第6世界転生記   作:ホリイ

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5話 ヨタカは今も歌う2

 ジョンソンからサイバーデッキを補強するデータを入手するという依頼を受けた翌日、サザンカたちチームはスミスがダウンタン地区のオフィスビルに用意したセーフハウスにいた。

 

「『スミス探偵事務所』?UCAS(分断されたアメリカの一つ)中で1000はありそうね。」

「HAHAHA、まあペーパーカンパニーだから問題ないよ。お客も来ることはない。」

 

 恐らく賃料も安いだろうビルだ、暗い通路の奥にその事務所はあった。

 しかし扉を開けてみるとアーバン風の室内は清潔に整えられており、居心地は悪く無さそうだ。

 サザンカはスミスが掃除する姿を想像して何かおかしくなった。

 

「ん、回線も悪くない。使っても?」

「もちろんだよロータス、頼りにしてる。」

 

 さて現地入り前のレッグワークの始まりだ。

 コンタクトを利用したり、マトリックスでの調査なのに『レッグ』と付くのはおかしい気もするが、ランナーたちはそう呼んでいた。

 

「調査項目は、そうね。フチの工作員ナイトバードについて、娼婦殺しについて、現地であるイーナムクローについて、と言ったとこかしら?」

「そうだね、ではナイトバードについては僕が調べよう。」

 

 サザンカの提案にスミスが答える。

 何かコネがあるのだろう。

 

「私は動いている企業について調べてみる。」

「へ~そいつはすげえや。頼むぜ、ロータス。」

 

 デッカーはマトリクス検索による情報収集の達人でもある。

 だが企業の動向を調べる、などと言い出すのは普通ではない。

 彼女の能力の高さゆえだろう。

 

「じゃああたしはイーナムクローについて調べてみるね、オーバーン地区なら知り合いのギャングがいる。」

 

 サザンカの提案にジェイムズが奇妙そうな顔をする。

 

「あそこにギャングなんていたか?金賀組のシマだと思ってたが。」

 

 それは事実だ、オーバーン地区の裏社会はヤクザに支配されている。

 

「ギャングというか、正確にはフーリガンとでも言えばいいのかしら。オーバーンカーディナルズの応援団のヘッドと知り合いなのよ。」

 

 オーバーンカーディナルズはそこを拠点とする野球チームだ。

 オーバーン地区ではスポーツが人気であり、スポーツバーがそこかしこにある。

 サザンカの話を聞いてジェイムズは石でも飲み込んでしまったような顔をする。

 

「それってまさかミルクのことか?とんでもねえのと知り合いだな。」

「友達よ、この前も一緒に買い物に行ったわ。というか貴方も知ってるの?」

 

 ミルクはサザンカのキャラメイクの際に設定したコンタクト(味方NPC)だ。

 普通のルールでは、その能力は一定の数値に制限されるが、彼女のコンタクトはルール無視で高いコネ値と忠誠値を持つ。

 

「シアトルのトロールで『マイクロビキニトロールズ』の頭を知らねえやつはいねえよ、いやトロール以外でもか?」

 

 それはカーディナルズお抱えの頭の痛い応援団だ。

 トロールの女性のみで構成されたその集団は金と、力があり、どこの試合にもついていく。

 そしてマイクロビキニを付けて蛮声を上げて応援するのだ。

 UCAS内でも野球好きなら知らないものはいないだろう。

 そのリーダーであるミルクのコネ値と忠誠値は6/6だった。

 サザンカのピンチなら自分の結婚式を放って駆けつけてくるレベルだ。

 前話でサザンカと一緒に服を買いに行った頭のおかしいガンスリンガーアデプトというのが彼女だった。

 

「ジェイムズ、君は何かするかい?」

 

 頭を抱えてうめきをあげるジェイムズにスミスは訊ねた。

 するとジェイムズは調子を取り戻し、ニヤリと笑うと室内に設置された冷蔵庫を開けると中からクラフトビールを取り出してその栓を親指で飛ばした。

 

「ここで皆を応援してるさ。」

「やくたたず。」

「はっはっは。」

 

 ジェイムズは悪びれない。

 そして彼らは行動を始めた。

 

◎◎

 

「やあサザンカ、連絡を入れてくれて嬉しいよ。また遊びの誘いかい?残念だけど今日はアウェーでね、シアトルにいないんだ。」

 

 コムリンクの映像の彼女はまだマイクロビキニを付けていなかった。

 どうやら今日はナイターのようだ。

 

「ごめんね、今日は仕事関係で調査をお願いしようと思ってかけたのよ。」

「おっとそうか、あまり危険なマネはするなよ。あんたはアタシの未来の花嫁なんだからね。」

 

 ミルクはバイセクシャルを公言している。

 サザンカに気があるようなのだ。

 

(忠誠値、高くしすぎたな…)

「それは毎度のごとくお断りするわ。今日はイーナムクローについて教えてほしいの。最近娼婦の殺人事件があった場所よ。」

 

 サザンカの説明を聞くと彼女が何かを調べている様子がした。

 恐らく殺人事件についてだろう、シアトルでは毎日のようにあちこち殺人が起きている。

「ああ、そこはイーナムクローのウェザービーストリートってとこね。景気の悪い場所よ、工場労働者の住むドヤ街で、特にどこかのシマにはなってないわ。旨味がないのね。」

 

 すると彼女が少し考え込む様子がした。

 

「殺しについてはアタシのツテにちょっと聞いてみるわ、少し時間をくれる?」

「もちろんよ、それで調査報酬はどうしようかしら?」

 

 サザンカがそう聞くとミルクが微笑んだ。

 

「100新円か私のほっぺにキスのどちらかで。」

「100新円払うわ。」

 

 つれないわねえ、そう悔しそうに言うとミルクは連絡を切った。

 

「調子はどうだい?」

 

 コムリンクから顔を離したサザンカの前にスミスがアイスコーヒーの入ったマグカップを置いてくれた。

 さすが気の利く男だ。

 周囲を見るとロータスはVRに入って集中している。

 ジェイムズはトリデオを見ながらポップコーンを口に入れていた、どうやら彼は本当に何もやる気が無いらしい。

 

「調査待ちといったところね。」

「ミス・ミルクの噂は聞いている、きっと彼女ならいい情報を掴んでくれるだろう。」

「そういうあなたは?」

 

 自分のコーヒーを飲むスミスにサザンカは訊ねてみた。

 すると彼は上手なウインクをする。

 

「君と同じで回答待ちだよ、まあ恐らくいい情報をくれるはずだ。」

 

 企業の工作員の情報などいったいどこから仕入れるのかしら、とサザンカはいぶかしんだ。

 ひょっとしたら彼はフォーマーカンパニーマン(元企業人)なのかもしれない。

 そうしてしばらくするとサザンカのコムリンクが彼女をコールする。

 ミルクだ。

 

「おまたせ。ちょっと貴女、これ普通の殺しじゃないわよ。」

「それはわかってるわ。」

 

 なにしろジョンソンの推測ではそれをやったのはトリプルSのどれかの可能性があるのだ。

 

「ふぅ、本当に気をつけなさいよ?殺されたのは通称『ホクロのメリッサ』30代後半のSINレスのヒューマンよ。当たり前だけどナイトエラントはまともな捜査をしてないわ。」

「そんなものでしょうね。」

 

 SINレスに人権はないのだ。

 

「死因は絞殺ね、でも首を単純にしめたんじゃなくて、これはギャロットね。綺麗に殺してるわ、プロの可能性があるわよ。」

 

 それは予想内だった。

 だがサザンカは緊張を感じた。

 

「第一発見者はストリートチルドレンみたいね、その後その辺の顔役が通報。そいつの情報はちょっとないわね、大した力を持ってるわけじゃなくて、ほんとにただの町内会長みたいな人物よ。」

「わかったわ。そいつは自力で調べてみる。」

 

 この情報は役に立ちそうだ。

 

「そして死体には『ヨタカよ囀りを止めよ』って血で文字が書いてあったそうよ。ヨタカは日本語で娼婦を意味するらしいわ。」

「ふーん、なんで日本語なのかしらね」

 

 それはなんとなくの疑問だった。

 だがミルクがそれに反応する。

 

「わからないけど、そのストリートでは日本人の用心棒がいるらしいわ。それと関係があるかもね。」

「へー、そいつの情報はわかる?」

「写真を送るわ。」

 

 さすがコネ値6だった、情報収集に隙がない。

 送られてきたデータを見ると、優男の日本人が写っていた。

 

「今の所こんなものね、もし追加情報があったら送るわ。」

「ありがとうミルク。恩に着る。」

「ふふ、じゃあシアトルに帰ったらまたデートに行きましょう。」

 

 サザンカはそれを断らなかった。

 忠誠値というのは双方向なのだ。

 彼女はミルクに強い親しみを感じていた。

 

◎◎

 

「ナイトバードについて調べてみたよ、フチ・ヨーロッパの工作員で、変装の達人だったらしい。ヒューマンの男で、今生きていれば50代後半と言ったところか。外見のデータも入手したが、おそらく同じ顔はしていないだろうね。」

 

 スミスがそう皆に報告する。

 まったくどうやってその情報を入手したのか。

 フチ・ヨーロッパは今はトリプルSの企業であるレンラク・コーポレーションに吸収されているはずだ。

 そこにコネがあるのだろうか。

 スミスの次はロータスが集めた情報を語る。

 

「サイバーN関連の動向について調べてみたけど、レンラクの動きが激しい。シアトルの事業所にレンラク・サムライの部隊が来ているよう。」

 

 それは重要な情報だった。

 レンラク・サムライはかのコーポレーションの実働部隊で、精鋭だった。

 

「競争相手はレンラクかしら。」

「その可能性は高いね。」

 

 スミスがうなずく。

 次はサザンカの番だ。

 

「あたしが調べたのはこんなところね。」

 

 そう言って彼女はミルクから得た情報と用心棒の画像を皆に見せた。

 なにしろ日本人だ、何か関係があるかもしれない。

 そのとき予想外の言葉がかかった。

 

「あれ、こいつマタじゃねえか。」

「え!?」

 

 それは用心棒の画像を覗き込んで言ったジェイムズだった。




7月5日はビキニの日だったのでビキニ出してみました
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