第6世界転生記   作:ホリイ

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18話 アリス・イン・ザ・エレメンタル2

「ん、動体反応はない。虫一匹。」

「こちらのセンサーにも反応はない。」

 

 二人のサムライが報告をする。

 一人はロータス、もう一人はジョンソンのボディガードだ。

 おそらくオークの短髪の黒人で、スーツを身にまとっているがその下にアーマー・ベストを着込んでいる。

 エッセンスはロータスと同じくほとんど感じられなかった、かなりのサイバーを入れているのだろう。

 

「な、何が起きてるんだ?アリスはどこに?」

 

 慌てているのは白人のジョンソンだ。

 だが喚き散らさないだけの分別はあるようだった。

 護衛の指示に従い、草むらで身を縮こませている。

 そう、ここはどうみても森だった。

 

「ランナー、いや名前を教えてくれ。どうやらチームを組む必要がありそうだ。」

「そうね、私はサザンカ。そっちはロータスよ。」

 

 護衛のサムライはうなずくと自らの名を名乗った。

 

「俺のことはレックスと呼んでくれ。ミスターの護衛をして長い。それで、メイジとしてこの現象をどう推察する?」

 

 サザンカはきれいな形をした顎に手を当てて考え込んだ。

 

「まず思いつくのはアルケラかしら…。アストラルの隙間に出来る異次元空間で、時間も物理法則も違う場所よ。」

「そんな場所があるなんて初耳、でもそうならマトリクスが一切感じられないのも納得がいく。」

 

 まるで驚いた顔をしていないロータスがそう言う。

 それは信じられない話だった。

 ここにはネットが繋がっていないというのだ。

 

「そんな馬鹿な…ほ、本当だ!」

 

 ジョンソンが自分のコムリンクを見て驚きの声を上げる。

 レックスはため息をつく。

 

「まるでおとぎ話だな。それで、どうすれば脱出できる?」

「わからないわ…話によるとアルケラに迷い込んで出てきたら5万年経ってた人もいるそうよ。」

 

 サザンカは正直頭を抱えていた。

 シャドウランTRPGは未来世界を舞台としたTRPGだが、実は同じ会社から発売されているアースドーンというファンタジーTRPGと世界観を共通している。

 遥か古のアースドーン世界は第四世界と呼ばれるのだ。

 サザンカはプレイしたことがないが、日本語未訳のシャドウラン6版にはアルケラ帰り、つまりアースドーンでアルケラに迷い込み、シャドウランの時代に戻ってくるという資質があった。

 

「そいつはごめんだな。」

 

 レックスはため息をつくと、構えたFN HARの銃身をさすりながら思慮しているようだ。

 そしてサザンカに目線をやると提案した。

 

「思うにここに来る前に声が聞こえた。あいつをヤればいいんじゃないか?」

「それはありえるわね。」

 

 あの光と声は明らかに異常だった。

 しかも彼らはフォース10の収束具に手を出そうとしていたのだ。

 間違いなく関係があると言っていいだろう。

 

「ん、それでこれからどうする?私はこの道を進むのを提案する。」

 

 そうだ、ロータスの言う通りここには道があった。

 森の中を一本のむき出しの獣道が通っている。

 気がついたらサザンカたちはそこに立っていたのだ、そしてすぐに草むらに隠蔽をとって今に至る。

 

「それしか無い気がするわね、それにしても、何か見覚えが…。」

「どういうことだ?何かあるなら教えてくれ。」

 

 しかしサザンカはお茶をにごした。

 さすがに転生前の世界のオンセツールのデフォルト画面に似ている、とは言えない。

 そう、木の怪物が一体、ゴブリンが二体、そして冒険者と子供のコマがいるあの画面だ。

 

「えーっと、多分デジャブってやつよ。気にしないで、それより行動を始めましょう。」

 

 彼らは、草むらから出ると、”足跡の一切ない”その道を進み始めた。

 

◎◎ 

 

「森が途切れているようだ。」

 

 レックスがサイバーアイで注視しながらそう言った。

 どうやら彼のアイには映像拡大が入っているようだ。

 

「みんな、警戒して。何があるかわからない。」

 

 ジョンソンを含めた全員がうなずく、そして彼らは森から出た。

 

「広いわね。」

 

 サザンカが呆れたようにつぶやいた。

 そこは広大な平原だった。

 短い草が生えており、地平線が見える。 

 彼女は途方にくれた。

 

「まいったわ、どこに向かえばいいのかしら。」

「サザンカ、気をつけて!なにか来る!」

 

 ロータスが珍しく声を高くして警戒を告げる。

 サザンカは霊視を行って襲撃に備えた。

 しかし、そこに現れたのは…。

 

『やあ、よく来たね。』

「馬鹿な、猫がしゃべっただと!?」

 

 レックスがアサルトライフルを構えて驚きの声を上げる。

 そしてサザンカも同じく驚いていた。

 ”サムライにも見える”

 それは実体のある存在なのだ。

 

『僕はチェシャ猫さ、知らないかい?有名だろう?』

 

 そうサザンカたちに話しかけてきたのはトラジマの猫だった。

 だが、口元がおかしい。

 まるで人間のように嫌な笑みを浮かべている。

 普通の猫であるはずがなかった。

 

「それ以上近づくな!貴様何者だ?」

 

 レックスは静止の声をあげる。

 ボディーガードとしてそれは当然だった。

 

『レックス、ずいぶんよそよそしいじゃないか。あんなに優しくしてくれたというのに。』

「…猫好き?」

「そんなわけがあるか!」

 

 しかしその猫はレックスの名前を知っていた。

 だが彼が何かを隠しているような様子はない。

 

『細かいことはいいじゃないか、君たちはアリスを助けにきたんだろう?ならば僕は君たちの味方だよ。』

 

 チェシャ猫のセリフを聞いてジョンソンが目をむいた。

 

「アリスがここにいるのか!?どういうことなんだ!教えてくれ!」

『ゲームだ。』

 

 だが、必死に娘を心配するジョンソンをチェシャ猫が遮った。

 前足を振ると、突然目の前にトランプが現れる。

 

『僕はアリスの味方だが、チェシャ猫なのでね。ひねくれものなんだ、情報がほしければゲームに勝つことだ。』

 

 カードが浮遊し、サザンカたちの前に配られる。

 2枚ずつ…これはブラックジャック?

 

「サザンカ、これは精霊?」

「いえ…霊視結果は猫よ。」

 

 そうなのだ。

 それはどう見ても普通の猫だ。

 覚醒している様子もない。

 だが宙に浮かび、人語を喋っている。

 

「ふざけるな!アリスはどこにいる!?」

 

 興奮して猫に詰め寄ろうとしたジョンソンをレックスが抑える。

 ロータスがどうする?という目線をサザンカによこした。

 

「いいでしょう。」

 

 サザンカはカードを手に取った。

 

「ヒット。」

『いいね、さすがはランナーだ。』

 

 猫はいやらしい笑みを浮かべた。

 

◎◎

 

『おっと、バストだ。』

「は?」

 

 イカサマする気満々だったサザンカの意気は、すぐにそがれた。

 チェシャ猫は勝手にカードをひいて21を超えたのだ。

 自爆だった。

 

『うーん、うまくいかないものだね。トリッドのようにかっこよく決めたかったんだが。』

「あなた、何なの?」

 

 チェシャ猫は再びおかしな笑みを浮かべた。

 だが、今のサザンカにはそれがどうも下手な役者の演技のように見えた。

 

『約束だからね、教えるさ。この先には街と村と城がある。』

「はあ?」

 

 わけのわからない情報だった。

 

『それぞれ守護者がいる、なんとかしないと進めない。そして城にはアリスがいる、助けてやってくれ。』

「なにそれ?ゲームのつもり?」

 

 だがサザンカは気づいた。

 これは、『ゲーム』なのかもしれない。

 テーブルトークという名の。

 

『僕の役目はここで終わりだ、"エッセンスが尽きた"のでね。』

 

 サザンカたちの目の前で、チェシャ猫は少しずつ消えていく。

 燃え尽きるかのように。

 

『だが僕は嬉しかったよ、”パパ”が来てくれて…。』

「なんですって?」

 

 そして、そこにはもはやカードも、猫も何も残っていなかった。

 

◎◎

 

「本当に街があったな…。」

 

 呆れたようにレックスが言う。

 サザンカは同意だった、何も見えない草原を進むと、突然目の前に中世風の街が現れたのだ。

 今突然作られたかのように。

 アルケラには、物理法則という言葉は存在しないのだ。

 

「サザンカ、フライスパイは今のところ何も見つけていない。」

 

 サザンカたちは警戒しながら石畳の街の中に入った。

 その街は、たしかに街のように見えるが、明らかに偽物だった。

 人は一人もおらず、生活感もない。

 テーマパークの方がまだ本物らしかった。

 

「気をつけて、あの猫が言っていた守護者がいるはずよ。」

 

 サザンカは確信していた。

 これは間違いなくギミックだ、次はきっと戦闘がある。

 

「ち、しかし厄介な地形だ。クリアリングが難しすぎる。」

 

 レックスが愚痴を放った。

 サザンカたちはそれぞれ装備した映像リンクを用いて、フライスパイ、つまり超小型のドローンを含めた視界を共有している。

 しかしそれでも死角は多い。

 ボディガードである彼にとっては辛い状況だろう。

 

「すまない、レックス。しかしここで死ぬわけにはいかない。アリスが待っている。」

「ミスター、弱音を吐いて申し訳ない。貴方は必ず守ります。」

 

 どうやらこの主従はたしかな信頼で結ばれているようだ。

 

「サザンカ、これがBL?」

「ロータス、誰にそれ教わったの?殴っておくから教えて。」

 

 その時、ロータスと共有しているフライスパイの視界に人影が写り込んだ。

 ジョンソンを除いた全員がその方向に身構える。

 

「どうする?」

「あの猫はなんとかしろ、と言っていたわ。」

 

 彼女らは警戒をしながら近づく。

 フライスパイは人影を精密に捉え始めた。

 

「子供?」

「アリスお嬢様…ではないな。」

 

 どうやらターゲットではないようだ。

 それはファンタジーものにでてくるような服装をした少女だった。

 赤を基調とした服装に身を包み、自然素材で編まれたカゴを手に持っている。

 その中には、小さな箱がいくつも入っていた。

 

「マッチ?」

「ん?なんだそれは。」

 

 そしてサザンカたちがその少女の前に立つと、彼女は突然言葉を紡ぎ出した。

 

「寒い、寒いよ…ママ。」

 

 そしてマッチをする。

 サザンカは、嫌な予感に包まれた。

 そして。

 

「火の精霊!フォースは6!」

 

 彼らは、マッチから生まれた精霊に向かって、悪態をつきながらトリガーを引いた。

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