第6世界転生記   作:ホリイ

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本話はこめぶくろGMのセッションを、GMと参加PLに許可を取り、テキスト化したものです。
なおキャラクターはオリジナルキャラクターとなっています。
未通過注意


4話 ヨタカは今も歌う1@GMこめぶくろ

 昆虫精霊の件から一週間ほどたっていた。

 その間サザンカは今まで何の興味も抱いていなかったマトリクスゲームのアカウントを作ったり、友人の頭のおかしいガンスリンガーアデプトと服を買いに遊びに行くなど、前言の通りこの世界を楽しんでいた。

 だが馴染みのフィクサーから誘いがかかったのだ。

 

「やあ、ミス来てくれて嬉しいよ。」

 

 そう言うのはバーウィックのスーツに身を包んだ白人の40代の男だった。

 シアトルのダウンタウン地区のレストランの前だ。

 サザンカはいつもの崩れた和服ではなく、カジュアルなドレスに身を包んでいた。

 肩から見える桜のタトゥーが、エキゾチックな美しさをかもしだしている。

 

『まるでデートね。』

 

 茶化したようにシロガネが言う。

 彼女の姿はいつも変わらない。

 プレートアーマーを身にまとい、背中にはグレートソードを背負っていた。

 彼女はドラゴンスレイヤーの導師精霊なのだ。

 いつも彼女に英雄として相応しい立ち居振る舞いを求めてくる。

 仕方なくサザンカはドレスコードを守っていた。

 

『残念ながら、デートと言うには人数が多いけどね。』

「よお、サザンカ。久しぶりだ。」

 

 そこには金髪の黒人のトロールも待っていた。

 信じられないことに彼はアロハシャツを着ている。

 ドレスコードなど全くの無視だ。

 

「あなた、日本じゃそれなりにいいところに出席してたんじゃないの…?」

「ふーむ、なぜか日本じゃこの格好だと喜ばれたんだが。なんでも偉大なセキトリがアロハシャツを好んでいたとか。」

 

 楽しげに会話する二人をやっかんだわけではないだろうが、フィクサー、ミスタースミスが会話に割って入った。

 

「店の予約はすんである。立ち話もなんだ、入ろうじゃないか。」

「まだ全員来てないみたいだが?」

 

 ジェイムズの疑問にスミスは何も気にしてないように言った。

 

「ロータスは自由人だからね、気にしなくても大丈夫だ。それよりホストをまたせちゃいけない。」

「あれ、貴方がホストじゃないの?」

 

 サザンカは驚いた。

 てっきりこのフィクサーが依頼人だと思ったのだ。

 

「実は私も呼ばれた一人でね。雲を掴むような依頼なんだ、Mr.ジョンソンが中で待っている。」

 

 Mr.ジョンソンはれっきとした企業人、つまりカンパニーマンの隠語だ。

 普通はフィクサーが間に入って彼らの依頼をランナーに降ろす。

 カンパニーマンにはランナーと会いたがらないものも多いのだ。

 

「どこのジョンソンかは聞かないでくれよ?だがまあ、ちゃんと信頼できる人物だ。おかしな依頼ではないはずだよ。」

 

 サザンカはスミスの言いぶりに嫌な予感を受けた。

 はず…?

 だがまあ彼女は人生を楽しむと決めたのだ。

 ここで引き返すはずもなかった。

 

◎◎

 

「まあまずは食べてくれ、ここのイタリアンは中々行けるんだ。」

 

 ジョンソンは中々忍耐の強い人物らしかった。

 集められた4人のうち2人はドレスコード無視だ。

 ロータスなど早々にドッグイートを始めている。

 

「あー、チョコレートは入ってないよな。実はアレルギーなんだ。」

 

 しかしジェイムズはそう言いながらもナイフとフォークを扱う手はなめらかだ。

 彼は日本でセキトリの地位にあった。

 彼らは強さだけでなく、マナーも要求されるから当然なのかもしれない。

 フェイス(交渉役)であるスミスはもちろん見事な対応をしている。

 サザンカはエルフとしても最高の魅力値と、対人技能グループを取得していたことから、エチケットは完璧だった。

 

「素晴らしいですな、この仔牛は。」

 

 スミスがあからさまなおべっかを使う。

 しかしそれでも上等なスーツを着たアングロサクソンのアゴのごついジョンソンはご機嫌になったようだった。

 

「このワインもどうだい、60年ものだ。」

 

 ジョンソンはそういって店員にワインのコルクを開けさせる。

 サザンカはおいおい仕事の話をするんじゃないのかと思ったが、それを止めるものはいなかった。

 そんな和やかな会食が続く中、突然何気なくジョンソンが話しだした。

 

「フチ電子工業を知っているかね?」

 

 それに一番に反応したのは夢中で食事をしていたロータスだった。

 

「20年とちょっと前に崩壊したトリプルSのメガ・コーポ。エレクトロニクスが中核事業で今はネオネット、レンラク、シアワセに吸収された。」

 

 ジョンソンは満足そうにうなずいた。

 

「さすがデッカーは詳しい。あの頃は私も若かったが、中々ひどい状況を見せられた。」

「…そうですね、あの最期は見るに堪えませんでした。」

 

 サザンカはスミスの雰囲気が少し変わった気がした。

 なにか関係があるのか、もっともこの男のやることだ、これすらも演出かもしれない。  

 ジョンソンは目をつむると続けた。

 

「だが教訓は残った、それとちょっとした仕事のネタが今出てきたのさ。」

「(あー、サザンカ。)」

 

 するとジェイムズがサザンカの耳元で小さな声で話しかけてきた。

 

「(何?)」

「(俺あ、難しい話は苦手なんだ。後でかいつまんで教えてくれ。)」

「(…おーらい。)」

 

 ジョンソンはジェイムズの様子に気づいているのかいないのか、話を続けた。

 

「最近出た情報なのだがね、崩壊前のフチは内紛もひどかった。フチ・アメリカからフチ・ヨーロッパの工作員が重要な情報を盗み出していたらしい。」

「それは?」

 

 スミスの疑問にロータスも続きを促すようにジョンソンに視線を向ける。

 ジョンソンは見事にこの依頼の場を支配していた。

 

「旧フチの子会社が最近『サイバーN』というサイバーデッキを発売した。知っているかね?」

 

 ジョンソンは視線をロータスに向ける。

 彼女はよどみなく答えた。

 

「ん、マトリックス能力の切り替えや、一部ソフトウェアが使えないといった弱点はあるものの、非常に廉価でパワーのあるサイバーデッキ。正直私も買い替えを検討した。」

 

 ロータスは小声でその後に(今のデッキは頭の中に入れてあるから断念した。)と続けたのにサザンカは気づいた。

 

「そのとおり。フチ・ヨーロッパの工作員、通称『ナイトバード』が盗み出したのはそのサイバーNの欠点をフォローするデータらしい。」

「まさか…、つまり切り替えとソフトウェアが使えるように?」

 

 ロータスが驚いたように呟く。

 サザンカは知らないことだが、サイバーNは未訳のデッカー向けサプリである『キルコード』に記載されているデッキだった。

 

「ナイトバードは恐らくフチの解体のトラブルに巻き込まれたのだろう、結局フチ・ヨーロッパに帰還しなかった。今はどこにあるか不明のこのデータが手に入れば、素晴らしいと思わないかね?」

「なるほど、ミスターは大きな勝負に出たようですね。」

 

 スミスが感心したように呟いた。

 そしてジョンソンが続ける。

 

「そして見つかったデータはそれだけではない、ナイトバードのセーフハウスについての情報だ。我が社だけが掴んでいる情報だと思うが、他の2社もいつ動くかわからん。」

 

 そうジョンソンが言うということは、彼はフチを吸収した3社のうちのどれかに所属しているのだろう。

 

「そういうわけで君たちには情報を得て欲しい。報酬についてはミスタースミスと話がついている、いや、彼にはうまく言いくるめられたよ。」

 

 スミスはランナーに向けてウインクしてみせた。

 どうやらかなりの高報酬を確保したようだ、こういうことについては彼を信頼していいだろう。

 

「それと、気になることがある。」

「気になること?」

 

 サザンカの問にジョンソンは不機嫌そうに答えた。

 

「くだんのセーフハウスはオーバーン地区の南、イーナムクローにある。だがそこで最近殺人事件が起きた。」

「殺人なんて、いつもあちこちでおきてるけど?」

 

 ジョンソンはワインに口をつけて続けた。

 

「まあな、被害者はSINレスの娼婦。これだけなら何も気にすることはないが、被害者の衣服には血で文章が記されていた。内容は『ヨタカよ囀りを止めよ』だ。」

 

 意味がわからない、サザンカはそう思ったがそれに答えたのは意外にもジェイムズだった。

 

「ヨタカか、そりゃナイトバードの日本語だな。ついでに娼婦という意味もある。」

 

 ジョンソンは頷いた。

 

「そう、さすがMr.リキシだ。私はこれが他の2社の手のものの仕業ではないかと疑っているのだ。」

「確定はできませんがね、ひょっとしたら娼婦を殺したい…そう切り裂きジャックのような異常者かもしれない。」

 

 もちろんそうかもしれない、ジョンソンは頷くとワインを飲み干した。

 

「だが気をつけてくれたまえ、君たちは間違いなく凄腕だ。だが他のトリプルSが動いたとすれば、相手も只者のはずがない。」

 

 スミスとジェイムズは緊張に包まれたようだった。

 ロータスは興味深そうに聞いている、そしてサザンカは。

 

『楽しそうね。』

『もちろんよ。』

 

 

 その口元を、歪ませていた。

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