第6世界転生記   作:ホリイ

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閑話 アリスの冒険2

授業は、そんなに難しくありませんでした。

前の学校では、範囲よりも先を予習していましたが、ここの学校は少し進んでいるな、とは思いました。

魔法の授業もまだ基礎的なもので、他の生徒の皆さんはまだ魔法を習得していないようでした。

 

「ああ、ミス・ヤマナカ。少しお待ちなさい。」

 

 帰りのホームルームが終わり、クラスメイトと雑談をしていたとき、ゴードン先生が話しかけてきました。

 やはり、ヒューマンの子供に付け髭を付けたような外見が、少し似合いません。

 髭が無い方がかわいいと思うのですが…、あ、失礼なことを考えてしまいました。

 

「本校では部活動への参加を推奨している。転入生は途中から入りにくいと思うが、もしよかったら各部活を見学してくるといい。」

 

 私は前の学校では特に部活動には参加していませんでした。

 かといって打ち込んでいる趣味があるわけではなく、なんとなく家でトリッドを見ていることが多かったです。

 そういえば、魔法が使えることに気づいたときは、ずっとそれに集中してしまいました。

 でも、それであんなことが起きたことを考えると、あまり魔法には触れたくないのが本心です。

 

「部活動ですか…。」

「運動部でも文化部でもかまわないよ、顧問の先生やコーチの方々には転入生がいることは話してある。気楽に訪ねてみたまえ。」

 

 そして、ゴードン先生は自席でようやく居眠りから目覚めた、アヤメと名乗った少女を見据えると語気を強めて言いました。

 

「ミス・ソラ。君もそろそろ部活動を決めてくれないか?」

 

 彼女は美しい顔にボーッとした表情を浮かべていましたが、私を見ると何度かまばたきをして言いました。

 

「アリスちゃんもブカツまだ決めてないの?じゃああたしと一緒に探そうよ!」

 

 ゴードン先生は渋い顔をしました。

 

◎◎

 

 アヤメさんはグラウンドを見て回る間、私に何度も話しかけてきました。

 それは綺麗な鳥が飛んでいたとか、雨音が音楽みたいだったとか、母親の料理が美味しかったとか。

 他愛のない話でしたが、彼女がとても素直に世界を観ているような気がして、なんだか羨ましくなりました。

 そういえば教室の皆がこの子について明らかにおかしな反応を示していたのに、一切話題にしていませんでした。

 見た目はエルフの美少女ですが、ひょっとしたらすごいメイジなのかもしれません。

 でも先生に、霊視はあまりしてはいけないと言われていたので、私はそのいいつけを守りました。

 

「うーん、あんまり面白くなさそう。」

「覚醒してない方向けの部活動ですから、そうかもしれませんね。」

 

 クラスメイトに聞いた話では、覚醒者、つまりアデプトが参加するハイレベルな部活動もあるそうですが、私はメイジだからあまり関係ありません。

 あ、全く関係ないことはないです。

 私はサザンカさんの勧めに従って、『反射強化』や『戦闘感覚』の呪文を習得していました。

 ただ私が魔法を覚えたことを話した時、サザンカさんの様子がおかしかったのが気がかりです。

『え?一日で?』と呟いていましたが、よくわかりませんでした。

 とにかくそれらの魔法を使うと、まるでスタントマンのような動きができるのです。

 だから、運動部はやめた方がいい気がしてきました。

 

「アヤメさん、文化部の方を見に行きませんか?」

「うん、ブンカブ?見に行こう!」

 

 アヤメさんが同意してくれたので、私たちは部室棟の方に進みました。

 やはり、途中で無人ヴィークルに乗ります。

 

「走ったほうが早くない?」

 

 とアヤメさんが言って、冗談かと思いましたが、私も精霊を喚んで『移動のパワー』を使ってもらえれば、ヴィークルより速く走れることに気づいてしまいました。

 サザンカさんが『移動のパワーはチートだから絶対用意しておいた方がいい』とも言っていました。

 チートとはなんなのでしょうか?

 

「あんまり、目立つのはよくないですよ。」

「うーん、そうだね。」

 

 アヤメさんは説得を受け入れてくれました。

 私たちは目立つことなく部室棟に着きます。

 そこは、私の勝手な予想と違って、近代的なとても綺麗な建物でした。

 エレベーターもついています。

 そして、玄関の壁に部室の配置図が貼っていました。

 

「あ、文芸部…。」

「ブンゲイブ?何それ?」

 

 私は不思議そうな顔をしているアヤメさんに答えました。

 

「そうですね。小説や、おとぎ話とかを書いたりする部活動です。」

 

 アヤメさんはよくわからないという顔をしていましたが、満面の笑みを浮かべて言いました。

 

「わかんないけど、アリスちゃんが見たいなら行ってみよう!」

 

 わたしは、その笑みに何か引き込まれ、心が暖かくなりました。

 そして彼女にうなずくと、部室の位置を確認します。

 

「3階にあるみたいですね、エレベーターで行きましょう。」

 

 私たちは、綺麗に掃除されたエレベーターに乗ります。

 その時、何か不思議な感覚がありました。

 

「あれ?」

 

 私は、その感覚が何かわからなくてエレベーターの中を見回しました。

 しかし、壁には車いすの方用の鏡があり、そして階を指定するボタンがあるだけです。

 ただ、何か違和感がある。

 その原因が私には見つけられません。

 すると、アヤメさんがボタンを拭うような動作をしました。

 

「アヤメさん、何かしました?」

「うん?汚かったから拭いただけだよ。」

 

 アヤメさんが腕を振ると、さっきまであった違和感が突然消えたのです。

 私は、わけがわからないままとりあえず3階のボタンを押しました。

 エレベーターの扉が閉まり、箱が上昇していく感覚があります。

 光る数字が、1から2、そして3へと移動していきます。

 

「へ?」

 

 その時おかしなことが起きました。

 私は、たしかに3階のボタンを押したのに、階の表示が4階に移動したのです。

 そして、階を示す数字からはついに光が消えてしまいました。

 箱が上昇する感覚は、それなのに終わりません。

 

「ねえ、アヤメさん。この建物って何階でしたっけ?」

「どうだったっけ。うちのマンションよりは低かったと思うけど。」

 

 長いような短いような時間がすぎると、ポーンと音がして上昇が終わります。

 そして、エレベーターの扉が開きました。

 

「ここ、屋上かしら…。」

 

 だとすれば納得がいきます。

 押し間違えか、誤作動で私たちは屋上の出口だけがある階にきてしまったのかもしれません。

 目の前には、狭い空間に、扉が一つだけです。

 ですが、扉の上に設置されたプレートを見て、私はここが屋上ではないと気づきました。

 

「第二文芸部?」

 

 そこにはそう書いてあったのです。

 部室棟の地図には、そんな部室はありませんでした。

 それに、文芸部に第一も第二も無い気がするのです。

 

「文芸部だね!アリスちゃん、見学してみよう!」

 

 しかし、逡巡する私の手をアヤメさんが引きます。

 確かに考えてみれば、私たちは部活見学にきたのです。

 どんな部活動でも、とりあえず見てみるのはいいことのはずです。

 私は、控えめなノックをして扉を開けてみました。

 すると、そこにいたのは

 

「おや、君たちがここ来るとはね。これも運命かな。」

 

 黒いボブカットに、メガネをかけ、縦に線の入ったセーターを着た、とても美しい女性でした。

 

◎◎

 

「どうだい、良い紅茶だろう?私の古い友人も気に入ってくれてね、よく再現してみせると息巻いていた。」

 

 その女性は、第二文芸部顧問の、ロザミアと名乗りました。

 今はまだ部員が来ていないそうです。

 私達のことは知っているようでした。

 

「ゴードン先生から、転入生が見学にくるかもしれないとは聞いていたけど、まさかここに来るとはね。」

 

 ロザミア先生は苦笑しながら紅茶を口にふくみました。

 一つ一つの所作がとても洗練されていて、美しいと思いました。

 

「うん、美味しい。おかわりしてもいい?」

「もちろんさ。」

 

 アヤメさんが無遠慮に言いますが、ロザミア先生は何も気にした様子はありません。

 彼女はお湯を温めながら、葉っぱの保存方法について語ってくれます。

 私は、何か申し訳ない気分になって、部活動についての質問をすることにしました。

 

「ここは、普通の文芸部とは違うのですか?」

「ああやっぱり気になる?」

 

 彼女は、アヤメさんのカップに二杯目の紅茶を注ぎながら、答えてくれました。

 

「ここの文芸部はね、もちろん物語を書くのも大事な活動なんだけど。」

 

 そしていたずらっけのある顔でいいました。

 

「自分たちで物語のネタを作るのも活動のうちなのさ。」

「ネタを作る?」

 

 彼女の言っていることはよくわかりませんでした。

 物語のタネは、たしかにどこからか引っ張ってこなくてはなりません。

 でも、彼女の言ってることはそれとは何か違う気がしました。

 

「おっと、どうやら部員が来たようだ。」

 

 その時、先生がそう言いました。

 しかし、人の気配どころか、何も音が聞こえません。

 そういえば、この階に来てから、雑音が全く聞こえなくなっているような…。

 

 ポーン

 

 ですがまもなく、先生の言う通り、エレベーターが止まる音が聞こえました。

 ひょっとしたらエレベーターをマトリクスで見ていたのかもしれません。

 そして、どこかで聞いたような声が部室の中に響き渡りました。

 

「フィクサー!依頼人をお連れしましたわよ!」

 

 扉を開けて現れたのは、あのすさまじい存在感を持つ、クラスメイトのシーラさんでした。

 大きな胸と、縦ロールが揺れています。

 そして、私達を見ると目をまんまるにした後、ニコリと笑って嬉しそうに叫びました。

 

「ほーほっほっほ!どうやらあなた方もここに来る運命だったようですわね!これからよろしくですわ!」

 

 その後ろで、依頼人と呼ばれた小柄なヒューマンの女性が、何がなんだかわからないという表情をしていました。

 

「ここは、どこなんですか?」

 

 私には、それに答える術がありませんでした。

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