私は今、レックスおじさまが運転するヴィークルに乗っています。
胸にはたくさんの荷物の入った大きなバッグ。
そう、お引っ越しなのです。
「お嬢様、まもなく見えてきますよ。ああ、あれが明日から貴女が通う学校です。」
私は良くないことをしてしまいました。
たくさんの人に迷惑をかけ、レックスおじさまも怪我をしたそうです。
でも、パパ、いえお父さんは、私を許してくれました。
そして、名前が一つ増えたのです。
「すごい広さですね。」
「小学校から大学まで入ってますからね。日本にある本校はさらに大きいそうです。」
アリス=ヤマナカ=トカチューク
ヤマナカは母の名字、トカチュークは父の名字です。
私は、正式にお父さんの子供になったそうです。
「ミスターの、お父さんの会社も出資していて、正式名称はヤマブキカゲ大学というそうです。」
山吹影大学シアトル分校付属中学校。
それが、私がこれから通う学校です。
◎◎
「ようこそ、ミス・ヤマナカ。私は君の担任になるゴードンだ。」
そう言って手を差し出してきたのは黒いローブに身を包んだドワーフの男性教師でした。
意外と、手は柔らかかったです。
「君は覚醒者向けのクラスに入ることになる。メイジだからといって特に引け目を感じることはないよ。」
そうです、私が転校することになったのは、私が覚醒したからでした。
そのことは、隠していたのですが、あの事件で明るみになってしまいました。
父から、強く転校を勧められたのです。
『君の夢が童話作家だということは知っている。だが将来への選択肢は増やすべきだ、メイジは希少な才能だ。それは君自身を守ってくれる。』
父にそう言われれば、断るすべはありませんでした。
タコマの友人たちに別れを告げ(まあマトリクスでいつでも会えるのですが)、私はここにやってきました。
「君のお父さんはセキュリティをずいぶん気にしていたが、安心してくれ。寮はハイセキュリティだ。」
お父さんは私に親族とは会わなくてもいいと言いました。
そして私の身の安全をとても気にしています。
学校の外に出るときは、レックスおじさまが必ずつくそうです。
「寮は二人部屋で、君の相部屋は覚醒者じゃないがいい子だよ。同じクラスの子とは相部屋にしないという決まりがあってね。」
ゴードン先生は、とてもながいヒゲをたくわえていましたが、正直あまり似合っていませんでした。
子供が付け髭をつけてるみたいです、言いませんが。
「わかりました、何か、書類とかあるんでしょうか?」
「手続きは全部すんでるよ。あとは部屋に行って荷物を片付け、シャワーを浴びて今日は休みなさい。ルームメイトの長話につきあわされないようにね。」
優しい声でした。
先生からは、私を労っているような気配を感じました。
ひょっとしたら、突然覚醒して途方にくれている子を、他にも見てきたのかもしれません。
その後、私はカートに載せた荷物を転がしながら、寮に向かいました。
学園内は無人ヴィークルが運んでくれます。
校舎から、寮までは結構距離がありました。
そして、指定された番号のついた建物に入ります。
カードを当てると、厚い扉が開きました。
どうやらハイセキュリティというのは本当のようです。
「……」
寮の廊下を歩くと、物珍しそうな視線が私に刺さります。
学校の生徒たちです。
私と同じ年代の女の子で、種族も肌の色も様々です。
そういえば、レックスおじさまがここは奨学制度があって、才能さえあれば誰でも入学できる学校だと言っていました。
ヒューマ二スの影響はないようです。
私は、あの人たちは怖いし、友達にもひどいことを言うので嫌いです。
「298号室、ここかな…?」
私は、2階の奥にある部屋にきました。
98個も部屋は無いと思いますが、そこにはその番号がついていました。
トントン
「はーい。」
ノックをすると、ハスキーな声が返ってきました。
「あら、いらっしゃい。あなたがアリス?よろしく、あたしはアーニャ。アーニャ・ミルトンよ。」
驚きました。
扉を開けて出てきたのはゴードン先生よりもさらに背の小さいオレンジの髪の女の子でした。
「え、ええ。そうです。私がアリス・ヤマナカ。今日からよろしくお願いします。」
「はは、他人行儀ね。気にしなくていいのに。」
ちょっと恥ずかしくて、お父さんの名字は名乗れませんでした。
お父さんの国では、名字が多いのは珍しくないそうです。
でも、私の知り合いでそういう人はいなかったので、気後れしたのです。
「ほら、そっちのベッドが貴女のよ。これまで一人部屋を謳歌してたんだけどねえ。掃除がんばったでしょ?キレイにしたのよ。」
アーニャさんは、とても明るい性格のようでした。
荷物を片付ける私を手伝ってくれて、ずっと話しっぱなしでした。
それによると、彼女はドワーフのメタバリアントであるノームという種族で、学業成績の良さで特待でこの学校に来たそうです。
夢は学者だとか。
「この学校は覚醒者も多いから、慣れてるから安心して。同い年の子が突然フォード・アメリカーを持ち上げ始めたのを見たこともあるわ。」
「は、はあ。」
この学校ではスポーツ特待も行っており、フィジカル・アデプトも多数在籍しているそうです。
「勉強って難しいです?」
「んーアリスは覚醒者クラスだっけ?そんなに難しくないと思うけど、むしろメイジの実技が大変なんじゃないかな。でも面白そうよね、私も覚醒してみたい。」
「あはは…。」
◎◎
結局、昨夜は夜更かしをしてしまいました。
実を言うと、私も勉強はできるほうなのです。
前の学校では、目立ちたくなかったので、テストはわざと間違えたりしていました。
でも昨夜は、アーニャとウラムの螺旋について熱く語り合ってしまいました。
私は、素数には神の見えざる手が入っていると唱えましたが、アーニャは偶然にすぎないと論じたのです。
私に魔法について簡単なレクチャーをしてくれた、サザンカさんというシャーマンの女性は、『ヘルメスだけあって論理高い』と言っていました。
メンターも無しに魔法を覚えるのは異常だそうです。
それは、いやです。
目立ちたくは、ないのです。
「お前ら、静かにしなさい!今日は転校生を紹介する。」
ゴードン先生について、教室の中に入ります。
渡された学校の制服を着てきましたが、その教室の生徒たちはほとんどそれを着ていません。
私も、慣れたら自分の着やすい服を用意しようと思います。
「お、この時期ってことは最近覚醒したのか?」
生徒の一人からそんな言葉が聞こえます。
私は、ここに来る前に先生からあまり霊視はしないようにと言われました。
感情を読み取ってしまうため、人間関係に問題が出るからだそうです。
でも、今私は霊視を受ける感覚がゾクゾクと首筋にします。
その気配を探ると、生徒たちから私を見て驚いたような気配を感じます。
そういえばサザンカさんが言っていました。
魔力6は1万人に1人くらいだと。
「彼女は今日から皆の仲間になる。ミス・ヤマナカ、自己紹介を。」
「はい。」
私は、決心して前に出ると、できるだけハキハキとした声で自己紹介をしました。
「アリス・ヤマナカ・トカチュークといいます。最近メイジに覚醒しました。アリスか、ヤマナカと呼んでください。」
生徒たちからは色々な感情が読み取れました。
私をうらやんでるような、さげすんでるような、にくんでるような…、でもそんな小さな感情は一つの巨大なうねりにかき消されました。
「おーほっほっほ!」
突然一人の生徒が立ち上がって私を見つめて高笑いを始めたのです。
私は、あっけに取られました。
「わたくしと同じ魔力6!たいしたものです!いいでしょう、貴女を私のライバルと認めましょう!さあ今から勝負です、訓練場に行きましょう。」
「ミス・シーラ。いいから席に座りなさい…。」
ゴードン先生が呆れたように額に手を当てます。
本当に、途方にくれているようです。
彼女は、コミックでしか見たことのないような、金髪の縦ロールをした長身の白人のエルフでした。
なんというか、とても豊かな体をしていて、しかし引っ込むところは引っ込んでいます。
服装はさすがに普通です。
ただ、動きやすそうな…戦いやすそうな服装をしていました。
「ミス・ヤマナカ。君の席はあそこだ。」
ゴードン先生が指さしてくれたのは、幸運にも未だに仁王立ちをして高笑いを上げている彼女からは離れた席でした。
私はバッグを持って、怯えながらその席に行きます。
「(彼女、頭おかしいから気にしないで。)」
「は、はあ。」
隣の席の、片目を髪で隠した女生徒が小声でささやきました。
しかし、私の驚きはそれで終わりませんでした。
「たのもー!」
教室の前の扉がドカンと音を立てて開いたのです。
そして、そこから奇妙な服装をした少女が入ってきました。
なんといえばいいのか、日本風なのでしょうか。
浴衣という服装をトリッドで見たことがあります。
それの、丈の短いものを着た、紫の髪のエルフの少女でした。
「ミス・ソラ。今日も遅刻しましたね?」
「だって飛んだらダメだってママが言うから…。」
ゴードン先生の額に深いシワがよっています。
そして、生徒たちの間に緊張が走っていることに、私は気づきました。
まるで怪物と相対しているような…。
シーラでさえ、高笑いをやめました。
「ん?あの子転校生?」
「そうです、ミス・ヤマナカです。仲良くするように。」
そうゴードン先生に言われると、その紫の少女は私の前に走り寄ってきました。
「あたしも転校生なんだ!名前はアヤメ!いい名前でしょ?ママがつけてくれたんだ。」
私は、何かとてつもなく不穏な予感に包まれました。
山吹影学園は源GMの「JKラン~蛇の道は蛇」の舞台であり、GMに許可を取り登場しました