバー手術を受けたはずだが、黒髪の彼女は以前とほとんど変わらなく見えた。

 

「久しぶりねロータス、体の調子はどう?」

「貴女よりよほどマシ。死にかけたと聞いた。」

 

 ロータスはメガネに手を当ててこちらをジロジロと見てきた。

 サムライである彼女はサイバーアイなのだろうが、アイに含みきれない機能をメガネに仕込んでいるのだろう。

 状況に合わせて視覚を変えるためにサイバーアイの上にさらに光学機器を装着するのはサムライの常套手段だった。

 つまりサムライはメガネっ娘が多い。

 

「傷は残っていない、いいドクに診察を受けたよう。」

「ええ、友達が腕のいいストリートドクを紹介してくれてね。」

 

 お陰で魅力値は下がっていない。

 もっとも魅力とは外見の美しさではなく、口のうまさや騙されにくさも含んでいるのだが。

 

「ところでここにくれば貴女が案内してくれると聞いたんだけど。」

「ん、車を用意してる。乗って。」

 

 ダウンタウンのパーキングでロータスのフォードに乗ると、それはオートパイロットで移動を始めた。

 どうやらルートはすでに設定してあるらしい。

 

「ん?こっちってベリビューじゃない?」

「そう。依頼者はベリビューの病院にいる。」

 

 ベリビューはシアトルの高級住宅地だ。

 企業のエグゼクティブが住居を構えている。

 サザンカやロータスには縁のない場所だ。

 

「てことは依頼者は結構な金持ち?」

「ジョンソンと聞いている。詳しくは私も知らない。現場で本人から詳細が説明されるとのこと。」

 

 そして二人は看板のない病院にたどり着いた。

 明らかにワケアリの患者を引き取る場所だ。

 霊視してみるとどんよりとした感情がそこかしこに染み付いている。

 

「体悪くしそうな病院ね。」

「医師の腕は良いと聞いている。」

 

 だがアストラルを感知しないロータスはどんどん進んでいく。

 そして、階一つを占有する病室にたどり着いた。

 

「ナニコレ、超VIP用じゃない。」

「よく来てくれた、ランナー。」

 

 そこには、髪をポマードで固めた壮年の男がサムライと思しき護衛を連れて待っていた。

 

◎◎

 

「私は家に結婚相手を決められていてね、だが特に不満は感じていなかった。彼女と会うまでは。」

 

 その男はサザンカたちに椅子を勧めると、自分も同じく対面に座り、仕事の説明を始めた。

 出だしはまるで仕事の話に見えなかったが。

 

「彼女について話すと数日経ってしまうので省くが、私達には子供が産まれた。それがこの子だ。」

 

 ジョンソンの視線を追うと、しっかりとしたベッドに横たわるヒューマンの少女が視界に入る。

 年齢はアヤメと同じくらいに見えて、同じく金髪をしている。

 だが特別美人というわけでなく、どこにでもいるような少女に見えた。

 彼女の体にはたくさんのチューブが取り付けられ、心拍を表示するモニターが彼女が健常であることを示している。

 

「彼女はこの子が6歳のとき、死んだ。つまらないチンピラに撃ち殺されてな。」

 

 ジョンソンは沈鬱な様子で目線を下げた。

 ロータスはそれに反応を示さない、あまりにもよくある話だった。

 そして彼は続ける。

 

「そして今度はこの子が失われようとしている、ずっと眠ったままで、少しずつ弱っている。医師がいくら検査をしても何もわからないと言う。」

「それでタリス・モンガーを手配したってわけね。でもなんでランナーを?企業にもメイジはいくらでもいるでしょう?」

 

 サザンカの疑問にジョンソンはうなずいた。

 その質問は想定していたのだろう。

 

「恥ずかしいことだが、私はこの子の存在を家と、特に妻に隠しているのだ。知られれば、この子の命が危なくなるかもしれない。」

 

 彼は自虐げに苦笑すると、続けた。

 

「この病院を手配するためにかなり金を使ってしまった。その結果妻は怪しんでいる、正規のルートでメイジを呼ぶと、危険があると判断したのだ。」

 

 そこでサザンカにお鉢が回ったようだ。

 

「そうね、これは普通の医者には解決できないでしょうね。」

「何かわかるのか!?」

 

 ジョンソンが興奮したように立ち上がる。

 サザンカはこの部屋に入ったときにすぐに霊視をしていた。

 だから気づいたのだ。

 

「とりあえず、この子、覚醒しているわね。」

「なんだと!?」

 

 霊視は対象が覚醒しているかどうか、そしてヒット数が大きければその魔力すらも判別できる。

 

「魔力は6。メイジかアデプトかはわからないけど、かなりの才能ね。感情は恐怖と期待…夢でも見ているのかしら。そして…。」

 

 サザンカは彼女のベッドの前に立つと、その掛け布団をめくった。

 あらわになった少女の左手に、慎ましいシルバーの指輪がはめられている。

 

「この指輪は?」

「それは…彼女の形見だ。若い頃に私が街で買ったものだが…。」

 

 サザンカは険しい顔でその指輪を見つめた。

 これは、そんなちょっとイイ話的なアイテムではない。

 

「これは、収束具ね。精霊の召喚収束具、フォースは10。」

「ん、フォース10?収束具は魔力を超えるものを起動すると危険と聞いた。」

 

 それ以前にフォース10の収束具などそこら辺にあるものではない。

 キャロルのカタナですらフォース6なのだ。

 これは、それを遥かに超えている。

 

「そして起動している。」

「どういうことだ!?ならば…これを外せば!?」

 

 サザンカは興奮したように少女に近づくジョンソンを押し留めた。

 

「待ちなさい!何がおきるかわからない、ここはプロに任せなさい。」

 

 だがその時、その場にいた全員に、不思議な声が聞こえた。

 

『わたさない…。』

 

 そして、指輪が突然凄まじい光を放つ。

 

「な、これは…!?」

 

 ロータスのサイバーアイに備わった大光量補正ですらカバーできない光が病室に満ち。

 そして全てが消えた。

 

◎◎

 

「ここ…どこ…?」

 

 *もりのなかにいる*

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