第6世界転生記   作:ホリイ

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20話 アリス・イン・ザ・エレメンタル4

 気温が上がってきた気がする。

 石畳の通路を進みながらサザンカは思った。

 見通しは悪くない。

 今は、石造りの城下町を通り抜けている途中だ。

 上空からフライスパイで一望することができた。

 

「ミスター、やはり残ったほうがよかったのでは。」

「すまんレックス、だがここは我を通させてもらう。」

 

 その城は確かによくできていた。

 おそらく馬車の通行によって凹んだ街路、武器で傷つけられた痕のある外壁。

 年季の入った建造物を再現できている、だが甘い。

 そこには、砂利も砂埃もない、まるで3Dプリンタから今出てきたかのようにつるつるなのだ。

 モデラーが見たら激怒するだろう。

 

「ん、橋が見える。」

「水堀にかけられた跳ね橋といったところね、ようやく本丸かしら。」

 

 だがフライスパイが近づくと、サザンカの予想が外れているのに気づく。

 それは強固な石造りの大橋だった。

 橋の途中に、立てこもることもできそうな重厚な建物がある。

 そして50倍までズームすることのできるフライスパイのカメラが橋の向こうを捉えようとしたとき。

 

 Bom!

 

「ん、撃ち落とされた。おそらくライフル。」

「来たわね。精霊を信じた、アリスのかけら。」

 

 サザンカは一層の警戒をチームに呼びかけた。

 次の瞬間に、体が炎に包まれていても不思議はない。

 一ヶ月前の敗戦を思い出し、サザンカは体が震えるのを感じた。

 

(意外、私ちゃんと恐怖できてる。)

 

 嬉しいんだがどうだかよくわからない感情に包まれながら、彼女は装備した収束具を順に活性化させていった。

 

◎◎

 

「それ以上近づくな!」

 

 高い壁の上部に設けられた胸壁の隙間から、西洋風の鎧を身にまとった赤い髪の長身の女性が見える。

 手に持っているのはレミントンか。

 狩猟用の民生品だが、ランナーにも愛用するものがいるほど優れたスナイパーライフルだ。

 

「優しいのね。警告してくれるなんて。」

 

 サザンカが軽口を叩くと、3メートルくらいある城門が音を響かせて開いていく。

 どうやら相手には閉じこもるつもりはないようだ。

 真っ正直に勝負をしかけてくる。

 それだけ自信があるのだろう、自分の力に。

 

「来たか、アリスの夢を邪魔するものよ。」

 

 門が開ききり、どんな大軍が出てくるのかと身構えていたが、現れたのは二人の男だった。

 二人とも、精霊ではない。

 一人は兜をつけた鎧の小柄な男。

 もう一人は彫りの深い長身の男だ、やはり鎧をまとっている。

 

「ハート、クラブ、スペードか。ダイヤの騎士はどうした?」

 

 アサルトライフルを構えたレックスが彼らに問いかける。

 よく見ると確かに彼らの鎧にはそれぞれの意匠が刻まれている。

 つまり彼らはトランプの騎士、ならば確かにあと一人ダイヤの騎士がいるはずだ。

 隠れているのか?だが答えはすぐに返ってきた。

 

「あいつなら、女王に挑んで敗れた。ヘンゼルとグレーテルも、ジャックも浦島太郎もだ。」

 

 背の高いスペードの騎士が、その黒い肌にわずかに冷や汗を流すレックスを見据え、答えた。

 そして続ける。

 

「猫が一匹逃げ出したがな、お前たちを導いたのはあいつか。」

 

 そして、我慢できなくなったジョンソンが叫ぶ。

 

「君たちは、アリスなのだろう!?こんな馬鹿なことはやめるんだ!」

 

 しかし、その言葉は彼らには届かないようだ。

 地上にいる二人の騎士が剣を抜く。

 彼らの武器はソードのようだ。

 甘く見ることはできない、この世界ではカタナを振るうサムライが主人公だ。

 ソードを振るうナイトがそうなれないはずがない。

 

「もう話すことはない、俺達の中でさんざんに話し合ったんだ。これが、アリスの下した結論だ。」

 

 クラブの騎士が後を次いで続ける。

 どうやら交渉はできないようだ。

 サザンカは頭のなかでどう動くかを何通りも組み立てだした。

 戦闘が、つまり殺し合いが始まる直前特有の、淀んだ空気が流れ出したとき、城壁の上のハートの騎士が突然叫んだ。

 

「聞け!女王のお成りである!。」

 

 サザンカは霊視していた視界を慌てて通常に切り替えた。

 目がくらむかと思ったのだ。

 フォースが計り知れない。

 

「アリス?」

 

 ジョンソンが驚きの声を上げる。

 城門の奥から現れたのは、豪奢な青と金の衣に身を包んだ少女だった。

 そう、病室で目をつむっていたジョンソンの娘である。

 

「落ち着いて、ジョンソン。あれが貴方の娘に見える?」

「ん、嫌な顔つき。」

 

 その少女の顔には、長い年を経た怪物のみが醸し出すことのできる傲岸で、邪悪が笑みが張り付いてた。

 

『ひれ伏せ』

 

 サザンカは思わずこみ上げてきた吐き気を必死に抑えた。

 アストラルを感知できないはずの他の3人も氷を飲み込んだような表情をしている。

 たった一言発しただけで、このアルケラにヒビが入っていた。

 

『私はただ契約を果たそうとしているだけだ。その邪魔は許さん。』

「何を白々しい、どうやって?死者を蘇らせるなんて、誰にもできないわ。」

 

 怯みもせず反論したサザンカに、彼女はいたく機嫌を損ねたようだった。

 

『私に不可能はない、あとは契約者がエッセンスを譲渡すればそれですむだけ。』

 

 女王と呼ばれた精霊は、どうやら話が通じないようだった。

 だが、わかったことがある。

 アリスはまだこの精霊を、信じ切っていない。

 ならばまだ助け出せる。

 

「ん、私は騎士たちを相手にする。今持っている銃ではあれの硬化装甲を抜ける気がしない。」

「悔しいが、俺も同じくだ。精霊の相手は、メイジに任せる。」

 

 そして、外見をとりつくろうこともなく、心からの叫びを上げたジョンソンの言葉が、開戦の合図となった。

 

「娘を、返せぇ!!」

 

◎◎

 

『掌握』した。

 

 先手は譲れない。

 できれば、いや…必ず一撃で仕留める。

 自分の持つ最も強力な一撃に、すべてをかける。

 

「はあっ!」

 

 サザンカは突進した。

 30m以上の距離を一気に詰めて、地面を蹴る。

 隠していたが、サザンカはニンジャである。

 その格闘技法には飛び蹴りがあった。

 ニンジャだが、気分は仮面をつけたライダーだった。

 

『無礼者が!』

 

 女王が叫ぶが、彼女は止まらない、空中で例のスタイルになったになったまま突っ込む!

 そして脚の先が女王の胸に触れた。

 

「『粉砕』!」

 

 サザンカの目と耳から血が吹き出す。

 10を超える彼女の魔力をさらに上回る、巨大なフォースでかけた魔法の反動だ。

 『粉砕』のドレインは、フォース-6だが、それでも殺しきれないほどの大魔法だった。

 

「ハアっ!」

 

 サザンカは女王の体を踏み台にすると、空中で一回転し、地面に着地した。

 彼女の背後で大爆発が起きる。

 

「やったか!?」

 

 レックスが叫ぶ。

 サザンカはまずいと思った。

 精霊が途絶するときに出る気配がない。

 そして。

 

「キャアッ!」

 

 サザンカは倒れ伏しながら自分の口から出たかわいらしい言葉に赤面した直後、激痛に身悶えた。

 痛い!これは『苦痛』の魔法だ、論理力と意思力で抵抗するタイプである。

 彼女は恥ずかしながら論理力が低かった。

 シャーマンの性だ。

 

『ふざけたことをしてくれる。』

 

 それは女王の魔法だった。

 なぜ精霊が魔法を?

 しかし痛みのあまりまともに考えることができない。

 タンスの角に小指どころではないのだ。

 それが全身を苛んでいる。

 常人ならとっくに意識を手放しているだろう。

 

「サザンカ!」

 

 ロータスが声を上げるが接近してきたスペードの騎士とスパーで切り結んでいる。

 彼女に援護はできない。

 レックスはさらにひどかった。

 サザンカに気を取られたためにハートの騎士の銃撃を受けてしまったのだ。

 スペードの騎士の攻撃を必死にかわす。

 

(どうする?)

 

 2パス目だ、サザンカは必死に考えた。

 頼るべきは、エッジと、そしてジョーカーのカードだ。

 ハートの女王を屠るには、ふさわしいだろう。

 

「ふっ!」

 

 サザンカは倒れたまま視線を上げた。

 魔法の届く範囲は視線である。

 すると傷ついた女王が見える。

 

『八つ裂きにしてやろう。』

 

 彼女はこちらに近づこうとしている。

 おそらく直接攻撃をするつもりだ。

 相手にパスを渡してはならない。

 今度こそ決める。

 体はもはやドレインに耐えられないだろう、だが。

 

「とっておきをくれてやるわ。」

 

 サザンカは着物の内側にしつらえられたポケットから小さな物体を取り出した。

 それは『原質(リージェント)』。

 簡単に言えば、魔法のブースターである。

 その最高級のものだ。

 シャーマンは動植物の一部を原質として扱うこともあるが、彼女が握っていたのは。

 

「キレイでしょ?私の娘のプレゼント。」

 

 美しい、虹色の飾り羽、それはフェザード・ドラゴンの頭から抜かれたものだった。

 

『ギャアアア!』

 

 女王が悲鳴をあげる。

 放たれたのは馬鹿みたいに太い雷撃。

 その光に包まれて、女王が真っ黒になり、そして消えていく。

 いや!?

 

『アリス!力を、力を貸しなさい!お前の望みを叶えるために!』

 

 女王は消えていなかった。

 燃えカスのようになりながら抵抗している。

 そして、召喚主にエッジを要求している。

 まずい、『原質』はもう無い。

 ここで押し返されたら手詰まりだ。

 

「だめだ!アリス。」

 

 そのとき、ジョンソンの声が響いた。

 

「そんなことをしてはいけない!母さんはもういないんだ!私が、私がお前と一緒にいるから…!」

『でも…』

 

 その時、精霊でない声が聞こえた。

 これは…?本当のアリス?

 

『でもパパ、あたしはママと約束したの。童話作家になってママに読み聞かせてあげるって。だから、どうしても…。』

 

 悲痛な声が聞こえる。

 サザンカは『雷撃』を維持しながら言葉を挟んだ。

 

「アリス、私を霊視しなさい!」

『え?』

「見て、私と、お父さんの感情を。私たちは貴女を助けたい。そして嘘をついていない!人は、生き返らないのよ…。」

 

 そして雲耀の刹那の後。

 

『やっぱり、そう、だよね。ごめんなさい…パパ。』

 

 そして、詩神と呼ばれる影の精霊は、今度こそ断末魔の叫びをあげた。

 

◎◎

 

『アリスお嬢様の身体検査は終わった。何も問題はないそうだ、まあ覚醒したというのは大きな問題だが。』

 

 自宅でテレビを見ながら体を動かすアヤメを眺め、リビングの長椅子に座ったサザンカは、レックスからの連絡を受けていた。

 

「様式は何かしら?シャーマンなら助言できるけど。」

『どうやらヘルメスのようだ。マトリクスで調べて自力でいくつか呪文を習得し、そしてあれを呼び出してしまった。』

 

 女王の『苦痛』は、生得呪文の追加パワーだったようだ。

 術者の使える魔法を精霊も使えるようになるというパワーである。

 アリスに感謝すべきだろう、戦闘魔法を習得していなかったことに。

 

「そう、それなら私にできることはないわね。」

『いや、それでも同じメイジだし、お嬢様が君と話したがっていた。今度彼女のコムコードを送る。』

「いいの?ランナーなんかにそんなの渡して。」

 

 レックスはとぼけたような笑みを浮かべた。

 口からはみ出た牙がいかしている。

 

「それで今そっちはどこにいるの?まだ病院?」

『いや、飛行機の中だよ、ミスターが参加しなければならない重要な会議があってね。」

 

 サザンカはジョンソンの体力に呆れるとともにアリスが少し気の毒になった。

 つい嫌味を言う。

 

「あらまあアリスが寂しがるわよ。」

『それは、そうだな。』

 

 しかしレックスは少し悩んだようだが、続けた。

 

『ミスターはアリスお嬢様を正式に娘として認知し、世に知らしめることにした。これからは二人会いやすくなるだろう、トラブルも起きるだろうが。』

 

 サザンカは気持ち良い笑みを浮かべた。

 

「それはよかった。」

『また仕事ができたら優先して頼むよ、ランナー、いやサザンカ。いい夜を。』

 

 そして通信は切れ、コムを見るとサザンカの口座に大金が振り込まれたことを示すメールが届いていた。

 シアトルの夜は更けていく。

 世界の驚異になりかねなかったトラブルも、世間は何も知らない。

 いや、サザンカ以外のランナーも、こうして人知れず世界を救っているのかもしれない。

 彼女は好物のオレンジジュースを口にふくんだ。

 天然ものだ、苦い甘みが襲ってくる。

 

「ねー、ママ。認知ってなに?」

 

 そしてジュースを吹き出した。




終わりちょっと長くなりました
セッションでは救助対象は最初おっさんだったのですが助けるなら女の子がいいよね?ということで3回し目で変更しました
ジョンソンとレックスはセッションでは登場しませんでしたが活躍しそうなので出しました

次はアリス救出後の続きとなるワンナイトセッションをやったのですが小説だと時間がすぐ過ぎて違和感あるのでどうしようかなーって考えてます
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