「さて、新たな依頼だ。これは
部活棟のエレベーターに乗って、『そこに行きたい』と思いながらボタンを押すとたどりつくことのできる、異常な第二文芸部の部室で、ロザミア先生が説明を始めます。
この人は、ヒトではありませんでした。
そして、アヤメさんも。
「依頼内容は本校の生徒である大空紅葉くんの救出。」
シーラさんは口元に笑みを浮かべて、腕を組んでます。
彼女は、自分が気が狂いそうだと、先日言いました。
ですが、きっととっくに彼女は狂っているはずです。
隣の席のクラスメイトが言ったように。
でなければ、なぜこんなに楽しそうなのでしょうか?
「対象は現在ランナーのセーフハウスにいると思われる。依頼主の回収を待っているのだろう。つまり生きている可能性が高い。」
思い出してください。
彼女はカミカゼをキメたトロールと殴り合ったと言いました。
では、彼女が生き残っているのなら、相手は今どうなっているのか。
生きているとは…思えません。
シーラさんの手は、きっと血で汚れています。
「報酬は1万新円、紅葉くんが無傷なら、更に5千新円を上乗せしよう。」
紅葉さんが無傷でいるとは思えません。
襲撃者は全員男性でした、そして彼女は美しい少女なのです。
そのことは伝えてあるのに…ここにいる私以外の全員に、気にした様子はありません。
いえ、本当に私以外なのでしょうか。
私が今考えていることは…。
「さてアリスくん、そしてアヤメくん。」
ロザミア先生が、私とアヤメさんを交互に見ながら問いかけました。
「ここまでは部活体験ということでよかったが、ここからは先に進むには、入部届にサインをして欲しい。」
そう彼女が言うと、部室の中央にしつらえらえたテーブルの上に、突然紙の書類が現れます。
サインするためのペンと一緒に。
まるで魔法のようです、いえきっと魔法なのでしょう。
私のまるで知らない、恐ろしく高度な。
「いいよー。」
アヤメさんは、何のためらいもなくペンを取ると、空欄に自分の名前を記載します。
私は入部届の文面を読んでみました。
そうじゃないかな、と思っていましたが、堂々と書かれています。
『生命は保証しない』
「お願いがあります。」
「何かな?言ってみるといい。」
私は、紅葉さんが誘拐されてから、ずっと考えていたことを口に出しました。
私が彼女を救うために、ランをする条件。
殺す、いいわけ。
「私の行動規範を認めてください。私も、そして他のランナーにも。それは、無関係の第三者は殺さないということです。」
私は目線に力を込めて、この部室にいる他の3人を見つめました。
シーラさんは鷹揚に頷き、アヤメさんは別にいいよ、と答えました。
「ランナーの間で合意が取れているならフィクサーとして口を挟むことはない。だが目撃者をどうするかには注意したまえ。そうだな、顔は隠すことだ。」
「部室の倉庫にガスマスクが何個か合ったと思いますわ。用意しておきますが、臭いは我慢してくださいませ。」
そして、私は入部届にサインしました。
手が震えて、字は汚くなってしまいました。
ロザミア先生は、嬉しそうに嘲笑うとコムリンクを操作し、私たちのそれにデータが送られます。
敵対ランナーのセーフハウスは、あまり遠くありませんが、ヴィークルは必要でしょう。
紅葉さんを運ぶためにも。
「では確認だ。皆、このランは受けるかな?」
「はい。」
「うん、やるやる。」
「もちろんでしてよ。」
そして、ロザミア先生はまた口を三日月の形にして言ったのです。
「ではよいランを、
◎◎
私は、寮で体格の似たクラスメイトに必死に頼み込んで、衣服を一揃い都合しました。
なぜなら、私の服にはすべてにステルスタグが仕込んであるはずだからです。
紅葉さんも、きっとそう。
レックスおじさまにバレずに校外に出るためには、必要な手順でした。
「足はいつも利用してるスマグラーに依頼しますわ。運んでくれるだけで戦闘には一切関知なさいませんが、信用のおける方々でございます。」
私たちは、第二文芸部がいつも使っているという『裏口』に向かいました。
そこからなら、外出記録も残らないそうです。
しかし、その隠し扉の前に、私達を待っている人物がいました。
「どこに行こうというのかね?ミス・ヤマナカ。」
それは担任のゴードン先生でした。
いつものように、黒いローブを身にまとい、豊かな髭をたくわえています。
「せ、先生?いえ、これはですね。つまり若者の青春を求めてのエスケープというやつでございまして、ぜひお目溢しくださいませんこと?」
シーラさんが慌てますが、私は、その必要が無いとわかっていました。
アストラル投射をしたとき、見ていたから。
「ゴードン先生、一緒に行きたいんですよね?」
「何を言って…。」
私は、特に飾ることなく伝えました。
口はうまくない、フェイスの才能が無いということはわかっています。
「だって、貴方が『お姉さま』なのだから。」
◎◎
「女装は趣味なんだ。」
付け髭を外し、ローブを外して、山吹影の女子制服を着たゴードン先生が恐ろしいことを白状しました。
そうすると、本当に彼は少女にしか見えません。
ドワーフやオークといったメタの方々には、体質はその種族のままなのに、外見がヒューマンと変わらない方が、たまにいると聞いたことがあります。
彼は、ヒューマン似のドワーフだったのでしょう。
「ミス・オオゾラ、いや紅葉には、特別に何かあったわけではない。彼の保護者に特別に護衛を頼まれたわけじゃないんだ。」
ゴードン先生は、しゅんとしていました。
とてもかわいらしくて、私まで魅了されてしまいそうです。
シーラさんはぽかんと口を開けたままで、アヤメさんはとても興味深そうに見つめています。
「ただ放課後に、彼女が寂しそうに一人でいたから、ちょうど女装して徘徊していたときに、つい声をかけてしまった。」
そして奇妙な交流が始まったそうです。
ゴードン先生は、自分の正体がバレないようにやはり紅葉さんに『感化』をかけていました。
「彼女に劣情を抱いたことは一度もない、ただ…女装して、女学生として会話をするのが楽しくて、ずるずるとこんなことを続けてしまった。彼女が、私の『感化』に抵抗するまで。」
これで、1つ目のランは解決しました。
いえ、違う。
依頼主に、報告しなければなりません。
紅葉さんはどう思うだろう、でもそのためには彼女を生きて連れ戻す必要があります。
「ブルドックがこの壁の向こうに用意してある。君たちはあの自由精霊に依頼を受けたのだろう?私も、連れて行ってくれ。」
「先生は、コンバット・メイジですか?」
彼は首を振りました。
「ランナーの分類で言えばオカルト探偵に近い。だが戦闘魔法を習得していないわけではない。ヘルメスのイニシエーションを一段階済ませてある。魔力は7だ。」
十分な戦力でした。
私は、自らの行動規範をゴードン先生に説明し、彼は頷きました。
◎◎
「ここですわね。寂れた廃工場、良いスポットですわ。」
シーラさんが満足そうに笑みを浮かべます。
たどり着いたのは郊外の雰囲気のある場所でした。
霊視をすると、強い恐怖のオーラが鍵のかかった門を通って中に入っているのがわかります。
そして、廃工場の空に漂っていた、大気の精霊がこちらに気づいたようです。
「気づかれました。」
「そのようだ。」
ゴードン先生が『魔法の指』の魔法を使います。
マグロック式の鍵が音を立てて外れて地面に落ちました。
探偵を名乗るだけのことはあります。
でもこの人、どちらかというと犯罪者のような。
「一番乗りですわ!」
扉を押し開き、シーラさんが工場の敷地に駆け込んでいきます。
銃で狙われるかもしれないのに、正気ではありません。
そして、目の錯覚でしょうか?彼女の体がみるみると膨れ上がっていきます。
体中の肉が、筋肉が増強されていきます。
シーラさんはあっという間にトロールのような巨体になりました。
彼女は、「普通のアデプトは筋力ブーストを使っても筋力は増えないのですが私だけなぜかこうなるのですわ」と言っていましたが、まさかここまでとは思いませんでした。
「にーばん!」
次いでアヤメさんが入っていきます。
彼女について何も心配する必要はないでしょう。
そして私が続きます。
「行きます!」
3番目ですが、私は特別遅いわけではないのです。
私も、『反射増強』の魔法を鉱石の形をした『原質』を使って、フォース1のそれをフォース5の効力で使っています。
同じくフォース1の『戦闘感覚』にも『原質』を使って効力を上げています。
この二つは、サザンカさんから贈られたフォース1の維持収束具で維持しているのです。
「そんな魔法の使い方が…。」
ゴードン先生が目を丸くして驚いています。
このやり方はサザンカさんに教えてもらいました。
マンチがどう…とおっしゃってました。
「な、なんだこの化け物!?ぐはぁ!」
建物内に入ると、敵対ランナーの位置が把握できました。
手前にエッセンスの少ない、おそらくタンクサムライがシーラさんの強力な蹴り攻撃を食らって足を浮かしています。
奥のコンテナに遮蔽を取って銃を構えた同じくサムライ…ですがマトリックスを覗いているような気配がします。
コンバットデッカーかもしれません。
「こいつら、全員ノンサイバーだ。まさか、全員覚醒者か!?」
どうやらそのようです。
恐らく私達をマトリックス知覚したのでしょう。
私達にデッカーはいません、簡単な仕事だったでしょう。
ですが、それはつまりデッカーとしての仕事がほとんどないということを意味します。
銃をブリッキングさせることもできません。
私たちは、誰も銃を持っていないから。
「は、嘘だろ?」
一番奥には若い男のエルフ、恐らくメイジ。
魔力は4といったところ、魔力6のメイジは希少なのです。
その隣にはエッセンスのそこまで減っていない、おそらくライトサイバーのマーセナリーと思しきオークの男。
「なんだ、どうしたってんだ?」
マーセナリーは隣のメイジにそう話しかけています。
エルフメイジは青い顔をしています。
多分、霊視したのでしょう。
私がアヤメさんを初めて霊視したときと同じ顔です。
「とどめの連撃ですわ!」
そしてシーラさんに目線を戻すと、彼女は振り上げた足のかかとをタンクサムライの頭に振り下ろしました。
トリッドで見たことがあります。
あれは、踵落とし。
ムエタイという格闘技です。
タンクサムライの頭頂部の高さが、肩と同じになりました。
私は歯を食いしばってその光景に耐えます。
「お、俺は逃げ…ぎゃあ!」
アヤメさんの指先から発された『雷撃』が、エルフメイジを焼き尽くしました。
隣でオークマーセナリーが顎をガクンと落とします。
「ママが言ってたんだ、メイジから殺せって。」
「ち、畜生!」
コンバットデッカーが、やけになったのか、アサルトライフルを全力でフルオートさせます。
狙いは私!
私は、サザンカさんにどうやって銃弾をかわしているのか聞いたことがあります。
答えは、『気合』。
だから、私は意志力を増強し、集中力で維持しているのです。
「見える!」
『戦闘感覚』の魔法と、増強された意志力での全力防御が、私にその力を与えてくれました。
殺意を持って走る、10発の弾丸を私はかわしたのです。
そして。
「『
それが私の牙でした。
わかっています、これは欺瞞。
気絶させた、コンバットデッカーをその後どうするか。
答えは決まっています。
ですが、これが私の精一杯なのです。
こうして、大勢は決しました。
◎◎
「見事だ
ロザミア先生が、部室でそう言いました。
紅葉さんは、気絶していましたが、傷はありませんでした。
どうやら相手の依頼主はそれが望みだったようです。
「彼女、まだこの学校にいるんですの?」
「そこら辺は上で協議中のようだ。なにしろこの学校のセキュリティで守れなかったのだからね。転校になる可能性もあるだろう。」
シーラの問いかけにロザミア先生が答えます。
私は残念に思いました。
紅葉さんと、仲良くなりたかった。
何を思っているのか聞きたかった、私の想いを伝えたかった。
「わあ、何買おうかな。」
アヤメはどうも報酬に意識が移っているようです。
そういえば、お小遣いが少ないと文句を言っていました。
私は、気になったことを聞いてみます。
「ゴードン先生は、どうなるのでしょう?」
「彼ならもう退職届を出したそうだ。」
「えっ?」
そんな気は少ししていました。
別れる時、そんなことを言っていた。
きっともう、紅葉さんともゴードン先生とも、二度と会うことはないのでしょう。
とても、残念です。
◎◎
「みなさん!ありがとうございます。お姉さま高等部だったなんて!もぉ、なんで教えてくれなかったんですか?」
「ご、ごめんね、紅葉。中等部の校舎にいるのが恥ずかしくて…。」
『お姉さま』は、山吹影大学付属高校普通科に、『正式』に在学しているそうです。
私は、額に汗を浮かべる『彼女』をジト目で見ました。
『彼女』は、目をそらしました。
何を言っているのかわからねーと思うが
卓で「筋力ブーストで筋力は増えないんですよ」と言われた時何のことかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…シャドウランの片鱗を味わったぜ
キャラクターは基本的にルールに従って作っていません
物語性重視してます