第6世界転生記   作:ホリイ

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3話 ダメージ抵抗35?直接魔法使うね…

 ロータスが二人に回してきた映像は施設の監視カメラだった。

 警備員風の男が1名と、研究員風の男が2名狭い詰め所と思しき場所に立てこもっている。

 その部屋の前にはかなりの数の昆虫精霊が密集していた。

 

「んー、まあ助けるか。」

「それは依頼に含まれていない、無視してもいいが?」

 

 ロータスはジェイムズの答えに反応してそう言った。

 実際それが普通なのだ。

 第6世界で人の命はあまりにも軽い。

 彼らを見捨てたところで非難するものなど誰もいない、サザンカはジェイムズが彼らを助けようと言ったことに驚いていた。

 

「ま、助けられるんなら助けてやりたいだろ。」

「助けた後のフォローはできないけど、まあ反対しないわ。」

 

 ジェイムズはサザンカの反応に嬉しそうにした。

 どうやら彼も救助を反対されると思っていたらしい。

 

「お、お前さん中々のお人好しじゃねえか、気が合うな。」

「それって自画自賛…いえこの場合は自分を馬鹿にしてるんじゃないの?」

 

 サザンカは呆れたように言う。

 彼女は現実世界の認識を強く持っていた。

 助けられるのなら助けたい。

 

「わかった、チームの方針に従う。それじゃあ、あの集団を何とかする算段を。」

 

 ロータスは特に何も感じなかったようだ、反対はしなかった。

 あとは実際どうやって助けるかだ。

 

「扉は厚そうね。私が範囲攻撃魔法を使うから、ロータス、あなたは一緒にその銃のグレネードを撃ち込んで頂戴。」

 

 サザンカの言葉にロータスがうなずく。

 彼女の銃の下部にはグレネードランチャーがマウントされていた。

 

「でかい音がしそうだな、よし、俺は集まってくる連中に備えよう。」

 

 作戦はスムーズに決まった。

 TRPGではここで30分以上かかることも珍しくない。

 サザンカは仲間たちを頼もしく思った。

 

◎◎

 

「た、助かったよ!感謝する」

 

 作戦はスムーズに進んだ。

 サザンカの放った酸の波の呪文は昆虫精霊たちを瀕死にし、ロータスのグレネードがそれにトドメを刺した。

 大きな音が響いたが、意外にも昆虫精霊たちは集まってこなかった。

 

「ああ、それは多分マザーを守っているんだろう。連中にとっては生命線だからな。」

 

 研究員の一人がそう言った。

 恐らく人体実験もしていたであろう人間だ、サザンカは思うところはあったが、何も言わないことにした。

 

「それで、君たちは俺達の抹殺を命令されているか?」

 

 それまで何も言わなかった警備員風のオークの男が緊張をにじませながら言った。

 その言葉を聞いて研究員の二人がピタリと固まる。

 サザンカはそういえばそういう指示があってもおかしくなかったな、と思った。

 企業はこの件を無かったことにしたかっただろうからだ。

 証人は残してはならない。

 

「いや、別にそういう命令はない。だからあんたらがここから逃げていっても邪魔はしねーぜ、だがあんたらは生き延びてもSINレスにならざるを得ないと思うが。」

 

 答えたのはジェイムズだった。

 SINとは、簡単に言えば国民番号のようなものだ。

 これによって国家や企業に管理されるが、無ければ人権がないものとして扱われる。

 シャドウランナーはほとんどが偽造のSINを所有していた。

 ちなみにチートのサザンカはR5の偽造SINを持っている。

 

「だろうな…、まあ命あっての物種だ。あんたらには感謝しかないよ。」

「マザーの位置はわかる?」

 

 オークの男にサザンカが聞いた。

 彼は少し考えた後話し始めた。

 

「おそらく管制室にいると思う。そこに自爆装置があるからな、壁は厚いが、実はそこに入る隠し通路がある。」

「ほんとに?ホストにそのデータはなかった。」

 

 ロータスの言葉にオークはうなずいた。

 

「ああ、デッカー対策にマップにも入ってないんだ。昆虫精霊どもも気づいてないと思う。君たちがそこに行くならその道を使うべきだ。」

 

 それは非常に貴重な情報だった。

 ゲームマスターがいるなら、第三者を救助した報酬として設定した情報なのだろう。

 

「ところで今更なんだが、この中に昆虫精霊はいないよな?」

 

 ジェイムズが今思いついたように言った。

 彼らは人間に擬態することもできるのだ。

 

「安心して、一番最初に霊視したわ。」

 

 サザンカはうなずいて答えた。

 研究員の二人は普通の人間であり、警備員のオークはまあまあのサイバーが入っていたが、昆虫精霊ではない。

 3人はびっくりしたようにサザンカを見つめる。

 そのことは考えていなかったのだろう。

 

「あ、ああそれと管制室には対昆虫精霊用のガス兵器の起動スイッチもある。そちらの女性がデッカーなら起動できるかもしれない。」

「それも隠されている?」

 

 ロータスの言葉にオークはうなずいた。

 

「同じ部屋に入れば操作できるはずだ。」

 

 サザンカは皆を見回して言った。

 

「OK作戦は決まったわね、管制室に突入したらコムリンクに連絡するから、あなた達はそのタイミングで脱出しなさい。」

 

◎◎

 

「テラフォーマーズのゴキブリ…。」

「なんだそりゃ?」

 

 マザーは非常に人間に近い姿態をしていた。

 だが人間であるはずがない、それは無機質な目で隠し通路から突入してきた3人を見つめた。

 そしてその周囲にいた昆虫精霊たちが3人に向かってくる。

 

「酸の波よ!」

 

 真っ先に動いたサザンカが強力な範囲魔法を放つ。

 それは昆虫精霊たちに大きなダメージを与えていたが、肝心のマザーはまるで痛痒を感じていないようだった。

 そしてマザーがすさまじいスピードで動くとジェイムズに殴りかかった、速い!

 

「ぐはっ!糞、やりやがる。」

 

 マザーの拳が深くジェイムズの腹にめり込んでいた。

 カマキリの刃すら無効化した彼が肉体的ダメージを受けているのがわかる。

 かなりの強敵だった。

 

「おらっ!」

 

 お返しとばかりにジェイムズが張り手を飛ばす、それはマザーの顔を大きく振動させるが、表情は一切変わらなかった。

 

『マークが付いた、ガスを出す。』

 

 ロータスが冷静な口調でサブボーカル・マイク(秘話通信システム)で仲間に声をかける。

 すると管制室の天井の通風孔から激しい勢いでガスが吹き出した。

 視界が微妙に悪くなる。

 

「これ人体に影響ないんでしょうね!」

「多分。」

 

 おそらくそれは効果があったようだ。

 酸の波で瀕死だった昆虫精霊は動かなくなり、マザーもわずかに動きが遅くなった。

 

「いける!喰らえ!」

 

 サザンカはそう叫ぶとマザーに前蹴りを叩き込んだ、そして魔力を解き放つ、だが!

 

「耐えた!?」

 

 マザーは爆発する魔力に耐えてみせたのだ。

 ダメージは入ったようだが、恐らく僅かだ。

 そして今度はその拳でサザンカを狙う。

 彼女はギリギリでそれをかわした、ガスがなければかわせなかっただろう。

 

「時間はかかるが、いけるか!」

 

 ジェイムズは本気のぶちかましをマザーの背後からかました。

 さしものマザーも吹き飛ぶ。

 だがこれもダメージが小さい、あまりに硬すぎる。

 

『ダメージ抵抗が30以上ありそうね。』

 

 サザンカの視界の端でシロガネが呆れていた。

 だがその時、全員にとって予想外のことが起きる。

 

『自爆装置が起動しました、自爆装置が起動しました。3分以内に脱出してください』

 

 ジェイムズがその放送に目を剥く。

 

「確認。作動している、停止不能。」

 

 ロータスがそんな状態でさえ冷静に言う。

 その時全員のコムリンクに連絡が入った。

 それはさきほどの警備員のオークだった。

 

『すまんな、俺が生きてることを知られたくなかった。自爆装置は詰め所からでも起動できたんだ。あんたらに感謝しているが、そこで死んでくれ。』

「シット!」

 

 ジェイムズが叫ぶ。

 映像を見るとオークの男の後ろでは研究員二人が頭を撃ち抜かれて死んでいた。

 連絡はすぐに切れる。

 

「いいでしょう。」

 

 絶体絶命の危機だが、サザンカは何か楽しくなってきている自分に気づいた。

 これは決してサザンカの感情ではない。

 間違いなく、プレイヤーだった、彼は危機を楽しんでいる。

 現実世界に生きていた彼は、あまりに異常な精神をしていた。

 

「ダメージ抵抗が高いなら、これでどう!?」

 

 サザンカは飛び上がると見事な飛び蹴りを放った。

 そして放つのは粉砕の魔法。

 それはダメージ抵抗を無視して直接ダメージを叩き込む魔法だ。

 彼女はそれをF12で放った。

 それは彼女の魔力を超えている。

 サザンカの体から鮮血がほとばしる。

 

「エッジ!」

 

 意味があるかわからないが彼女は叫んだ。

 エッジは運命力ともいうべきものだ。

 そして、彼女はF12が万全にヒットしたことを悟った。

 

◎◎

 

「なんとか間に合ったわね。」

「ああ、しかしこいつは誰がヤッたんだ?」

 

 爆発する研究所の外で、オークの男が死んでいた。

 苦しそうな顔だ、恐らく窒息死したのだろう。

 

『私だよ、トロールの戦士殿。』

 

 そう言って現れたのは、透明な大気の精霊だった。

 彼には、対象を包み込む能力がある。

 

「あー、そういやあんたメイジなのに精霊呼んでなかったな。」

 

 ジェイムズは納得いったように言った。

 メイジの力の一つは勿論魔法だが、精霊を呼び使役するのも重要な能力だった。

 精霊は様々な能力を持ち、そしてシンプルに強い。

 

『マスターの命令で陽動を行っていたが、その男が敵対したようなのでな。始末させてもらった。』

「最初から教えてほしかった」

 

 ロータスが拗ねたように言った。

 初めて彼女が見せた表情にサザンカは笑った。

 

『いい笑顔ね、行動指針が決まった?』

 

 シロガネがサザンカに問いかけた。

 彼女は頭の中でそれに答える。

 

『ええ、この世界を、楽しむわ。』

 

 シロガネも笑う。

 しかし彼女は釘を刺した。

 

『でもF12なんて使っちゃったから大変よ、ドラゴンに目をつけられないといいわね。』

「そ、それはまずい…。」

「何がだ?」

 

 二人の会話が聞こえないジェイムズが不思議そうに聞いた。

 サザンカはそれに答えず皆に話しかける。

 

「とりあえず依頼完了!さっさと帰りましょう!」

「ん、帰るまでがシャドウラン。気をつけて帰ろう。」

「OK、じゃまたどこかで会おうぜ」

 

 昇ってくる太陽を見つめるサザンカの顔は、とても楽しそうだった。 

 




R…レーティング、高いとすごい。
F…フォース、高いとすごい。F12?世界に目をつけられるレベル。
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